ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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仲間あつめ

「桃ちゃん、ほら。昨日は大活躍だったみたいですねー」

 

「へ? 私が……大活躍? ふぇ?」

 

 月曜日。桃子が工房へ出勤すると、同僚の和歌がさっそく声をかけてきた。

 しかし、房総ダンジョンのことが頭から離れず、心ここにあらずだった桃子にはそれがなんのことだか分からず、なんともぽやっとした返答をしてしまう。 

 

「ほら、もうまとめ記事が出てますよー?」

 

 まだ三割ほど心ここにあらずの桃子の手を引き寄せ、和歌は自分のデスクのモニタを桃子に見せる。

 そこに表示されているのは、ダンジョン関係の記事をまとめているサイトらしく、画面の上部には大きな文字で目立つ見出しが書かれていた。

 桃子がまだぼんやりした頭のまま、見出しに視線を向けると、そこには――。

 

【房総ダンジョン第四層『大樹の根』の奇跡 やはりドワーフと妖精は実在した!?】

 

 房総ダンジョン。ドワーフ。妖精。

 画面に記されている非常に聞き覚えのある単語の羅列に、桃子の脳味噌は、急速に覚醒を果たす。

 

「え、あっ! うわ、うわっ! み、見つかっちゃった?!」

 

 桃子は、そのセンセーショナルなタイトルを見て言葉を失ってしまう。ドワーフと妖精がとうとう人々に見つかってしまったのかと、一気に脳内で警報が鳴る。

 ドワーフは桃子と同じ【隠遁】に近い能力を有しているし、妖精たちも見知らぬ人間たちや、あるいは配信者のカメラには十分気をつけてくれていた。だから、桃子は安心しきっていた。

 けれど、もしかしたら、もしかしたら。彼らがどこかでうっかり人々の前に姿を晒してしまったのではないかと、桃子はパニックに陥る。

 

「ああ、落ち着いてくださいね、桃ちゃん。タイトルは目を引きますが、何も見つかってなんていませんからねー」

 

 しかしそこはさすが、桃子の母を自称する和歌だ。

 目の前の少女の脳内パニックをすかさず察し、優しく桃子を抱き寄せる。その背中をぽふぽふと撫でて、母性を以て桃子を落ち着かせる。

 和歌のぬくもりと、いつもの同僚の香りに桃子もようやく理性を取り戻し、今の状況の照れくささで目を泳がせつつ身を離す。

 

「す、すみません。つい慌てちゃって」

 

「あくまで記事の中身は『草薙』の三名が無事にハチミツをとってきたという話です。探索の最中で何度か遭遇した、まるで誰かが彼らを守っているのではないかという現象の数々が、ドワーフと妖精の力なんじゃないか、と考察しているだけの記事ですねー」

 

「私、ヘノちゃんが『探索者を殺しにかかる凶悪妖精』だとか糾弾されているんじゃないかって、うっかり心配しちゃいました。よかったあ、バレてなかったあ……」

 

「……」

 

 和歌は笑顔のままで、ノーコメントに徹することにした。

 知らぬが仏、聞かぬが花。彼女は知っている。この世界には、わざわざ問いたださない方が良いことも沢山あるのだ。

 そして、このような時は、話を変えるに限るということも知っている。

 

「……ちなみにですけれど、『草薙』のどなたかの妹さんは原因不明で危険な状態だったようですが、その『ハチミツ』で無事に目覚めたらしいですねー?」

 

「え、あ……そういえば、そういう話でしたね。そっか、女の子が助かったんだ……」

 

 正直なことを言えば、桃子は『草薙』の三人がどうしてダンジョンを目指していたのかは、軽くしか聞いていなかった。

 なので、危険な状態だった妹がいるという話も今はじめて知ったのだけれど、決してそれは……嫌な気はしない。

 あまり意識はしていなかったし、いまひとつその実感はない。それでも、見知らぬ少女の命を救う手助けができたのだ。

 それはとても光栄で、嬉しいことだと桃子は思う。

 

「ふふ、桃ちゃんが救った命です、よく頑張りましたね、桃ちゃん」

 

「あわ……」

 

