ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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打ち上げホットケーキ

「ももたん、大変です。メープルシロップがこれだけしか残っておりませんよ? 予備の瓶などはないのですか?」

 

「うーん、一回の遠征だと瓶ひとつ分が限度だったんだよねえ」

 

 ここは妖精の国、女王の間。

 ここでは現在、りりたん主催のホットケーキパーティが開催中である。ドワーフはすでに房総ダンジョンへと帰ってしまったので、参加者は妖精たちと、桃子を始めとした少女たちだ。

 大量のホットケーキを魔法で温め、各自がメープルシロップやハチミツをかけて好きに食べるその状況は、まさにちょっとしたビュッフェ、あるいは立食パーティである。

 

 そんな中で、メープルシロップをかけたパンケーキを味わっていたりりたんが、桃子にメープルシロップの瓶を見せてくる。

 見れば、昨日は瓶いっぱいに入っていたメープルシロップは、もうほとんど量が残っていなかった。

 一人で消費するだけならばひと瓶でも十分だったかもしれないが、カレーに入れ、そして皆が好き好きにホットケーキにかけていけば、瓶ひとつ分のシロップなどあっという間になくなってしまうのだ。

 

「そもそもりりたん、あなたシロップかけ過ぎなんですよ。もっと自重してくださいよ」

 

「でも、ゆかたん。この量のホットケーキを用意したのはりりたんなのですから、シロップを一番多くかける権利はあると思うのですよ」

 

「用意って言っても、安売りの冷凍ホットケーキじゃないですか。私が焼いたほうが絶対美味しいですよこれ」

 

 卓上に並んでいる大量のホットケーキは、今回の立食パーティに先駆けてりりたんが地上のスーパーで購入してきた、お値段としては安価な代物だ。

 ものとしては冷凍品だが、りりたんくらいの魔法の使い手になれば電子レンジがなくとも、冷凍のホットケーキを食べ頃まで温め直すのは容易いことだった。

 

「ふふふ。では、次の機会にはゆかたんに美味しいホットケーキを焼いてもらいましょうか」

 

「お母様は、昔から甘い蜜を好んでおりましたからね。ホットケーキを沢山食べるお母様も、素敵です」

 

『今のネーレイス様は、黒糖も好きなノヨ。黒糖のシロップは用意されてないのかシラ?』

 

 柚花にクレームをつけられても、りりたんはすまし顔でパンケーキを味わっている。そして、りりたんの左右に並んでりりたんの食事姿を眺めているのは、現女王のティタニアと、その幼なじみである紅翅の妖精ルビィの二人だ。

 りりたんの眷属であるルビィはともかく、いつもはしっかりした女王に見えるティタニアも、母であるりりたんを前にすると判断力が鈍り、ややぽんこつ気味になる。

 

「そういえばりりたんって、私が持ってきた沖縄土産のときも、黒糖味のちんすこうばっかり食べてたね」

 

「まったくもう、そのうち虫歯になりますよ?」

 

 桃子が思い出すのは、様々な種類が目の前にあるというのに、何故か黒糖味ばかりを選んでいたりりたんの姿だ。

 りりたんはもしかしたら、黒糖やメープルシロップのように、シンプルに甘みの強いものが好きなのかもしれない。今もメープルシロップが空になるや否や、しれっとした顔で、今度はハチミツをたっぷりつけたホットケーキを食べている。

 そんなりりたんの姿に、桃子は呆れて苦笑を浮かべるしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

「なんかこれ。くっちゃくっちゃして。味がないな。本当にこれ。ハチミツなのか?」

 

「く、口の中で、噛んでも噛んでも、なくなりませんねぇ……」

 

「ホントだ! こいつ、全然甘くないぞ!」

 

 別の場所では、ヘノ、ニム、フラムの三人がひたすらに、何かを噛み続けていた。

 ヘノたちの横には、先ほど桃子が採取してきたばかりの、結晶化したハチミツのブロックが置いてある。ヘノたちが噛み続けているものは、そのハチミツブロックの一部である。

 

