ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
カレーの都市伝説
【タチバナの真相解明チャンネル!】
こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!
まあ最近は、東にも西にも行ってないですけどね。受験生だし、自分で言うのもなんだけど、知名度があがっちゃってあまり好き放題配信出来なくなっちゃいました。
才能故の悩みってやつですよ。
え? 受験勉強? なに、心配してくれてるんですか? うちの視聴者さんたちのことだから、てっきり「勉強より配信しろ」くらい言うかと思ったんですけど、意外と優しいじゃないですか。
っていうか、前の摩周ダンジョンの事件以降、なんだかみんなコメントが丸くなってきてません?
牙が抜けちゃったんですか? ほら、もっと牙を剥いたコメントよこしてくださいよ!
あ? 誰だ今ブサイクって言ったアカウント、屋上出ろよ! 電撃でぶん殴ってやんよ!
――とまあ、久しぶりの冒頭漫才です。ご協力感謝しますね♪
今日はですね、ずっと昔から言われているダンジョンの都市伝説を一つ、試してみようと思います。
皆さん、ダンジョンの禁忌といえばどんなものがあると思いますか?
うん、もちろん一人で武器も構えずにふらふら歩くとか、毒かもしれないキノコをばかすか採取して料理に入れるだとか、そういうのは当然だめですね。まあ禁忌というか、常識的なレベルでアウトです。
けど、違うんですよ。
皆さん、聞いたことありません? 『ダンジョンでカレーを作ると、魔物が寄ってくる』って。
はい、魔物のいる場所で、カレーのように香辛料の強い香りで、しかも時間のかかる煮込み料理を作るのは厳禁。
それ自体は理にかなった話ですし、探索者ならみんな知ってる常識、そう思ってる方も多いですよね。でも――。
ギルドは、公式で一言もそんなことを言っていないんですよ?
はい、というわけでことの真偽を確かめるべく、房総ダンジョンの通称『キャンプ場』と呼ばれる、探索者たちの休憩ポイントまでやってきました。
今回は、なんとギルド公認、他の探索者パーティの協力を得て、キャンプ場にてこちらの業務用の大鍋で『特製スペシャルカレー』を作ってみようと思います!
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じゃあ、最初はタマネギを炒めていきましょうか。巨大な鍋に、事前に準備していた大量の材料をどさっと投入します。
これだけでっかい鍋ですと、給食室のおばさまがたの気分です。なんですかこのでっかいしゃもじ。これを武器にしても十分戦えそうですね。
カレーって手軽で簡単なイメージはありますけど、やっぱりこの規模で最初から作るとなるとそれなりに手間がかかりますよね。
え? 意外と料理がうまくてビックリした?
でしょう? 私、学校の先輩にカレーへのこだわりが尋常じゃない人がいて、その人のお手伝いとかよくしてるんですよ。実は今回の企画でも、その人に頼んで特製の、格別に香辛料の香りが強いスパイスを配合してもらっているんです。
ですから、基礎的な手順くらいはさすがにもう覚えちゃいましたよ。もちろん、こんな給食室並みの鍋で作ったのは初めてですけどね。
見てわかる通り、このカレーは数人分とかいう量じゃありません。ギルドの協力もありまして、本日この房総ダンジョンを訪れる百人以上の探索者に振る舞える量を作ってます。まあ、いわゆる炊き出しですよね。
それにしても……カレーの炊き出しとか、自分でやっておいてなんですけど、よくこの企画OKでましたよね。私はカレーの検証を申し出ただけなんですけど、お隣では有志パーティが率先して同じく百人以上のご飯を炊いてくれてます。
房総ダンジョンも来るところまで来ちゃった感じですよ。
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各パーティの力自慢の方々が大量の水を運び込んできてくださいました。さすがに人手があるとカレー作りも楽ですね。
さて、量が量だけに、注いだ水が熱くなるまでまだしばらくかかりそうですね。雑談でもしましょうか。
今回私が検証してる『ダンジョンでカレー禁止』……まあ正しくは、香りが強すぎる料理の自炊禁止っていうのは、つまりは魔物がそれに誘われてやってくるから、という話なんです。なので、普通の探索者はダンジョンでカレーなんてつくりません。
もちろん、腕に覚えがあるとか、立地的にかなり安全が保証されているっていうなら、カレーを食べたり、カレーうどんを作ったりしてる人たちはいそうですけどね。
え? もっと他の都市伝説も調べないのか?
