ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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真相解明/チェンジリング

「たとえば、ニムちゃんがいなかったとしてさ。ここで赤ちゃんを見つけたのがヘノちゃんだったら、どうする?」

 

 桃子と柚花は、可能性に追いついた。

 人間の赤ん坊を見つけたのは、雷の妖精エレク。そして、彼女は母であるティタニアを困らせぬよう、自分だけで赤ん坊を救おうとした。

 もちろん、あくまでそれは可能性だ。

 けれど、大筋の辻褄は、それで合ってしまうのだ。

 

「ニムがいないんじゃ。仕方ないな。ルイに薬草をもらうぞ」

 

「そ、それに……こ、ここは寒いから……赤ちゃんを暖かい場所につれていかないといけませんねぇ……」

 

 ヘノとニムに聞いているのは、あくまで『確認』だ。同じ妖精でないにしても、妖精たちの行動パターンは似通った部分も多い。

 ヘノならばルイに頼んで薬草を得ることはできる。そしてエレクが、ルイにも隠れて薬草を得ようとしたならば――。

 桃子の脳裏には、今は眠り続けている、ルイの名付け親である薬草の専門家の姿がよぎる。三女であるクルラと彼女は既知の仲だった。ならば、長女であるエレクと彼女の間にも接点があったはずだ。

 

「じゃあ、ヘノ先輩は薬草で応急処置はしました。では、暖かいところに連れて行く必要があります。どこを思いつきますか?」

 

「むぐぐ。そうだな」

 

 柚花の質問に、ヘノは考え込む。そして、答えを出した。

 

「妖精の国に赤ん坊を連れていったら。女王が困るから。近くの光の膜から。安全な場所を探すぞ」

 

「まあ、そうなりますよね。多分――14年前も、そうだったんでしょうね」

 

 ヘノの語るパターンは、やはり予想通りのものである。

 もっとも、手段も場所も限られているのだから、妖精でなかったとしても同じ選択肢を選んだかもしれないが。

 この空間へ続く光の膜は、すぐ横に、桃子もよく知る場所への道があったはずだ。

 

「先輩。マヨイガに行ってみましょうか。今ならほら、案内人もいることですしね」

 

 桃子は、柚花と顔を見合わせて、こくりと頷いてみせる。

 この推理が正しければ、間違っていなければ。

 エレクは、赤ん坊を救助するための場所として。暖かく、そしてダンジョンとしては珍しく安全の確保しやすい『マヨイガ』を選んだはずなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「きっと、このお屋敷のどこかで、エレクちゃんが赤ん坊を保護してた……ってことだよね」

 

「あくまで可能性ですけどね。でも、ここは魔物が出ない安全な部屋も多いですから、怪我をした赤ん坊をこっそり連れてくるにはうってつけですよ」

 

 ここは、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』。

 極寒の、名もなき小さなダンジョンを抜け出た一行は、花畑を経由してすぐ目の前にある遠野ダンジョンへとつながる光の膜を抜け、ここまでやってきた。

 ヘノとニムは、桃子たちの推理はよくわかっていないようだが、特に何も聞かずについてきてくれている。

 

 その中でも、いま訪れているのは座敷童子の萌々子と話し合いをするときに何度か利用している、囲炉裏の間である。

 部屋の中央では火を灯された囲炉裏がパチパチと音をたて、室内を暖めている。先ほどまでは真冬の寒さの場所にいたので、今はこの暖かさがありがたい。

 

 そして、囲炉裏の前で桃子の対面に座っているのは、座敷童子の萌々子だ。

 しかも、ただの座敷童子ではない。

 この秋には、人魚姫の友人として新作ライトノベルへの出演が決定している、頭に西洋鎧の兜をかぶった座敷童子だ。

 

『お母さん! みてみて、似合う?』

 

「わあ、すごい! 離れてても萌々子ちゃんの姿が見えるようになった!」

 

『この兜持ってきてくれて、ありがとうね、お母さん』

 

「うんうん、よかったー」

 

 いま萌々子がかぶっているのは、もともとは筑波ダンジョンで製作された魔力遮断効果を持つ兜だ。

 アルラウネの事件の際、流れでその兜も妖精の国へと持ち帰ってしまったのだが、なにぶん使い道がない。

 なので、その兜を利用できそうな相手として、座敷童子の萌々子にプレゼントしたのだ。

 その兜の効果もあり、今現在の萌々子の【隠遁】効果は薄れ、桃子の肉眼でもうっすらと認識できるようになっていた。

 なお、赤い着物の童女が頭だけ西洋鎧を被っている状態なので、絵面としてはかなり奇怪なことになっている。

 今のところは桃子と会うときにしか装着しないようにしているらしいが、この階層を拠点としている探索者たちが『鎧萌々子』を目撃する日は近いだろう。

 

