ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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閑話/妖精と研究者

「うぉおっ、なっ、なんじゃあこりゃあ……?!」

 

『ククク……』

 

 筑波ダンジョンの存在が確認されてから、およそ一年。

 ギルドの研究者の立場を利用して何度も幼女姿の【分身】を送り込み、第二層にこっそり作っていた薬草園に、何かがいた。

 つい、大きな声で驚いてしまったが、そこには、たった数センチの小娘――いわゆる、妖精が生まれておった。

 

「……これ、まさか妖精か? 魔物じゃないじゃろうな?」

 

『……よう、せい……? 私は……妖精……』

 

「な、なんかイメージしてたのとずいぶん違わんか? なんかブツブツ呟いておるが、妖精つーのは、こんなもんなのか?」

 

『妖精……妖精……ククク……』

 

 つい先日、出版が差し止められた『モチャゴンとなんたら』とかいう児童書に載っていたような、白い布地をまとった妖精。

 毒の影響で幻でも見てしまったかと勘ぐったが、やはりそれは本当に、薬草の上に座り、わしのことを見上げていた。

 しかし……うむ、正直言えば、イメージとはかなり違ったものじゃったな。うつむき加減で、顔も隠れていて、何やらブツブツ呟いて、不気味に笑っておる。

 話に聞く『妖精』というのはもっと華やかなものを想像していたのじゃがな……。

 

 

 

 

 

 

 

「元気か? 妖精。思ったんじゃが、おぬしにも名前があった方が良いじゃろ」

 

『名前……名前……?』

 

 妖精が現われてからしばらく経ったが、妖精はあれからもずっと薬草園に居着いていた。

 というより、あれはまさに『薬草から生まれた妖精』なんじゃろうな。本人はわかっておらんようだが、薬草の効能を本質的に理解しておる。

 ならば、名前を考えるのも簡単じゃった。

 

「薬草を意味する言葉で『リヴャナ』という名を考えたんじゃが、どうじゃ? リヴャナ、おぬしはリヴャナじゃ!」

 

『りば……りやな……? りばな……? わからない……』

 

「む、まだ難しかったか? なら……しかたない。"Luibheanna"じゃから……うむ、愛称は頭の3文字をとって、ルイ、かの」

 

『るい……ルイ……私は……ルイ……』

 

「いいか? お前はここの毒性の強い薬草園で生まれた妖精じゃが、その本質は、毒ではなく薬草じゃ。リヴャナという名を、忘れてはいかんぞ?」

 

『薬草……私は、薬草……ククク』

 

 妖精の本場――かどうかはわからんが、アイルランドのほうの言葉を参考にさせてもらった。

 もっとも、リヴャナという発音が難しいのか、愛称のほうが喜ばれてしまったがの。

 リヴャナ。薬草の妖精よ。

 どれだけ陰気で、毒々しい妖精だろうが、おぬしはわしが整えた『薬草園』で生まれた、薬草の妖精じゃよ。

 ……まあ、このちまこい妖精が、きちんとわしの言葉を理解出来ているのかどうか。怪しいもんじゃがな。

 

 

 

 

 

 

 

「来智くん、君はいつまでそんな分身ごときで遊んでいるのかね。この研究所は、子供が遊ぶ託児所ではないのだがねえ……?」

 

「は、申し訳ない」

 

「あと、いい加減にそのひどい訛りをどうにかしたまえ。全く、これだから田舎女は……」

 

 ……。

 

 ったくよお、天下りのクソジジイどもめが。

 あいつら、自分はろくにダンジョンも探索できず、薬草のヤの字も知らん癖に、でかい顔ばかりしおってからに。夜道で気絶させて、ゴブリンの餌にでもしてやろうか。

 他の連中も、功名心だかなんだかわからんが、自分のことばかり考えているクズの多いこと。若い研究者たちの才能が、あいつらに叩き潰される姿は見てられん。

 本当に、人間っていうのはろくでもない生き物じゃよ。

 

「来智博士、今日もまぁ……酷い言われようだったねぇ。また、偉い人たちに逆らったのかい……?」

 

「こらリヴャナ、勝手にギルドの敷地に入ってくるでないわ。人間どもに見つかったら、ただでは済まんぞ」

 

「気をつけているけれど、それを言うならあなたも人間じゃないのかい……?」

 

