ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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洞窟キャンプと携帯食

「あれが。探索者たちの。キャンプか」

 

 房総ダンジョン第三層『鍾乳洞窟』。ここは、その名の示すように鍾乳洞で構成された階層だ。

 魔法光はあれど、全体的に薄暗く、じめじめとしている。地下水路が川のように流れており、常に水の音が反響しているのが特徴といえる場所だった。

 その『鍾乳洞窟』最奥。目と鼻の先に、第四層へと降りる巨大階段が口を開いているポイントに、その夜営キャンプは設営されていた。

 

「なんだか。面白いな。洞窟の中で。火を焚いてるぞ」

 

「ヘノ先輩は光ってて目立ちますから、あんまり動き回らないでくださいね」

 

「ヘノちゃん、私の服に隠れない?」

 

「じゃあ。桃子の服に隠れるか」

 

 ドワーフの話を聞いた後、桃子と柚花はそれぞれの相棒を引き連れて、第三層でキャンプ中の探索者たちの様子を覗きにきていた。これは、第四層へと向かうパーティの顔を見ておこうという目的もあるにはあるが、実際のところはただの興味本位の偵察だ。

 暗い洞窟内での焚き火はとても目立つ。桃子のように姿を消せない柚花が探索者たちから見つからないように注意した上での距離を置いた偵察だったが、遠くからでも煌々とした焚き火の炎は非常によく見える。

 

「うぅ……な、何を食べているんでしょうねぇ……?」

 

「あの棒状のものは、エナジーバーっていう食べ物ですね。コンパクトで邪魔になりませんし、栄養豊富で、味もさほど悪くないですよ。今度ニムさんも食べてみます?」

 

「き、興味はありますねぇ……」

 

 遠目に見ると、テントが3つ。おそらくは、サポートとしてここまで同行したパーティが2組と、実際に第四層へと降りるパーティが1組、といったところだろう。サポートのパーティは第四層の奥まで同行することはないが、万一に備えて明日もこの場所で待機する手はずになっているらしい。

 今は焚き火の周りに複数の探索者がおり、魔物の襲来に備えて警戒を保ちながらも、何やらもぐもぐと食べている姿が窺える。

 当然ながら、桃子のように鍋でカレーを作ったりなどはしない。彼らが食べているのは、地上から持ち込んだ携帯食――エナジーバーだ。

 

「ねえ柚花、エナジーバーってカレー味もあると思う?」

 

「どうですかね。チーズ味はよく見かけますけど、カレー味は私も聞いたことないですよ」

 

 探索者用を謳ってはいるけれど、基本的には高カロリー化されているだけで、一般的に流通しているエナジーバーとさほど違いはない。味としても市販品同様、チョコ味やフルーツ味、チーズ味などが主体として出回っている。

 もしかしたら探せばどこかにカレー味もあるかもしれないが、少なくとも主流ではなさそうだ。

 

「よし。桃子。次はハチミツカレー味のえなじーばーを。作ってみるか」

 

「えー? あれってどうやって作るんだろ。あれって種類としてはクッキーなのかな」

 

 いくらなんでも、探索者の食べる携帯食の作り方など桃子にも分からず、首を傾げる。

 手作りのカレー味エナジーバーという響きは魅力的だが、はたして何をどうすれば自作のエナジーバーが作れるのだろうか。レシピサイトを探せば何かしら情報があるのかもしれないなと、桃子は心の片隅にメモしておく。

 

「すみません先輩がた。携帯食についてはまた今度にしませんか? 今はほら、あの人達の様子を見に来ただけですし」

 

「そうだったな。じゃあ。今度作ろうな」

 

「あ、作ることは決定なんだね」

 

 ダンジョン用の携帯食をダンジョンで作る。なんとも狐につままれたような話で、そこはかとなく矛盾を感じなくもないが、しかし新しいことに挑戦するのはやり甲斐がある。

 視線の先で携帯食を食べる見知らぬ探索者たちを眺めながら、桃子はぼんやりと、携帯食のレシピを考えるのだった。

 

 

 

