ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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静かな討伐

「駄目だよぉ、これ以上岩を撃ち出しても、アルラウネが有利になっちゃうよぉ」

 

「これはもしや、失策だったのでは、ないかな?」

 

 戦いの中でアルラウネは、妖精の魔法に対して耐性を得てしまった。

 特に、炎のようなエネルギー主体の魔法は効果がなく、逆にそこからエネルギーを吸い取られている可能性すら感じられる。

 そこで、妖精たちがメインの主力としていたのは、ノンとリドルの合体魔法で撃ち出す、岩の砲撃だった。

 だが、今やいくつも撃ち出された岩石の数々は、ただ薬草園に積まれた、アルラウネが身を守るためのちょうどよい砦と化している。

 

「あいつ。戦えば戦うほど。強くなるな」

 

「うぅ……な、なんだか……た、戦わないほうが、いいような気がしますねぇ……」

 

「あーもう! 植物なのに、アタシの火で燃えないのって! なんなんだ!」

 

 フラムなどはやけっぱちだ。植物の天敵である炎属性の魔法を真っ先に攻略されてしまい、彼女は何もできなくなってしまっている。

 植物であるアルラウネにリフィの攻撃は効果が薄く、クルラの細胞が元になっている故か、同じくクルラの浄化の力も効果をみせない。

 物理的な岩石の砲撃は逆に相手の利となってしまう。

 

 妖精たちは、ジワジワと、圧されつつあった。

 

『マ……リリィ……マ……リリリ……』

 

「ふぅ……さすがに、老人にはなかなかハードなバトルじゃな」

 

 今は、アルラウネは根の操作を止め、ハサミを構えたライチと睨み合っている。

 妖精たちも自分の魔法で戦うのではなく、ハサミで戦っているライチのサポートにシフトしていく。

 

「うぅ……リフィは、あの子の言葉、わからないんですかぁ……?」

 

「さっきからやってるけど、アイツ自身がもう自我がめちゃくちゃで、言葉が通じないんだヨ!」

 

「まったく。クルラ。おまえの細胞は。いったい何なんだ」

 

「んふふ♪ わたしも驚いてるのよ♪」

 

 妖精たちは、ライチの周囲に集う。

 アルラウネがどういう存在なのか、どうしてクルラの細胞からこんな生物が生まれてしまったのか、そして――この生物を、いったいどうすればいいのか。

 妖精たちは軽口を叩きながらも、この状況に全員が危機感を抱いていた。

 

「……どうだい、来智博士。アンプルは打ち込めそうかねぇ……?」

 

「かーっ、無理じゃな、無理。あの蔦……いや、ありゃ根か? あの槍をどうにかせんと、注射を打ち込む前に串刺しじゃぞ」

 

「そうかい……そうだねぇ……仕方ないねぇ……」

 

「……すまんなリヴャナ、あれはお主の妹も同然だというのに」

 

 ライチにずっと付き添っていたルイが、静かに息を吐く。

 ライチもルイも、互いに聡明だ。すでに、取れる手段は限られているこの状況で、互いに残された手段は理解しているのだ。

 アンプルによる沈静化が無理ならば、やはり力でもって討伐するしかない。それも、この進化速度を上回るほどの、圧倒的破壊力で。

 ライチは、自ら生み出してしまった新たな命を、この世に生まれたばかりのアルラウネの自我を、この場で滅ぼすための算段をたてる。

 アルラウネを確実に滅し、その上で、ライチ自身が助かる道筋を探る。ライチはまだ、己の命を諦める気など毛頭ない。

 

「ただ……桃子くんは、やめてあげてくれるかい。彼女には、重すぎるからねぇ」

 

「そうじゃのう。和歌には申し訳ないが……この重責は子供に背負わせてはならんのう」

 

 ルイとライチは、作戦を立てながらも、視線は正面にむけたまま外さない。

 そこには、苦痛に喘ぐ幼子の――アルラウネの姿があった。

 優しすぎる桃子はきっと、この存在を殺せない。

 

 

 

 

 

「柿沼和歌! いまから指示を出す!」

 

 アルラウネと対峙していたライチの声が響きわたる。

 彼女は、散発的に撃ち出される根の槍を黄金のハサミで的確に凌ぎながら、背後で待機しているはずの和歌に向けて指示を出す。

 ライチの背後には、かなりの範囲の荒れ地が広がっている。先ほどまでは密林だったはずの空間は、いまやすべての木々がへし折られ、そして魔物もろとも、すべてが黒い煤へと変貌していた。