 そして再び、和歌に抱き寄せられる。この会話だけで和歌に抱き寄せられるのは二回目だ。

 沖縄にて共に強大な魔物と共闘して以降、和歌は桃子に遠慮が無くなってきている。柔らかく良い香りの同僚に抱き寄せられるのは嫌ではない。嫌ではないのだが、何故だか柚花に申し訳ない気持ちがわき上がる。

 しかし、そんな桃子の困惑を余所に、和歌は桃子に小声で囁くように質問をする。

 

「それで、先ほどは随分と考え事に没頭していましたけれど、今は何を悩んでいるんですかー?」

 

「ええと……その……まあ、和歌さんならいいかな。特殊個体の話なんです」

 

「……桃ちゃん、その先は応接室で伺いましょうか?」

 

 和歌は、いつものように笑顔で応対してくれている。

 けれど、桃子の口から『特殊個体』という言葉が出たときに、彼女の纏う空気は――歴戦の探索者のそれへと切り替わる。

 いまの日本において。まさにこの柿沼和歌こそが、特殊個体というものの恐ろしさを、残酷さを。一番良く知っている探索者の一人なのだから。

 

 

 

「――っていうわけで、妖精のみんなと討伐する作戦があるんです」

 

 工房の応接室。和歌がどう説明したのかは分からないが、どうやら一時的に桃子たちが応接室を利用することを、親方と所長も了承してくれたようだ。

 備え付けの簡単なお茶を二人分用意して、桃子は昨日のりりたんの語っていた内容を、和歌にも一つずつ説明していく。

 第四層の魔物たちのバランスが崩れ、女王アリが特殊個体へと変貌するのが時間の問題であること。女王アリを倒しても、瘴気が今度は女王蜂に集まるだけなので、倒すならば二体同時に倒さねばならないということ。

 そして、その同時討伐作戦が、水面下で動き始めていること。

 

 そのときに立てられた作戦はりりたんの意向により、まだギルドには報告すらしていない。

 人間たちが動くと、逆に魔法生物たちは動きにくくなる。それは桃子にも理解はできるし、仕方ない部分はあるだろう。けれど、魔法生物に理解のあるギルド職員たち――杏やヤマガタにもその情報を秘密にしているのが桃子にとっては心苦しく、悩みの種の一つだった。

 今ここで、それらの話を同僚である和歌に全て伝えたことで、心の中に抱え込んでいた重荷が少しだけ軽くなったのがわかる。

 

「なるほど、女王アリと女王蜂、ですか」

 

「でも、どっちも特殊個体ではないので、倒すのは大丈夫なはずなんです。今までも、そういうのって結構倒してきましたし」

 

 桃子の脳裏にまず浮かぶのは、吉野ダンジョンで倒した異形の大巨人だ。

 手下の魔物――ニンゲンたちには幾度かしてやられた桃子だったが、大巨人自体は桃子のハンマーの力押しで、どうとでもなる相手だった。

 だが。桃子のそのような油断は、探索者の先輩である和歌は、決して許してはくれない。

 

「……桃ちゃん、その日時が決まったら、私にも連絡をください。私は強いんですから、頼ってください」

 

 強く、桃子を見つめる。

 一度探索者を引退してからは、心にゆとりを持ち、桃子と会話するときはどことなく間延びした雰囲気の『和歌お姉さん』として接してきた和歌だ。

 けれど、今の和歌は、探索者の和歌である。ヒカリたちと死地をくぐり抜けてきた、そして特殊個体『鵺』を一人撃退し続けてきた、歴戦の魔法使いだ。

 

「あの、でも……その、和歌さんが、一番相性の悪いタイプのダンジョンなんですけど。大爆発を起こしたら、あちこちが崩落しちゃう感じで……」

 

「もちろん、そんな場所で【フレアバースト】は使いません。でも、初級の【ファイアボール】だけでも私は戦えますから。並みの探索者よりも、力になれると自負していますからね?」

 

「じゃ、じゃあ……ええと」

 

 桃子の頭の中で、ミニ桃子たちの簡易会議が行われる。

 人間側の介入をなくし、魔法生物たちが自由に動けるようにするという、りりたんの意図がある。その上で、和歌に伝えることの是非。

 しかし、会議をするまでもなく、ミニ桃子たちは全員が『賛成』の意思を掲げる。

 そもそも、桃子の事情を全て知っており、妖精の長女エレクのパーティ仲間であり、そして、滅茶苦茶に強いのだ。ここで頼らない理由がない。

 

