ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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妖精たちはそれを知らない

「桃子。今日はせっかくだから。ヘノも。外のスーパーという場所を。見てみたいぞ」

 

 

 なんやかんやでお休みを貰えたので、桃子は平日からダンジョンを訪れていた。

 とはいえ解毒薬も完成まではもう少しかかるらしく、ニムもまだ帰ってきていないので出来ることがない。

 なので、今日はずっと琵琶湖ダンジョンで魔物と戦っている人に加勢しては、耳もとで「ふふふ。人魚姫ですよ、仲良くしましょうね?」と、仲間であることをアピールする活動をしていた。なお台詞はりりたんを意識している。

 とりあえず人魚姫が人間の味方だという認識はこれを続けていけば広まってくれると思う。

 

 そして日中はそうして過ごしたあと、夕方ごろに妖精の国で休憩していたところで、ヘノが「外のスーパーを見てみたいぞ」と言い出したのだ。

 

「え、いきなりだね。スーパーって、買い物するスーパーだよね?」

 

「そうだぞ。桃子は。しばらくは。毎日来るんだろう。だったら。今日は。桃子の家に。泊まってみようと思うんだ」

 

 ヘノは一度だけ桃子の家までついて帰ったことがある。それは二人が最初に出会った日のことだ。

 その時に、ヘノでも短い日数ならばダンジョンの外に出ることが可能だという話は聞いている。しかし逆に言えば、ずっと外に出ていると危険ということでもあるため、以降は桃子からヘノを連れ出そうとしたことはないし、ヘノから言い出すこともなかった。

 そこで、今日はヘノからのリクエストだったため、桃子は驚いた。

 

「前に。泊まったときは。ずっとカバンに入っていて。あまり色々とは。見ていなかったからな」

 

「そういえばずっとカバンに隠れてたっけ。まあ、あんまり堂々と顔を出されたら困るけど、じゃあ今日は一緒に帰ろうっか」

 

 前の時は、ヘノも桃子のことを「お前」と呼んでおり、今思えばまだ警戒されていたのだろう。

 カバンに入ってからもジッとしていて、話しかけてこなかったのを思い出す。

 仲良くなった今ならば、前よりもゆっくり外の風景を見て貰うことが出来るかもしれないなと思い、桃子もヘノの提案を問題なく承諾するのだった。

 

 

 

 

 

「すごいな。これ。全部。食べ物なのか?」

 

 ギルドで窓口からフード付きのパーカーを借りて、頭からすっぽりフードをかぶった桃子が駅前のスーパーの店内を練り歩く。

 そしてヘノはフードに身を隠し、桃子の耳のあたりからこっそりと外の景色を覗いていた。

 

「ええと、向こうの箱が沢山並んでる棚は日用品だから食べ物じゃないけど、そこ以外は大体食べ物だね。ヘノちゃん、気になる食べ物とかある?」

 

 ここは房総ダンジョンの探索者が愛用しているスーパーで、一般的なスーパーと違いダンジョン内で使用する道具や携帯食のラインナップも多いことで有名だ。

 桃子の自宅の最寄りスーパーよりもお値段が安いので、帰り際はここで買い物をしてから電車に乗って帰るという日も多い。

 ヘノも、初めて見る人間のスーパーに興奮が隠せないようで、棚を覗いてはあれはなんだこれはなんだと、耳元であれこれと聞いてくる。

 

「桃子。桃子。前にドワーフが貰った。お菓子が。気になるぞ。あれはダンジョンにはないからな」

 

 ヘノが言っているのは、少し前にドワーフへのお礼の品として渡された……というか、ダンジョン内に供えられた品々の中にあった、お菓子の詰め合わせ袋のことだ。

 桃子にしてみればどこにでもありそうなありふれたお菓子の詰め合わせだったのだが、ヘノとしてはすべてが珍しいものだったようで、興味深そうに食べていた。

 

「ヘノちゃん、甘いモノ好きだもんね。じゃあせっかくだから、いくつか買ってみようか」

 

「あのな。あの袋に入ってた。甘いカレールーが。また食べてみたいぞ」

 

「甘いカレールー? ええと……あ、板チョコか! チョコレートなら、こっちに沢山種類があるよ」

 