いやー、私って自分で言うのもなんですけど、影響力が大きくなっちゃったんで、あまり好きに真偽不明なことを広めると四方八方に迷惑がかかっちゃうんですよね。
例えばどんなのが知りたいですか?
アルラウネ? いや……興味はありますけど、一般公開されていない筑波ダンジョンの下層なんてどうやって行けばいいんですか。ダメもとで今度かけあってみましょうか?
ええと、他のコメントだとは――。
ああ、『チェンジリング事件』ですか。妖精のあれですよね。いや、私もそれは知ってますけど……。
ごめんなさい。あの事件はちょっと私の配信で掘り下げるのは難しい……っていうか、普通にNGですね。
ほら、あれって完全に特定個人に対する噂話なんですよ。だから、どうオブラートに包んで発表したところでその人に迷惑がかかっちゃうんですよね。本人が名乗り出て詳細を話してくれるならともかく、第三者が勝手にあれこれ語るのも違うかなって。ごめんなさい。
え? 涙出てきた? いや、泣くところではないですから泣き止んでください。
え? 涙とまらん? そりゃ病院行った方がいいですね。
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今回は特製スパイスを大量に投入しているので、格別に香りの強いカレーとなっております。乙女としては問題ありますが、検証の為ですからね!
ほら、周囲のパーティの皆さんも香りに誘われて、お腹をすかせて――。
……え?
あ、ちょ、ヤバいです。あ、視聴者さんすみません、しばらく相手できない。
各パーティの皆さん、森の中でゴブリンが異常な様子を見せてますから、防衛出来るよう構えてください!
私も前に出ます! 手の空いている誰か、カレーの火だけ見ておいてください!
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……ふぅ。
ええと、視聴者さんたちは全部見てましたかね。ご覧の通りでした。
カレーの香りに反応したゴブリンたちが、突然暴れ始めて、キャンプ場まで乗り込んできました
まあ、驚きましたけど苦戦はしてませんよ? なんだかんだ言っても、房総ダンジョンのゴブリンは弱い魔物ですからね。
ただなんていうか……ちょっと、パニック状態でしたね。いえ、人間じゃなくて、ゴブリンたちが。
カレーに恨みでもあるのかっていうくらい、明らかにカレーの香りで荒ぶってましたね。探索者を無視してカレー鍋に襲いかかろうとするゴブリンなんて初めて見ましたよ。あーあ、借りてきた鍋の蓋がゴブリンの攻撃で歪んじゃってますね。これ、魔物の異常行動にカウントしていいんじゃないですか?
房総ダンジョンの弱いゴブリンだったから対処できましたが、これが他のダンジョンだったらヤバいですよね?
ここのゴブリンだけが、カレーの香りに格別恨みを持っている可能性も、なきにしもあらずですが……。
ええと、そうだな。今回の企画はここで終了。結論としては――ここまで大規模な鍋でカレーを作ることなんていうのは普通はあり得ませんが、少なくともダンジョンでカレーの炊き出しを行うのは危険かもしれない……っていうことは、ええと、確認できました。
大鍋のカレーは、探索者みんなでさっさと食べることにします。
じゃあ、結果が出たので私の配信は今回はひとまずここで終了します! 心配してくれてる人たちはありがとうね、私は見ての通り、めちゃ強いから無傷ですよ!
え? カレーを食べる様子が見たい? それは房総ダンジョンの他の配信者さんが配信してたりしませんかね? 探してみてくださいね。
今後、ダンジョンでカレーが正式に禁止になるかどうかは……まあ、それはギルドが考えるところでしょう。私の役目は、解明までですからね。
じゃ、私はカレー食べてきまーっす! またね!
