ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ホットケーキと意外な来客

「先輩、今日はあれですね。甘口カレーにエビが合わさって、どことなくエビチリっぽさもあるカレーですね」

 

「えへへ、そう思う?」

 

 柚花がカレーを食べる姿を、桃子がにこにこと何か含んだような笑顔で眺めている。

 テーブルでは、妖精たちも出来たてのカレーを味わっている。

 

「やっぱり。甘口カレーは。うまいな」

 

「お、美味しいですねぇ……あむ、あむ……」

 

「でも、不思議ですね。先輩がいつも作ってる甘口カレーと比べても、どことなく……完成度が高い気がします」

 

「あっ、柚花もそう思う? そうなんだよ、もちろん風味の違いとかはあるんだけど、それだけじゃなくて……なんだか、味わいがいつもより違うんだよね」

 

 今日も今日とて、夕食は女王の間のテーブルだ。

 桃子と柚花の人間サイズの皿、そしてティタニア、ニム、ヘノのそれぞれの小さな器にも本日の『特製メープルカレー』をよそい、皆で一緒に味わっていた。

 結論から言えば、メープルシロップ入りの甘口カレーライスはとても美味しいカレーになった。人によっては甘すぎると感じるかもしれないが、それを考慮に入れても、ヘノにせがまれて頻繁に製作する『ハチミツの甘口カレー』と比べて、どことなく格が上がった感じがする。

 はたしてこの美味しさの秘密はなんなのか、と桃子が首を傾げているところで、柚花が憶測を提示してくれた。

 

「やっぱり、あれじゃないですか? スーパーで買ってきたハチミツと、ダンジョンで採取したメープルシロップの差ですよ」

 

「あ、それはありそう」

 

 ダンジョン食材は、魔力が豊富な分だけ地上のものより美味しい。それは、探索者たちの中では定説となっている言葉であり、そしてそれは真実である。

 そして更に、桃子と柚花が納得しているところに補足を加えたのは、それまで静かに話を聞いていた女王ティタニアだ。

 

「それに加えて、桃子さんの【カレー製作】と食材に含まれる魔力との相互作用が起こり、味わいがうまく引き出されているのだろうと思います」

 

「なるほど、先輩のスキルってそういうやつだったんですね」

 

「へぇー、そうだったのかあ。私ってば、ダンジョン食材の美味しさを引き出してたんだ……」

 

 自分でも知らなかったスキル効果に、桃子は驚いてしまう。とはいえ、驚きはしたものの、カレーが美味しくなるというのなら万々歳だ。

 桃子は、顔の周りをカレーまみれにしてカレーに熱中しているヘノの姿をチラリと見て、嬉しそうに目を細める。

 

「そうだ。今日のカレーに入ってる具材なんだけどね。でか豆が入ってるのは分かると思うけど、一緒に入ってるのエビっぽいのはスカイフィッシュなんだよ」

 

「え、これスカイフィッシュなんですか?! エビじゃなくて?」

 

「ゆ、柚花さんはスカイフィッシュ……食べたことありませんでしたからねぇ……」

 

 この日のカレーの具として入っている具材は二つある。その一つはでか豆だ。氷部屋に保存されていた巨大な豆を、ある程度細かく刻んで鍋に投入しておいたものだ。

 そして、もう一つの具材として入っているもの。柚花がエビと勘違いしていたそれは、スカイフィッシュである。

 カレーの材料を選ぶ際に氷部屋を探していたら、どうやらヘノがどこかのタイミングで上手に捕らえてきたらしい冷凍のスカイフィッシュが一匹、カチコチに凍り付いているのを発見したのだ。

 

「そりゃ、話には聞いてましたけど。これ、ほとんどエビじゃないですか?」

 

「うん、殻はちょっと剥くのが大変なんだけど、中身はかなりエビに近いんだよね。たぶん、スカイフィッシュはエビの一種なんじゃないかな」

 

「そんなことあります?」

 

 スカイフィッシュは、上高地ダンジョンに住まう謎だらけの原生生物だ。

 90年代に、それこそUMA――未確認生物として世界中に広まった噂の生物である。その時代でも「近くのダンジョンから逃げ出した原生生物説」「カメラに虫が写りこんだ説」あるいは「未発見の未知の生物説」などが語られていたらしい。

