ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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【リフィと葉野菜】 【普通なノン】

【リフィと葉野菜】

 

 

「――それで、これがレタスで、こっちはサニーレタスで、これはロメインレタスかな? つまり全部レタスだね」

 

「なんで全部レタスなのヨ。わかりにくいヨ。人間はやっぱり理解できないのヨ」

 

 妖精の国の調理部屋。

 ここは『部屋』とは言うものの、調理用のかまどや流し台が設置されているだけの、壁のない四角い吹きさらしの空間だ。地上の表現で言うならば、公共のキャンプ場に設置された屋外調理スペース、といったところだろうか。

 その調理部屋にて、桃子は卓上にいくつかの『野菜』を並べて、一人の妖精に解説をしていた。

 妖精の名はリフィ。頭の上に葉っぱのようなものがピョコンと生えているのが特徴的な、緑葉の妖精だ。

 

「あはは、まあレタスは固有の名前っていうか、品種全般の名前みたいなものなんだよ」

 

「とりあえず、人間はレタスっていう葉っぱが大好きなのはわかったのヨ」

 

 そして、卓上に並べられているのは地上のスーパーで購入してきた、葉っぱの形状をした野菜――いわゆる葉野菜の数々である。

 これらは、ダンジョン前のスーパーで販売していた葉野菜のいくつかを、ここに来る前に桃子が買い揃えてきたものだ。

 ラインナップがレタス類に偏っているのは、たまたま本日の特売がレタスに偏っていただけである。

 

 実は以前から、緑葉の妖精であるリフィに『ダンジョンの野菜探し』を手伝ってもらおう、という話は出ていた。

 このやり取りはその一環である。まず何はともあれ、地上から野菜を持ち込み、桃子たちの望んでいる『野菜』というものをリフィに理解してもらおう、という試みだ。

 餅は餅屋。うどんは香川。カレーは桃子。そして緑の葉っぱに関することならば、間違いなくこの緑葉の妖精が一番詳しいのだから。

 

「それで、最後にこれがケール。地上の野菜の中でも、ものすごく歴史がある野菜なんだよ。野菜の始祖のひとつとまで言われてるの」

 

「この葉っぱなら、アルラウネに生えてるから勝手に食べればいいヨ」

 

「いや、それはさすがにちょっとなあ……」

 

 最後におまけで出したケール。これにはリフィも見覚えがあった。

 現在は、畑に上半身だけ出して眠り続けている植物系幼女こと、アルラウネ。

 彼女はもともと、筑波ダンジョンで人工的に栽培されていたケールが素体になっている。そのため、今も彼女のドレス部分の葉っぱはケールのような葉が主体である。きっとあれは、食べられるケールなのだろう。

 とはいえ、見た目だけで言えば、あのケールは幼女の身を包む衣服である。それを剥ぎ取るという行為は、なんだか人として越えてはならない一線のような気がして、桃子も手は出していない。

 

 それを理解しているのか、はたまた興味がないのか。リフィはさっさと話を流して、調理部屋の周囲に咲き乱れる花々から一つの花を選び出した。

 リフィに手招きされて、桃子もその花へと近づいてみる。綺麗な、黄色い花だ。

 

「この花の葉っぱだったら、きっとレタスと香りが近いのヨ。毒も無いはずだヨ」

 

「え、本当?! なら、ちょこっとだけ食べてみようかな」

 

「じゃあ、葉っぱ一枚だけだヨ」

 

「ありがとう、リフィちゃん。じゃあ、いただきまーす」

 

 決して大きな花ではない。桃子がレタスと同じ勢いで食べてしまえば、周囲からこの黄色い花だけがなくなってしまうだろう。

 そんな稀少な葉っぱをリフィから一枚だけ受け取り、桃子ははむ、と口に放り込み、咀嚼する。

 風味は確かに、食べ慣れたレタスのようなさわやかな野菜の香りだ。

 

 だが――。

 

 見る見るうちに桃子の眉間にはしわがより、目尻にはうっすらと涙が浮かぶ。

 

「うー……リフィちゃん、これはちょっと、渋いし苦いよ。さすがに、食べるのがつらいよ」

 

 残念ながら、レタスに近い風味というだけで、とてもではないがサラダとして食べられるものではなさそうだ。

 身体に害がなくとも、この葉っぱはいくらなんでも味が致命的だ。

 

「香りで選んだから、味なんて知らないヨ」

 

「味も重要視して欲しいなって」

 

「カレーにいれたらどうせカレー味だヨ」

 

「それはそうかもしれないけどね」

 

