ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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毒花のアルラウネ

 穏やかだった薬草園は、今はすでに戦いの余波で荒らされ、嵐の真っ只中のような惨状となっている。

 妖精たちが魔力で結界を張っているが、それがアルラウネの力とぶつかり合い、薬草園を中心とした風が吹き荒れていた。

 その中心にいるのは、アルラウネだ。

 

 以前この場所で見たときのように、茎や根で動く不思議な植物ではなかった。アルラウネはこの僅か数日で、驚くべき進化を遂げていた。

 それは、まるで人間の幼子のような姿へと変貌していた。

 肌は薄緑色をしており、人間ならば髪の毛に当たる部分には鮮やかな緑色の蔦や葉が連なっている。ここ『毒の密林』で育った花々が、色鮮やかな装飾品のように、その身を飾っている。

 美しい少女だった。

 いつしか吉野ダンジョンで遭遇した、人間を模した醜悪な魔物『ニンゲン』のように、外見だけを擬態しているわけではない。

 彼女は、毒花で美しく着飾られたアルラウネは――ヘノのように、ポンコのように、パイカラのように。感情を、心を持つ少女として、そこに存在しているように見えた。

 

「わ、私も……戦わないと……」

 

 それでも、アルラウネの姿に心を揺さぶられても。嵐のような風のなか、桃子は巨大化したハンマーを構え、いつでも戦えるようにする。

 アンプルさえ注入できれば、誰も傷つけずに、アルラウネを沈静化できるかもしれないのだ。

 桃子自身は、この戦いでは戦闘要員とは数えられていない。それでも、せめてライチのサポートに回らねばと、覚悟を決める。

 どのような予言があろうと、未来の運命が語られようと。桃子はそれに従ってライチを見殺しにするつもりなど、ない。

 

 和歌からは、すでに手を離している。

 それにより、和歌からは桃子が認識出来なくなっているかもしれないが、これは事前に和歌と話し合って決めたことだ。戦いになったなら、それぞれが全力で戦うために、手を離す、と。

 二人が身を守るためには、いつまでも手を繋いではいられない。これから自分たちは、本気で戦わなければいけない。

 

 しかし。

 そんな桃子の決死の覚悟は、桃子よりも頭一つは小柄な幼女に、やんわりとせき止められる。

 ライチの助けになろうと覚悟を決めた桃子を制したのは、ライチその人だった。

 

「桃子に和歌、おぬしらはいったん離れておくが良い」

 

「え、で、でも……ライチちゃんは?!」

 

「かかっ、安心せい! わしをただの天才ロリババアと思ってはいかんぞ。この【分身】の身体は、そこらの人間よりも遥かに高スペックなんじゃ!」

 

 ライチは声高にそう宣言し、白衣の懐から、いったいどうやって隠していたのか、長さにして60センチはあろうかという金色に輝く武器を取りだした。

 桃子は一瞬、金の短剣でも取り出したのかと錯覚したが、しかしそれは、明らかに武器としては異質な形状だった。

 二つの金属が交差するX状の刃。丸い輪っかがついた、特殊な握り。

 

 それは『ハサミ』だ。

 

 ライチは、その体格と比べれば巨大にも見える黄金色のハサミを、頭上でくるくると回転させ。最後にシャキンという金属音とともに、アルラウネへと向けて構えてみせる。

 金色の光沢が、薬草園へと差し込む日の光を反射する。

 

「桃ちゃん、まだそこにいますか? ここは大人しく、私たちは離れて様子見に徹しましょう」

 

「和歌さん……」

 

 桃子の姿を認識していないはずの和歌が、探るように声をかける。

 桃子はおとなしく、和歌の手をとり。

 ライチと和歌の言葉に従い、妖精たちが今から繰り広げる戦いの邪魔にならぬよう、薬草園から距離をとり、成り行きを見守ることとなる。

 

「大丈夫、きっと……まだ、来智博士を救う手だては、残されていると信じましょう」 

 

「……はい」

 

 和歌とて、桃子と同じなのだ。

 戦いながらも、頭の片隅ではあの【天啓】がよぎる。

 けれど、ライチの運命を救うことを、二人はまだ諦めていなかった。

 

 

 

 

「ヘノが戻って来たならば、話が早い。いっそボクらのタイミングで、結界を解除するかい?」

 

「任せろ。戦うのは。得意なんだ」

 

「んふふ♪ ここからが、本番ってわけね♪」

 

「うぅ……こ、こわい……」

 

 一方、距離をとった桃子とは逆に、ヘノは戦場へと駆けつける。

 いまは妖精たちが総出で結界を張ってアルラウネの動きを阻害しているけれど、すでに結界には綻びが出始めている。破られるのも時間の問題だろう。

 しかし、それなら結界を解除してしまえば良い。直接討伐するにしろ、アンプルを注入するにしろ、こちらからアルラウネに接触する際に結界は邪魔になる。

 なので、神槍ツヨマージを持つヘノが戻ってきたこのタイミングで結界を解除し、妖精たちも本格的に戦うという方針に決まった。

 

