ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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【エレクと共に】 【ルゥと「大切なこと」】

【エレクと共に】

 

 

「――っていう感じで、妖精の子たちもみんな元気だよ」

 

『そっか! うんうん、妹たちはみーんな、元気で楽しく過ごしてるみたいで、エレクちゃんも安心だよ! 安心だよ!』

 

 桃子は、この世とあの世の狭間――ニライカナイの第二層を、雷の妖精エレクと共に歩いていた。

 

 この第二層は、黄昏の平原が延々と続いているだけの階層だ。ここに出てくる魔物は、桃子が今までに倒してきた魔物たちだ。

 以前も一反木綿の集団に連れ去られて危機一髪に陥った桃子だけれど、その際にはツヨマージを携えたエレクの力で難を逃れることが出来たのだ。

 そして今は、魔物もいなくなった平原を、延々と二人で雑談を交わしながら歩いていた。向かう先にあるのは第三層の青い花畑に続く階段ではなく、どことなく暖かさを感じる、不思議な光へ向かって歩いている。

 

「ルイちゃんは、ライチちゃんが寝たきりだから、まだちょっと元気がないけどね……」

 

『ケラケラっ、大丈夫だよ! 来智博士はきっとまた元気に戻ってくるから、心配しないでね! 心配しないでね!』

 

「それならいいんだけどね」

 

 エレクは、すいっと上空へと飛び上がると、遥か後方の平原を眺めている。

 遠くに何かいるのか、それとも誰かがいるのか。桃子も振り向くが、残念ながらその姿は見つけられなかった。

 桃子が首を傾げていると、すぐにエレクは戻ってきて、いつもならヘノの特等席になっているはずの、桃子の肩にちょこんと着地した。

 

『それにしても、アルラウネかー。ちょっと見てみたかったなっ、見てみたかったなっ』

 

「今は妖精の畑に埋まってて、ちょっと変な感じになっちゃってるんだよ。そのうち元気になって、また目覚めてくれると嬉しいんだけどね」

 

『ケラケラッ、女の子なのに畑に埋められちゃったんだね! なんだか面白いね! 面白いね!』

 

 桃子の最近の冒険譚を、エレクはそれはもう楽しそうに聞いてくれた。

 決して笑って話せるような話ばかりではなく、中には今でも苦い気持ちがこみ上げる出来事だってある。けれど、それでもエレクにとってはその全てが新鮮で、心を震わせる素敵な話だったようだ。彼女は話を聞く度に、大層喜んでくれている。

 そこで桃子は、今度はエレクの話を聞かせてもらおうと思い、口を開く。

 

「ね、エレクちゃん。私もエレクちゃんにお話を聞きたいんだけど、いいかな」

 

『うん。聞きたいことは……昔、バスで助けた赤ちゃんの話だよね? でもね、エレクちゃんに聞いてもいいけどさ、あんまり意味なくない? 意味なくない?』

 

「やっぱり……意味ないのかな」

 

 荒野を進みながら、エレクの言葉の意味を吟味する。

 今、ここで。桃子が分からないことをエレクに聞いても、それには意味がない。

 いや、考えるまでもなく、その理由を桃子は察していた。

 だって、この場所は――。

 

『そりゃそうだよ。だってここにいるエレクちゃんは、モモちゃんの見てる夢だからね! 夢だからね!』

 

「そうだよね。ここは、私が見てる夢。それで、あなたは――私の記憶がつくり出した、夢の中だけのエレクちゃんなんだね」

 

『ケラケラっ、その通り。だから、モモちゃんが知らないことは、夢のエレクちゃんにも答えられないの! 答えられないの!』

 

 ここは、夢なのだ。桃子が見ている夢の中なのだ。

 思えば、ニライカナイでの冒険のときも、エレクと共にこの平原を歩いた桃子は、ベッドで眠る桃子の見ていた夢だった。そこを再びエレクと夢の中で歩くとは、不思議な因果だと思う。

 しかし。

 残念ながらこの夢は、ニライカナイに魂だけで出向いたあの冒険とはわけが違う。ここは文字通り、眠る桃子が見ているだけの、一夜の夢なのだ。

 そして言うまでもなく、目の前で話している雷の妖精もまた、夢の産物だ。桃子の記憶を元に再現しているだけの、一夜の夢の住人だ。彼女は決して本物のエレクではなく、過去のことなど聞いたところで答えられるわけもない。