 桃子はリフィにそれを訴えるが、実に端的な答えが返ってきた。聞きようによっては非常に辛辣で、愛情を感じないリフィの言い様だ。

 しかし、これは決して、リフィが桃子を嫌っているわけではないと桃子は知っている。リフィは心を許した姉妹たちに対してもこんな調子なのだ。この対応は、彼女の素なのだろう。

 

「あのね、カレーじゃなくて、生でそのまま食べられる葉っぱを探してるの。ダンジョン内でヘルシーなお野菜が見つけられたらさ、カリンちゃんも喜んでくれるんじゃない?」

 

「むむむ、カリンの名前を使うのはずるいヨ! 桃子はやっぱり卑怯な人間だヨ!」

 

「あはは、ごめんごめん。でもさ、実際に女の子ってみんな、ヘルシーなお野菜が欲しいんだよ。こういう相談だと、一番頼りになるのはリフィちゃんだからさ」

 

 リフィを釣るために、彼女が推しているアイドル系配信者、カリンの名を出したのは少しずるかったかな? と、桃子も内心では思う。

 けれど、ダンジョンの葉っぱに関して一番頼りになるのがリフィであるのは嘘ではない。

 

「ま、まあ……リフィは葉っぱの妖精だから、リフィに頼るのは正解だヨ」

 

「でしょう?」

 

 そして、桃子は知っている。リフィは何かとつんけんしており、普段から取っつきづらい妖精だが、真摯に話せばきちんとわかってくれる素直な子だ。

 柚花に言わせれば、リフィは「とてもチョロい」妖精なのだ。

 

「仕方ないヨ。すぐには難しいけど、今度リフィが人間たちのために、お野菜みたいな葉っぱを探しておいてあげるヨ」

 

「やった! ありがとう、リフィちゃん! もし見つけられたら、もちろんカリンちゃんにも紹介しておくね! 柚花が!」

 

「ま、まあ、好きにすればいいヨ!」

 

 そして、柚花の言うとおり、リフィは本当にチョロかった。

 桃子とて、別にリフィをだましているつもりはない。けれど、少し褒めただけで簡単に協力してくれるので、逆に桃子の罪悪感が刺激される始末だ。

 

「で、でも勘違いしないで欲しいヨ! 別にカリンや桃子のために探すんじゃないのヨ!」

 

「リフィちゃんて、唐突にツンデレスイッチ入るときあるよね?」

 

 チョロくて、ツンデレ。

 妖精にもいろいろいるけれど、リフィはとてもわかりやすくて可愛らしい妖精だな、と。

 本人が聞いたら真っ赤になって怒り出しそうな感想を、桃子は頭の片隅に浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

【普通のノン】

 

 

「桃子さん、こっちのお皿は棚に片づけておくよぉ?」

 

「うん、ありがとうノンちゃん」

 

 この日、桃子は調理部屋の片づけを行っていた。

 この調理部屋において、普段のカレー鍋などの洗い物は、この花畑に住む小妖精たちが集まって、魔法で綺麗にしてくれている。そういうとき、魔法というのは実に便利だと思う。

 けれど、食器や調味料、保存食の類をそれぞれ規定の場所に戻す『整理整頓』となると、小妖精たちにとって途端にハードルが高くなるのだ。

 

「なんかごめんね、手伝ってもらっちゃって」

 

「構わないよぉ。小妖精たちには、お片づけはまだ難しいからねぇ」

 

 数多くいる小妖精たちには、見よう見まねで片づけ作業までやってくれる働き者の子たちもいる。

 けれど、一見すると綺麗な調理部屋に見えても、皿と調味料と保存食がバラバラに置かれてしまい、何がどこにあるのかわからなくなってしまう。

 なので、定期的に桃子や柚花が調理部屋を整える必要があるのだ。

 

「桃子さん、このお塩とお砂糖だけど、目印を付けておいた方がいいと思うよぉ」

 

「あ、そうだねえ。どうしようかな。油性ペンってどこかにあったかな?」

 

「とりあえず、今のところは、それぞれに青い石と黄色い石を入れて、見分けがつくようにしておいたよぉ?」

 

「わ、助かる、ありがとうノンちゃん!」

 

 そして今、調理部屋の片づけをする桃子を手伝っているのは、大地の妖精であるノンだった。

 彼女はこの妖精の国では珍しく、常識的な感覚を持つ妖精だ。桃子に頼まれるでもなく、彼女は自主的に整理整頓を手伝ってくれている。

 

「この棒みたいなのは、ポンコさんの忘れものだよぉ? とりあえずここに立てかけておいて、夜に見かけたら、持って帰るように声をかけておくよぉ?」

 

「あ、それってポンコちゃんのだったんだ? じゃあ、ノンちゃんにお願いしてもいい?」

 

