ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 ハロウィンガールズ
パンプキン♪


「ほら柚花、よそ見しないで、まっすぐお店に行かないと、売り切れちゃうよ?」

 

 10月31日、ハロウィン。桃子はこの日、柚花とともに秋葉原の大通りを歩いていた。

 平日なので本来ならば工房の仕事があるのだけれど、この日は柚花の学校が午前で終わるという話だったので、桃子は事前に有給休暇を申請し、柚花とのショッピングに充てていた。

 

「先輩、本なんてそんなにあっさり売り切れたりしませんって」

 

「えー、売り切れてほしいじゃん」

 

「それは先輩の願望じゃないですか。せっかくですから、もっとハロウィンらしいデートを楽しみましょうよ」

 

「んー、それもそっか」

 

 桃子の目的は先日発売したばかりのライトノベル『人魚の姫はボコらない! 深潭宮で静かに暮らしてたら族長になってました』と、同じく同日発売の児童書『モチャゴンと学校の七不思議』の二冊だ。

 本そのものはすでに発売しているのだが、残念なことにタイミングが房総ダンジョンの事件の最中だったので、発売日の購入を逃してしまった。なので、せっかくショッピングに出向くのならばと、桃子は都内の大きな書店でそれらの本の購入を検討していた。一方、柚花の目的はいつも利用している探索者向けのダンジョンショップである。

 とはいえ、柚花の言う通り、この日はハロウィンだ。

 立ち並ぶ店がハロウィンの飾りで華やかになっているのはもちろん、道行く人々の中にもお化けや魔女姿の人々がちらほらと混ざっていて、いつにも増して街並みが楽しげだ。

 個人的なコスプレなのか、はたまた何かしらのイベントに参加でもしているのか、道ゆくハロウィン衣装の数々につい目を向けてしまう。この日ならば、りりたんがいつもの黒いドレスで街を歩いていても違和感がないだろう。

 そんな華やかな日に、よそ見もせずに用件だけ済ますというのは、言われてみれば確かに勿体ないかもしれないなと、桃子もふむりと納得する。

 

「ハロウィンかあ。あ、そうだっ」

 

「何ですか、急に変な包みなんか出して」

 

 そして、何かを思いついた桃子はふと大型電器店の看板の脇で立ち止まり、鞄の中に手を入れる。

 看板のキャラクターが見つめる先で桃子が取り出したのは、折りたたまれた白い紙だった。いや、この場合は『白い紙に包まれたなにか』と表現した方が正しいだろう。桃子はその紙を手のひらに載せて、一片ずつ丁寧に広げていく。そこに入っていたのは――白い粉粒だった。

 

「ちょっと先輩、街中で怪しいものを出さないでくださいよ」

 

「あはは、怪しくない怪しくない。これね、長崎ダンジョンのお塩なの。ほら、イチゴちゃんが言ってたじゃない? もっと長崎の塩を舐めて、って」

 

「ショッピング街で塩を取り出すのも十分怪しいですってば。一応伺いますけど、そのお塩を出してどうするんです?」

 

「これ舐めたら、イチゴちゃんが来てくれるかなって」

 

 柚花は、半ば予想通りだった桃子の返答に、わかりやすく不満げにジトっとした表情を見せる。

 イチゴちゃんとは、桃子の幼なじみである黄色いリボンが特徴的な少女――としての姿を持つ、怪異『ハーメルンの笛吹き』のことだ。

 柚花としても色々と思うところがあり、長崎ダンジョンで初めて出会った際には渾身の平手打ちをお見舞いした相手でもある。彼女に関わる事件が全て解決した今となっては仲間として受け入れているし、彼女が桃子の味方であることも間違いない。

 ただ、それはそれとして。

 今この場に、イチゴに来て欲しくはない。今日が、街中にお化けがさまよい歩いているハロウィンで、イチゴが本物のお化けだったとしても。

 

「やめてください先輩。二人きりのデートになんで笛吹きお化けなんか呼び出すんですか。もうちょっとムードを考えてください」

 

「えー、せっかくのショッピングだし、人数いたほうが楽しくない?」

 

「私は先輩と二人がいいんですよ。船頭多くして船山に上るって言うじゃないですか」

 

「それってこういうときに使う言葉だったっけ?」

 

 船の頭、つまりは船長だ。一つの船に船長が何人もいると余計に指揮系統が混乱してしまい、船が見当違いの場所へ行ってしまうという意味合いの言葉である。

 もちろん、女子が三人集まってショッピングを楽しむことの例えではない。桃子はハテナを浮かべながら首を傾げているが、柚花は桃子の手をしっかりと握ってそんな疑問は徹底スルーの構えだ。

 

「ほら先輩、ダンジョンショップに到着しましたよ。ダンジョン素材もいくつかここで買い取ってもらう予定なんですよね?」

 

「あ、そう言えばそうだっけ。リュックに詰め込んできたんだった」

 

 そして目の前に建つのは、大型の探索者向けのショップだった。

 桃子もさすがにショップ内での飲食はマナー違反という意識があるため、塩は包み直して鞄に戻す。それを見た柚花は二人だけのショッピングを死守出来たことに、ほっと安堵の息をつく。

 以前も柚花と訪れたことのあるこの探索者向けのショップは、ギルドや魔法協会ともしっかりと提携しており、ダンジョン素材をきちんとした査定の上で買い取ってくれるありがたい店舗だった。