 

「せっかくエレクちゃんと再会出来たと思ったんだけどな。ここは、私が見てる夢なんだねえ」

 

『でもね! きっと、本物のエレクちゃんがいたとしても、同じことを言うと思うんだよね。だから、言っていい? 言っていい?』

 

「うん?」

 

 夢のエレクは、真っ直ぐな瞳で。

 ビリビリと、相変わらずの紫色のスパークを纏いながら、桃子の目を見つめて。笑いかける。

 

『モモちゃんなら、どんな問題でも、どんな謎でも、どうにでもなるよ! だから――頑張ってね! 頑張ってね!』

 

「……うん、そうだね。何がなんだかわかんないけど、頑張るったら頑張るよ。だから、見守っててね、エレクちゃん」

 

『うん、モモちゃん。"またね"!』

 

 そして、夢は覚め、世界は明るくなっていく。

 

 もしかしたら、ベッドから起きたらもう、この夢のことは忘れてしまっているかもしれない。

 けれど、それでも。

 妖精たちの、今はもういないはずの長女と。共に冒険をした、勇者パーティの戦友と。互いに笑顔を見せ合って。

 二人とも、最後までずっと、手を振り合うのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

【ルゥと「大切なこと」】

 

 

『ヘノねーさま、ヘノねーさま! カレー! カレー!』

 

「ヘノはカレーじゃないぞ。カレーは桃子だぞ」

 

 房総ダンジョン第一層『森林迷宮』。ヘノがこの森の上空を飛んでいると、何やら騒ぎながらヘノに追いすがる存在がいた。

 それは、その背に氷の翅を持つ、氷の花の小妖精。そしてその中でも格別に特異な存在、ルゥである。

 普段はドワーフとともに房総ダンジョンで生活しているルゥが、ヘノを見つけてまっすぐに飛んできたのだ。

 

『あのね、ハンバーグ! ソーセージ! 美味しい、よ!』

 

「そうか」

 

『それとね、ぽていとうも! 美味しい、よ!』

 

「なんだそれ」

 

 ルゥは、この世界に生まれ落ちた際に桃子の因子を多く引き継いでしまい、口を開けば「カレー!」しか言わないおかしな妖精だった。

 だが最近は、口を開けば「カレー!」「ハンバーグ!」「ソーセージ!」「ぽていとう!」ばかり言う、以前にも増して本格的におかしな妖精となっていた。房総ダンジョンの探索者に影響されて変な言葉を覚え始めてしまったようだ。由々しき問題である。

 

 けれど、ヘノは知っている。

 彼女はまもなく『自我』を持ち、ヘノたちに続く、成長した『妖精』と進化するべき存在だ。その日はきっと、間もなく訪れるはずなのだ。

 

「お前。ちょっとそこで静かにしてみろ」

 

『静か? 静か? しーん』

 

 ヘノは面倒くさそうにしつつも、そっとルゥの体に手を当てる。自分の魔力をルゥに流し込み、互いの魔力を共鳴させる。

 

「やっぱり。他の氷妖精よりも。だいぶ魔力が育ってるな」

 

『魔力? 魔力、育つ?』

 

 そして改めて確信する。

 夜な夜な摩周ダンジョンで遊び回っている他の氷妖精の姉妹たちと比べても、ルゥは明らかに、大きな成長を見せているのだ。

 けれど、その言動はまだ幼いままで、いつまでたってもこれ以上の『成長』を見せないルゥに、ヘノは内心やきもきしていた。

 今現在、強い自我により成長した妖精たちのなかで、ヘノより後に生まれたのは水の妖精であるニムと、火の妖精のフラムだけだ。

 そこに新たな妹が加わるというのは、普段は他者に無頓着なヘノにとっても、重大な出来事なのだ。さすがに、そればかりは無頓着ではいられない。

 

「まったく。お前。いつになったら。成長するんだ?」

 

『成長? カレー食べたら、成長、する?』

 

「カレーでも成長するかもしれないけどな。ええとな。自我っていうのが。必要らしいぞ」

 

『じが? じが、なあに?』

 

「なんだろうな。実はヘノも。よくわからないぞ」

 