 共に作業しているとわかるが、ノンは実に気が利く妖精だ。

 砂糖と塩の目印にしろ、ポンコの棒にしろ、桃子一人ではそこまで気づかない部分にもフォローを入れてくれるので、この日の整理整頓は実に円滑に進んでいった。

 

「ふう、お片づけ終わり!」

 

「すっきりしてよかったよぉ」

 

 食器棚には食器が並び、調味料や保存食も規定の位置にそろっている。

 これで、しばらくは調理のときに道具の場所がわからずに慌てふためくこともなくなるだろう。

 桃子は一息ついて、調理部屋に置かれている椅子に腰掛けて。そして、まじまじと隣に浮かぶノンへと視線を向けた。

 

「……ノンちゃんてさ、なんだか、普通だよね」

 

「え? えぇ? それ、どういうことなのよぉ?」

 

 現代社会で「あなたって普通だよね」と言われたならば、場合によってはマイナスの意味にとられることも少なくないだろう。

 そして、その台詞を言われて慌てふためくノンは、まさにその人間的な感覚を所持した妖精であった。

 

「あ、違うの違うのっ。悪い意味じゃないの!」

 

 落ち込みかけるノンの様子に気づき、桃子は慌てて訂正を入れる。

 

「ほかの妖精の子たちってさ、ほら……その、かなりの変わり者が多いじゃない? ノンちゃんはその点、普通に対応してくれる子だなって」

 

「うーん、それもそうだねぇ」

 

 桃子の言葉には、ノン自身も思い当たる部分があったようだ。落ち着いた様子で桃子の正面のテーブルに着地して、桃子を見上げるようにしている。

 桃子の言葉の続きを待っているようだ。

 

「それに比べて、ノンちゃんって、私の感覚で言うとすごく『普通』なんだよ。地上の友達と話してるみたいなの」

 

「そんなものなのかなぁ? 私にはよくわからないよぉ」

 

 ノンも、自分の感性が他の妖精とは少し違うという自覚はある。

 けれど、残念ながら彼女は地上の人々のことをあまり知らないため、桃子の地上の友達と言われてもパッと想像ができず、困惑したように首を傾げるだけである。

 しかし、困惑するノンをおいていく勢いで、桃子は言葉を続けていく。

 

「ね、ね、ノンちゃんにさ、いくつか普通の質問してみていい?」

 

「うん、かまわないよぉ?」

 

「好きな料理は?」

 

「えーと、カレーだよぉ。ほかの料理はあんまり知らないよぉ?」

 

「そっか、ノンちゃんはカレーが好き。普通だね」

 

「えー?」

 

 桃子の中では、ノンはカレー好きで『普通』ということで落ち着いたようだ。

 

 しかし。

 そもそもこの国に住んでいる妖精は、桃子が作るカレー以外の料理を口にする機会などほとんどない。次点でギリギリ、ポンコのカレーうどんがあるが、結局はカレーである。

 カレーしか知らないので、必然的に好きな料理はカレーになるのだが、桃子はそこのところは気にしていないらしい。

 ノンは、どことなく疑問を覚え、首を傾げている。

 

「じゃあ、次ね? あなたは今日から連休に入りました。何をして過ごす?」

 

「何って言われても、困るよぉ。普通に、リドルと一緒にお散歩とか、リドルのお世話とかすると思うよぉ」

 

「そっか、連休にはお友達と遊ぶ。うんうん、普通っぽい気がする」

 

「えー?」

 

 言うまでもなく、妖精であるノンには『連休』などという概念はない。強いて言えば、ノンは今現在まさに365連休のまっただ中といえる。

 なんにせよ、ノンの過ごし方は『普通』と判断されたようだ。

 ノンは、どことなく疑問を覚え、首を傾げている。

 

「じゃあ、朝食はご飯派? パン派?」

 

「妖精は、朝にご飯もパンも食べないよぉ? 桃子さん、私が妖精っていうこと、忘れてるよぉ?」

 

「……本当だ! ノンちゃんがあんまり普通だから、妖精っていうこと忘れちゃってたかも!」

 

「えー?」

 

 どうやら、桃子は本当に、友人と話す気持ちでノンと話していたようだ。

 ノンの中には、桃子が自然体で友人扱いしてくれたことを光栄に思う気持ちと、腑に落ちない気持ちが同時にわき上がってくる。

 

「私たち、普通仲間だね! ノンちゃん」

 

「えー?」

 

 普通仲間。

 それはつまり、ノンが普通であると同時に、桃子も普通であるという前提で成り立つ言葉である。

 

 果たして、普通とはなんなのか。

 果たして、桃子は普通なのか。

 

 その日の調理部屋には、しきりに首を傾げ続けるノンの姿があったという。

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