ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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アルラウネのもとへ

「この第二層も。なんだか。あのモサモサの影響で。魔物が増えてきたみたいだぞ」

 

「よくない傾向じゃのう……」

 

「あ、あのモサモサさん……い、今は……結界で覆ってますけど……な、なんだか強いんです……」

 

「そっか、教えてくれてありがとうね、ヘノちゃんにニムちゃん」

 

 ダンジョンを第二層に下り、桃子の気配を察知して迎えに来てくれていたヘノとニムの話を聞く。

 ヘノは、房総ダンジョンではなく筑波ダンジョンから桃子が入ってきたことに初めは首を傾げていたけれど、しかし特に理由などは聞かれなかった。ヘノなりに察したのか、あるいは別にどうでもいいかと考えるのをやめたのか。恐らく後者だろうと桃子は思っている。

 ヘノの言う通りに、第二層を歩いていると、魔物が活性化しているのが分かる。

 密林の至る所に、魔物がいる。それらが襲いかかってくるたびに、吹き荒れる暴風や、爆炎を伴うファイアボールが周囲を飛び交う。

 

 今は、ヘノとニムが先頭をゆき、その後ろをこの第二層の管理者であるライチ、そして桃子と和歌が手を繋いで歩いている。

 未だダメージが大きく戦えないルイは、ライチの白衣のポケットで休息中だ。

 

「ルイ。本当に大丈夫か。危険だったら。第一層で待っててもいいんだからな」

 

「ククク……私なら大丈夫さぁ。もっとも、戦いは他の皆に任せるけれどねぇ……」

 

 ヘノたちが言うには、最初はクルラとルイの二人が、薬草園に現われた相手と戦っていたらしい。

 しかし、二人の異変に気付いたティタニアが慌てて他の妖精たちに声をかけ、妖精たち総出で、モサモサ――いや、アルラウネを、結界で一時的に無力化することに成功したのだそうだ。

 ヘノはしきりにルイの様子を気にしている。当然だ。ヘノにとっては姉のような妖精が、消滅寸前まで弱ってしまっているのだから。

 一方、ニムはルイよりも気になる存在があるようで、心なしか、普段以上にびくびくおどおどしている。

 何かと思って桃子がそのニムの視線の先を辿れば、そこには全身を銀色の防護服に包んだ和歌の姿があった。

 

「あらあら。なんだか、そちらの子は私のことを怖がっているみたいですねー」

 

「かかっ。その全身銀色の防護服姿が、宇宙人か何かに見えておるんじゃろ」

 

「大丈夫だよ、ニムちゃん。この人は……ええと、今はこんな格好なんだけど、私がいつもお世話になってる人なんだよ」

 

「うう……ほ、本当に人間ですかぁ? ま、魔力が人並み外れていて……に、人間じゃないように思えますよぉ……?」

 

「あー、それは……否定できないけど」

 

 桃子は思い出す。

 先日、カレーを食べているニムにこの『毒の密林』で起きた事件について聞かせたとき、ニムは宇宙人を思わせる銀色の防護服を極端に怖がっていた。

 まさに今、目の前にその正体不明の存在がいて、更にはそれがとんでもない威力の火炎弾を連発しているのだ。火に弱いニムはなおのこと、恐ろしく感じるのだろう。

 桃子ですら、和歌のフレアバーストの威力だけを見るならば、もう人間辞めてそうだなと、少なからず思っているのだから。

 

「でも、大丈夫だからねニムちゃん。和歌さんは見ての通り、大胆に人間からはみ出てるところはあるけど、中身は優しいお姉さんなんだよ?」

 

「あら、桃ちゃんまで人を怪物みたいに。私、泣いてしまいますよー?」

 

「えっ、私いま褒めたんですけど」

 

「ククク……楽しいお話はほどほどにして。そろそろ作戦を話し合おうかねぇ……?」

 

「うむ、そうじゃな。桃子たちに会話をさせておくと、ここが戦場だということを忘れてしまいそうじゃ」

 

 前を歩くライチたちが、呆れたようにため息をついている。

 桃子としては不本意な評価ではあるが、しかし雑談を続ける場面でないのは間違いない。桃子は口を閉じ、ライチたちの言葉に耳を傾けることにした。

 鬱蒼としたジャングルには、明らかに魔物が増えている。そして、その大半が興奮状態にある。

 

 これは、魔物の異常行動だ。

 アルラウネが、魔物たちのボスとして君臨しようとしている。その確固たる前兆だ。

 

 

 

 

「――というわけで、一番シンプルな解決方法は、桃子がハンマーで叩き潰すか、和歌が燃やし尽くす。それに尽きるのう」

 

「ククク……そうだねぇ。いくらアルラウネが進化したとはいっても、鵺を倒すほどの力には耐えられないだろうからねぇ」

 