「それで、萌々子ちゃん。いま話した赤ん坊について、何かわかることはありませんか?」

 

『うーん、14年前は、流石にわかんないや』

 

「まあ……そうでしょうね。そもそも生まれてませんしね」

 

 桃子たちが知る限り、この『マヨイガ』の構造に一番精通しているのはこの座敷童子だ。

 とはいえ、彼女がこの世界に【創造】されてから、時間としてはまだ一年も経っていない。建物の構造に詳しかったとしても、過去の出来事を把握しているわけではないのは当たり前の話だった。

 

「うぅ……よ、よくわかりませんが、残念ですねぇ……」

 

「おい。座敷童子。でーつ食べるか。ヘノが作ったんだぞ」

 

『わーい、デーツ食べる! デーツ大好き!』

 

 最初は意気揚々と赤ん坊探しをかって出たヘノも、そろそろ集中力が途切れてしまったようだ。もはや赤ん坊ではなく、どこに隠していたのかドライデーツを取り出してもぐもぐと味わいながら、萌々子にも分け与えている。

 萌々子がフルフェイスの兜の前面に装着されたフェイスガードをぱかっと持ち上げると、中からは母である桃子をそのまま幼くしたような座敷童子の顔が姿を現す。

 ヘノが萌々子の口元にドライデーツを運ぶと、うれしそうに口にぱくりとそれを頬張り、そしてまたフェイスガードを降ろしている。

 フェイスガードをいちいち降ろす必要はあるのかな? と、桃子は内心不思議に思っているが、とりあえずは話が脱線するだけなので今は無視を決め込んだ。

 

『あ、でもね! 赤ちゃんって言えば……なんだかね、変なのがあるんだよ』

 

「え? 変なのって?」

 

 鎧萌々子はすくっと立ち上がると、その囲炉裏部屋のふすまをがらりと全開にする。この部屋のふすまの奥には多くの座布団が積まれているのを、桃子も柚花も知っている。

 しかし、どうやら萌々子がいう『変なもの』とは、その座布団の山の更に奥に隠されているらしい。萌々子はその小さい体躯をふすまの奥へと潜り込ませて、なにやらガサゴソと、座布団の山の奥に手を差し込んでいる。

 

『あった、あった。これがね、赤ちゃんの道具なのかなって思うの』

 

 萌々子が取り出したそれは――。

 

「これって、だっこ紐、でいいのかな? 赤ちゃんを抱くときのだよね」

 

「ははあ……光の膜からほど近くて、安全で、暖かい部屋。ほかでもないこの囲炉裏の間こそが、まさにその部屋だったみたいですね」

 

「じゃあ、やっぱり……」

 

「ええ。私たちの考えは、どうやら正解だったようですよ」

 

 明らかに、この『マヨイガ』由来のものではないもの。それは、ナイロンらしき素材の、抱っこ紐、あるいは子守帯と呼ばれる育児用品である。

 新生児の両足を通す穴に、背中側には背もたれのようなパーツがついている。本来ならば母親の胴体に回す紐部分は、何かしらで焼き切られた跡が残っている。

 そしてその子守帯は――もともと赤い色のナイロンが、固まった血液によって、赤黒く変色していた。

 

「うぅ……ず、随分時間が経っていますけど……血がべっとりとついてますねぇ……」

 

「なんだ。赤ちゃんがいたのか? どういうことなんだ?」

 

「違う違う。ええと……赤ちゃんがね、この部屋で助けてもらったときの、忘れ物――かな」

 

 焼き切られた跡。

 それはエレクが、母親の身体に巻き付いていた紐を、強引に焼き切ったときのものなのだろう。

 ならば、何故エレクはそんな荒っぽいことをしたのか。

 

「たぶん、緊急事態だったんでしょうね。あれだけ派手に光る妖精の目撃証言がなかったっていうことは、当時、赤ちゃんを抱いていた筈のお母さんには意識がなかったんじゃないですか?」

 

 極寒のダンジョン。意識のない母親。そのおなかには、血に濡れた赤ん坊。

 エレクはきっと、考える余裕すらなく、大慌てで赤ん坊を助けたに違いない。エレクが癒しの魔法を使用できたとは聞いていないが、彼女とて薬草などの知識はあったはずだ。

 

「ねえ、萌々子ちゃん。これと一緒に、薬とか、そういうものの名残とかってなかった?」

 

『ご、ごめんなさい……枯れ葉とか、ボロボロの袋とか、カピカピになった何かの種とかも落ちてたけど、掃除で捨てちゃった……』

 

「あっ、いいのいいの。お掃除してくれた萌々子ちゃんは偉い子だよ」

 

 慌てて桃子は、座敷童子の頭を撫でる。

 萌々子の頭部は、金属質でゴツゴツしていた。

 