「でも、気をつけろよ! こいつ、更にまた、強くなってきてるからな!」

 

「ヘノがいない間も成長してるからヨ! あまり近づいちゃダメだヨ!」

 

「わかった。まずは試しだ。暴風!」

 

 周囲の声を聞いているのか聞いていないのか、ヘノが相手の頭上をとるように舞い上がり、アルラウネへと接近していく。そして、アルラウネの真上から地面へ向けて、敵を押しつぶす暴風を叩きつける。

 

「今だ! みんな、あわせろ!」

 

「まかせたまえ!」

 

「いくよぉ!」

 

 それにあわせ、妖精たちは結界を緩め、各々が自分の魔法を緑色の幼子へと叩きつけていく。

 暴力的な風が吹き、炎が舞う。

 周囲の草木が鞭のように相手へと伸び、そこに巨大な岩が砲弾のように打ち込まれていく。

 

 一斉攻撃により、周囲の薬草が容赦なく吹き飛んでいくが、さすがにもう、ここが戦場になってしまった段階で薬草を守りながらの戦いは不可能だった。

 ルイやライチも、それは理解しているのだろう、特に言葉を挟みはしない。

 

「やったか」

 

 一斉攻撃後、煙で一時的にアルラウネの姿が隠れたところで、ヘノはお決まりの台詞を言う。

 しかし、残念ながら、やってはいなかった。

 

 ヘノめがけて。

 ズシュッという空気を切り裂く音とともに、鋭い何かが煙を突き破り、伸びてくる。

 ヘノの小さな身体を貫こうとする。

 

 それは、一瞬だった。

 

 瞬発力に恵まれたヘノだからこそ、風に舞うように、それを紙一重で避けられた。しかし、それにかすった衣装の裾が破れ、そこだけがどす黒く変色している。

 この場所に舞っていたのがヘノでなければ、妖精たちは一人、姉妹を失っていたかもしれない。

 

「なんだこれ。おまえら気をつけろ。こいつ。危険だぞ」

 

「もう! さっきからそう言ってるだろ! その槍が、危険なんだ!」

 

「近づくなって言ったのに、ヘノは近づきすぎなんだヨ! バカだヨ!」

 

「ヘノ、油断していると桃子さんを悲しませるわよ♪ すぐ離れなさいね♪」

 

 ヘノが貫かれかけた光景に、肝を冷やした姉妹たちが周囲から大声で文句を飛ばす。

 四方から姉妹総出で文句を言われたヘノは、むぐぐと口をゆがめつつも、おとなしく言われるがままにその場から距離をとる。

 

 煙が晴れると、そこには先ほどと変わらない、苦しげな表情を浮かべたままの幼子――アルラウネの姿があった。

 ぼんやりと、身体の周囲から魔法光を放っている。白と緑が混じり合ったその光は、ヘノたち妖精のまとうものと同種のものだ。

 そしてその周囲には、アルラウネの魔力による障壁が張られていた。

 

「こりゃあ、まいったのう。さっそく手段が一つ封じられてしもうたわ」

 

 それはまさに、結界だ。先ほどまで己がとらわれていた結界を学習し、更にそれを外へと向けた力として張り巡らせることで障壁を作り出し、一斉攻撃から身を守っていたのだ。

 これはつまり、遠距離から一方的に、和歌の魔法で討伐するという手段を封じられたということでもある。

 

 アルラウネはいま、急速に『妖精の力』を学び、進化を続けている。

 

 

『リリリリ……リリィ……ヨウ……セ……!!』

 

 

 そして、その身体からはいくつもの根や茎が伸び、まるで触手のようにアルラウネの周囲を揺らめいている。

 あれが、先ほどヘノを貫こうとした『槍』の正体だ。

 

「くるヨ!」

 

 その槍の一つが再び鋭く形状を変えていき、まるで撃ち出されるように、妖精たちめがけて射出されようというところで――。

 

 シャキン

 

 瞬間。

 一つの金属音とともに、その槍はあっけなく切断される。

 断面からは、植物の中を循環していた水分とも樹液ともつかぬものが飛び散り、大地へ降り注ぐ。

 

「かかっ、魔法には耐性があるようじゃが、科学の産物はどうじゃ! ただの園芸ハサミではないぞ?」

 

 アルラウネの前に立ち、槍を切り落としたのは――金色に輝く園芸ハサミを構えた白衣の幼女、ライチだ。

 ライチがハサミに埋め込まれた魔石へと魔力を送り込むと、魔石が輝きだし、金のハサミは魔力のオーラをまとい始める。

 

『リリィ……マ……リリリ……リ……!』

 

 そして、ライチが中距離を保ってアルラウネの槍を人間離れした反射神経とスピードで捌き切り、それをサポートするかのように、遠隔から妖精たちの魔法が飛び交っていく。

 自信溢れる不敵な笑みを見せつけるライチと、怒りとも苦悶とも言えぬ表情を浮かべるアルラウネ。

 薬草園を舞台に、美しき幼女たちの戦いが始まった。

 

 

 

 

