ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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上高地メープル

 柚花が持ってきてくれたパンケーキを食べた、その日の午後。

 桃子は――大空を飛んでいた。

 

 

 

「うーわー、やっぱり怖いよーっ!」

 

「落ち着け。出る前にきちんと。ヘノグライダーが壊れてないかどうか。確認しただろ」

 

「そうだけど、そうだけど……!」

 

 桃子はいま、ヘノと共に空を飛んでいた。具体的に言うならば、真っ白な布地で作られたパラグライダー――通称ヘノグライダーで、大空を滑空していた。

 高い、高い空の上。下を見ても地面などというものはなく、遥か先まで空が続いている。

 桃子が飛んでいるのは、長野県は上高地ダンジョン第二層、このたび正式に『蒼空』と名付けられた、果てなき空の階層である。

 

「うぅ……も、桃子さんは空から落ちがちですからねぇ……」

 

「全く、空を飛ぶときくらい、もっと静かにしたほうがいいヨ」

 

 桃子が背負った改造リュックからワイヤーロープで結ばれているのは、一反木綿の魔物素材から作り上げた巨大なパラグライダーだ。

 製作当初は、鳥取の砂丘ダンジョンの守護者であるスフィンクスにあてた巨大ブラジャーとして製作された布地だが、今は紆余曲折あり桃子とヘノが空を飛ぶための道具となっている。

 そして、空を飛んでいるのはヘノと桃子だけではなく、その横には水の妖精ニムと緑葉の妖精リフィも同行していた。

 

 何故、桃子が上高地ダンジョンの空を飛んでいるのか。

 それは、このダンジョンで取れる『とある食材』の採取のためである。

 

「桃子。ついでに。でか豆もとっていくか?」

 

「お、お豆も、美味しいですからねぇ……」

 

「待って待って、でか豆はまだ氷部屋にあるでしょ? だから、今日は無視しちゃっていいんじゃないかな?」

 

 上高地ダンジョン第二層『蒼空』には、いくつかの巨大な浮き島が浮かんでいる。ヘノたちは今、そのうちの1つである自然豊かな島の横を通り過ぎたところだ。

 この島にはかつてモジャモジャした遭難者が一人で暮らしており、その時に桃子たちは巨大な豆、通称『でか豆』の存在を知った。

 一粒がハンバーガーのような巨大サイズの豆であり、お腹も膨れ、様々な調理方法でアレンジも可能である。更には、食べると人間独自の気配が薄まり、魔物から襲われにくくなるという、いわば【隠遁】を薄めたような効力のおまけ付きだ。

 そんな優良食材でありながらも、でか豆自体は保存が利く上にいつでも採取可能なので、妖精の国の氷部屋には常に在庫が保持されていたはずだ。

 

「そうだヨ。豆ならいつでも持って帰れるのヨ。目的地はもっと上なのヨ」

 

「そうそう、甘いホットケーキのためだからね、ヘノちゃん」

 

「そうか。甘いもののためなら。仕方ない。急いで上に行くか」

 

「うぅ……メープルシロップ、沢山とれるといいですねぇ……」

 

 桃子たちの行き先は、更なる上の島。氷で覆われた極寒の島が目的地である。

 そして、そこに群生している楓のような樹木から取れる樹液――つまり、メープルシロップが、今回の目的となる素材である。

 何故メープルシロップなのか。それはとても単純な話で、「ホットケーキにメープルシロップをかけて食べたらとても美味しい」と、桃子が妖精たちに聞かせたのが発端だ。

 桃子としては市販品のメープルシロップを指した言葉だったのだが、意外にも、ヘノが覚えていたのだ。過去にこの上高地ダンジョンで舐めた、メープルシロップを更に乾燥させて作り上げた、メープルシュガーというものを。

 そこから話が決まるのは、早かった。

 ヘノと桃子、そして樹液をうまく採取するためのニム、更には樹木の扱いに特化したリフィが桃子に同行し、メープルシロップの素となる樹液を採取することになった。

 その間に、柚花は地上へホットケーキの材料を買いに行くらしい。思い立ったが吉日という言葉があるけれど、スイーツのためならばみんな非常に行動的になるのだなと、桃子は自分のことは完全に棚にあげつつ、しみじみと思うのだった。