 まずは単純に、アルラウネの倒し方だ。

 アルラウネがどれだけ強くなろうと。いくら、妖精の力や魔物の力という、様々な力を持つ新種の存在だろうと。それでも、今ならまだ相手は成長段階だ。

 特殊個体すら焼き尽くす和歌の『フレアバースト』や、過去に何体もの特殊個体を滅してきた桃子のハンマーならば、どうとでもなるだろう。

 

 作戦の問題点があるとすれば、はたして今のアルラウネが、どれだけの戦闘能力を持っているか未知数である――という部分だろうか。

 桃子のハンマーで叩き潰すためには、当然ながら、それだけの大きな隙を作る必要があるが、単純にそれが難しいのだ。

 

 一方で、和歌の魔法も、アルラウネの力量次第ではしのがれてしまう可能性も――非常に低いものの、否定は出来ない。その場合は、また別な作戦をとる必要がある。

 

 やはり、どちらにせよ。

 具体的に、まずは実物を見てからでないと判断出来ない部分は多いのだった。

 

「んで、もう一つの案はこっちじゃな」

 

 ライチが、白衣の内側から小さな透明の容器を取り出した。中には、いくつかの薬剤のアンプルと注射器が入っているのが見える。

 

「一番理想的な解決法は、このアンプルを打ち込んで無力化することじゃ。このアンプルは――」

 

 道のりの魔物たちを弾き飛ばすのはヘノに任せて、桃子たちはライチの説明に耳を傾ける。先ほどの案が一番暴力的な案だとしたら、こちらは一番平和な案だった。

 一番平和的に、余計な暴力行為を含まずに"アルラウネを沈静化"させる作戦。これには、ライチが用意したアンプル――つまりは注射剤を打ち込む必要があるという。

 もし、アルラウネの基盤がまだ植物のキメラのままだとしたら、その薬剤で魔力や瘴気などの中和が可能らしい。科学的な説明は高度すぎて桃子にはよく分からなかったのだが、とにかくそういうことらしい。

 

「まあ、そのアンプルが実際に効果があるかもわからない上に……残念ながら、暴れるアルラウネ相手に注射を打ち込むのが、非常に難しいのだけれどねぇ……」

 

「ルイちゃん、私、接近戦出来るよ? 隙を作るの、頑張るよ?」

 

「駄目だぞ。あいつ。妖精の力も持ってて。桃子の姿も見えてるかもしれないんだ。危険すぎるぞ」

 

「かかっ。そうじゃな、おぬしはハンマーの一撃は強いようじゃが、格闘で相手を制する技量など持っておらんじゃろ」

 

「ええと……はい」

 

 接近戦要員として桃子が立候補するけれど、残念だがそれはヘノとライチに却下されてしまった。

 桃子は破壊力こそ群を抜いているけれど、戦闘力という部分ではさほどの才能は持っていない。攻撃要員ではあるものの、戦闘要員とは言い難い、特殊な存在だ。

 その上アルラウネは、妖精の力も所持している。ならば、桃子の姿を認識してもおかしくはない。

 残念ながら、【隠遁】なしの桃子は足手まといになってしまう可能性が高いのだ。

 つまり、この『平和的な解決方法』もまた、実行は難しい。

 

 けれど、もし。

 この『平和的な解決方法』が実行できたならば。

 もしかしたら、ライチは助かるのではないか。【天啓】は覆るのではないか。

 桃子は、心のどこかでそう信じずにはいられないのだった。

 

 

 

 そうして、魔物を撃退しつつ道のりを進んでいく中で、桃子はふと、とある品物のことを思い出す。

 それは、先ほどからずっと自分の空いた手で抱えているものだ。

 それは、この討伐に赴く直前に、第一層――筑波ダンジョンの研究施設から持ってきたものだ。

 

「ライチちゃん、この『兜』ってどうしようか。持ってきたはいいけど……ライチちゃん被ってみる?」

 

「やめい。わしがそんなもの被ったら【分身】の魔力が阻害されて消えてしまうじゃろうが」

 

 それは、兜である。西洋の騎士が被っているような、銀色の光を携える、フルフェイスの兜である。

 これは以前、桃子がこの筑波ダンジョンを訪れた際に実験を行った、魔力の流れを阻害する効果を持った兜だ。

 先ほどいざ第二層へと潜る前に、ライチ自らわざわざ筑波ダンジョンの加工棟を訪れて、借り受けたものである。

 

「もしかしたら、アルラウネに被せられれば瘴気や魔力の拡散、吸収を抑えられるやもしれんが……そんなもん被せる余裕があるなら、それこそ普通に倒せるじゃろ」

 

「ククク……そればかりは、何かしらの意味があるのだと【天啓】を信じるしかないねぇ」

 