 女王や姉たちから、何度も聞いた話だ。自分たちは、より強い『自我』を得たことで、小妖精から成長できたのだ、と。

 けれど、実を言うと、ヘノもその『自我』がなんなのか、どうやって成長したのか、よくわかっていない。

 

『美味しいもの、食べたいな』

 

「そうだな」

 

 妹候補に対して、何か的確なアドバイスをしてやろうかと思ったヘノだったけれど、結局何も浮かばず仕舞いだ。

 ヘノのやきもきも知らずに、気ままにカレーのことばかり考えているルゥをみて、呆れるやら、心配するやらだ。ヘノはここにきて、ルイやクルラという『自分の姉たち』の気持ちを少しだけ、理解出来た。

 

 二人でゆっくり、地面へと降下する。

 降下先は、いつもルゥとドワーフの二人が夜な夜なたき火を焚いている、丘の上だ。

 

「……ルゥ。お前は。ルゥだぞ」

 

『ルゥ?』

 

「そうだぞ」

 

 ゆっくりと降下しながら、ヘノはルゥへと言葉を伝える。

 自我がどうというのは、理屈としてはヘノもよくわからない。けれど、感覚的に。ルゥはルゥなのだと知ってもらうことが、大切な気がした。

 

「ドワーフと過ごして。名前をもらって。毎日ハンバーグ食べて。そんな妖精は。お前だけなんだからな」

 

『ルゥ。ルゥ。カレー。なんだか、難しい』

 

「困ったな。こいつ。肝心なところで。全然わかってない感じがするな」

 

 ドワーフの焚き火跡に着地する。

 少し先の木陰から、ドワーフが静かにこちらを窺っているのをヘノは感じ取る。だからといって、ドワーフに用はないので、ヘノは特に声をかけたりもしない。

 

『ヘノねーさまは『じが』好きなの? 美味しい?』

 

「食べ物じゃないぞ。ヘノは。ヘノだっていう気持ちを。じがって言うらしいけどな」

 

『ルゥは。ルゥなの? みんなは。ルゥじゃないの?』

 

「ルゥは。お前だけだな」

 

 ヘノは、自分より二回りは小さなルゥの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

『ドワーフは。みんなとは。一緒じゃないの?』

 

「ドワーフが一緒にいるのも。お前だけだぞ」

 

『へー。なんか、不思議、だねえ』

 

「こいつ。本当に。肝心なところで。全然わかってない感じがするな」

 

 ヘノとしては、なんとなく『大切なこと』を話していた気もするのだが、しかし目の前のルゥに何か変化があったようには思えない。

 ルゥには比較的優しく接していたヘノも、なんだかそろそろ気持ちが切れてしまい、面倒くさくなってきた。

 

「まあ。お前は。今が幸せなら。このままでもいいのかもな」

 

『しあわせ? カレーのこと? ヘノねーさま、今日はカレー?』

 

「そうだった。お前と話してる場合じゃなかった。桃子を迎えにいかなきゃな」

 

『えー、行っちゃうのー?』

 

 ヘノは、ルゥを放って一人だけ空へと舞い上がる。

 いま、ダンジョンの入り口のほうに桃子の気配を感じるのだ。迎えに行くところでルゥに呼び止められて、うっかり時間を使ってしまった。

 

「おい。ルゥ。あとでちゃんと。カレー食べに。妖精の国に帰ってくるんだぞ」

 

『わあた! カレー! カレー!」

 

 ヘノは最後にちらりと振り返って、カレー好きな妖精に「きちんとカレーを食べに来るように」と伝えてから、桃子の元へと飛び去っていく。

 

 

 

『カレー♪ カレー♪ ドワーフもカレー踊り、踊ろ♪』

 

『なんだ、気づいておったのか……』

 

 丘の上には、即興のカレー踊りを踊る氷妖精と、それを陰から見守る鎧のドワーフの二人だけが残される。

 ドワーフはルゥに誘われて、ぎこちなく『カレー踊り』とやらを踊り始めた。

 その瞳は、娘を見守るような、娘の成長を待ちわびるような。

 生みの『母』譲りの、とても、とても優しいものだった。

 

 なお、二人とも。

 生みの『母』譲りで、踊りはとても珍妙だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間 妖精小咄 了









一週間の書きため期間を頂き、次話は9月22日(月)23時
14章「ドワーフと大樹の女王(仮題)」公開予定です。
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