 ヘノから見れば、カレールーもチョコレートも同じような色と形状の食べ物ということなのだろう。ヘノのリクエストに従って、桃子はスーパーのチョコレートの棚へと移動する。

 普通の板チョコから、定番の棒タイプのもの。焼き菓子に挟まっているもの。キャラのシールがついているものまで、様々だ。

 

「これ全部そうなのか? さすがに選べないから。桃子に頼むぞ」

 

「おっけー」

 

 ヘノが食べやすそうな、小さいブロック状になったチョコレートのボックスを買い物かごに入れる。ついでに、他にもお菓子類をいくつか手に取りポイポイと入れて、桃子はそのお菓子類をもってレジへと向かっていく。

 レジの機械についてもヘノからあれこれ聞かれたのだが、桃子もレジの機械の仕組みなどよく分かっていないので、説明にとても困ってしまった。

 

 

 

 スーパーから出て、夕暮れの街なかを歩く。

 

「なんか。桃子よりも小さい人間が沢山。ウロチョロしてるぞ? あれはゴブリンか?」

 

「え、ただの子供だけど……あ、そっか。ダンジョンには人間の子供なんていないから、ヘノちゃんは初めて人間の子供見るのかな」

 

 ヘノが言うのは、桃子の前方の道を歩いている小学生グループたちだろう。

 桃子よりも更に小さい、小学校の低学年くらいのグループが大きな声で漫画の話をしながら歩いていた。

 街には夕方のメロディーが響いており、今までどこかで遊んでいた子供たちが家へと帰るところなのだろう。

 

「あれが……子供なのか? 人間は。最初から。桃子くらいの大きさなのかと。思っていた」

 

「ダンジョンには私より小さい人ってあんまりいないもんね。あの子たちも小さいけど、赤ちゃんのときはもっともっと小さいの」

 

「そうか。あれが人間の子供なんだな。なんか。ダンジョンにいる。大人と違って。怖くないんだな」

 

 桃子には魔力が見えないし、他者の感情を読み取るスキルもない。だから、ヘノの目に普段どのような風に人間が映っているのかはわからない。

 ただ、妖精と同じものを視れる後輩からは、聞いていた。ダンジョン内では、人間は怖いのだ、と。

 魔物と戦う人間たちは、暴力的で、攻撃的なのだ、と。

 

「……やっぱりヘノちゃんから見ても、ダンジョンの大人はみんな怖いんだね」

 

「人間は大体。とげとげしてるし。魔物と殺しあうこと。考えてたり。するからな」

 

「うん。前に柚花も同じこと言ってた。ダンジョンの人って、妖精の皆からしたら、みんな怖いんだね……」

 

 ダンジョンは常に魔物がおり、いつ命が危険に晒されてもおかしくない場所なのだ。だからこそ、探索者たちは油断しないし、魔物と戦う時は命のやり取りになる。

 緩さで有名な房総ダンジョンですら、常に気が抜けている探索者なんて桃子くらいだ。

 そんな人間の姿だけしか知らないというのならば、妖精たちが人間を怖いモノとして認識してしまうのは、仕方ないことなのだろう。

 

「食事をしてたり。仲間と一緒にいるときだけは。人間たちも。柔らかい感じになるけどな。桃子はそいつらと違って。ずっと柔らかいから。安心できるんだ」

 

「そっかー……」

 

 ヘノは、桃子だけは安心できるという。

 それはもちろん嬉しい。嬉しいことなのだが、なんだか喜べない。他の人間は安心できないと言われているのと、同じ意味だから。

 

「でも。人間は。ダンジョンの外だと。みんな。楽しそうなんだな」

 

 街なかを歩く人々をみながらヘノが呟いた言葉は、とても大切な何かを含んでいるように、桃子には感じられた。

 

 

 

 

「ただいまーっと。まあ誰もいないけど」

 

 

 電車に数分ほど揺られてから、桃子の自宅へと到着する。

 独り暮らし向けの小さい賃貸部屋ではあるものの、女性専用住宅となっており、セキュリティもしっかりした安心できる部屋だ。

 

「桃子の家。二回目だな。前に来たときは。ヘノも。緊張していて。あんまり覚えていないぞ」

 

