ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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鍾乳洞窟を抜けると

 房総ダンジョン、第三層。鍾乳洞窟。

 

 第二層の坑道ダンジョンを抜けると、巨大な地底湖と鍾乳洞窟の広がる第三層へと続く。

 ここ房総ダンジョンがいくら他ダンジョンより難易度が低いとはいえ、それはあくまで第二層までの話。

 第三層より下は危険な魔物も増え、環境としても決して平坦なダンジョンではないため、娯楽じみた配信者や、経験の浅い探索者が来る場所ではない。

 

 そんな場所に、桃子は踏み込んでいた。

 

「ヘノちゃん、本当にこんな場所に妖精の国への入り口があるの……?」

 

「大丈夫。問題ない。ヘノに任せろ」

 

 先を飛ぶ緑の妖精、ヘノに続いてダンジョンを進みながら、桃子が心配げに声をかける。

 桃子はもっぱら普段の活動は第二層までで、ここ第三層まで降りてくることは滅多にない。

 降りてきたとしても、階層の入り口近くで、何かあってもすぐに上層へ逃げられるような場所を探索するのみだった。

 

 桃子は固有スキルである【隠遁】の影響で、第三層くらいならば問題ない程度に探索が可能ではある。

 とはいえ、この階層まで来ると周囲の雰囲気も暗くなり、他の探索者を見かけることも稀になってくる。

 そして何より、倒す分には問題ないのだが、出てくる魔物がなんだか、苦手なのだ。水のダンジョンらしく、なんだかヌメっとしていたり、どことなく毒々しいものが多いのだ。

 仮にハンマーで倒せたとしても色々飛び散りそうだし、桃子が一人で歩くには少々気味が悪い場所だった。

 

 また、常に水が流れる音が響いているため、魔物が発する音に気付かないことがある。

 これが、静かな坑道だった第二層との一番の違いだろう。

 

 

「まあ、今回に限ってはヘノちゃんがいるし、モンスターについては心配なさそうだけど」

 

 モンスターが出ても、桃子がハンマーを構える前から、ヘノが風魔法でとどめを刺してくれる。

 今も、まるで道端の雑草を処理するかのように、岩の隙間から這い出てきた毒蛇のような魔物が風の刃で切り裂かれ、あっという間に煤となる。

 風の魔力で生まれた存在と自称するだけあって、ヘノは上級風魔法の使い手でもあった。

 

「妖精って、戦わないものだと思ってたよ」

 

「人に見られると面倒だから。人間の居る所で。戦わないだけで。別に。弱いわけじゃあ。ないぞ。こっちだ」

 

「あっ、待って待って! 私は空飛べないってこと忘れないでね!」

 

 起伏の激しい、道ならぬ道を行く。薄暗い中にぬかるみなども多く、宙をスイスイと泳ぐヘノが羨ましい。

 桃子が岩をよじ登ったのを確認したら、ヘノは再び迷いなく進みだした。

 

「桃子。ここ。ここに。妖精の国への入り口があるぞ」

 

 それは、いくつかの岩の上。真っ白い巨大な鍾乳石が見上げるほどの天井から垂れ下がり、巨大な柱となっている空間だ。

 ヘノがその柱へ近づいてその小さな手を添えると、柱の手前の空間に白い光の膜が現れた。

 

「桃子。こっちだ。この光に触れると。妖精の国へと。転移できるぞ。魔物が入ったら困るから。早く。早く」

 

「ヘノちゃんっ、私にはねっ、この段差がっ、キっツイんだよぉ……んしょ! じゃあ、触るよー?」

 

 息も切れ切れに岩をよじ登り、ヘノの言う通りに光の膜に手を当てると。

 桃子の視界が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

「桃子。ここが。ヘノたちの国だ。人間の言うところの。妖精の花畑だ。ヘノから離れないように。注意しろ」

 

「うわぁ……」

 

 目を開くと、そこは一面の花畑だった。

 

