ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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秋のももたんキャラ祭り

「じゃあ、その小説は魔法協会とりりたんが監修してるんだ?」

 

「ええ。人々の『想像力』を糧として生まれたヒメたちに、これがどういう影響を及ぼすかわかりませんからね。下手な内容で出版させるわけにはいかないのですよ」

 

「なら、本になんてしなければいいのに。せめて、ラノベじゃなくてもっと真面目な本にしましょうよ」

 

 ここは女王ティタニアの間。

 花びらの玉座の前に置かれている人間用サイズの食卓では、いまは三人の人間の少女が全てを吸い込む闇が具現化したかのようなものを食べながら、『人魚の姫はボコらない! 深潭宮で静かに暮らしてたら族長になってました』について話し合っている。

 少女たちとはもちろん、桃子、柚花、そしてりりたんの三人。そして彼女らが食べているのは、真っ黒なイカスミカレーだ。地上のイカと違い、ダンジョンのイカは墨がものすごい。

 もちろん、いるのは人間たちだけではない。ヘノとニムは顔を真っ黒にしながらイカスミカレーを食べており、ティタニアは顔を汚すことなく上品にカレーを食べながら、少女たちの会話に耳を傾けている。

 

「ふふふ。ライトノベルも馬鹿にできませんよ? ライトノベルのほうが殺伐としすぎない平和な雰囲気で描けますし、むしろヒメたちが負の影響を受けることは少ないはずですよ」

 

「殺伐度合はそうかもしれませんけど、ラノベで変に美少女イラストとかつけちゃって、別の意味合いの負の念が集まらないか私は心配ですけどね」

 

「そういうジャンルの創作は禁止令を出しますから安心してください」

 

「先輩やヒメさんがそういう想像されるだけでも私は嫌なんですけどね」

 

 桃子は後輩二人のやり取りに、黙って耳を傾けていた。

 ライトノベルのほうが殺伐とせずに物語を描ける。それはわかる。なにせ、ライトなノベルでライトノベルだ。重くてシリアスな作風にはなりにくいだろう。

 そして、美少女イラスト化による"別の意味合い"の負の念。桃子とてその意味が分からないわけではないけれど、しかし反応に困る話題である。なにせその対象が人魚姫――桃子そのものか、あるいは桃子と同じ身体を持つヒメである。どちらにしろ話題が生々しいのでコメントしづらく、桃子はだんまりを通した。

 一方、そこに言葉を挟んできたものがいる。ティタニアだ。

 

「お母様。そのお話は、琵琶湖ダンジョンの人魚姫……ヒメさんは、すでにご存じなのですか?」

 

「安心してください、ティタニア。ヒメはいい子ですから、何も気にせずに許可を出してくれましたよ」

 

 娘からの質問には、りりたんは口元を拭いてから、上品に返答をする。

 桃子や柚花を相手にするときと比べて、りりたんはティタニアにはずいぶんと丁寧で優しく接しているように見える。

 

「ヒメさんが何も気にしてないのは多分、小説とか言われても、よくわかってなかっただけじゃないですかね」

 

「うーん……柚花の言うとおりかもね。ヒメちゃん、よくわからないことは考えないでいいやっていうタイプだし。ヘノちゃんみたいなところあるよね」

 

 桃子は、ヒメとは何度も一心同体になっていた。だからこそ、ヒメの思考回路が把握できる。

 間違いなく、ヒメは小説化を伝えられても『……そう。よくわからないけど、わかった』といった反応だったはずだ。ちなみに、これがヘノならば『そうか』となる。ヘノは興味がないときは、だいたいそれで終わる。

 

「実際、ヒメ先輩の生まれた経緯を考えると、性格はヘノ先輩由来ですからね」

 

「なんだ。呼んだか。ヘノも話を聞いた方がよかったか?」

 

「うわ、ヘノちゃんイカスミで真っ黒だよ。ちゃんと拭かないと」

 

「別に。黒くなってるくらい。大丈夫だろ」

 