「わかりました! 詳しく決まったら、連絡します!」

 

 桃子は、だから。

 満面の笑みで、最強の魔法使いを仲間に引き入れるのだった。

 

 

 

 

 

 そして――この数日の間。

 心強い仲間を引き入れていたのは、桃子だけではない。

 

 

 

 

 

 香川ダンジョン第三層『妖狸の森』に隠された、化け狸たちの里。

 ここには今、水の妖精ニムが単身訪れていた。

 

「――というわけで……うぅ……な、仲間を募っているんですよぉ……」

 

「やれやれ。あの嬢ちゃんたちには恩があるからのう。うちの若い衆を、何人か手伝わせよう」

 

「爺ちゃん! ポンも、ポンも行くっすよ! 師匠が困ってるなら、ポンは絶対に駆けつけるっすからね!」

 

 平日なので、柚花はいない。けれど、何度も柚花と共にこの里を訪れているニムは、化け狸たちにとってはお馴染みの妖精だ。

 ニムから伝えられた頼みに、首を横に振る化け狸など、いなかった。

 

 

 

 

 

 山形県に新たに生まれた、蔵王ダンジョン。

 その入り口に今年新たに建てられた、ダンジョンの管理人の住まう小屋では、小さな酒盛りが行われていた。

 

「――そのときは、あなたも協力してくれるわよね♪」

 

「ええ、もちろん。ポンコが戦うのに、父である私が何もしないなんてことがあれば、亡き妻に顔向けできませんよ」

 

「んふふ♪ 化け狸一族の協力があるのは、とても助かるわ♪ それに……」

 

「ウワバミ様の頼みを俺が断るわけがないじゃないですか。あなたの弟子として、当然、行きますよ」

 

「俺も行きますよ! 妖精の子たちにも、桃子ちゃんにも、返しきれないほどの恩がありますからね!」

 

「話を聞いた上で行かないという選択肢はありません。わたくしも、お手伝いいたしますわ」

 

「うれしいわ♪ 皆が来てくれるなら、とても頼りになるわね♪」

 

 この地に住まうのは、化け狸の父。そして、妖精達とも縁の深い探索者パーティ、深援隊。

 彼らもまた、仄かな酒の香りと共に、作戦のメンバーとして名を連ねることとなった。

 

 

 

 

 

 桃子の住む千葉県から、遙か遠く。複雑な入り江の地形で構成される、長崎ダンジョン。

 その地に隠された英霊たちの聖堂には、彼らと同じ"死者"である紅い翅の妖精が訪れていた。

 

『――だから、アナタたちにも協力して欲しいのヨネ!』

 

『すまない。力は貸したいが、未だ光の扉の繋がりは弱く、我ら英霊はその地までは影響を及ぼすことはできない』

 

『えー!? がっかりじゃないノヨ!』

 

『だが……我らの"力"の一端は、助けになるだろう。きっと……きっとな』

 

 残念ながら、女王ティタニアと協力態勢をとったとしても、英霊たちの助力は望めそうにはない。

 紅い翅の妖精ルビィは徒労感とともに、その聖なる地を後にする。

 そんなルビィの背中を見送るように、どこか、どこか遠くで。

 静かに、笛の音が響いていた。

 

 

 

 

 

 灼熱の砂漠の奥に隠されし、砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』。

 ピラミッドという通称で知られるその巨大迷宮の奥深くにて、一人の妖精と、この地を守護する魔法生物が向かい合う。

 

「――というわけで、スフィンクスの力も借りたいのでは、ないかな?」

 

『はははははははは! リドルよ、無茶を言うでないわ。力を貸したいのは山々だが、我はこの砂丘ダンジョンからは出られぬ身ぞ』

 

「なるほど。言われてみれば、それもそうだね」

 

『だが、そうだな。或いは、魔を打ち倒すもの。この地に生まれし彼奴ならば――もしかしたら、母の力になろうとするやもしれぬ』

 

「母? なんだい、謎かけかな? なかなか興味深い『謎』だね?」

 

 新たな『謎』とともに。

 各地で、仲間は増えていくのだった。

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