 和歌が己の魔法を使い、集まってきた魔物を殲滅した名残だ。すでに、桃子と和歌による魔物の殲滅は終了しているのを、ライチは戦いの合間に確認している。

 

「わしがあれと戦い、結界を張らぬよう牽制する! その隙に全力で例の魔法を打ち込め!」

 

 向けられたライチの指示は単純。ライチもろとも魔法を打ち込めという、そのような内容だ。

 しかし、それに声を返したのは、桃子だった。

 

「ライチちゃん、そんなことしたらライチちゃんが……!!」

 

「かかっ、直前で逃げるよ。特製の結界石もいくつか持っておる。わしとて死ぬ気などありゃせんよ!」

 

 そして、一息つき、続ける。

 

「それに……仮にこの身体が消えたところで……わしが死ぬわけではないからの! 遠慮はいらん!」

 

 事実だけを述べれば、和歌の魔法をその中心部で受けてしまえば、結界石がいくらあろうと――耐えきることは、難しい。

 それでも。それでライチが死ぬことだけはない。それは、事実だ。

 彼女はあくまで【分身】であり、本体の生命活動そのものには、影響はないはずだ。

 

 けれど。

 けれど。

 ライチが戻ってこない可能性を、桃子は知っている。

 

「……来智博士、いいんですね?」

 

「ああ、すまんな。お主の過去も知っておるが……あのような速度で成長する魔物を、ここで逃がすわけにはいかんのじゃ!」

 

「……わかりました。でも、絶対に――逃げて、生き残ってくださいね」

 

 和歌がゆるりと、杖を掲げる。銀色の防護服に包まれたその顔は、桃子からは覗き見ることができない。

 だが、桃子は知っている。

 和歌は過去にも同じような状況で、鵺という魔物と戦ったのだ。愛する仲間の身体を、鵺もろとも焼き払ったのだ。己が背にかばう、生存者たちを救うために。

 和歌は、それを何年も、何年も、悔いていたはずだ。

 ニライカナイで、ヒカリもろとも鵺を滅ぼす決断をした和歌の、心がひび割れる音が、あのとき桃子には聞こえたはずなのだ。

 

 なのに、この状況は、それと同じではないか。

 防護服の中の和歌は、いま。どういう顔をして魔力を込めているというのか。

 

「ライチちゃん、和歌さん……」

 

 どのような運命だとしても、そこからライチを救いたかった。

 二度と、和歌には傷ついてほしくなかった。苦しみを背負わせたくなかった。

 そして――いま、薬草園の中心で。苦しみの表情を浮かべているアルラウネを、助けたかった。

 

 桃子は、ぎゅっと、強く、強く。ハンマーを握りしめる。

 無力な自分への、悔しさを堪えるように。

 

 

 

 

 

 

「おぬしら! 今から全力で和歌が『フレアバースト』を叩き込む! アルラウネの動きを阻害しつつ、距離をとれ!」

 

「あの魔法か。困ったな。あれは食らったらヘノでも危ないな」

 

「炎だし、アタシなら大丈夫だけどな! でも離れるよ!」

 

「うぅ……じょ、蒸発しそう……こ、こわい……」

 

 ライチは、黄金のハサミを振り回し、襲い来る槍を切り裂きながらも妖精たちへと指示を出す。

 妖精たちも、和歌の『フレアバースト』の威力は知っている。直接見てはいなくとも、香川ダンジョンでの牛鬼決戦において、第一層で発動したあの魔法の威力を、妖精たちは肌で感じ取っていた。

 あれは、下手をすれば桃子のハンマー以上に危険なものだ。

 

「アルラウネ……いや、キメラアルファよ。わしが望んで作り出した存在だというのに、おぬしには申し訳ないことをしたのう」

 

 妖精たちが距離をとる間、ライチはアルラウネに声をかけ、時間を稼ぐ。その名を呼び、まるで雑談でもするかのように。

 妖精たちのサポートが途切れれば、ライチは一人でアルラウネの攻撃を凌がねばならない。そのために、少しでもアルラウネの気を逸らせないかと――ただ、ふと。そう思ったのだ。

 

「このような形で滅ぼすことになったのは、わしの責任じゃよ。のう、アルファ、わしを恨んでおるか?」

 

 しかし、その何気ない判断が、更なるアルラウネの進化を促すことになる。

 アルラウネは、戦いのなかで様々な技術を吸収して強くなっている。命を燃やすような速度で、進化を促進している。

 

『リリ……リリ……ラ、ライ……チ……』

 

「ん……? な、なんじゃ? おぬし……言葉を、覚えておるのか? おい、おい! 何か言うてみい!」

 

 そして、いま。

 