「す、すごい……」

 

 一方、その戦いを、離れたところから見つめていた桃子と和歌。

 薬草園の戦いは、ものすごいものだった。魔法が飛び交い、その中心部でライチが目にも留まらぬ速度で暴れ回り、次々と繰り出される槍を切り捨てていく。

 ライチのハサミが光の尾をまとい、それはまるで、金色の光とともに舞い踊る、円舞のように見えた。

 桃子を制したライチの言葉は、正しかった。とてもではないが、桃子があの場にいて力になれるとは思えない。むしろ、足手まといになっていたことだろう。

 

 しかし、ライチたちの戦いに魅入っていた桃子に、銀色の防護スーツに身をくるんだ和歌が声をかける。

 和歌は、【隠遁】対策として桃子の手をとっていたけれど、ふと、その手が外される。

 

「桃ちゃん、見ているのもいいですが、私たちも呑気にしていられないみたいですよー?」

 

 事前に話し合って決めたこと。和歌と桃子の手が離れるとき、それは――敵との戦いのときだ。

 

 桃子がそれに気づき背後を見やれば、そこには鬱蒼と茂る密林が広がっている。

 そして、密林の中には、いくつもの邪悪な気配が潜んでいた。

 

「うそ、魔物?!」

 

 獣の形をしたもの。鳥の形をしたもの。蛇の形をしたもの。それらが、この地に集まりつつあった。

 これは、薬草園の戦いの影響だろう。

 魔薬草園の戦いに刺激されおびき寄せられた魔物たちが、その牙をむける標的として、この場で唯一の人間――和歌を目指し、集まりつつあるのだ。

 

 桃子が驚いた時にはもう、和歌は戦うための準備を終えていた。

 和歌は防護服越しに杖を構え、魔力を集中させている。杖の先の魔石は赤熱色を発し始め、杖の先の空気が熱で揺らいでいる。

 

「ファイアボール!」

 

 和歌がそう唱えると、じりじりと空気を焼くような火の玉が一つ、シュッと密林の中へと飛び込み。

 そして、轟音とともに、密林の中に炎が広がる。人間側の特殊個体と言うべき和歌が使用すれば、基礎的な火球魔法ですら敵を滅ぼす爆炎と化す。

 その場に隠れていた魔物たちが炎に巻かれていく。

 しかし、さすがにこの場所は、濃密な魔力の充満した密林だ。

 いかに和歌の炎が強力だったとしても、やはり基礎魔法では森を焼き尽くすほどの威力は出せない。

 大半の魔物たちは密林を散開することで難を逃れ、和歌めがけて襲いかかってくる。

 

 和歌は密林から魔物が飛び出てくるたびに、小さなファイアボールを放ち、あるいは赤熱化した杖で突くことによって、相手を煤へと変えていく。

 桃子もまた、魔物から認識されないことをいいことに、手近な距離までやってきた魔物を片っ端から叩きのめしていく。

 

「ああ、もう! 木が邪魔だなあ! えいっ!」

 

「ちょっと戦い辛いですねー」

 

 しょせんは第二層の魔物であり、決して桃子たちからすればどれも強敵と呼べるものではない。

 しかし、地の利が相手にある以上、どうにもやりづらい。木々に隠れた獣たちが、鳥たちが、桃子たちめがけて散発的に、延々と向かってくるのだ。

 和歌が最大級の魔法『フレアバースト』を唱えればあたりの密林ごとすべての魔物を消し飛ばせるだろう。

 だが、この環境であの爆発を起こしてしまえば、その後の視界が確保できず、また薬草園の戦いに影響も出てしまう。

 だからこそ和歌は、下位の火球魔法だけでその場を凌ぎ続けていた。

 

「申し訳ないですが桃ちゃん、環境破壊をお願いできますかー?」

 

「はい! 全部、なぎ倒します!! リフィちゃん、ごめんねっ!」

 

 それは、阿吽の呼吸のようなものである。

 和歌は桃子の姿が見えていなくとも、そこに桃子がいることを理解して、声をかける。

 桃子もまた和歌の言葉を聞き、即座に意図を理解した。

 

 桃子は言うが早いか、颯爽と密林へと飛び込んでいく。すれ違いざまに魔物を消しとばしつつ、ハンマーを振り上げ――。

 

 メキメキ

 

 バキバキっ

 

「絶対に、あなたたちに、みんなの……ライチちゃんの邪魔はさせないんだからっ!!」

 

 豪快に、爽快に、痛快に。

 桃子は縦横無尽にハンマーを振り回して、密林の木々をなぎ倒していく。折られた木々から毒性の強い樹液が吹き出すが、桃子は【毒物耐性○】と【頑強○】の合わせ技で、無理矢理にその毒性をねじ伏せる。

 

 和歌が魔法を使う上で密林が邪魔なら、周囲を最初から開けた荒れ地にしてしまえばいい。それが一番簡単な解決法だ。

 木々を愛する緑葉の妖精に謝りながらも、桃子と密林の樹木たちの、一方的な蹂躙劇が始まった。

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