 リヴャナは、気付けば成長しておった。

 なんだか知らんが、サイズも多少大きくなり、言葉もはっきりと聞き取りやすくなった。

 今では、定期的に第一層の建物に侵入しては、薬草についてあれこれと意見交換をする間柄となっておる。

 文字を教え、本を読ませ、あれこれと知識をたたき込んだ甲斐があったというものじゃな。

 

「わしもクソみたいな人間の一員じゃよ。良いかリヴャナ、おぬしは絶対に、人間などに心を開いてはいかんぞ」

 

「そうだねぇ……愚かな自尊心に功名心、権力争いに、暴力衝動……嘘、欺瞞、見れば見るほど、人間というものは醜いものだと感じるねぇ……」

 

「おぬしは自由な妖精じゃ。わしみたいに、一部の人間の食い物にされるなよ」

 

「ククク……」

 

 だから、リヴャナよ。

 おぬしは絶対に、あのような腐った人間どもに、食い物にされる運命だけは辿るなよ。

 わしは人間である以上、泥水をすすってでも人間社会でしか生きていくしかない立場じゃが、リヴャナは妖精なのじゃからな。

 人間になど、近づかんほうが良い。

 かかっ、そんなことを人間であるわしが言ったところで、説得力はないかも知れんがのう。

 

 

 

 

 

 

 

「ケラケラっ! あなたが来智博士だねっ、ちっちゃいね、ちっちゃいね!」

 

「んふふ♪ 知ってるわ♪ 人間は、最初はもっと小さい赤ん坊なのよ♪」

 

「ククク……」

 

「なんじゃこりゃ、おいリヴャナ、こりゃおぬしの仲間か?」

 

 ある日、わしが相も変わらず幼女姿の【分身】を第二層へ送り出したところ、薬草園には見知らぬ妖精が増えておった。

 ビリビリと紫色の電流を発している落ち着きのない妖精と、なんだか赤ら顔の、酔っぱらいのような妖精じゃ。

 どちらも、リヴャナの仲間らしいが、なんじゃこいつら。

 おかしいじゃろ、妖精つーのは、こんなもんしかおらんのか?

 わしが以前読んだアイルランドにいたという妖精についてのレポートは、もっとなにか……まともそうな報告が書かれておったのじゃがのう。

 

「ケラケラッ、私はエレクちゃん! ライチちゃん、よろしくね! よろしくね!」

 

「わたしはクルラよ♪ あなたが来智博士なのね? 良かったら、お酒でもいかがかしら♪」

 

「ククク……」

 

「なんつーか……妖精ってのは意外と個性がバラバラな生き物なんじゃなあ」

 

 わしゃ、妖精などリヴャナしか見たことがなかったから、てっきり妖精はみんな陰気なのかと勘違いしておったわ。どうも陰気なのはリヴャナ本人の個性だったようじゃな。

 もっとも、ビリビリしているエレクのほうは騒がしくてかなわんし、飲んだくれはさすがに論外じゃろ。やはり、リヴャナが一番じゃな。うむ。

 

 まあ、しかし。

 話は前々から聞いてはおったのじゃが、リヴャナに親友と呼べる連中がいたのは……まあ、安心したわい。

 こいつはいつも陰気で、ブツブツ言っているような妖精だからな。妖精の国とやらでもひとり浮いているんじゃなかろうかと心配しておったが、どうやら大丈夫なようじゃ。

 クルラに飲まされた酒は、なんの酒だかはわからんが、実にうまかった。

 この幼女の【分身】でも酔いが回るとは、いったいどういう酒なんじゃろうな。

 いつかは、こんな幼女ではなく、ババアの身体であやつらと酒を酌み交わしたいものじゃよ。

 

 

 

 

 

 

 

「来智博士……ようやく、あなたの価値が周囲に伝わったみたいだねぇ……」

 

「リヴャナか。そうじゃな、これである程度は、若い研究者たちの才能を活かせる土台が作れた……かもしれんな」

 

 この階層に薬剤棟ができてから、どれくらいたったかのう。

 ようやく、と言うべきか、とうとう、と言うべきか。この度、わしがこの薬剤棟の代表として就任することになった。

 ま、世間ではダンジョンが一気に一般の探索者に公開されておるし、古い連中が幅を利かせるのにも限界が来たのかもしれんな。

 それに――。

 

