ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 妖精小咄
【ティタニアとお茶会】 【ニムの遊び】


【ティタニアとお茶会】

 

 

 この日、女王の間には珍しく、桃子とティタニアだけが残っていた。

 これはたまたまではなく、ヘノとニムが畑のパトロールに行く時間を把握していた桃子が、それに合わせて単身でティタニアのもとを訪れていたのだ。

 ティタニアと二人きり。以前ならばともかく、さすがに今ではティタニアと二人きりになっても、もう恐縮したりはしない。

 敬意を忘れたつもりはないけれど、桃子にとってはティタニアもまた、身近で、信頼できる友達の一人のような存在になっていた。

 

「ティタニア様、ギルド前のスーパーで珍しい紅茶が売ってたんで、水筒で入れてきたんですよ」

 

「珍しい紅茶、ですか? そういえば、桃子さんが紅茶を持ち込むだなんて、珍しいですね」

 

 そして、他に誰もいないタイミングを見計らって、桃子はさっそく脇に置いておいた袋から水筒を取り出す。

 その中身は紅茶である。地上のスーパーで購入した紅茶を、ギルドにある休憩用の設備を利用して淹れてきたものだ。

 テーブルには人間用の紙コップと、妖精用のミニチュアサイズのマグカップがある。桃子はそれに、湯気のたつ紅茶をとぷとぷと注いでいく。

 

「えへへ、紅茶を見たら、ずっと前にりりたんと二人でお茶会をしたことを思い出して。それでたまには、ティタニア様と二人でお茶会もいいかなって」

 

 桃子が思い出すのは、りりたんと初めて出会った日のことだ。

 深潭宮の奥底にひっそりと隠されていた、下層への階段。そこを下りた先に広がる、青い花畑。

 ヘノとニムの二人が魔法で眠らされたあと、残された桃子は何故かりりたんと二人でお茶会をすることになったのだ。

 当時はりりたんのことを何も知らなかったために、とてもではないがお茶会を楽しむような精神状況ではなかったけれど、今ではりりたんは一緒に旅行に行く仲だ。世の中、出会いとは不思議なものだと思う。

 そして、桃子は紅茶ともう一つ。お茶会には重要なものを袋から取り出して、テーブルの上に紙皿とともに並べて見せる。

 それは、りりたんもお茶会の際には頻繁に食べている、さっくりとしたお菓子――スコーンだ。

 

「あら、スコーンですか?」

 

「市販品ですけどね。やっぱり紅茶にはスコーンかなって思って、ティタニア様と食べる分だけ買ってきちゃいました。ヘノちゃんには内緒ですよ?」

 

「まあ、ありがとうございます。それにお茶もいい香り……これは、桃、ですか?」

 

 花弁の玉座から食卓へと舞い降りたティタニアが、小さなマグカップを手に取る。そして、まだ温かい紅茶から漂う香りを堪能する。そこから漂うのは、甘く気品のある果実の香りだ。

 ティタニアは、その香りを味わうかのように、静かにその紅茶に口をつけた。

 

「はい、桃の香りのお茶です。桃、ピーチです」

 

「ぶふっ」

 

 ティタニアは、紅茶を吹き出した。

 

「うわっ、どうしました?! 気管にでも入っちゃいましたか?!」

 

「い、いえ……な、なんでも……あ、ありませんよ」

 

「そ、そうですか?」

 

 何があったのかは分からないものの、とにかく桃子は慌ててティッシュを取り出し、ティタニアに差し出した。

 これがヘノだったならば一方的に捕まえてティッシュで拭き取るところだが、さすがにティタニアをいきなり鷲づかみにするわけにはいかない。

 ティッシュを受け取ったティタニアが、自分の手と、顔周りを拭き取って、深呼吸している。

 

「すぅー、はぁー、失礼しました。ええと……はい、桃のお茶ですね。素敵な香りですね」

 

 そして、何事もなかったかのように、再び。紅茶を口に運ぶ。

 

「はい。桃、ピーチです」

 

「ぶふっ」

 

 ティタニアは、紅茶を吹き出した。

 

「うわっ、ちょっとティタニア様?! どうしたんですか?」

 

「ぷっ……ふふ……だ、だって……ふふっ……ピーチって、ピーチチャイルドが……ぷふっ」

 

「え、うわ、うわ?! まさかティタニア様、まさかっ?!」

 

 今度は、ティタニアは明らかに様子がおかしい。というか、滅茶苦茶に笑っている。

 桃子が『ピーチ』という度に笑い転げるその姿は、桃子にとっては非常に既視感があった。

 それは、りりたんだ。りりたんも、全く同じことで滅茶苦茶に笑い転げていたことがあるのだ。

 