「え、ヘノちゃん緊張してたの? ごめん、全然わからなかった。ハチャメチャにビスケット食べてたし」

 

「今は怖くないぞ。桃子の匂いは。いい匂いで。安心する」

 

「……えへへ」

 

 上着のフードから出てきたヘノが、桃子の室内をくるっと一周飛び回ってから、ベッド脇にある大きな熊のぬいぐるみの頭へと着地する。

 これは以前来た時に、ヘノがベッドとして使っていたぬいぐるみだ。

 

 そんなヘノを見遣りながら、桃子も上着をハンガーにかけて、荷物を片付けてから、ようやくベッドに腰をおろして一息ついた。

 

「よし、今日の夜ご飯は何を作ろうか。私これでも学校ではお料理研究部だったから、ダンジョンじゃ作れないようなもの、色々作れるよ」

 

「桃子のカレーを。食べたいぞ。光って出来上がるんじゃなくて。桃子が。最後まで作ったカレーがいい。食べたことないからな」

 

「え、それでいいの? カレーなんていつも作ってるし、きっと【カレー製作】のほうが美味しいと思うよ?」

 

「それでいいぞ。桃子のカレーを。ヘノだけが食べるんだ」

 

 桃子のカレー。

 確かに、ダンジョンで桃子がカレーを作ると【カレー製作】の効力によって光とともに完成してしまうため、それを手作りカレーと言い張るには少々疑問が残るのも事実だった。

 とはいえ、ヘノはそこまでカレーの味を気にしていただろうか。

 どちらかというと、先ほどから「桃子の匂い」とか「桃子のカレー」とか、いつもと比べて妙に「桃子」に執着しているようにも思えた。

 

「……ヘノちゃん、何かあったの? なんか今日は妙に甘えん坊じゃない?」

 

「桃子は。怒ってないか?」

 

「え、いや……何も怒ってないけど」

 

 怒っていないどころか、桃子としてはヘノと一緒に街を歩く体験が出来て気分としてはルンルンだった。

 しかし、どうやら今のヘノは何か、ルンルンとは対照的で神妙な雰囲気を纏っている気がする。

 

「この前。探索者を助けるかどうかという話で。あの魔女が。人間を助けないって言ったとき。ヘノは。桃子を悲しませた」

 

「あ……うん、それは……」

 

 人間を助けない、という話。

 それは桃子も覚えている。魔女、りりたんが桃子に語ったのだ。

 

――自ら進んで献身的に助けようという気持ちは全くありませんよ。

――ヘノさんやニムさんも、ももたんが望まなければ見知らぬ人間をいちいち助けるつもりはないと思いますよ。

 

「それを思い出したら。なんだか。胸のあたりが。ちくちくしてきたんだ」

 

「ううん、いいんだよ。だって当たり前のことだったんだもん。妖精と人間は違うんだって、私が忘れてただけだから」

 

 あの時は桃子は正直、少なからずショックを受けてはいた。その後のりりたんの提案ですっかりその気持ちはどこかへ行ってしまったが。

 しかし、だとしても「ショックで項垂れた桃子」を、ヘノは見ていたのだ。

 ヘノが桃子を大切にしているというのなら、あの時、自分の言葉を聞いて項垂れた桃子を見てどう感じたのだろう。

 

 しかし、桃子がヘノを慰めるように、自分に非があるのだと伝えても、ヘノは首を横に振る。

 

「違うんだ。ヘノはずっと。ダンジョンのトゲトゲした人間しか。見たことなかったんだ。女王も。大昔は沢山の妖精が。人間のせいで。死んでしまったと。言っていたしな」

 

「そう、なんだ」

 

 それは桃子は聞いたことがないことだった。

 

 ダンジョン黎明期から、妖精という存在が目撃されていたことは知っている。でも、その妖精たちに何があったのか、人間とどういう関係にあったのかということまでは、知らなかった。

 女王ティタニアは桃子には友好的だし、過去に居た人間の少女とも仲良くしていたと言っている。けれど、それ以外の人間にはどうなのだろう。サカモトには優し気にしていた気もするが、女王の心までは読み取れない。

 