「今までは、ろくでもない人間がずっと上にいたからねぇ……」

 

「あのクソジジイども。水が合わないだの、食事が合わないだの、まるで『誰かに毒を盛られている』ようだ、などと騒いで、次々とこの筑波ダンジョンギルドから出て行ったからのう。いったい、どういうことなんじゃろうなあ? リヴャナよ」

 

「正しいことのためには、卑怯な手も使わないといけない……あなたが教えてくれたのだがねぇ?」

 

「かかっ、悪い妖精じゃのう」

 

 下手人は、当然この性悪妖精、リヴャナじゃ。

 毒物混入疑惑ということで、わしが真っ先に疑われることもあったが、リヴャナのお陰でわしゃ完全なアリバイがあったからのう。

 まあ、アリバイも何も、わしは本当に何も手を下しておらんのじゃが。

 

「ま、褒めることはできんが感謝はしておるよ。おかげで、わしも動きやすくなったよ。あと、スッキリしたぞ」

 

「ククク……やっぱりあなたも、ろくでもない人間の一人だねぇ」

 

「かかかっ」

 

 リヴャナは、気付けば昔よりも更に成長しておる。

 それと同時に、どんどん悪知恵も働くようになってしまったみたいじゃな。困ったもんじゃ。誰に似たのじゃろうな。

 とはいえ、エレクのように人間に興味を持ちすぎたり、クルラのように酒浸りになるよりはマシじゃろう。

 リヴャナとわしは、師弟であり、共犯者であり――。

 

 ま、そういう関係じゃな。

 

 

 

 

 

 

 

「ライチちゃん、死にかけの子供ですら生き返っちゃうような、ものすごい効果のお薬ってないかな? ないかな?」

 

「かーっ、また久しぶりにきたと思ったら、五月蠅いやっちゃのう。出会い頭にいきなりなんなんじゃ」

 

 時折、リヴャナではなくこっちのバチバチうるさい方の妖精、エレクがわしの元を訪れることもある。

 こやつが来ると電子機器が狂うから、出来れば第一層までは来ないで欲しいのじゃがな。

 

「まあまあ、いいじゃない! ほら、この精霊樹の葉っぱをあげるから、これでエレクちゃんにもお薬作ってよ! 作ってよ!」

 

「お前な、わしをなんだと思っておるんじゃ。薬なんか、リヴャナに頼めばよいじゃろ」

 

「どっかの誰かの教育のおかげで、ルイはエレクちゃんが人間の味方するの嫌がるんだもん。だから駄目なの! 駄目なの!」

 

「かかっ、それが正解じゃよ。エレクも、人間に心を寄せすぎると……いつか、手痛いしっぺ返しがくるから気をつけるんじゃぞ」

 

「いいよ、エレクちゃんは、自分の意志で人間を助けてるからね! 助けてるからね!」

 

 エレクは、リヴャナとは正反対の妖精じゃった。

 明るく活発で、とにかく人間が大好きと来たもんじゃ。

 精霊樹とやらを使った薬なんぞ、ただの人助けにしてもやり過ぎじゃろ。こやつは本気で死人でも生き返す気なのかと、わしゃ心配じゃよ。

 しかし。

 この時、意地でも……人間に関わるのはよせと、エレクに強く言っておくべきじゃったよ。

 エレクよ、本当に、本当に。お前は馬鹿な妖精じゃよ。

 

 

 

 

「……博士……エレクが、エレクが……」

 

「ああ……聞いておる。遠野ダンジョンで、雷の妖精と人間の剣士が最後まで戦ったと……報告が、きておるよ……」

 

「……どうして……どうして……エレク……」

 

「リヴャナ……」

 

 エレクの訃報を聞いたのは、次の年じゃった。

 妖精なんていうのは、人間より長寿なんじゃろ? わしよりも、ずっとずっと、長生き出来た筈じゃろ? なんで、どうしてお前が先に逝くんじゃよ……。

 

 あの明るい妖精が、バチバチと騒がしい妖精が、もう二度と訪れることはないと考えると……わしのようなババアには、きついよ。

 

 

 

 

 

 

 

「来智博士! 無茶だ! あんた一人で……!!」

 

「ええい、黙らんか! お前らは怪我人を回収! 防護服が破れたものには最優先で解毒薬を飲ませよ!」

 

