ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「そういえばこの前、パーティからはぐれた新人がゴブリンに襲われて、誰かに助けられたらしい。それがドワーフなんじゃないかって」
「ドワーフって、前から噂になってるやつだっけ?『草薙』の配信で姿が映ってたっていう」
「それそれ。それ以前から、謎の存在に助けられたって報告がいくつかあって、人を見守ってる何かがいるんじゃないかって言われてたやつ」
「俺はどっちかというと、森の端っこで発見された投石機の方が興味あるけどな」
「それもドワーフが作ったものなんじゃないか?」
気づけば儂は、房総ダンジョンという場所に生まれていた。
自分では特になんの違和感もなく、いつものように、朝に目覚めた時と同じような感覚で、その地に目覚めていた。
不思議と、初めから様々な知識があった。
儂は、ドワーフと呼ばれるもの。
房総ダンジョンを護る存在として、母上によって生み出されたもの。
『はてさて、どうしたものか……』
儂は、とりあえず。
はじめから所有していた巨大な槌を肩に構え、房総ダンジョンの森の中へと散策に向かうことにした。
儂は、ここの探索者たちを、守護するために生まれてきた。どうして生まれたのかもよくわからないこの身だけれど、それだけは間違いなく儂の誇りであり、喜びだ。
その夜、遙か遠くのダンジョンで、母上が危機に陥っていた。
不思議なことだが、儂にも母上の危機が伝わる。母上がどのような状況にいるのか、うっすらとだが、理解できる。
これがいったいどのような力なのかはわからないが、しかし。
(お願い……誰か、お母さんの味方を、連れて行ってあげて)
儂の仲間……いや、妹なのだろうか。
小さな童女の願いが、儂に伝わってくる。
うむ。言われずとも、だ。
「思うんですけど、多分【天啓】も、房総ダンジョンでサワガニを探せとは言ってないと思うんですけどねえ。せめて、ドワーフか妖精を探しましょうよ」
「妖精か……なんだか、記憶に引っかかるんだがな」
「……お二人とも。サワガニはいいですわ。すぐに水からこちらへ。見つけました」
房総ダンジョンの第三層を、『深援隊』という者たちが歩いている。
彼らは、味方だ。
鎧の人物は、母上に救い出されたという人物だろう。
そして、先頭を進む御仁には、妖精の加護に近いなにかを感じる。彼らならば、母上を救い出してくれるはずだ。
「……頼む。仲間が危険なんだ。戦える人間が足りないんだ。助けてくれ」
母上のパートナーである風の妖精――ヘノどのが、彼らを連れていく姿を、儂は遠巻きに確認する。
今の儂には、彼らを妖精の国へと案内するしかできぬが。
頼んだぞ、深援隊。
事情はとんとわからぬのだが。
房総ダンジョンに、どうやら儂――ドワーフに向けた『ハンバーグ』とやらが、供えられるようになった。
言うまでもなく、儂は『ハンバーグ』など知らぬ。食べたこともない。
しかし……。
「ドワーフさん、俺らの感謝のハンバーグを頂いてください!」
「命を救ってくださったお礼です!」
彼らを救ったのは儂ではなく母上だが、さすがの母上もあの場に捧げられたハンバーグを食べたりはしないだろう。
ならば、儂が代わりにあのハンバーグを食べねば、材料となった命にも、料理を司る人間たちにも失礼というもの。
仕方なく、儂は深夜、探索者が見ておらぬ隙にハンバーグを食すことにした。
『……うまいな』
奇妙なことに、儂はこの食べ物を、ずっと前から好きだったようにも思える。
さっぱりわけがわからんが、儂は何故だかハンバーグには困らない身となった。
こうなると、食器を洗う道具が欲しくなるが……。
自作してみるか。
地上で言う『クリスマス』という日のことだ。探索者たちの集まりも、いつも以上に楽しげな空気が蔓延していた。
その日、大きな荷物を抱えた母上が、柚花どのと連れだって森の中を歩く姿を、儂は遠くから見守っていた。
柚花どのの瞳は儂の姿も見通してしまうため、できるだけ視界に入らぬように気をつける。隠れねばならぬ大きな理由こそないが、わざわざこの存在を強調するものでもないからな。