『……ライ……チ……マ、マ……』

 

 アルラウネは――"言葉"を、学習した。

 意志を伝える術を、学んだ。学んでしまった。

 

 

 

『ママ……クル、シイ……』

 

『マ……モノ……ナリタク……ナイ……』

 

 

 

 戦いの余波で、すでに荒れ地となってしまった薬草園に、一陣のそよ風が吹き抜ける。

 アルラウネは、苦悶の表情を浮かべながら。その魔物としての本能で、ライチへと次々と槍を射出しながら。

 ライチを母と呼び、覚えたての"言葉"を使って、助けを求めていた。

 

 妖精たちは息を飲み、薬草園に佇む二人をただ、見つめる。

 そして、ライチは――。

 

 

「……聞こえるか、柿沼和歌。すまん、やはり先ほどのは取りやめじゃ」

 

 

 静かに、ライチは和歌へと作戦の中止を伝える。

 和歌は無言で、杖に込めた魔力を霧散させていく。小さく震えていた杖を、ゆっくりと下ろしていく。

 その光景を、唇をかみしめて眺めるだけの桃子からは、ライチの表情は見えはしない。

 けれど、そこには。ライチの背中には。深い、深い後悔と、覚悟の感情が見えた。

 

「リヴャナ、アンプルをよこせ」

 

「……クク……あなたは、まったく、どうしようもない……母親だねぇ……」

 

 ライチが声をかけると、白衣の裾からは深緑の魔力を纏う薬草の妖精――ルイが、すでに薬剤を注入された注射器を抱えて現れた。

 それに目を丸くして驚いたのは、遠くへ逃げていた妖精たちだ。

 ルイは、逃げていなかったのだ。ライチの懐にとどまり、焦土と化すはずだった薬草園に、ライチとともに残っていたのだ。

 妖精たちがその事態にざわつき始めるが、しかし彼女らの驚きと困惑を置き去りに、刻は進んでいく。

 

 

 

「和歌さん、あの子……アルラウネはずっと……瘴気で、苦しんでたんですね」

 

「そう、みたいですね……」

 

「でも、でも……それじゃあ、ライチちゃん、ライチちゃんが……」

 

 桃子の脳裏には、薬剤棟で聞かされた【天啓】の一文がよぎる。

 

 ――幼子の抱擁と共に、永き夢が終わりを迎えるだろう

 

 いま、ライチが抱擁を交わそうとしている幼子が誰かなど、考えるまでもない。なぜなら、ライチの目の前には、幼く、生まれたての娘がいるのだから。

 母が、娘を抱擁する。そんなのは、当たり前の出来事なのだから。

 桃子は迷う。

 自分が今すぐに飛びだして、あの二人の間に割って入れば、母と娘の邪魔をすれば、ライチは救われるだろうか。アルラウネは救われるだろうか。

 桃子の迷いは、しかし。

 そのための時間など、与えられてはいなかった。

 

 

 

 

「アルファ。わしは……母親として、やるべきことを忘れておったよ」

 

 ライチは、一歩、そして一歩と、アルラウネへと近づいていく。

 アルラウネは、苦しみながらも、母に助けを求めながらも、その身体は――瘴気により、魔物へと変貌しつつあるその身体は、次々とライチへと槍を飛ばしていく。

 目にもとまらぬハサミ捌きで凌いでいたライチだったが、いつしか、凌ぎきれない槍が増えていく。

 ライチの腕や腹に、鋭い槍が突き刺さり、貫通する。

 

『ママ……ググ……ダメ……ニゲテ……』

 

「かかっ、安心せい。【分身】の身体は、意外と丈夫なんじゃよ……!」

 

 薬草園。

 そこはいま、アルラウネ、ライチ、そしてライチにつき従う薬草の妖精、その三者だけが立ち入りを許された舞台だった。

 ライチは、次々と繰り出される槍に幾度も身体を貫かれながらも、歩みを止めず、苦しみを訴えるアルラウネの身体に、その小さな腕を回す。

 その手にはしっかりと、アンプルの入った注射器が握られている。

 

「外は、疲れたじゃろ、アルファ。もう、休んでいいんじゃよ。目を閉じて、ゆっくり眠るんじゃよ」

 

『ママ……マ……マ……』

 

 すんなりと。

 抵抗もなく。

 

 アンプルは、アルラウネの首筋へと注入されていき。

 静かに、静かに。

 それまで猛威を振るっていた、植物でも、妖精でも、魔物でもなかった一人の少女は――母の腕の中で、眠りについた。

 

 準特殊個体『アルラウネ』の討伐は、完了した。

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