 エレクの死は、わしの想像よりも遥かに、あらゆる面で世界に悪影響を与えた。

 あの馬鹿妖精め、死んでなお日本中を騒がせよってからに。

 様々なダンジョンで魔物が活性化しておるが、この筑波ダンジョンもその例に漏れず、厄介な魔物が出現しおった。

 何が厄介って、『毒の密林』でマトモに戦える人間がわししかおらん、ということじゃ。

 

『グォォオオオオオ!!』

 

「ちいっ! もう、これと戦えるのはわしらだけみたいじゃのう! なあ、リヴャナ!」

 

「あなたと肩を並べて、戦う日が来るとはねぇ……」

 

「正直言って、劣勢じゃ。無理だと判断すれば、リヴャナは妖精の国へと帰るのじゃぞ!」

 

「ククク……それは、私の台詞さぁ……」

 

 リヴャナのサポートもあり、わしの【分身】である小娘の身体は、それはもう頑張った。

 3回ほど消滅したが、わしの本体も第二層の入り口近くまで下りて、【分身】が消えたら即座に次の分身を出動させる、などという戦い方を続けておったわけじゃが……いやはや、無茶をしすぎたわい。

 

「かかっ……ははっ……げふっ……」

 

「博士、いったい……?」

 

「参ったのう、ちと……無理をしすぎて、階層入り口にいる本体のほうが……やられちまったわい……」

 

「……それは……そんな……や、やめたまえよ……エレクだけでなく、あなたまで……」

 

「リヴャナ、安心せい。なんだかわからんが、こっちの【分身】は無事じゃ。泣くな、泣くな」

 

 リヴャナの手前、わしはどうってことない風を装って笑って見せたが。

 ……いやいや、笑えんじゃろ? 【分身】の幼女を残して、自分の身体が寝たきりじゃぞ? 植物学者が植物状態じゃぞ? ネタにもならんわい。

 まあ、しかし。

 いまのリヴャナを一人きりにしなくて済んだのは、僥倖じゃよ。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……相変わらず、よく眠っているねぇ……」

 

「リヴャナ、そっちのババアよりも、こっちの薬を作る手伝いをしてもらえんか?」

 

「来智博士……私は、あなたの身体を思って治療の魔法を行使しているところなのだがねぇ……」

 

「そのわし本人が頼んでるんじゃから、少しくらいええじゃろ」

 

「やれやれだねぇ……」

 

 あれから、どれくらいたったかのう。

 妖精女王とやらは、あの後新たに生まれてきた風の妖精とやらが、精霊樹に選ばれたらしくての。

 それがきっかけで、どうにか立ち直れたようじゃ。その風の妖精とやらは、日本の将来を救った英雄じゃな。

 

 もし会う機会があったならば、礼を尽くさねばならんのう。

 まともな妖精ならいいんじゃがな。

 

 

 

 

 

 

 ――ふと。

 

 わしの意識は、長い夢の中で、目が覚めた。

 いや、夢の中で目覚める、というのも変な話じゃが。

 

 ライチという永い夢が終わり、今は本当の意味で夢を見ていたようじゃ。

 ……というか、ここは本当に夢の中なのか? 夢ってのはこういうもんじゃったか?

 10年以上も睡眠とは縁がなかったからか、もう夢の見方も忘れちまったわい。

 

 はてさて、長い人生の回想を終えたわしには、あとは何が待ってるんじゃろうな。

 とりあえず周囲を見渡すと、左手方向には、なんぞ青い花畑。静かで、ゆっくりと休めそうじゃな。

 そして右手方向には、ずーっと平原が続いておるが――アホみたいに遠くに、光が見える。

 

 やれやれ、光をつかむ、か。選択の余地はなさそうじゃ。

 もうわしゃいい歳なんじゃがなあ、まだまだ旅は続きそうじゃわい。

 リヴャナよ、帰りはもうしばらく先になりそうじゃよ。

 

 そっちで、土産話でも待ってておくれ。

 それまで、お前らが死ぬのは禁止じゃからな!

 

 ではの!

 

 

 

 

 

 

   十三章 毒花のアルラウネ 了








活動報告に十三章あとがきも掲載しておりますので、気が向いた方はどうぞごらんくださいませ。
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