しかし、その時のこと。
「ドワーフさん、私が勝手に生み出しちゃってごめんなさい。それと、皆を見守ってくれて、ありがとうございます」
母上が、儂にむけて言葉をくれた。
いや、儂がいるのは全く違う遠い場所であり、母上が頭を下げる方向には儂はいないのだが。
しかし、それでもだ。
これが、探索者たちの言う『クリスマスプレゼント』だとしたら、さんたくろーすという存在は、なかなか粋なことをしてくれる。
『こちらこそ、感謝するぞ。母上』
果たして、儂の想いは。感謝は。
母上に、伝わっただろうか。
「おい、コロポックルの動画視たか! なんかやたら可愛いコロポックルが一瞬映ってたよな! 北海道行こうぜ!」
「アホ。俺らがカムイダンジョンなんか行ったら、あっという間に魔物に殺されて終わるぞ」
房総ダンジョンのキャンプ場には、様々な探索者たちがやってくる。
その中にも、噂好きな者たちがおり、彼らはこの房総ダンジョンに脚を運びながら、様々なダンジョンの噂話を聞かせてくれる。
「聞いたか! 砂丘ダンジョンで、メジェド様が目撃されたらしいぞ」
「とうとうあそこ、本当にエジプトになっちまったな」
噂話。
「琵琶湖ダンジョンのライブカメラを一日ずっと覗いてるとな。たまに人魚姫が泳いでるらしいぞ、ヤベーな」
「一日ずっとライブカメラ覗いてる奴の方がやばいだろ」
噂話。
「よかったよー、本当によかった! カリンちゃん、無事に地上に戻ってこれたって! 大空の妖精様のおかげだあ!」
「感動したのはいいけど、手作りカリンちゃん人形はやめろ。さすがに痛々しい」
噂話。
「なんか、五重の塔を下った先で、また骸骨武者に助けられた探索者が出たって話だぞ」
「あそこ、魔物の大半が骸骨の武者だからどれのことかわからないんだよな」
噂話。
「俺の知り合いが、幼なじみがダンジョンで行方不明になったって騒いでて、なんかもう、見てて可哀想でな……」
「そりゃあ、つらいな。ここみたいに、守護者がいるダンジョンばかりじゃないからな」
「でも、そんな幼なじみは実在しないんだよ」
「なにそれこわい」
中には母上も関係している噂もあれば、おそらくは無関係なものも多くあるようだ。
しかし、どうやら母上は、各地のダンジョンで様々な冒険をしているようで、噂として聞く儂も鼻が高い。
儂は、母上が安心して他のダンジョンに脚を運べるように。今日もしっかりと、この房総ダンジョンの平和を維持するとしようか。
しかし、当面の問題は――。
『カレー!』
『それはハンバーグだ。それと、あそこには人間たちがいる。もっと警戒心を持たんか』
『ハン……ハン……グ? カレー!』
ううむ、どうしたものか。
「こんばんは、今はお夜食中ですか?」
『……なんと。後輩どのか。それに、ニムどのまで』
これが、転機というものか。
あの夜、いつものように儂がハンバーグを食べていると、やってきたのは後輩どの――柚花どのだった。
どうやら、やはり、例の「カレー!」ばかり叫んでいる白い妖精は、人間たちの中でも噂にあがってしまっているようだ。
「ほら。ドワーフさんに、ありがとうって、お、お礼を言わないとダメですよぉ……?」
『ドワーフ?』
「こちらの……な、長いひげの、鎧姿の方が、ドワーフさんですよぉ……?」
どうやら、薄々感づいてはいたけれど、白い妖精からは儂は巨大な喋る岩かなにかだと思われていたようだ。
会話が成り立たぬとは感じていたが、岩と思われていたとは思わなんだ。
『ドワーフ?!』
『如何にも、ドワーフだ』
『ドワーフ! ドワーフ! カレー、ありがと』
これが、氷の花の小妖精――のちに、ルゥと名付けることになる妖精と儂が、きちんと互いに会話を交わした、初めての夜だった。
『ドワーフ! ぽていとう! えびふりゃー! カレー!』
『それはぽていとうでもえびふりゃーでもなく、毒キノコだ。儂らなら食べても平気だろうが、本来は食べてはいけないものだよ』
『うえ! 毒! いらない!』
『やれやれ……』