「ふむ……いまヘノたちが噛んでいるものはハチミツではなく、『ミツロウ』というものさぁ。ぺっと吐き出したほうが……いいかもしれないねぇ」

 

「ぺっ。まんまと。だまされたぞ」

 

「うぅ……ぺっ。ハチミツじゃなかったんですねぇ……」

 

「ぺっ! 面白かったけど、なんなんだこれ!」

 

 その様子を眺めていたルイによれば、ヘノたちが噛み続けているのは、いわゆる『蜜蝋』である。

 ハチミツの結晶ブロックは、蜜蝋と結晶化したハチミツが入り交じったもので形成されており、ヘノたちは蜜蝋部分をとって口にしてしまったようだ。

 蜜蝋そのものは、蜂の巣の原料として知られている成分だ。実際に地上のハチミツを採取した場合にもついており、それ自体は決して毒物の類ではない。

 ただ、いくら噛んでもなくならず、そして味もないので、あまり単体で食用にする素材ではないのは間違いない。

 

「あとで。いらないミツロウのところは。分けておかないとな」

 

「ロウって知ってるぞ! ろうそくになるやつだろ! ろうそくをつくろう!」

 

「ろ、ろうそく……ハチミツは、ろうそくだったんですねぇ……?」

 

「ククク……蝋燭も良いけれど、これだけのミツロウがあれば実に良い薬が作れそうだねぇ」

 

 ぺっと吐き捨てたミツロウの残骸を忌ま忌ましく見ているヘノたちとは逆に、ルイはハチミツのブロックをじーっと観察している。

 

「油脂と合わせて軟膏にしてもよし、ミツロウで包んで丸薬にもできそうだねぇ……ククク、やりたい放題できそうだねぇ」

 

「こいつ。また何か。ブツブツ言いだしたな」

 

 どうやらルイは甘いハチミツではなく、甘くもなんともないミツロウにこそ、興味を持っているようだ。

 ヘノたちは、興奮気味のルイに変なものを見るような視線を向けたまま、今度はしっかりと、甘いハチミツ結晶をそれぞれの口に頬張るのだった。

 

 

 

 

 

 立食パーティ会場となった女王の間には、四人の人間がいる。桃子、柚花、りりたん。そして、檸檬。

 尾道ダンジョンの弓使いである檸檬は、今まさに。妙な妖精に絡まれていた。

 

「この大弓は、なにかすごい力を感じるね。さては、かなりの年代物なのでは、ないかな?」

 

「いや、新調したばかりなんだけど……ああ、でも魔女様がくれたこの魔石の効果で、不思議な力とかがあるかもしれないな」

 

 中央の、言動がおかしげな妖精の関係者の輪から少し離れて遠慮がちにホットケーキを食べていた檸檬の横には、褐色肌をした鍵の妖精、リドルがいる。

 彼女は、檸檬の大弓をしげしげと眺めて、額に手を当てたなんだか賢そうなポーズをとり、先ほどから推理を続けていた。

 

「ふむ。もしや、その魔石は……キミに、絶大なパワーを授けているのでは、ないかな?」

 

「ええと、うん。まあ……シンプルに、魔力タンクとして使わせてもらってるけど……」

 

 檸檬は、困っていた。

 妖精という小さな少女たちは、それぞれ個性はあれど、全体的には無邪気で可愛らしい存在だと認識している。檸檬個人の好悪としても、好ましく思っている。

 けれど、それはそれとして。檸檬はいま、ピンチに陥っていた。この先ほどから絡んでくるリドルという妖精と、どう会話をしていけばいいのかわからないのだ。

 檸檬をここに連れてきた張本人であるりりたんは、檸檬とリドルが二人きりなのを見て見ぬ振りをしている。むしろ、困惑する檸檬の様子をちら見しては楽しんでいるようだ。酷い雇い主である。

 

「魔力タンク……か。檸檬くん、謎は解けたよ。キミは、並の探索者以上に魔力量を必要としているのでは、ないかな?」

 

「ええと、そう……だね。魔力の矢っていう能力を使うと、魔力が空になっちゃうから……」

 

「ふむ、いま、魔力の矢と言ったね? それはつまり――むぐっ」

 