 そして、桃子はその理由を知っていた。

 以前、とある不思議な現象に巻き込まれ、桃子はおよそ50年前の妖精の国へと迷い込んだことがあったのだ。

 そこで出会った若かりしティタニアと、子供だったクリスティーナ。そして当時の女王であるネーレイス。ネイティブな海外の言語で会話する三人に向けて、気が動転した桃子が述べた自己紹介こそが『アイ アム ア ピーチチャイルド』だ。その、冷静になってから思い返すと死ぬほど恥ずかしい自己紹介が、まさにりりたんのツボだったのだ。

 

「す、すみません……お、思い出して……ぷふっ……」

 

「滅茶苦茶笑ってるじゃないですか! 忘れてくださいよーっ!」

 

 やはり、母と娘なのだろう。りりたんが笑い転げていたエピソードは、ティタニアにとってもツボだったようだ。

 桃子はまさかのタイミングでの黒歴史の再来に、羞恥で耳まで真っ赤になっている。

 しかし、ティタニアは母であるりりたんよりも、真面目だった。どうにか笑いを抑えて、理性的になろうと努力しているのが見える。笑いながら桃子をからかっていたりりたんとは偉い違いだ。

 

「はぁ……はぁ……お見苦しいところをお見せしました。それと、あの時は桃子さんを疑って、武器まで奪ってしまって……」

 

「いえ、あれは武器じゃなくてただの爪楊枝でしたから、好きに奪ってくれてよかったんですけどね」

 

 思えば、50年前の世界では、桃子が持っていた『爪楊枝』を武器か何かと勘違いしたティタニアが、物凄く警戒した様子で奪い取っていったのだ。

 今ならば確信できるが、あの爪楊枝こそが『ツヨマージ』のデザイン的な原点だったのだろう。

 

「もう、桃子さん、駄目ですよ。今は娘たちがいないから良いようなものの、私を笑わせるのはおやめになってくださいね」

 

「ギャグで言ったわけじゃないんですけど……」

 

 そして、ティタニアは。笑いすぎて目元に涙を浮かべながらも、再び女王としての凜とした姿に戻るのだった。

 桃子はそれを見て、思う。

 笑い転げているティタニアは、きっと『素のティタニア』だったのだろうな、と。

 自分の恥ずかしい発言がスイッチになっているのは非常に複雑な気分だが、しかし。ティタニアが自分の前で、素を見せて笑い転げてくれるのは、なんだか桃子としても――嬉しくなってしまう。

 

 だから。

 小さく呟いた。

 

「ピーチ」

 

「ぶふっ」

 

 しばらくはこうやって、いつでも素のティタニアを眺められそうだなと。

 吹き出した紅茶まみれになっているティタニアにティッシュをあてがいながら、桃子はそう、思ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

【ニムの遊び】

 

 

「そ、それでですねぇ……柚花さんが、こっそり私にだけ、マシュマロをくれたんですよぉ……?」

 

「わ、柚花ったら優しいじゃん。いいなあ、私もマシュマロ食べたくなってきちゃった」

 

 妖精の畑を見下ろすベンチで、桃子は眼前に広がる景色を眺めながら、膝の上に座る妖精の話を聞いていた。

 いま、桃子とともにいるのはヘノではない。水の妖精である、ニムだ。

 単にヘノが席を外しているだけなのだが、実は桃子とニムが二人きりという機会は、意外と少ない。なので、桃子は新鮮な気持ちでニムの話を聞いている。

 

「そのマシュマロ、中に、えと……えと、色々な果物の、とろっとしたのが入ってたんですよぉ……」

 

「わ、美味しいやつだね。私も、中にとろっとしたのが入ってるマシュマロは美味しいから大好きだよ」

 

「じゃ、じゃあ……今度は、も、桃子さんの分も、残しておきますねぇ?」

 

 ニムは、柚花との話を楽しそうに話す。

 マシュマロを一緒に食べた話。魔物を一緒に討伐した話。電撃漁で、前よりもうまく魚を獲った話。それらを語っているニムは、とても幸せそうで、聞いているだけで桃子も幸せな気持ちになってくる。

 普段は内気で、大体の場合は聞き役に徹するニムだけれど、自分の好きなものに関してはニムは意外に饒舌なのだ。

 そこでふと、桃子は何の気なしに聞いてみた。

 