 なお、正解は一つ目「原生生物説」だったようで、上高地ダンジョンでは常にびゅんびゅん飛び回っている姿が目撃されている。

 

 そのスカイフィッシュは、エビに鶏肉を混ぜたような肉質で、ハーブを思わせる鼻に抜ける風味が特徴的なのだが、カレーに入れてしまえばそれはもうほとんどエビだった。

 特徴的な形状の殻を剥き、香りの強いカレーに入れて煮込んでしまえば、エビとの違いがほとんど感じられないのも無理はない。

 

「だから今日の具材はね、メープル、でか豆、それにスカイフィッシュ――全部が上高地ダンジョンの具材なの。つまり、ヘノちゃんの生まれ故郷のカレーなんだよ」

 

 メープルと合わせる材料に迷った桃子が選んだ組み合わせが、これだった。

 もちろん、このカレーを食べたらヘノの故郷でもある『蒼空』の景色が脳裏に浮かぶなどといった、コテコテの料理漫画のようなことにはならない。

 単に、この組み合わせを選んだのは桃子の自己満足である。一方的なロマンの押しつけである。

 それでも桃子は、故郷の味のカレーを、ヘノに美味しく食べてほしかった。故郷の味を知ってほしかった。

 ヘノが「美味しい」と言ってくれるなら、それだけで満足なのだ。

 

 それまで話を聞いているのかいないのか、黙々とカレーを食べていたヘノが、自分の名前に反応して顔をあげる。

 

「なるほどな。つまり桃子は。ヘノをカレーにしたら。こういう味になるって言いたいんだな」

 

「うぅ……も、桃子さんはやっぱりカレーの魔物……こ、こわい」

 

「全然違うからね?」

 

 桃子の脳内に広がっていた、カレーにロマンを求める思考は、残念ながら妖精たちのヘンテコな発言によって霧散していくのだった。

 

 

 

 

 途中で雑談が脱線したりもしたけれど、メープルの甘口カレーはなかなかに好評だった。

 そしてお腹がある程度満足したら、次はお楽しみのホットケーキだ。甘いものは別腹という言葉があるが、カレーで膨れたお腹だというのに、ホットケーキを前にしたらすぐに食欲が湧き出てくる。

 

「うーん、いい香り。柚花ったら、ホットケーキ名人だったんだね」

 

「手順通りに焼いただけですけどね。でも、喜んでくれるなら作った甲斐がありました」

 

 柚花が焼いてくれたホットケーキは、まるで見本のようにまん丸で綺麗な焼き色のホットケーキだった。

 いくら妖精たちの助力があったとはいえ、火加減調節も難しいかまどの火でここまで綺麗に焼き上げるのは、相当に難しかったはずだ。

 もしかしたら、柚花には【ホットケーキ製作】の素質があるのではないかと桃子は考える。これから数年間、スキルを覚えるまでひたすらホットケーキだけを焼いてもらうのも手かもしれない。そんなスキルが存在するかどうかは知らないが。

 

「桃子。桃子。ヘノのケーキに。メープルシロップをかけてくれ」

 

「あっ、ごめんごめん。じゃあヘノちゃんのお皿借りるね」

 

「たっぷり頼むぞ」

 

 瓶の中から小さなスプーンでシロップをすくい上げ、ヘノの小さなお皿に切り分けられたホットケーキに、トロリとかけていく。

 甘い香りとともにメープルシロップが広がり、そして少しずつ生地に染みていく。

 

「市販品ですけど、バターも買っておきましたよ。やっぱりホットケーキにはバターは欠かせませんからね」

 

 隣では、柚花が小分けにされたタイプのバターをテーブルに載せる。準備に抜かりはない。

 

「うぅ……バターとメープルシロップ……ど、どちらをかければ……」

 

「じゃあ、ニムさんのホットケーキには、贅沢に両方乗っけちゃいましょうね」

 

「う、うわあい……」

 