 そうして、しばらくの時間が過ぎる。

 実のところ、キャンプで休息する探索者たちの姿を見に来たはいいものの、何かやることがあるわけではない。

 時折現れる魔物も、キャンプで警戒にあたっているメンバーが対処しているので、桃子たちがことさら何かをする必要もなさそうだった。

 そんな折。桃子がしばし考え込んでから、独り言のように呟いた。

 

「ねえヘノちゃん。私あのパーティ、見覚えがある気がするよ」

 

「気のせいだろ」

 

「いやいや、気のせいじゃありませんから。あの人たち、先輩が前に救助したパーティですよ。おかげであの人たち、ドワーフ教の熱心な信者になってるんですから、顔くらい覚えてあげましょうよ」

 

「そうなんだ? あれかな、ゴブリンに背後から襲われてたパーティかな? ヘノちゃんがおやつ食べながら、ゴブリンを風で転ばしてたでしょ?」

 

「もしかしたら。ゴブリン相手に。へっぴり腰だった連中かもしれないぞ。桃子がおやつ片手に。こっそり何体か倒してあげてたろ」

 

「二人とも、せめてゴブリン退治するときくらい、おやつはやめませんか?」

 

 桃子とヘノが、首を傾げながら思い当たるエピソードを口々に挙げていく。

 桃子たちは、ちょっとした散歩がてらの軽い気持ちで第一層のゴブリンをたたいて回っているので、桃子に――あるいは"謎のドワーフ"に危機を救われたという新人探索者は少なくはない。もっとも、危険性の低い房総ダンジョンのゴブリンなので、実際にはそのまま負けても荷物を一つ奪われる程度で済んだだろうが、本人たちにとっては恐ろしい魔物から救われた記憶であることに変わりはない。

 しかし、いまキャンプにいる探索者たちはそもそも新人ではないし、ゴブリンに襲われていたわけでもなかった。

 

「っていうか、どっちも違いますよ。あそこにいるのは去年の夏頃に落盤事故に巻き込まれて、獣人に囲まれてたパーティ『草薙』の三人です」

 

「落盤事故……? あっ、そんなことあったね! そうそう、その日にヘノちゃんに出会ったんだよ!」

 

「そういえば。そんなこともあったな。ハチミツカレーの日だろ」

 

「うぅ……き、記念の日だったんですねぇ……」

 

「二人が出会った記念日の事件だっていうなら、なおのこと忘れないであげましょうよ」

 

「そっかそっか……見覚えがあるわけだよ。あの人たちの配信に私がうつりこんじゃって、ドワーフ疑惑をかけられたんだもん」

 

 落盤に巻き込まれた彼らを助けた日が、桃子とヘノが出会った日だ。あまりロマンティックな覚え方ではないが、言われてようやく桃子も思いだした。『草薙』というパーティ名も、その時はわからなかったけれど、後ほどネット越しに確認したので記憶に残っている。

 そう、桃子の記憶に強く残っているのは彼らを助けたその時のことではなく、ネットで見た『草薙チャンネル』に残された動画のほうだ。

 彼らの残した配信動画に映り込んでしまった、ノイズまみれの中で動く自分のシルエット。揺れる三つ編みの影。その動画につけられたトンチンカンな考察にて、自慢の三つ編みを『立派な髭』と言われてしまい、かなりのショックを受けたのを思い出した。

 とはいえ、その動画こそが魔法生物である『ドワーフ』の生まれるきっかけとなっているため、文句を言えばいいのか感謝すればいいのか、桃子の心境は複雑だ。

 

「あいつら。大丈夫なのか? たいして強くもない獣人相手に。ピンチになってたろ」

 

「どうなんでしょうね。昨年のあれは、魔物じゃなくて落盤事故でピンチになってた感じでしたから、強さに関してはなんとも言えませんね」

 

 一方、その出来事を思い出したヘノは、彼らの力量に疑問を抱いているようだ。

 第四層どころか、第二層でピンチになっていた探索者パーティなのだから、ヘノが疑問に思うのも仕方がない。

 今のやりとりを聞いていた桃子ですら、心の片隅で『あの人たちが第四層なんて大丈夫なのかな』と、彼らには悪いけれど疑問に思っているほどだ。

 けれど、そこに声をかけてきたのは、まさに彼らのお陰でこの世に誕生した、ドワーフその人だった。

 

