ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
【フラムと変形ナイフ】
「あ、いたいたフラムちゃん。今日はちょっとね、フラムちゃんが好きかもしれないものを持ってきたんだよ」
妖精の国にて、桃子は一人の妖精を探していた。
探し人はフラム。ちょこんとまとめられた赤い髪が空を向き、小さな松明みたいになっているのが特徴的な、妖精たちの末妹である火の妖精だ。
桃子はこの日、武器が大好きな彼女に見せるため、とある品物を地上から持ち込んでいた。
「なんだ! まさか、ものすっごい巨大な武器とかを隠し持ってるのか?!」
「ううん、どっちかというと、ポケットに隠せるくらいに小さいやつなんだけどね。ナイフ……といえばナイフかな」
「そっかー……小さいナイフかー……そっかー」
その"品物"は、ポケットに忍ばせられるサイズであり、桃子が小さな手のひらに握れる程度の大きさだ。なので、フラムが大好きな"大きくて豪快な武器"ではない。
それを聞いたフラムはあからさまに落胆し、いつもの覇気を一瞬にして失ってしまう。フラムは元気なときと意気消沈したときの落差が激しいのも特徴だ。
けれど、桃子はそんな静かになってしまったフラムを鼓舞するかのように、話を続ける。
「まあまあ、大きくはないけどさ。小さくても、面白いものがあるんだよ? ほら」
それは、ナイフと呼ばれることもあるけれど、厳密には少し違う、特殊な品物だった。
フラムが視線を向けると、桃子の手に握られているのはまさに『ナイフの握り部分』だけである。ナイフの刃の部分は折りたたむように収納されており、桃子がくいと引っ張ると、そこからは刃渡り数センチ程度のナイフが現われた。
「……ん? ナイフが隠れてたの? 面白いけど……でもそんなちっちゃいナイフじゃ、アタシの熱は……消えちゃうよ」
折りたたまれたナイフには、フラムも少しだけ興味を持ったようで、気にするように視線をチラチラと向けている。
けれど、その刃渡りはあまりに小さく、フラムの大好きな『豪快で格好いい武器』ではない。未だにテンションが低く、フラムの気合いの火は消えたままだ。
しかし、桃子はそんなフラムに対して、にまにまと笑顔を浮かべている。
「ふっふっふ、よく見てよフラムちゃん。このナイフはただのナイフじゃないんだよ! ほら、シャキーン!」
「……え?! なんだ! ナイフから何かが出てきたぞ! グルグルの棘か? なんだこれ!」
桃子が指先をスッとスライドさせると、そこからは不思議なものが飛び出てきた。見れば、細い金属がぐるぐるとらせんを描き、先端が鋭く尖っている。大きなバネのようにも見えるが、しかしバネのように弾力はない。
「これはね、これを突き刺してグルグル回して引っこ抜くツールで『コルク抜き』って言うの! でももちろん、これだけじゃないよ? ほらっ、シャキーン! こっちもシャキーン!」
「うぎゃああああ!! なんだこれ! へ、変形……変形ナイフだぞ!!」
桃子はそのナイフの握りから、次々とツールを出していく。
小さなのこぎりは、フラムでも武器のようなものだと理解は出来た。けれど、他の不思議な構造をしたパーツの数々は、フラムにはその用途がさっぱりわからない。
分かることは『これがなんだか格好いいアイテムである』ということだけだ。
「これは……世にも珍しい、様々な武器に変形するナイフ……! ――っていうわけじゃなくてね、十徳ナイフとか、マルチツールとかいうやつだね」
「すごいな! 意味はわかんないけど! どうやって使うんだ!」
「ええとね、例えばこれは缶切り。缶詰を開ける道具だよ。こっちは栓抜きで、瓶とかの栓を開ける道具なの」
桃子は飛び出たツールの数々を引っ込め、代表的ないくつかのツールを順番に出して説明していく。