――柚花が配信で荒くれたゴブリンの襲撃に遭っていた頃、ゴブリンと戦っていたのは探索者たちだけではなかった。
「ふへぇ……驚いちゃったね。柚花の配信を眺めてたら、ヘノちゃんがゴブリンの動きを感知するんだもん」
「面白かったな。ゴブリンたちが。あんな風になるの。初めてみたぞ」
「でも、意外と笑い事じゃないよね。あんな風にゴブリンの一団が一斉に襲ってきたら、いくら弱いゴブリン相手でもちょっと危険だよ」
キャンプ場から離れた丘の上で、火照った顔に汗を流し、まさに運動後という様子を見せているのは桃子だ。そしてその桃子の肩に乗っているのは、ヘノである。
二人は、当初は【隠遁】で身を隠した状態で、柚花の近くで配信の様子を眺めていたのだ。
けれど、いざ柚花が大鍋でカレーを煮込み始めて、その香りがキャンプ場に漂い始めた頃――風下方向にいたゴブリンの群れが、一斉に襲いかかってきたのである。
これには桃子もビックリだ。配信中の柚花とアイコンタクトで合図を送り、桃子はヘノと共に周囲のゴブリンたちを殲滅するために走り回った。これは、ゴブリンの位置を感知し、桃子に機動力を与えられるヘノあっての作戦だ。
結論を言えば、ヘノが風向きを調整し、第一層にカレーの香りが広がらないようにしたら騒ぎは収まったのだが、あやうくカレーによるスタンピードもどきが発生するところだった。
「桃子は。カレー禁止なのに。カレーばっかり作ってたんだな。さすが桃子だな」
「だって、ギルドで窓口さんもそんなこと一言も言わなかったもん。私も柚花から今回の企画を聞いたときは驚いちゃったよ」
桃子は【隠遁】の影響で、探索者の先輩後輩という関係を築く相手はおらず、探索者としての常識を知る機会に恵まれなかった。
それが巡り巡って、誰からも認識されずにひとりでカレーを作り続ける少女が爆誕してしまうのだから、世の中何があるかわからないものである。
『母上。歓談中失礼する。こちら側にはあの荒くれたゴブリンはもういないようだ』
丘の上に、白い小妖精を引き連れてのっそりと上ってきて桃子に声をかけたのは、桃子同様に大きなハンマーを携えた鎧の戦士だ。
長い髭が特徴的で、桃子と大差ない身長ながらその体格はどっしりとして重量感がある。年齢としてはかなりの年配にも思える彼こそは、今やこの房総ダンジョンの守り神のように扱われている存在、ドワーフだ。
桃子がヘノの魔法で機動力を与えられていたとはいえ、この広い階層の全てをいっぺんにカバー出来るわけではない。
ゴブリンの異常行動に気付いたドワーフもまた、母である桃子とは反対方面のゴブリンを相手に、人知れず活躍していたのである。ドワーフの奮闘を見ていたのは、彼の頭の上にちょこんと座る氷の花の小妖精、ルゥだけだ。
「ありがとう、ドワーフさん。じゃあ、今のところはキャンプ場が襲われる心配はないかな?」
『カレー、いいなー。カレー、食べたいなー』
「ルゥちゃんには申し訳ないことしちゃったかな。あとで私がカレー作るから、妖精の国まで帰ってきてね? ルゥちゃんのぶんもカレー作るからね」
『わかたー』
ドワーフとともに過ごしている氷妖精のルゥは、桃子因子が強すぎるカレー大好き妖精だ。
ゴブリンとは別な意味で、カレーの香りが漂ってくる今回の柚花の配信は、彼女にはつらいものだったかもしれない。あとで、きちんとルゥが食べやすいカレーを作ってあげねばなと、桃子は本日のカレーのレシピを考える。
「それにしても。桃子がカレーを作っても。あんな風にならないのは。なんでだろうな」
「どうなのかな。量の問題じゃない? さすがに私も、魔物がいる場所であんな炊き出し規模のカレーなんて作ったことないしね」
『それだけではなく、もしかしたら、母上のカレーには匂いにも【隠遁】がかかってたりするのかもしれんな』
「あ、なるほど。そういう可能性もあるのかな?」
ヘノの疑問はもっともだ。
桃子は、これまでとにかくひたすらダンジョンでカレーを作ってきた。それはもう、日本に限定すれば単独トップは確実だ。
ただ、実際に今まで桃子がそれで危険な目にあったことはない。基本的には一人分の少量しか作ってこなかったこともあるだろうが、ドワーフの言うようにその少量のカレーの香りですら【隠遁】で隠されていたのかもしれない。
たかがカレー。されどカレー。
散々苦しんできた【隠遁】の孤独を強いる呪いじみた効果だけれど、その恩恵でカレーが作り放題だった可能性を考えると、やはり恩恵の方が大きいスキルなのだなと、桃子はしみじみ思う。
『では母上。儂はまたパトロールに行くとするよ。また、機会があればルゥに会いに来てやってくれ』
『カレー!』
「うん、ドワーフさんもルゥちゃんも、またねー」
桃子は、再びパトロールに出るというドワーフとルゥの二人に大きく手を振って。
それと入れ違いに、なんだか大変だった配信を終えて、ニムとともに丘を登ってくる柚花を。
笑顔で迎えるのだった。