ルゥが、探索者の会話に刺激されて料理の材料に興味を持ったこともあった。もっとも、知識としてはかなり偏っていたようだが。
『ドワーフ、あそこ、ゴブリン! ゴブリン!』
『うむ。キャンプ場を狙っているようだな。探索者たちだけでも倒せるとは思うが……しかし場所が悪いな』
『氷! 氷! ルゥ! 冷たい!』
『なるほどわからん。だが、何かやりたいのだな?』
ルゥが氷でゴブリンを驚かせることで、探索者たちがゴブリンに不意をつかれるのを防いだ日もあった。
思えば、儂がルゥを戦いの場できちんと褒めたのは、あれが初めてだったかもしれん。
『ドワーフ、あのね、これあげる!』
『これは、果実か。では、半分ずつにしよう』
『わーい! ドワーフ、大好き!』
ルゥとの生活は、楽しかった。
これが家族と言うものなのだと、儂はルゥから学んだのだな。
そしてある日。
珍しく、儂は母上と二人で過ごす時間を得た。母上は、あのときの儂がどれだけ緊張していたかなど、知らぬのだろうな。
『儂は、この房総ダンジョンで母上に何かあれば、真っ先に助けにいくよ。護ること。それが、儂の幸せなのだ』
「そっか、そっか……えへへ、なんだかうれしいな」
『儂は、房総ダンジョンの守り神らしいからな。母上も大船に乗った気持ちでいてくれ』
「うん、そのときは……守ってね」
『ああ、約束だよ。母上』
しかし、母上には黙っていたことがある。
儂は、一つだけ嘘をついたのだ。
儂は、探索者たちを大切に思っておる。彼らを守護することに誇りを持っておる。そこに嘘はない。
けれど母上。
きっといまの儂は、母上と、そしてルゥが危機に陥っていれば、探索者たちよりも貴女たちこそを優先してしまうだろう。
だから儂は、守護者失格なのだよ、母上。
「ふふふ。走馬燈でも御覧になっていましたか?」
『……ああ、魔女どのか。無理はせんでくれ。儂はもう、助からんだろう』
母上とルゥに向けて、突如現れた女王蜂が殺意を向けた瞬間には、もう、儂は無意識に母上を突き飛ばしていた。
ルゥを泣かせてしまった。おそらく、母上も泣かせてしまうことになる。
けれど、儂には後悔はない。
儂は、助けたかったのだ。護りたかったのだ。それが成せたなら、儂は――。
「馬鹿なことを言わないでください。このりりたんが、助けますよ。何があろうと」
「んふふ♪ そうよ、せっかく妹が誕生したんだもの♪ 今日は、幸せな日でなくちゃ駄目よ♪」
だが、どうやら運命の女神は、満足して逝くことを許してはくれないようだ。
消えゆこうとする儂の身体に、魂に、濁流のように魔女どのたちの力が注ぎ込まれていく。
これは、大きな穴のあいた鍋に、流れ出る水と同量の濁流をそそぎ込み続け、その間に強引に鍋を修復するような――そのような無茶な治療だ。さすがの魔女どのも、ただでは済むまい。
「ルゥさんの姿は、きちんと見えておりますか? 娘の晴れ姿なのですから、見てあげないといけませんよ」
『そうだ……な』
魔女どのは、彼女からみて孫でもあるルゥを案じてくれているのだろうな。ルゥを泣かせぬように、ルゥの姉妹に、悲しみの影がささぬように。
ならば、儂もここで諦めるわけにはいかないな。
『かたじけない、恩にきる』
「ふふふ。その調子です。諦めないでくださいね」
「ドワーフ、今日のハンバーグ! おもしろい、よ!」
ルゥは、言葉を交わせなくなった儂に、あれこれと伝えてくれる。
「また、ドワーフも食べられるようになると、いいね!」
ルゥは、屈託のない笑顔で笑いかけてくれる。
儂も早く力を取り戻し、せめてルゥの顔についたソースを拭き取るくらいはしてやらねばな。
それに。
(お母さんが、魔物だらけの階層に入っていっちゃったよ)
時折、我が妹とも言える、座敷童子どのの声が聞こえる。
どうやら我らが母上も、相変わらずの冒険をしているらしい。
儂も、ゆっくり休んでいる場合では、なさそうだな。
十四章 ドワーフと大樹の女王 了
活動報告に「十四章あとがき」記事をそれぞれ公開しておりますので、もし興味がございましたら、どうぞご覧くださいませ。