「ニムちゃんは、柚花と二人でこうして休憩してるときなんかは、いつもどんなお話をしてるの?」

 

「え、えぇと……そ、そうですねぇ……うーんと……ええと……」

 

 ニムと柚花が、いつも二人でどんな話をしているのか。

 例えば桃子とヘノならば、どのような会話をしていたとしても気付けば最終的にカレーの話に落ち着いていることが多いのだが、さすがにニムたちはそこまでカレーの話ばかりしているわけではないだろう。だから、聞いてみたのだ。

 もちろん、桃子には柚花とニムのプライベートな話を探ろうという気持ちはない。ただ単に、雑談の延長線としてなんとなく聞いてみただけである。

 が、思いの外ニムは本気で悩み始めてしまい、それには桃子が逆に慌ててしまう。

 

「あ、ごめん、なんか。難しかったら、別に他の話題でもいいよ?」

 

「い、いえ……お、思い出すのに必死で……で、でもですねぇ。桃子さんとヘノの話題は多いですねぇ」

 

「私の話? そっか、なんか照れちゃうね」

 

 桃子とヘノの話題。

 それは、別に何もおかしなことではない。なにせ、柚花とニムにとっての共通の話題の筆頭が、桃子とヘノの話題なのだ。

 どういう言われ方をしているのかは気にならないと言えば嘘になるが、そういうのは聞かない方がいいのだろうと桃子は判断し、追求はやめておく。

 そして、一度口を開いたニムは、興が乗ったのかどんどん言葉を続けていく。

 

「あとは、前から柚花さんと遊んでいる遊びがですねぇ……」

 

「遊び? どんなの?」

 

「ええとですねぇ。『人間の、嫌な所を順番に挙げていく遊び』は……い、いつも白熱しますねぇ」

 

「え、あ……へぇー?」

 

 なんだか、とても反応に困る名称の遊びが飛び出てきた。

 もしかしたら物騒なのは名称だけで、中はもっとすっきり爽やかな遊びかもしれない。

 けれど、桃子は知っている。今でこそ多少は丸くなったかもしれないが、柚花は、本当に人間を嫌っていた。

 柚花の持つ【看破】という力は、人間の汚い部分までもを見通してしまう。だからこそ彼女は、誰とも組まなくて済むソロ探索者となったのだ。

 

「私が初めて、柚花さんとお話したときも……に、人間の悪口で、楽しくて……」

 

「そ、そっかー。ええと、それがきっかけで、ニムちゃんは柚花のことが気になったっていうことなの?」

 

「うぅ……は、恥ずかしいですねぇ……」

 

 ニムと柚花が初めて出会った日というのは、いつ頃だっただろうかと桃子は記憶を探る。

 それはたしか、桃子が柚花と初めてともにダンジョンに潜った日のことだったはずだ。当たり前の話だが、ヘノとニムが柚花と出会ったのもその日が初めてである。

 しかし、出会ったその日から『人間の悪口』で意気投合していたというのは、桃子としてはなんともコメントに困る新事実だ。

 

「ゆ、柚花さんは、私が人間を怖がる気持ちを、誰よりも分かってくれて……そ、それで、きっと……その時から、私は柚花さんのことが、大好きになってたんですねぇ……」

 

「そっか。きっと、柚花とニムちゃんは、運命的な出会いだったんだね」

 

 以前、柚花はニムのことを『妖精で一番、私のことを理解してくれた子』と称していた。それはきっと、事実なのだろう。

 人間のマイナス面が耐えられなかった柚花と、人間が怖くてたまらなかったニム。互いにその気持ちを共感しあえた、人間と妖精。

 それだけ聞けば、それは非常にロマンティックで運命的だと思う。

 

 が――。 

 

「あ、こ、こんど桃子さんも『人間の、嫌な所を順番に挙げていく遊び』を、一緒にやりませんかぁ……?」

 

「あー、えーと……」

 

「ほ、他にも……『嫌な人間を、想像の中で懲らしめる遊び』も、熱中しますよぉ……?」

 

「そ、それはさ、柚花とニムちゃんの二人だけの秘密のゲームにしたままのほうが、いいと思うなあ?」

 

「うぅぇへへへ……そ、そうですかぁ? わ、私と柚花さんだけの、秘密のゲーム……なんだか、素敵ですねぇ」

 

 さすがに、いくら気が合うからといって。

 せめて、せめてもう少し、遊びの内容はどうにかならないものかな、と。

 

 幸せそうに微笑むニムを眺めながら、なんとも複雑な苦笑を浮かべてしまう桃子だった。

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