 白、黄色、赤、様々な花が咲きほこる小高い丘。空は青く、さわやかな風が吹き込んでいる。

 ヘノと同じようにうっすらと光る妖精たち。そして蝶なのか、それとも妖精の一種なのか、花々の中を綺麗な模様の羽根が舞い踊る姿も見える。

 それが、ずっと先まで、終わりがないのではないかというほど遠くまで続いていた。

 

 まさに、おとぎ話で読んだ花畑。

 

 あるいは、冒険譚で英雄が覗いたという妖精の国が、目の前に広がっている。

 

「すごい、すごいすごい、絵本みたい。ここが妖精の花畑なんだね……!」

 

 感動で駆け出しそうになるが、ヘノから離れるなと言われたばかりなので自制する。

 いったん落ち着こうと、その場で大きく空気を吸い込むと、花々の甘い香りが肺へ広がる。

 

「ヘノが。守っているからいいけれど。人間には毒だぞ。眠り続ける花粉だから。気をつけろ」

 

「げほっげほっ、それを先に言ってよ……!」

 

 まさかの毒だった。

 

「ちなみに。遠くのほうは幻だからな。人間が迷ったら遭難するから。気をつけろ。こっちだぞ」

 

「うう、そんなところなの? ここって……」

 

 意外と怖い場所だった。

 今まで抱いていたイメージをひっくり返すような話を聞かされて、スンとテンションが下がる。

 

 しかし気を取り直して周囲を見渡せば、様々な花々の中上を舞っていた、ヘノと同じような小さい少女たちが近くへと寄ってくる。

 ヘノと同じくらいの妖精もいるが、ヘノより小さなサイズの妖精が大半だ。大きさが力量と比例しているとは限らないにしろ、どうやらヘノは、妖精の中ではそれなりに力を持った妖精なのかもしれない。

 

 しかし、警戒でもされているのか一定の距離からは近づかず、桃子の姿を眺めて遠巻きに妖精同士でひそひそ話をしている。

 

「な、なんとも落ち着かないなあ……」

 

 気恥ずかしくなってきて、少し俯きがちになって歩いていると、先ほどと同じようにヘノが空気中に手をかざす。

 すると光の膜が浮かび上がり、ヘノは先にその光を抜けていってしまう。

 桃子も後を追うように光に触れると唐突に景色が変わり、そこは今までの花畑ではなく、広い石造りの建物の中に立っていた。

 壁にはめ込まれたステンドガラスを抜けて虹色の光が入り込み、何やら彫刻が刻まれた柱を浮かび上がらせている。まるで、中世の王城のようだなと、桃子は思った。

 そして、ヘノの向く先。正面には大きな花が一輪咲いており、その花の中心に座するのは身の丈20cmほどの、明らかに他とは違う妖精。

 

 輝く王冠、白く透き通るドレス、虹色にきらめく羽根。見るからに格の高い姿の妖精が鎮座していて――

 

 ンガ

 

「ようこそ、人間の旅人。私はこの妖精の国の女王、ティタニア。お待ちしておりました」

 

 ングォー

 

「桃子。女王だ。頭をさげて。挨拶しなきゃだめだぞ」

 

 ング

 

「は、はい! 桃子です。ヘノちゃんに連れられてやって参りました。それで、ティタニア様、その……」

 

 ンガァー

 

「……やはり、気になりますよね」

 

「ええ、まあ」

 

「本当は事前に説明をすべきかもしれませんが、この状態では説明も何もありませんね。単刀直入にお願いします。この人間を、どうか人間界へ持ち帰って頂けないでしょうか?」

 

 ンゴゴゴゴ

 

 女王ティタニアの座する花の王座の横には、人間が。

 全身を覆う甲冑鎧を身に着けた大男が、それはもう大きないびきをかいたまま、眠り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!