もっとも、ダンジョンに棲む妖精であるフラムに、缶詰や瓶の概念がどれだけ伝わっているかはわからない。今の時代、探索者の持ち込む缶詰にはだいたいプルタブがついており、缶切りなど使う探索者はほぼいないのだ。
「よくわかんないけどすごいな! よし! 今からそれを使って、ゴブリン退治にいこう!」
「え?! いや、これそういう武器じゃないし、ちょっと無理じゃない?」
フラムを驚かせ、そして喜んで貰うことには成功した。桃子の目論見としては、大成功であり、ここで予定としては終了である。
だが、フラムはこの会話を終わらせてはくれなかった。さっそく桃子の手をとって、ゴブリンの出没するダンジョンへと向かおうと桃子を引っ張っていく。
これは、フラムに十徳ナイフを『武器』として紹介してしまった桃子の失策だろう。武器というのは、畑に刺すものでも、並べて楽しむものでもなく、実際に使用して、魔物を倒すために存在するのだ。
桃子が見せてくれた十徳ナイフが『武器』ならば、それで魔物を倒したいというフラムの考えは間違ってはいない。
ただし、現実問題として十徳ナイフは魔物と戦う武器ではないのだ。
「大丈夫だよ! そのコルク抜きっていうので、ゴブリンの頭をぐっさりやろう!」
「嫌だよ、なんか猟奇的すぎるから嫌だよ!?」
よりによって、コルク抜きでゴブリンを倒すのは無茶である。
魔物から認識されずに至近距離まで近づける桃子でも、さすがにゴブリンの頭にコルク抜きを刺し、ぐりぐり回して押し込んでいたら気付かれる。
というか、いくら相手が煤に戻る魔物だとしても、猟奇的過ぎてそんな倒し方は嫌だ。
「そんなの! 桃子のハンマーでべちょっと潰すのだって、ヤバさは大差ないじゃん!」
「こういうときだけそういう正論言わないでーっ」
この後、フラムに『十徳ナイフは武器ではなくキャンプ用のツールである』という説得のために、桃子はかなりの時間と労力を要する羽目になった。
それでもフラムは最後まで十徳ナイフを『新種の変形武器』と信じて疑わないのだが、それはまた別の話である。
◇ ◇ ◇
【リドルと自分探し】
桃子が妖精の国の花畑を歩いていると、丘の上に一人の見知った妖精の姿を見かけた。
黄色い魔力光をまとった、この妖精の国では珍しい褐色の肌が特徴的な妖精。それは『鍵の妖精』ことリドルである。
「リドルちゃん、何してるの? また謎を探してるの?」
「桃子くん。その言い方ではボクがまるで四六時中、常にどこでも『謎』を探しているように聞こえるのでは、ないかな?」
「えー……」
声をかけたら、桃子へと向き直ったリドルの一言目がそれである。
桃子の知る限り、リドルという妖精は何かと『謎』を探し回っている妖精だ。『謎』がなければ、普遍的な光景から半ば強引にでも『謎』を見つけ出し、それに頭を悩ませているのがこのリドルという少女である。
それは、四六時中、常にどこでも、と表現しても過言ではないほどだ。
「いいかい? ボクとて、いつでも『謎』を追いかけているわけでは、ないのさ。他のことをしているときも、あるのだよ?」
「あ……うん、そうだね。変な言い方してごめんね、リドルちゃん」
桃子としては何の気なしに声をかけただけではあるが、しかしリドルの言い分はもっともだ。
いくら普段から『謎』ばかり追いかけている妖精だとしても、それを前提で話しかけたのは失礼だったかもしれないと、桃子は改めて思い直す。桃子とて、決してリドルに何かしらのレッテルを貼ろうとしたわけでも、ましてや彼女を不快にさせるつもりなどなかったのだ。
素直に桃子はリドルに謝ってから、リドルの横の花畑に腰を下ろして、リドルと視線の高さを合わせる。
思えば、彼女が『謎』を探していたのは、自分の正体すら忘れ去っていたという彼女の出自が大きく関わっているのだ。
リドルの記憶にあったのは『謎を解き明かす』ということに対する執念だけだった。だからこそ、彼女は自分を見つけるために、自身の正体を知るために、あらゆる『謎』を解き続けた。探し続けた。