 

 

 

 

 時折スカイフィッシュにつつかれて、魔物である黒い鳥が現れたら魔法で撃退し。

 桃子たちは『蒼空』の上から数えて二番目に位置する、氷で覆われた浮き島へと到着した。

 

「ふぁー……やっぱりこの島は冷え込むねえ。同じ階層なのに、島ごとに気候が違うのって不思議だね」

 

「カリンが落っこちたのがこんな場所じゃなくて良かったヨ」

 

 この島は、相変わらずの冷え込み具合だった。桃子は事前に用意していた断熱効果の砂漠ポンチョに身を包み、はぁー、と自分の吐いた息の白さを眺めている。

 この島には、楓の群生地が存在する。ダンジョンの樹木なので、決して地上の楓と同様のものではないかもしれないが、その樹液から甘いメープルシュガーを作りだせたことは間違いない。以前にやって来たときに、ヘノたちとペロペロ舐めたのを覚えている。

 

「よし。じゃあさっそく。木に傷をつけて。汁を奪い取ろう」

 

「うぅ……木には、申し訳ないですけど……ぐさっとやらなきゃですねぇ……」

 

「じー。おまえたちがやり過ぎないように、リフィが監視しておくヨ」

 

「な、なんかプレッシャーだなあ」

 

 本来ならば、きちんとドリルで穴をあけ、そこから専門の器具を使って樹液を取り出すのがメープルシロップの採取方法だけれど、そこは大自然を司る妖精たちの力である。

 以前のときも、桃子が小さくつけた傷跡から、ニムの力で樹液を吸い出したのだ。

 そのときと違って今回は緑葉の妖精が桃子の手元をジーっと眺めているが、しかしやることそのものは以前の作業と大差ない。

 最低限の傷で済ませるつもりではあるけれど、樹幹に傷をつけるところを緑葉の妖精にじっと見られるのは、なかなかのプレッシャーだった。

 

 前にここでヘノたちと樹液を集めたときは、小さなポリ袋に樹液を溜め込み、最終的には指先でひとつまみぶんのメープルシュガーが出来ただけだった。

 その時の学びを生かし、今回樹液を溜め込むのに使用しているのは最大20リットルは入る折りたたみ式水タンクだ。今となってはどこでも水を作り出せるニムという仲間がいるので使用頻度はほとんどないが、ヘノと出会うまでは桃子も探索時には随分とお世話になっていた代物である。水タンクがあるとないで、カレーの作りやすさが違うのだ。

 

「ストップだヨ。これ以上一気にやると、この木が体調を崩しちゃうから、別な木にするのヨ」

 

「わかったぞ。じゃあ。隣の木だな」

 

「ま、まだまだ……入れ物の中身は、いっぱいになりませんねぇ……」

 

 桃子が樹幹に傷をつけて、ニムが樹液の流れを操作してそこから液体を絞り出し、漏斗のついた管を通してタンクへと注いでいき、ヘノはただぼんやり見ている。

 ある程度タンクに樹液が溜まったところで、リフィからドクターストップがかかり、次の木に移動する。その繰り返しだ。

 ニムの魔法で急激に樹液を吸い出すのは樹木への負担が大きいらしく、一つの木からは500ミリリットルいくかいかないかでストップがかかり、なかなかすぐに満タンとはいきそうにない。

 

「まあ、仕方ないよ。本当はこんな一気に樹液を吸い取るようなやり方じゃなくて、時間をかけてゆっくり採取するものだからね」

 

「こっちの木はリフィが治療しておくヨ」

 

「うん、ありがとう、リフィちゃん」

 

 役目を終えた木には、リフィが力を注ぎ込んで治療をしていく。

 こればかりは、緑葉の妖精であるリフィにしかできないことだ。桃子たちはメープルシロップは欲しいけれど、何も楓の木を痛めつけたいわけではないため、リフィが樹木を治療してくれるのはありがたい。