「そっかー」

 

 そう。この兜をわざわざ持ってきたのは、【天啓】として残された言葉を意識してのものである。

 ――兜を携えし、風に愛された少女を選ぶがいい。

 風に愛された少女が桃子を意味するのならば、桃子は何かしらの兜を携えていることになる。

 卵が先か、鶏が先か。予言が先か、兜が先か。

 兜を携えた桃子が予言として記されている以上、桃子は兜を携えた状態で進まねばならない。

 

「も、桃子さんが……それを被って戦ってみては、ど、どうですかぁ……?」

 

「うーん、実はこれ被ると視界が狭くって。サカモトさんって、よく兜なんて被って戦えるよね、ある意味凄いと思うよ」

 

「なんか。役に立たない。兜だな」

 

「一応これ、技術としては物凄い兜なはずなんだけどね」

 

 結局のところ、兜は使いどころもなく、現状ではただの手荷物でしかない。

 せめて、この兜が何か大切な役目を果たしてくれることを願いつつ、桃子は前を向き直って密林を進む。

 

「ほら桃ちゃん、そろそろ……気を引き締めていきましょうね」

 

「はい、和歌さん」

 

 桃子も、妖精たちも、気持ちを切り替える。

 いつものように、楽しい会話で気を落ち着かせていられるのは、ここまでだ。

 既に、じりじりと。ひりひりと。ダンジョンの空気が変わってきているのが、肌で感じられる。

 アルラウネが封じられているという薬草園は――目の前だ。

 ライチの命運を握る戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、異様な空気に包まれていた。

 

 薬草園を大きく囲むようにして、ヘノとニム、そしてルイを除いた五人の妖精達が均等に並んでいる。それはまるで、五芒星を描いているかのような構図だった。

 桃子の目にも、薬草園を覆う色とりどりの魔力の波が薄らと見える。桃子にも見えるほどのこれは、かなり大規模な魔法なのだろう。

 ヘノのそれとは別種の、魔力と魔力がぶつかり発生する風が、薬草園を中心に吹き荒れている。

 

 そして、その中央には――。

 

 

「来たか桃子! そっちの……ええと、ちっちゃい奴と銀色の奴は、敵じゃないんだよな!」

 

「大変なんだよぉ。あの植物の子が起きちゃって、今にも結界を破りそうなんだよぉ」

 

「結界を独自に強めてみたけれど、なにぶん簡易的なものだからね。間もなく破られてしまうのでは、ないかな?」

 

 桃子たちに気付いた火の妖精フラムが叫び、続いて大地の妖精ノン、鍵の妖精リドルが声をかけてくる。彼女たちは、桃子以外の二人――ライチと和歌を見て警戒を露にするけれど、しかしヘノとニムが警戒をしていないのを見て、すぐにその警戒を緩める。

 ダンジョンの鍵を司るリドルが中心となり結界を施している様子だが、その言葉を聞く限りではすでに余裕はなさそうだ。

 ライチの白衣から飛び出したルイがふわりと浮き上がり、薬草園の状況を見渡す。

 

「ククク……今はどういう状況かねぇ? アルラウネの様子はどうだい……?」

 

「さっき目覚めて、膠着状態だヨ!」

 

「んふふ♪ 今はアルラウネっていう名前になったのね? 見てのとおり、睨み合いの最中だけれど……ちょっと、これ以上押さえ込むのは、難しいわね♪」

 

 植物の妖精たちの力なのだろう。

 薬草園の植物が、そして周囲の密林の木々から蔦が伸び、薬草園の中央にいる『それ』を締め上げるように、雁字搦めにしている。

 けれど、桃子が見ている間にも、時間とともにいくつもの蔦が力を失い、するすると萎んで地面に落ちていくのが分かる。

 

 そして、桃子は見る。

 その、蔦に縛られた存在――アルラウネを。

 

「……ねえ、待って、あれが……? あれが、アルラウネ? あれがモサモサなの?」

 

 つい、誰にともなく、問いかけてしまった。

 桃子は、この状態をどう捉えればいいのか、わからなかった。

 

「桃ちゃん、落ち着いてください。魔物……とは言い切れないにしても、外見で判断してはいけません」

 

「わ、和歌さん……でも……」

 

 探索者として経験の豊富な和歌が、桃子の腕を引き、そっと抱き寄せる。残念ながら銀色の防護服ではいつもの母性を感じさせるぬくもりはないが、しかしそれでも、桃子は多少落ち着くことができた。

 それでも。

 桃子の困惑が消えることはなかった。

 

 桃子の瞳に映るのは、魔力で封じられ、蔦で身体を巻かれた。

 緑色の肌をした幼い少女が、苦悶に呻く姿だったのだから。

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