ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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中指姫

「ヘノちゃん、何だか大きくなってない?」

 

 朝起きて、枕元のくまぬいの足の間でくつろぐヘノをみたら、少しだけサイズが大きくなっていた。昨夜はくまぬいの足の間にすっぽりはまっていたはずだが、ちょこっとだけ足先がくまぬいからはみ出ているのだ。

 

「ヘノが大きくなったんじゃなくて。ぬいぐるみが縮んだんじゃないか?」

 

「いやいや、いきなり縮まないよぬいぐるみは。ほらヘノちゃん、今までが親指姫くらいだとしたら、今は中指姫ってくらいには大きくなってるよ?」

 

 当のヘノには実感はないのか、桃子の話に懐疑的な反応を見せるが、さすがに一晩でぬいぐるみが縮むことはない。

 確認のために立ち上がってもらうと、やはり目視で確認しても、顔立ちや体形そのものは変化がないのだが、数字にして2センチほど全体のサイズが大きくなっていた。

 親指姫が、中指姫になっていた。

 

「中指って。どれくらいだ。桃子。中指をたててみてくれ」

 

「あー、待って、タイムだよ。ヘノちゃんが言いたいことは分かるけど、それは駄目なやつ」

 

 中指姫だとか妙な説明をしてしまったのが原因だろう。ヘノがとんでもないことを言い出した。

 いや、ヘノとしては自分のサイズを確認したいだけなのだろうが、桃子が中指をたてるのはあまりよろしくなかった。ジェスチャー的な意味で、アウトになってしまう。

 

「何かダメなのか。中指立てるだけだぞ」

 

「わー! それは駄目なやつ、駄目なやつだから覚えないでね!」

 

 中指をたててみせようとするヘノに、そのポーズは駄目なのだと言い聞かせるのが、今朝の最初の桃子の仕事だった。

 

 

 

 

 

「というわけでティタニア様、ヘノちゃんが少し大きくなってるんですけど、これってどういうことなんでしょうか」

 

 妖精の国、女王の間。

 花びらの玉座に座る女王ティタニアは、その背の蝶の羽根を虹色に煌めかせている。

 桃子とヘノは朝食を軽く済ませてから、まっすぐにダンジョンへとやってきて、女王にヘノの変化について報告することにしたのだ。

 

「まあ。それは、ヘノが成長した、ということですね」

 

「女王。ヘノが。中指姫に成長したことは。見ればわかるんだ。桃子は。その理由を聞いてるんだぞ」

 

「あのねヘノちゃん、ティタニア様が言いたいことはそういうことじゃなくて……。あと中指姫は忘れてね?」

 

 ヘノの成長。

 それはもちろん外見がサイズ的に成長したのだが、そういうことではなく。きっとそれは、精神的な面での成長がその身体に反映された、ということなのだろう。

 昨日、ヘノは初めて人間の子供を見た。きっかけは、たったそれだけのこと。

 しかし、それはきっと、ヘノの世界をより大きく広げる大きな転機となったのだ。

 

「よくわからないけど。ヘノはこれで。桃子を守れるくらい。強くなったんだな」

 

「ええ、魔力は上昇しているようですね。しかし慢心してはなりませんよ、ヘノ」

 

「すごい、よかったねー、ヘノちゃん」

 

 口では厳しい言い方をしているものの、女王もやはり嬉しそうだ。

 

「女王。ヘノは。人間のことをもっと。知っていこうと思うぞ。人間は。トゲトゲしている奴ばかりじゃないって。気づいたんだ。トゲトゲしてない子供が沢山いて。桃子よりちっちゃいんだぞ」

 

「ヘノ。それはとても大切な『気づき』ですよ。あなたの目で。耳で。人間を知ることです。その上で……」

 

「その上で。なんだ?」

 

「ああ、いえ。さすがに早急ですね、何でもありませんよ、ヘノ。いまは沢山経験を積むことですよ。私も応援しておりますね」

 

 ヘノの報告に。ヘノが初めて気づいたことに。女王はしっかりと、耳を傾ける。

 何か言いかけてはいたものの、今は静かに応援することを選んだようだ。

 

「わかった。これからも沢山。魔物を叩きのめしてくるぞ」

 

「あの、いえ、ヘノ。そういうことではなくですね……」

 

 果たして、本当に成長しているのか?