「結局。どういうことだ。赤ん坊は。大丈夫だったのか?」

 

「うん。きっと……がんばって、ヘノちゃんのお姉ちゃんが、赤ん坊を助けてくれたんだよ」

 

「そうか。じゃあ。心配して損したな」

 

「あはは、ヘノちゃんたら」

 

 

 

 

 

 

 

「ククク……そうかい、そうかい。エレクがねぇ……」

 

「やはり、そうだったのですね。あの子は……一人で、背負い込む子でした」

 

「まあ、あくまでその可能性が高いってだけですけどね。まだいくつか、わからないことはありますし」

 

 その夜。

 桃子と柚花は、今回の話をティタニアと、そしてエレクの親友だったルイに話して聞かせることにした。

 恐らくは、バス事故に気づいたエレクが、何よりも優先で、赤ん坊の命を救うためにひとり奔走したこと。そして、その為に選んだ場所。

 

「エレクは傷ついた人間を救うために、普段から薬草の類を常備していたからねぇ。大半は私が配合したものだから、効果は抜群だっただろうさぁ……」

 

「それに、エレクは個人的に来智ミトさんの元へ行くこともありましたから、彼女が協力したとも考えられるでしょう」

 

「おおかた、精霊樹の葉で薬でも作ったのではないかねぇ……?」

 

 そして、ティタニアたちの反応は、桃子たちの推理を肯定するものだった。

 赤ん坊を助けたのはエレク。そして、エレクにとびきりの薬草を提供したのは、筑波ダンジョンの薬草学者である来智ミト。

 ミトが眠っている今は、その真偽は確認しようもないが、十中八九はそれが正解なのだろう。

 

「ねえルイちゃん、精霊樹の葉で作った薬草なら、瀕死の赤ん坊を怪我一つ無い状態にまで回復させたり、目を金色にしたりってできるものなの?」

 

「さて……目の色はさすがに分からないけれど、瀕死からの救助も……時間さえかければ可能、かもしれないねぇ。エレクには、奥の手もあったことだしねぇ……」

 

「奥の手、って?」

 

「ククク……さて、どうだろうねぇ。すまないが、私は出かけてくるのさぁ」

 

「あ、ルイちゃ――……いっちゃった」

 

 しかし、問いただそうとしたけれど、ルイはすぐに桃子たちに背を向けて、女王の間から立ち去ってしまう。恐らく、彼女の行き先は『マヨイガ』なのだろうと、桃子の勘が告げる。

 残されたのは、桃子と柚花、そしてティタニアだ。

 

「エレクが……あの子が救い出した"命"が、地上のどこかで生きているのですね」

 

 ティタニアは、誰に話しかけるでもなく、一人小さく呟いた。

 

「ティタニア様。私ならツテも発言力も結構ありますし、バックにはクリスティーナ会長もいますから、その子を探し出すことも可能です。探し出しましょうか?」

 

 そしてその呟きに、柚花が言葉を返す。けれど、ティタニアは寂しげに微笑み、首を横に振ってみせた。

 

「いいのです。私にとっては、あの子が世界に残したものがあるというだけで……それだけで、満足なのですから」

 

「……エレクちゃんは、いっぱい、いっぱいの"命"を、人間界に残してくれたんですね」

 

「まったく。遠野のときも、沖縄のときも。あの子、一人でどれだけのものを残していったんですかね。英雄ですよ、英雄」

 

 こんな夜は、大人だったならば、しんみりとお酒を酌み交わすのだろう。

 そんな風に思いながら、三人で。いつものように、空気を読まない風の妖精が迎えに来るまでの間。

 

 元気で、明るかった、妖精たちの長女へと、想いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【地上のとある場所で】

 

 

「入るわね、美琴さん。体調はどうかしら?」

 

「はぁ……ぐす……今日は、調子いいです」

 

「あら、また配信を見て泣いてたの?」

 

「ええ。なんか今日は特に……尊さで、こみ上げてきちゃって……」

 

「大丈夫? 泣き上戸なのはわかるけど……」

 

「私なんて爪楊枝の尾っぽみたいな奴なのに、そんな私なんかにも配慮してくれて……もう、全力で推さざるを得ない……タチバナさん……尊すぎて涙出てきた」

 

「また意味の分からないこと言って。ほら、せめて今日はカラーコンタクトは外したら?」

 

「でも、いつ誰が来るかわからないから……ぐす」

 

「大丈夫よ。もう、今日の検査は全部終わってるから……来るとしたら担当の看護師だけよ?」

 

「そっか、じゃあ……外しておこうかなあ……はぁ、涙とまらん」

 

「眼科にも検査予約をいれておきましょうか?」

 

「いえ、多分……これ、そういうアレじゃないから、大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   幕間 都市伝説/チェンジリング 了

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