 ニムと柚花の微笑ましいやりとりに表情を和らげながら、桃子もヘノとティタニアのホットケーキにシロップをかけ、そこにバターをひとかけずつ乗せていく。

 バターそのものはカレー用の材料として桃子が時折買ってきているので、ヘノたちがそれを見るのは初めてではない。

 けれど、ケーキに直接のせて食べるものだとは思わなかったのだろう。ヘノは興味深げに、ホットケーキの上のバターをツンツンとつついている。

 

「うわ、見た目通り、焼き加減も最高じゃん。ふわっとしてて、甘くて、毎日カレーのあとにはこれを食べたいくらい! いっそ、カレーつけて食べたい!」

 

「いつもならツッコミどころな発言ですけど……まあ、喜んでくれてなによりです」

 

 柚花も心なしか、自分の料理を素直に褒められて照れくさそうだ。

 桃子は舌鼓をうちながら、ひょいぱくひょいぱくと、柚花特製のホットケーキを味わっている。

 

「ふふふ……あら?」

 

 妖精サイズのミニチュア食器を器用に使いこなし、ティタニアは皆のやりとりを眺めながらホットケーキを味わっていた。

 だが、ふと。

 ティタニアは食事の手をとめて、まっすぐに顔をあげる。

 

「どうした。女王。食べないならヘノがもらっていいか」

 

「食べます。ですが、その前に――どうやら珍しい来客がいらしたようです」

 

「え、来客ですか?」

 

 女王の皿に手を伸ばそうとするヘノをひょいとつまみあげて、桃子は不思議そうにティタニアをみる。ティタニアは、この女王の間への入り口――光の膜の出現位置をじっと見つめている。

 見ればそこには確かに、誰かがここへとやってくるための光の膜が、ゆらりと姿を現していた。

 

 桃子は考える。

 来客ということは、普段は妖精の国では見かけない相手ということだろう。しかし、ティタニアの落ち着いた様子を見る限り、決して招かれざる相手というわけでもなさそうだ。

 ならばポンコやクヌギ以外の化け狸か、クリスティーナの関係者か。はたまた、先日友誼を交わしたという長崎の英霊たちだろうか。

 

 チラリと横目に見れば、柚花はニムを守るようにして胸元に引き寄せながら、その【看破】の瞳に魔力を込めていた。光の膜から現れようとしている何者かに備えているのだろう。

 

 しかし。

 桃子と柚花の警戒心は、光の膜から聞こえてきた声を耳にして、すとんと抜け落ちた。

 

『カレー! カレー!』

 

 膜からその姿がはっきりと現れるのを待つまでもない。挨拶もなにもなく、一言目で『カレー!』と叫ぶ存在など、桃子は世界で一人しか知らない。

 案の定、声に続いて膜から飛び出てきたのは、氷の花の妖精――その中の異端児、ルゥだった。

 

「ルゥちゃん、どうしたの?」

 

「なんだ。来客って。お前のことだったのか」

 

『ヘノねーさま! あのね、あのね、桃子!』

 

「え? 私?」

 

 まっすぐにヘノの元へと飛んできて、タックルをするようにヘノに抱きつくルゥの姿に気をとられていた桃子だが、そこで何故か出てきた自分の名前に面食らう。

 ヘノに抱きつきながら桃子の名を呼ぶルゥ。彼女は自我が未発達な影響か、コミュニケーションが難しいところがある。

 

 しかし、その疑問はすぐに氷解する。

 ルゥが通り抜けてもなお、光の膜は消えていない。

 そして、ルゥに続いて光の膜から、意外な相手がのっそりと姿を現した。

 

「えっ?」

 

 桃子はつい、驚きの声を上げてしまう。

 そこに現れたのは、全身を鎧に包んだ人物だった。

 それは、長い髭を蓄え、そして身長そのものは桃子同様に小さく、しかし体格は力強くがっしりとした、桃子もよく知る相手だった。

 

『お初にお目にかかる。妖精女王、ティタニアどの』

 

「ええ、初めまして。お話はよく伺っておりますよ、ドワーフさん」

 

 房総ダンジョンに住まう魔法生物。

 桃子が【創造】によって生み出した存在の一人。

 

 ドワーフが――女王の間へとやってきた。

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