「ごめんねえ檸檬さん、リドルはけっこう適当に言ってるだけだから、あんまり気を遣わなくてもいいんだよぉ?」

 

 ようやく、終わりのないリドルの追究が終了した。いや、厳密に言うならば、新たにやってきた妖精がリドルを黙らせてくれたと言うべきか。

 檸檬への助け船、それは大地の妖精ノン。リドルの親友であり、妖精たちの中でも随一の常識人だ。

 この少々ほかの仲間と比べると豊満な容姿の妖精は、檸檬にとっては救いの女神であった。

 

「適当とは言うがね、ノン。時には、行き当たりばったりの思いつきで指摘してみることも、重要なのだよ? 弓の技術にも言えることでは、ないかな?」

 

「ええと……うん、そうだな」

 

「リドル、檸檬さんが困ってるよぉ」

 

 救いの女神ならぬ大地の妖精の参入で、檸檬は解放された――わけではなく。

 相変わらず、賢そうなポーズのリドルにあれこれと追究されていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、檸檬さん大丈夫かな? 来て早々リドルちゃんの相手なんて、ハードすぎない?」

 

「まあまあ、大丈夫ですよ。彼女、なんだかんだで妖精のこと好きみたいですし」

 

 卓上のホットケーキもなくなってきた頃。

 檸檬の様子に気付いた桃子が助けに行こうと立ち上がるが、柚花に引き留められる。

 言われてみれば、檸檬は困惑しつつもリドルとノンに対してはかなり優しげで、どこか楽しそうですらある。ならば、あれはあれでいいのかな、と、桃子も椅子に座り直す。

 

「れもたんも、楽しんでいるみたいで何よりですね。さて、ももたんとゆかたんは、今宵の立食パーティは楽しんでおりますか?」

 

「今宵っていうか、まだ夕方ですよ? 楽しいは楽しいですけど」

 

「あはは。まあ、カレーがないのは残念だけど、こういう、一仕事したあとの打ち上げみたいなのも楽しいね」

 

 にこやかに笑う桃子の肩には、おなかが膨れたヘノが寄りかかっている。まだ起きてはいるようだが、ほとんどうつらうつらとしているようだ。

 見れば、柚花の膝の上にいるニムも似たようなものだ。

 

「ふふふ。まさにそうですね、これは本日の打ち上げパーティです。そして――」

 

 りりたんの横には相変わらず、妖精女王ティタニアが座っている。ルビィの姿が消えているので、りりたんの中に戻っていったのかもしれない。

 ティタニアは静かに、りりたんの言葉に耳を傾けている。

 

「まもなく訪れる、房総ダンジョンの運命の天秤を選び取る戦いへの――激励会……とも言えますね」

 

 りりたんのほほえみが、怪しげな空気を纏う。

 いつもながらの不可思議な言い回しだったけれど、彼女はいま、聞き捨てならないことを言った。

 りりたんの気配の変化に、周囲の妖精たちも静まる。檸檬やリドルですらその変化に気付いたようで、りりたんへと視線が集まる。

 

「運命の天秤……って、ええと、どういうこと?」

 

「激励会ってどういうことですか? 隠し事なしで、きちんと説明してください」

 

 桃子と柚花が問いかける。

 激励会。それは、これから訪れる困難に向かうべく、文字通り"激励"の意味で開かれる会合だ。桃子たちの怪訝な視線をうけて、りりたんは言葉を続ける。

 ティタニアは、神妙な顔で聞いている。おそらく彼女は、りりたんの言うことが分かっているのだろう。

 

「ふふふ。結論から言いますと――房総ダンジョンに間もなく、特殊個体が発生する予兆があります」

 

「え……?」

 

「あなた方の所属する房総ダンジョンが、大きな戦いの場となるかもしれません。守護者として、戦いますか? 戦いませんか? 桃子さん、柚花さん」

 

 りりたんの――いや、ネーレイスの紡いだ言葉は。

 楽しげなパーティの余韻を、冷たく吹き飛ばすような。ダンジョンというものの現実を、突きつけるような。

 そんな、言葉だった。

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