「大丈夫じゃないから、拭き拭きするよ。はい、バンザイしてね」

 

 ヘノは、イカスミカレーで真っ黒になっていた。口の周りとか顔の周りだけならともかく、髪や衣装にまでイカスミがこびりついて大惨事になっている。

 桃子は慌ててヘノの身体についた真っ黒をティッシュで拭き取り始める。

 

 ヒメの性格は、ヘノ由来。まさに今のやり取りのような、雑な部分がそっくりだ。

 というのも、過去に桃子が人魚姫を装って探索者たちを助けてまわった際のこと。

 桃子はできるだけ優しく人々に語りかけたのだが、残念ながら桃子がどれだけ優しく探索者に接しようが、【隠遁】のお陰で彼らの記憶に桃子の声は残らない。

 彼らが覚えていたのは、桃子の横で淡々と、愛情のこもらない声色で殺伐とした台詞ばかり呟いていたヘノの言葉だけなのである。

 結果として、琵琶湖における人魚姫というのは、淡々とした口調で、言動が殺伐としている少女である、という認識が広まってしまったのだ。

 

「ちなみに言うと、座敷童子の萌々子さんにもしっかりと許可を得ておりますよ」

 

「え? なんで萌々子ちゃんが?」

 

「ふふふ。ももたんたら、忘れてしまったのですか? 血塗れだったアカヒトを、遠野ダンジョンの探索者たちへと託したのは、どこの誰でしたか?」

 

「あ……」

 

 そしてさらに、桃子はりりたんに言われてようやく思い出す。

 包帯まみれのアカヒトを探索者に押しつける際に、桃子は『座敷童子の萌々子』を名乗っていたのだ。

 あのときは本当に萌々子という存在が生まれるなどとは思っていなかったので、桃子にとって都合の悪いことはだいたい座敷童子に押しつけていた。

 それらの行為も萌々子のイメージを印象づける結果につながっているのだが、萌々子にとっては良い迷惑だろう。

 

「つまり、まだ先輩がなりすましていた頃の『人魚姫』と『座敷童子』が、ライトノベルとして世に広まる……と」

 

「うわあ、どうしよう……あのとき私、変な言動とかとってないかな」

 

「ふふふ。ももたんはいつも通りでしたよ」

 

「そっか、それならいいんだけど」

 

 いつも通り。

 桃子は、いつも通りに変な言動をとっていた。りりたんの言葉の意味を理解したのは柚花だけだが、柚花はノーコメントを貫いた。

 

「それと、ゆかたん。先ほどのウェブサイトを開いてください」

 

「えー、なんですか? まだ何かあるんですか?」

 

 座敷童子についての説明も終えたところで、りりたんは再び柚花に指示を出す。

 どうやら、柚花も知らない情報がまだ何かしらあるらしく、柚花も面倒そうにしつつも、端末で情報ページを開いてみせる。

 するとりりたんが勝手に横から手を伸ばして、ページを切り替えていく。

 

「出版社というのは、ライトノベルばかり出しているわけではありませんからね。こちらの、児童向け書籍のページも……ほら」

 

 切り替わった先は、先ほどのライトノベルとはまた違った構成のページだ。

 画面には大きく子供向けの書籍のイラストが記載されており、ここが児童書のラインナップだということがわかる。

 そして、そこに記載されているのは――。

 

「えーと……え!? 『モチャゴンと学校の七不思議』って……これ、紅子さんの最新刊だ!」

 

 作者名は『Darjeeling』。そして、タイトルは『モチャゴン』。つまりは、名波紅子の新作だ。

 テーマは七不思議。前に本人が話していた通りならば、作中には桃子とヘノ――いや、花子とペコが出演するのだろう。

 

「これには気づきませんでしたよ。しかもこれ、人魚姫の本と同日じゃないですか。どうするんですか先輩」

 

「いや、どうするって言われても、買うけど……」

 