「でも。さっき見た。小さい人間たちは。トゲトゲしてなくて。妖精たちと同じように見えたんだ」

 

「うん……」

 

 ヘノは続ける。

 

「そういうことを。考えてたら。桃子が悲しんだ理由も。分かった気がするんだ。ヘノも。妖精を見捨てられたら。つらいから」

 

「うん、そっか……」

 

 ヘノは、初めて人間の子供を見たのだ。

 怖くて、殺伐としていて、嘘も多い、そんなトゲトゲしている人間という種族の、トゲトゲしていない子供たち。

 それはきっと、感情豊かなヘノの友達の妖精たちと、何も変わらなかったのだろうと思う。

 

「それで。なんだか。よく。分からなくなってきて。とにかく。桃子に。嫌われたくないと。思ったんだ」

 

「……大丈夫!」

 

 ヘノが項垂れている。それはまるで、魔女の言葉で項垂れていた桃子のように。

 しかし桃子はそれを咎めるでも、慰めるでもなく、いきなり大きな声をあげて立ち上がった。

 ヘノも驚いて桃子を見上げて、目を丸くしている。

 

「こういう時はカレー! ヘノちゃん、今日はもう難しいこと考えないで一緒にカレー作ろう! 一気に色々考えちゃうと、頭と心が疲れちゃうんだよ。そういうのはこれからゆっくり考えていけばいいの。今はカレーのことだけ考えよう!」

 

「桃子は。それでいいのか?」

 

「うん。カレー好きだもん!」

 

 桃子も、我ながらあんまりな暴論だとは思っている。

 カレーは別に万能薬でもなんでもないし、難しい話から逃げているだけかもしれない。

 でも、今は。

 

 ヘノと一緒にカレーを作るのが、一番いいと思った。

 

「そうか。桃子はやっぱり。カレーの達人だな」

 

 その証拠に、いつも表情の動かないヘノが、きちんと笑っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

 

『せんぱーい♪ 平日に先輩から通話がかかってくるなんて、何か嬉しいですっ』

 

「うん、柚花にはお礼しないとなって思って。サカモトさんに用件伝えてくれたんでしょ?」

 

『はい、万全です! ヘノ先輩の名前を出したらちゃんと真面目に聞いてくれました。まあ、ちょっとだけ怖かったですけど』

 

「あ……そっか。ごめんね、そういえば柚花は男の人苦手なんだよね……?」

 

『いえ、まあ、そういうわけじゃないんですけどね。あの人、いい人なんですよ。無駄に善人なんですよ。ただ、萌々子ちゃんに対する気持ちが重すぎるというか、そもそも萌々子ちゃんがダンジョンで暮らす不幸な子供っていう前提で熱く語ってくるので、なんといいますか、圧が凄くて……』

 

「ええ……なにそれ? うーん、なんか私、サカモトさんに直接会ったことあるはずなのに、ものすごい誤解されてるんだねえ」

 

「直接会ったとは言っても。あのイビキ男。桃子のこと。そもそも見えてなかったけどな」

 

『そうなんで……す……って、え? 今のヘノ先輩ですか? え?』

 

「なんだ。ヘノの声も。向こうに聞こえてるのか? この機械。どうなってるんだ?」

 

「ヘノちゃん、えとね、ここがマイクって言って、私たちの声が柚花に届いてるんだよ」

 

『ちょっとちょっと先輩、今どこなんですか? ヘノ先輩いるんですか? え、でもダンジョンじゃないですよね?』

 

「ああ、うん。今週はお仕事お休みになったから、毎日ダンジョンに行けるようになってね。今日はヘノちゃんが逆お泊りなの」

 

「桃子と。光らないカレーを。食べたぞ」

 

『うわー! 光らないカレーが何かわかんないけど食べたいです! 先輩のおうちどこですか? 今から行きます!』

 

「駄目だよ、柚花は明日も学校でしょ? カレーなら全部食べちゃったし」

 

「今日は。もうそろそろ。寝るから。今から来ても。相手できないぞ」

 

『くそー、私もカレーになりたい』

 

「後輩。カレーは。食べ物だぞ」

 

「柚花、カレーならまた作ってあげるから、とりあえず正気にもどってね」

 

『せめてスプーンになりたい……』

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