 結局最後にはトンチンカンなことを言い出して女王を困らせているヘノの姿を見て、桃子はちょっとだけ、訝しんだ。

 

 

 

 

 

 そして次に訪れたのは、つい先日作られたばかりの広大な畑。

 ここには、例の毒の妖精――ではなく薬草の妖精であるルイが、解毒に使う薬草を栽培してくれているということだった。

 そしてその通り、畑に向かえばそこではルイが植物の手入れをしている最中だった。

 

 明るい緑髪のヘノとは違い、ルイは暗い色合いの、しっとりとした髪色をしている妖精だ。

 彼女は前髪でその顔を半分隠しており、その口調とも相まって陰気な様相となっている。そして彼女の発する光はヘノよりもやや青みがかかっており、所々に紫も混ざった不思議な色合いをしていた。

 顔立ちは、幼く見えるヘノやニムよりも少々大人びて見える。ヘノと並ぶとサイズも少々大きかったのだが、今日からはサイズだけなら大体同じくらいだろう。

 

 

「ルイちゃん、こんにちは」

 

「ククク……桃子くんじゃないか。おや……? ヘノ、なんだか成長したかい……?」

 

「すごいだろう。ヘノは中指姫になったんだぞ。ところでルイ。解毒薬の。調子はどうだ?」

 

「見ての通りだねぇ。この薬草が育つまでは……私も何も出来ないよ」

 

 ルイがいるのは畑の一角、薬草区画だ。

 区画と言っても、桃子が区画整理をしたわけではない。見渡せば、相変わらず樹木も野菜も果物も、妖精たちが好き勝手に植えている。

 

 ただし、薬草の類だけはルイが自主的に植え替えをして、他のものと離れた場所に集めてくれたのだ。

 そうしないと、周囲の植物によっては薬効成分に影響が出てしまうから、とは彼女の談である。

 怪しげな言動に反して、意外ときっちりしている世話焼きタイプなのかもしれない。

 

 そしてその薬草の集まる区画だが、ルイの前には紫色や青色をした、不思議な植物が土から顔を出し、葉を広げつつあった。

 

「これが解毒薬になるのか。見たところ。明日には育ちそうだな」

 

「わー、さすが妖精の国、育つのが早いねえ」

 

 この畑は、植物が育つのがとても早い。

 桃子が畑を見回せば、妖精たちが適当に植え付けた様々な植物がすでに皆それなりのサイズに育っている。

 一部、なんだか物凄い繁殖力を持つ植物の気配がするのだが、後日時間を割いて畑の整理を行った方がいいのかもしれない。

 

「ククク……明日には、調合が始められそうだねぇ……」

 

「うん、ありがとう、ルイちゃん」

 

「……これはまた、桃子くんにお礼を言われるのも、悪くはないねぇ」

 

 桃子がルイの前にしゃがみこんでお礼を伝えると、ルイは気まずそうに視線をそらしてしまう。

 ニムの時もそうだったが、妖精は全般的に人間に慣れていないので、桃子が視線を合わせるとすぐに目を逸らしてしまうのだ。はたして妖精たちは照れているのか、それとも怖がっているのか。

 でもきっと、今回は照れているのだろうと確信し、桃子はほっこりした。

 

「言っておくけど。桃子はヘノの桃子だからな」

 

「ククク……怖い怖い」

 

 ルイをけん制するようにツヨマージを出してシュッシュと素振りするヘノ。

 ただのアピールなのだろうが、仲間内でツヨマージを振り回すのは、やめてあげてほしい。

 

 

「桃子。解毒薬はまだかかるし。今日も。琵琶湖ダンジョンで。人魚姫活動だな」

 

 そうしてしばらく三人で薬草の様子を確認していたのだが、さすがにまだ時間はかかり、桃子たちには手伝えることもなさそうなので、ヘノが移動を提案してきた。

 人魚姫活動。つまりは昨日と同じく、琵琶湖ダンジョンで探索者たちに存在をアピールしよう、ということだ。

 

「そうだねえ。出来るだけ多くの人に人魚姫とペルケトゥスが味方だってこと、伝えなきゃね」

 

「聞きたいのだが……人魚姫活動とは、なにをするんだい?」

 

 そんなヘノと桃子の会話を聞いていたルイが、不思議そうに質問を投げかける。

 言われてみれば確かに、「人魚姫活動」という言葉だけでは、意味が分からないのも仕方がない。

 

 桃子とヘノは、昨日の活動をルイにも交互に説明を始めた。

 

 

「んーと、魔物と戦ってる人がいたら、ハンマーで敵を倒しちゃうの」

 

「ヌメヌメした魔物が多いから。滑らないように。桃子が全力で叩き潰すんだ」

 

「破裂したみたいに煤が飛び散るんだけど。そうすると、探索者さんもこっちに気付いてくれるんだよね」

 

「その後。耳元で。人魚姫のアピールをするんだ」

 

「ふふふ。人魚姫ですよ、仲良くしましょうね? って囁くの」

 

 

「……ククク、素晴らしい、天才の所業だねぇ」

 

 ルイも、ヘノと桃子の完璧ともいえる作戦には感嘆の声を上げるしかない。

 

 しかし、そこでふと疑問に思ったのは、誰でもない桃子本人である。

 ルイに昨日の行動を説明してみたはいいものの、改めて言葉にすることで、ん? 何か違くないか? と。今更ながらちょっとした疑問が湧き上がってきた。

 

 人魚姫って、そういうものだったか?