 桃子としては、どうするかと聞かれれば『購入する』としか言いようがない。

 出版社が出す書籍に対して、桃子がどうするもこうするもないのだから、それは当たり前の返答だ。

 しかし、柚花の言う『どうする』は、そういうことではないようだ。柚花の代わりに、りりたんが意味深な笑みとともに語りはじめる。

 

「人魚姫に、座敷童子、そしてトイレの花子さん。ももたんのなりすましキャラクターが、一気に世に広まる『秋のももたんキャラ祭り』ですね」

 

「なりすましキャラクターって、人聞き悪すぎない?」

 

「先輩、【創造】が暴走したりしないようにしてくださいね? ヒメさんとか萌々子ちゃんがいきなり二次元アニメ絵みたいな造形になったら、私は嫌ですよ?」

 

「え、ええ……? う、うん、頑張ってみるよ、わかんないけど」

 

 ヒメと萌々子、そしてドワーフにコロポックル。彼らは、ネットを介した多くの人々の想いを【創造】という能力が一つに束ね合わせ、命と形を与えたものだ。

 なので、桃子のスキルが暴走してしまえば、彼女らによからぬ変化が訪れないとも限らない。

 桃子も、それに対しては『がんばる』としか言えないのだが、とりあえず頑張ることにしておいた。

 こうなったら、滝の迷宮で滝行を行い、精神修行を課すことも視野に入れる。滝行で何かしらのパワーに目覚めたりしないだろうか。

 

 なんにしても。

 りりたんの言う『秋のももたんキャラ祭り』は、10月下旬に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【琵琶湖ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:例のラノベ、お前ら予約した?

 

:本は当日本屋で買いたい主義。

 

:最近は本屋も少ないから、そんなこと言ってたら入手できないぞ

 

:【朗報】ギルドの売店でも大量入荷する

 

:マジか

 

:すまん、最近ご無沙汰だったから何の話だかついていけない。なんの話?

 

:何も知らぬ旅人よ。まずはこれを見るのじゃ(『人魚の姫はボコらない!』掲載URL)

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:どういうこと? なにこれ? こんなのありなの?

 

:予想通り驚いてて痛快

 

:ページの下にある、原案協力を見るんだ

 

:原案協力『琵琶湖ダンジョンギルド』『世界魔法協会』『遠野ダンジョンギルド』とあるじゃろ?

 

:ふぁー!!

 

:完全に!!

 

:公式かよ!!!

 

:買います

 

:どんどん部族の民が予約の輪を広めていっているな

 

:いや、冷静に考えて、ギルドどころか世界魔法協会がいちラノベのバックにいるの強すぎて草生える

 

:魔導書かなにかかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ】

 

:人魚姫小説はまだ表紙絵とか解禁されないの?

 

:もう少し発売近くなってからなんじゃないか?

 

:萌々子ちゃんがどうとう書籍デビューか。感慨深いな。

 

:萌々子「なんのことだかわからないんですが」

 

:そりゃそうだw 発売したら、萌々子ちゃんを守る会の連中がマヨイガにラノベを持ち込むんだろうなあ

 

:人魚姫とセッションする萌々子ちゃん(イラスト)

 

:まさかこのスレで描かれていたような世界観が、ギルドや魔法協会公式になるとはおでれえたぞ

 

:書籍化に向けて準備万端の鎧萌々子(イラスト)

 

:残念だが、原案協力に房総ダンジョンは入っておらんのよ

 

:てか、この絵描きの名前って……

 

:名義は変えてるけど、明らかにこのスレの住民だし、本職うどん屋だぞ

 

:うどんと美少女イラスト、どっちが本職なんだ田中!

 

:イラスト仕事のほうが出世してるじゃねえか田中!

 

:でもあいつのうどん滅茶苦茶美味しいんだよなあ

 

:うどんをすする萌々子ちゃん(イラスト)

 

:なんで鎧を着てうどんすすってるんですかね?

 

:スパイが成りすましてるぞ!

 

:ドイツに送り返せ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間 桃子、本になる 了

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