 四人で、そのような作業をひたすら繰り返し――。

 

「そろそろタンクもいっぱいだし、十分だと思うヨ」

 

「本当だ。やっぱり、魔法で樹液を採取できると速度が違うねえ」

 

 そうして、20リットルの楓の樹液がタンクへと注ぎ込まれた。

 普通に地上の楓から同じ量の樹液を貯めようとすれば、一日二日では済まず、場合によっては数週間は必要となるだろう。その作業をものの一時間程度で終えてしまうのだから、妖精の使う魔法の凄さがわかろうというものである。

 もちろん、それだけ急激に楓の木に負担をかけているのは間違いないので、リフィによる樹木へのケアも重要だ。

 

「これだけ汁をとったら。甘いやつも。沢山作れるのか?」

 

「うーん、どうかな。ほとんどの水分は飛ばしちゃうから、意外と量はそんなに取れないかもしれないね」

 

「うぅ……これだけやっても、少ししか作れないなんて……か、悲しいですねぇ……」

 

 桃子はタンクに蓋をする前に、容器の中の樹液の様子を確認する。

 中はまだ、メープルシロップのように琥珀色にはなっていない。色合いはほぼ透明で、液体の粘度も水のようにさらさらだ。恐らく、現段階の樹液をそのまま舐めてみたとしても、ほとんど甘さも感じられないのだろう。

 このさらりとした樹液を鍋にいれ、ひたすら煮詰め、ろ過し、さらに煮詰め――という作業の後に完成するのが、いわゆる甘味料のメープルシロップというものだ。

 

「まあ、量がどれくらいになるかはやってみないとわかんないや。妖精の国に帰ったら、さっそくこれを大鍋で煮込もう!」

 

「ま、前みたいにヘノの魔法じゃ駄目ですかねぇ……?」

 

「さすがに。こんな量を乾かすのは。大変そうだし。嫌だぞ」

 

「シロップが出来たら、ちゃんとカリンのぶんは別にとっておくのヨ?」

 

「じゃあ、ミニボトルにでもいれて保存しておこうね」

 

 日が沈むのが早くなってきた10月だけれど、時刻的にはまだしばらくは太陽は昇っているはずだ。

 今から急いで妖精の国へと戻り、そこから妖精たちの力も借りて制作を始めれば、今日のうちにもメープルシロップは完成できるだろう。

 ならば、善は急げだ。

 

「よし、ヘノちゃん! 急いで帰ろう、任せていい?」

 

「任せろ。桃子を飛ばすのが。ヘノの仕事だからな」

 

 そうして桃子は、ボトルいっぱいの楓の樹液とともに。

 白く大きな布地がヘノの風をうけ、果てなき空へと飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【上高地ダンジョン雑談スレ】

 

 

:スカイフィッシュ釣りを発明した奴は天才だな

 

:なかなか釣れない、コツとかあるの?

 

:俺はゆっくり竿を動かしてたらいつのまにか針に引っかかってたよ

 

:私は動かさずにいたら釣れました。

 

:めっちゃ動かしてたら食らいついてきた!

 

:お前らなんも参考にならんやんけ聞かなきゃ良かったわ

 

:ていてんっかめら

 

:定位ねnカメラ

 

:落ち着け

 

:定点カメラ! 第二層の! すぐ見ろ(URL)

 

:なんもないぞ?

 

:何も映ってないよ。

 

:あー! さっき映ってたんだよ! 下の方の氷の島付近に、大きな白い羽衣が空を飛んでたんだよ!

 

:マジ?

 

:見間違いではなくて?

 

:画面にノイズが走ってさ、何かと思ってみてたら間違いなく空の妖精様だと思う。羽衣がふわっと空を飛んでた

 

:お前の画面のゴミではなくて?

 

:そもそも何で定点カメラ眺めてたの?

 

:無心で空の映像を眺めてただけじゃい! そしたら白い羽衣が、パラグライダーみたいに広がって飛んでたんだよ

 

:変な例え方をやめろw

 

:羽衣をパラグライダー呼ばわりは失礼すぎて草

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