 

 そもそもりりたんが桃子に何を求めているのかは分からないが、確か童話の人魚姫はもっと違うものだった気がしてきた。というか、どう考えても違うだろう。

 

「ねえねえ、人魚姫って、なに?」

 

「なんで桃子が。今それを。考え込んでるんだ?」

 

「いや、人魚姫ってどっちかというと、怪我した王子さまを助ける話であって、ハンマーで大暴れする話ではないなあって思って」

 

「なるほどな。それも一理あるな」

 

 ヘノは昨晩、有名な人魚姫の物語のあらすじを桃子から聞いていた。

 その話の人魚姫は確かに、人間の王子を助けたりしてはいたものの、破壊活動の類はしていなかった気がする。

 桃子が説明を省いただけなのかもと思ったが、そもそもその話には魔物が出ていなかった。

 

「じゃあ。今日は。魔物を倒すだけじゃなくて。怪我人を探し回ることにするか」

 

「ククク……怪我に効く薬草なら沢山育っているから……どんどん使っておくれよ」

 

 それなら、というように、ルイが目の前の薬草地区に入り込み、桃子が見たことのない植物を数株ほど抜き取ってきた。

 緑色の中にところどころ赤い斑点があり、妙に毒々しい印象を受ける植物だ。この区域にあるならばこれも薬草なのだろうが、少なくとも房総ダンジョンでは見たことがない。

 

「毒草じゃ。ないだろうな」

 

「これを潰して飲ませれば……ククク……怪我をあっという間に治すのと引き換えに……悶絶するほど、物凄い苦味があるだけの、普通の薬草さぁ」

 

「それなら問題ないな」

 

「問題ない、のかなぁ……?」

 

 悶絶するほどの苦味とは、一体どういうものなのか。

 少なくともカレーに入れるべき薬草ではないだろう。カレーにそこまでの苦味は不要である。

 

 とは言え、探索者も背に腹は代えられまい。怪我が治るというのならば、苦味があるくらいは安いものだろう。

 桃子は、自分が食べるわけではないのをいいことに、怪我した探索者がいたらこれを食べさせてあげようと、ルイから薬草の束を受け取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【琵琶湖ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:第一層でダンジョンわさびが採れる周期がやって参りました!

 

:あれすぐ採り尽くされるんだよな、お前らどうやって探し出してるの

 

:そらもう、ひたすら渓流を遡ってるよ。

 

:あの階層に渓流いくつあると思ってんだ

 

:また今日も荒ぶる人魚姫が現れたらしいぞ

 

:またか どうなってんだ

 

:(見せしめのように魔物を破裂させて)仲良くしましょうね?

 

:あ、察し。

 

:怖いンゴ

 

:タイミング的には討伐兵器を持ち込もうとしてるのに怒ってる説が濃厚

 

:ギルドが兵器企業と仲良くするのは俺も反対だわ

 

:現地の探索者はそういう意見の人多いですね

 

:深潭宮の主はそもそもそこまで行けない連中にしてみりゃ害はないが、兵器開発の技術開発はダンジョンだけで済まないからな。その技術を何に使うのかっていう話だ。

 

:そういう話は雑談スレじゃなくて討論スレでどうぞ(URL)

 

:わさびの話しよう!

 

:わさびじゃないが荒ぶる人魚姫にやべえ薬飲まされた奴がいたらしい

 

:なにそれ

 

:おそらく毒物 ただし怪我は全快する

 

:どういうスタンスなのか判断難しいなそれは。

 

:中指をたてたら争いがどうのこうのって言ってたらしいが、詳しくは聞き取れなかったようだ

 

:中指たてるて・・・

 

:それだけじゃ具体的な意味はわからんが、しかし意図としては俺ら人間に対する警告なのは間違いないな

 

:遠野は人助け幼女なのに、琵琶湖はどうしてこんなことに。。。

 

:文明を持ち込みすぎたんだよ

 

:人魚姫がライブカメラ見つけたのが発端だしな

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