ならば。自分の正体に気付いた現在のリドルは、以前ほど『謎』に執着することをやめたのかもしれない。
桃子は、リドルの顔を見つめて、そう思った。
「それはそうと、今は新たな『謎』を探していた、ところさ」
「私、いま怒っていいところ?」
今のやりとりはなんだったのかと、普段は温厚な桃子も、少しだけ「イラッ」とする。
リドルはやはり、リドルだった。
リドルの正体がどうとか、出自がどうとか、あれこれ色々と考えていた桃子の思考は全てただの考えすぎであり、リドルは相変わらずの『謎』の収集家だった。
「はははは、『謎』はいつ探してもいいものさ。桃子くんは、新たな『謎』はみつかったかい?」
「うん。相変わらずリドルちゃんは謎だらけだなって思ってるよ」
「それは、同感なのでは、ないかな? ボクは今でも『自分』というものを探している最中、なのさ」
桃子が話しかけると、リドルは『謎』を探すのをやめて、顔をあげる。
どうやら、彼女はまだ『自分探し』に執着しているようだ。桃子は不思議に思い、この噛み合っているのか噛み合っていないのか怪しい会話を続ける。
「でも、リドルちゃんの正体は『スフィンクスの鍵の妖精』ってことで、判明したんだよね?」
「もちろん、ボクの過去はそうさ。けれど――それだけでは駄目なんだ。『自分がなんのために生まれたのか。そして、何をして生きるのか。分からないまま終わるのは、嫌』なのさ」
「……」
沈黙。
桃子は、なんと言えばいいのかわからず、言葉を失う。
もっとも、決してリドルの真面目な話に驚いて黙り込んでしまったわけではない。
彼女の言葉が、あまりに有名なアニメヒーローのテーマ曲を思わせる言葉だったので、「もしかしてアニメのネタなのかな?」などと勘ぐってしまい、とっさに言葉が出てこなかっただけである。
「はははは、どうしたんだい、桃子くん。ぽかんとしてしまっているのでは、ないかな?」
「あ、いや……今の言葉が、一瞬アニメの歌詞なのかなって思っちゃって。もちろん、気のせいだよね」
「おや、いきなりだね? ボクも、アニメというものは知っているけれど……桃子くんは、今の言葉がアニメだと言うのかい? ボクが、人間のアニメの言葉をそのまま引用したのだと――キミは、そう言うのかい?」
「あ……うん、そうだね。変な言い方してごめんね、リドルちゃん」
桃子としては何の気なしに口にした言葉ではあるが、リドルの言い分はもっともだ。自分の大切な言葉をアニメのネタ扱いされては、誰だって不愉快に思うだろう。
例え偶然にもアニメの主題歌と似かよった言葉だったとしても、今のはリドルの想いであり、リドルの本心なのだろう。
素直に桃子はリドルに謝ってから、リドルの言葉の続きを待つ。
「ご名答だ。今の言葉は、教授が見せてくれた日本のアニメの楽曲が由来、なのだよ。いい言葉だと、思わないかい?」
「私、いま怒っていいところ?」
今のやりとりはなんだったのかと、普段は温厚な桃子も、少しだけ「イラッ」とする。
リドルはやはり、リドルだった。
「というわけでだね。おや、桃子くん、少しばかりストレスが溜まっているようだね。どういうことだい?」
「うん。なんだか、理不尽な『謎』に行き当たっちゃった気分なんだよね」
相変わらず、リドルはエキセントリックで、まっとうな会話が難しい。
けれど。
桃子とリドルが二人の時間を過ごすなど、意外にも滅多にない機会なのだ。
なので、たまにならば、こういう不可思議な会話も悪くないなと。少しだけイラッとするけれど、それもまた味わいのあるやりとりだ。
桃子は、噛み合わない会話を楽しみながら、そう思った。
「それはもしかして、ボクの自分探しに繋がる『謎』なのでは、ないかな?」
「いや、絶対に繋がらないと思うよ?」
そしてやはり、噛み合わない会話に少しだけ、イラッとするのだった。