 なに? 挨拶がワンパターン? 挨拶は定型文だからワンパターンでいいんですー。

 

 

 はいはい、見ればわかると思いますけど、今日はダンジョン配信じゃありません。室内配信ですよー。

 え? サボるな?

 無茶言うな、私はこれでも学生だからね! ダンジョンにそんなちょくちょく行けるほど余裕ないっつーの! 交通費だってかかるんだぞ?

 ほら、女子高生の住まいですよ? カワイイ壁紙でしょ? 寝室? 見せねーよ。

 

 

 今日はねー、こないだの新規さんからいくつか聞かれた質問なんだけど、妖精の花畑事件について、紹介しようと思います。

 ダンジョン界隈のニュースを見ている人は知ってる内容で面白くはないだろうけど、初心者さんに免じて許してあげてくださいね。

 

 妖精っていうのは、それこそダンジョンが地上に出現するよりずっと昔から、色々な国の伝承として語り継がれてきた存在です。それはさすがにわかりますよね?

 時が流れて大ダンジョン時代になると、あくまで民間伝承だった妖精の噂が再燃します。

 

 いや、噂っていうと違うかな。

 

 ダンジョン内で、薄く光る小さな女の子、いわゆる妖精の目撃例が多発するようになりました。

 探索者の中には妖精を探す人、中には妖精を捕まえようと躍起になるタチの悪い連中もいたんですけど、妖精は人間には近づかないし、すぐ逃げる。そして魔法を操るので、探索者は簡単に撃退されちゃう。

 

 最初は、妖精もダンジョンに出てくる魔物たちの一種なんじゃないかっていう人も多かったんだけど、でも妖精に襲われた人間はいないんですよね。

 ああ、自分から襲い掛かって撃退された連中はもちろん別ね。むしろそういう連中のほうが人を襲う魔物みたいなもんだよね。

 中には、妖精と友達になった女の子がいるとか、妖精に力を借りて強大な魔物を打ち破ったとか、そういう真偽も定かではない噂とかもあったけど、ともかく妖精は人間の敵ではない何かであるっていうのは、今では探索者の共通認識になってますね。

 

 とにかく、そういう存在が、ダンジョン内にはいるわけですね。

 

 

 さてっ、これまでが妖精の説明。

 

 んで、「妖精の花畑」事件っていうのは、こっからね。

 

 いまから大体半年くらい前かな? 新規さんも名前くらいは知ってると思うけど、有名探索者パーティ『深援隊』のメンバーが、ダンジョン内で行方不明になりました。

 

 え、どんなパーティか? いや、まあ強いパーティですよ。

 かなり前から活動してるのかな? 私もそんなに詳しいわけじゃないし、詳しく知りたいなら自分で調べてくださいね。

 一応、配信もしてるはずですよ。私みたいに楽しいトークをしながらとか、そういう配信じゃあないですけどね。

 とにかく、日本でもトップクラスのガチの探索パーティ。強い人が沢山いて、年に何回かは深層にアタックをかけていて、踏破実績も結構あるんですよ。

 私みたいなお遊びエンジョイ系探索者とはちょっと違いますねー。

 

 

 話を戻しますよ。

 

 そこのメンバーがいきなり消えちゃったんだって。みんなが見ていない隙に、たった数秒の間に。

 

 でもね、ダンジョン内ではどんな強い探索者でも何が起こるかわからない。魔物にやられたかもしれないし、魔法の罠かもしれない、崖から落ちたり、水流に飲まれたり、どんな理由だってあり得ます。

 それでも仲間はその人を探したの。決してそんなヘマをするような人じゃないって信じてた。

 そんなときに、パーティメンバーの端末に、探している当人からのメッセージが届いた。

 

 

『妖精の花畑に迷い込んだ』

 

 

『きれいだ』

 

 

 それを最後に、その人は結局見つからなかったんだよ。

 今でも、まだ見つかってないんです。その人も、妖精の花畑も。

 

 そういうお話、でーした!

 

 どうだ、怖かったか?

 

 

 実話だよ。

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