『ヘノどの。彼らは、この房総ダンジョンにおけるパーティの中では、上位に位置する強さだよ』

 

『魔物、退治してた、よ!』

 

「ドワーフさん、ルゥちゃん」

 

 どうやら、ヘノの言葉が聞こえていたようだ。ドワーフは傍らに自分の武器である巨大なハンマーを降ろし、視線を件のパーティ――『草薙』へと向ける。

 先ほどから姿が見えなかったのは、どうやらこのキャンプ周辺の魔物を退治してまわっていたのが理由のようだ。

 

『さすがに落盤事故ばかりはどうにもならなかったようだが、三人で組めば、彼らはこの房総ダンジョンの第四層も進める実力はある。それは儂も保証しよう』

 

「そうか」

 

『無論、母上や柚花どのと比べれば劣るだろうが……今の彼らには、確固たる目標と、揺るぎない目的がある。だからこそ、彼らは強い』

 

「そうか」

 

「あのさヘノちゃん、ドワーフさんが話してるんだから、もうちょっとさ、リアクションをさ……」

 

 桃子は、いても立ってもいられなくなり、つい横から口を挟んでしまう。

 ドワーフが『草薙』について語り始めた途端、ヘノのリアクションがびっくりするほど薄味になってしまったのだ。本格的に興味がなかったようで、これにはしんみりと『草薙』について話していたドワーフも苦笑を浮かべている。

 

『うーむ、ヘノどのには面白くはない話だったか。すまないな』

 

『面白い話! あのね、あのね、ツヨマージの匂い!』

 

「うぅ……ツヨマージにそんなに匂いがついてますかねぇ……? せ、精霊樹の香りはしますけど……」

 

 そして、横から入ってきたのはルゥである。話の前後関係など無視して、ヘノのツヨマージに顔を近づけてくんくんとその臭いを嗅いでいる。

 横ではニムが不思議そうに首を傾げているけれど、ルゥは何故だかしきりにくんくんと匂いを嗅ぎ続けている。

 

「ヘノ先輩、ツヨマージで変なものをつつきすぎて、何か変な匂いでもついちゃってるんじゃないですか?」

 

「まいったな。帰ったら。洗うか」

 

「あはは。じゃ、今日はそろそろ妖精の国に戻って、ツヨマージを水洗いでもしよっか」

 

 さすがのヘノも、妹分の言葉には少々思うところがあるのかもしれない。ルゥに匂いを指摘され、いつもの鉄面皮が少しだけ困り顔になっているのを、桃子は見逃さなかった。

 すでにもう全員、探索者パーティに関する興味は失ってしまっているし、ここに残っていても出来ることもなにもないし、残念ながら得られるものもなさそうだ。

 けれど、ヘノの珍しい表情を見られたことに桃子は満足し、楽しげに妖精の国へと帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【草薙チャンネル コメント抜粋】

 

 

:明日は第四層だ。頼むから今夜はゆっくり休んでくれ。

 

:サポートついてくれてるパーティには頭があがらん

 

:明日も配信するの?

 

:明日はフィルタかかるから俺のアカウントじゃ見られない どうか、本当に無事に帰ってきてくれ

 

:いくら第四層でとれる素材が貴重だからって、何をそんなに急いでるんだ? 時間かけて条件に合う高ランク探索者にヘルプ頼むんじゃ駄目なのか?

 

:あー

 

:それはなあ

 

:いま、危険な状態なんだって

 

:妹?

 

:たまに三人の会話に出てくる、病気の妹

 

:そうか、余計なこと言ってすまん

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:ところで、多分全員気付いてると思うけど、言っていい?

 

:気付いてるけど、言っていいよ。

 

:どうぞ

 

:カメラが特定の方向向く度に画面にノイズ入るね

 

:はい

 

:ヤマトたちを守ってくださる存在が、そこにいるんだなって

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