 ヘノたちとの冒険で様々な稀少なダンジョン素材を入手できる桃子だが、その中には房総ダンジョンでは絶対に入手出来ないアイテムも多く、余計な混乱を避けるために房総ダンジョンギルド付近で素材を販売するのは控えている。

 都心部で様々な地域の探索者が集まるこの都内の店は、そんな桃子が素材を売るのにちょうど良い場所だった。

 

「ついでに新作のダンジョンアイテムとかも見ていきましょうか。面白いのあればいいんですけどね」

 

「そうだねえ。色々見て、次の宝箱武器のアイデアを私も考えておかないと」

 

「あの宝箱企画、まだ続けてたんですね」

 

「うん。修理した武器はまだ残ってるからね」

 

 この『宝箱企画』というのは、ダンジョン内で拾った廃品武器の数々を桃子が修理し、それに妖精たちが魔法を付与して、宝箱アイテムとして各地のダンジョン内に隠してまわるという、実に手の込んだ遊びである。

 なお、それぞれの武器には桃の刻印が刻まれており、それが後の世では『ピーチアームズ』と名付けられた都市伝説の武器群となることを、今の桃子は何も知らない。

 二人はそのような会話を続けながら、店内へと踏み込んでいく。桃子としてはもっと魔法武器の話を続けたい気持もあったけれど、店内に入ると同時に、頭の中であれこれ考えていたことが吹き飛んでしまった。それだけ桃子にとって衝撃的なものが、目の前にあったのだ。

 

「うわ……」

 

「あの人、もう完全に怪異じゃないですか」

 

 入り口から入るとすぐに、怪異――ではなく、龍宮ダンジョンギルド内の喫茶店のウェイトレス、怪異染みた美女、そして桃子の友人でもあるローラの等身大ポップが、出迎えてくれた。

 そのポップのローラの衣装は、彼女が武器職人をテーマにしたテレビドラマに出演した際の『滝の女神』姿である。もしかしたら、テレビ用のカットをそのままポップに仕上げているのかもしれない。

 なんにせよ、桃子と柚花は、いきなりのローラとの対面に面食らうのだった。

 

「せっかくの女神様だし、手でも合わせておこうかな。なんか縁起もよさそうだし」

 

「確かに、謎の縁起物っぽさはありますね」

 

 本人は怪異染みた美人なので、ポップにも美容効果などが期待できるかもしれない。ローラの等身大ポップに手を合わせたら、二人ともそのまま店内へと入っていく。

 入ってすぐの場所には季節の商品として、探索者用の冬用インナーが並んでいた。必ずしも地上が冬だからと言ってダンジョン内が冬であるとは限らないのだが、どうやら日常的に使用することも視野にいれたインナーのようだ。

 高級なものになると近接戦闘者が身を守るための最新技術が使われているようだが、残念ながら柚花は遠距離魔法がメインで、桃子は近接だが不意打ち特化なので、新技術の恩恵はさほど受けられそうにない。

 そのような、いくつかの新技術グッズを眺めながらも、二人の間では先ほどから変わらずローラについての話題が継続していた。

 

「そういえばローラさんってば、ハロウィンの今日はカボチャのコスプレしてるらしいよ? この前、カボチャの鳴き声について相談されちゃった」

 

「すみません、私の理解力では何を言ってるのかちょっとよく分かりません。とりあえず、その質問に先輩はなんて答えたんですか?」

 

「カボチャならさ、鳴き声は『パンプキン』じゃないかなって」

 

「やっぱり何を言ってるのか分からないですね」

 

 桃子は日常会話の一部のように話しているけれど、柚花には桃子が何を言っているのかさっぱりである。カボチャの鳴き声もよくわからないが、そもそもの段階で、カボチャのコスプレというものが意味不明だ。

 あるいはハロウィンらしく、頭がカボチャで出来ているジャック・オー・ランタンのことかと思ったが、わざわざ『カボチャの鳴き声』などという質問をしてくるのならば本当にカボチャになりきるつもりなのかもしれない。柚花は沖縄の龍宮礁にいる怪異の如き美女を思い浮かべるが、しかし彼女がカボチャになっている姿はどうにも想像がつかなかった。

 ただ一つ柚花が理解出来たのは、今日のこの日。

 遠く龍宮ダンジョンギルドには、語尾が『パンプキン』なカボチャ美女が出没しているということだけである。よくカフェのバイトがクビにならないなとすら思う。

 

「なんだか話をしてたら、カボチャのカレーが食べたくなっちゃったね。ホクホクに柔らかくしたやつ」

 

「カボチャのカレーがあるかは分かりませんけど、あとでいつもの喫茶店に行きませんか? ハロウィンメニューもあるみたいですよ?」

 

「やった! さすが柚花だね、目敏いじゃん。大好き」

 

「私も大好きですよ、先輩。まあでも、今はとりあえず見るもの見たら、素材を売り払っちゃいましょうね」

 

「はーい」

 

 まだダンジョンショップに入って、インナーのコーナーを眺めて歩いただけで、何の用件も済ましていない。

 ローラやハロウィンの話題が嫌なわけではないが、この調子では何もしないまま日が暮れてしまいそうなので、柚花は桃子の手を引き、様々な武具の並ぶダンジョンショップの奥へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ACEROLA撮影チャンネル】

 

 パンプキン♪

 

  ≪パシャ≫

 

 さて、今日はハロウィンよ。Trick or Treat? 見てのとおり、今日の衣装はこのまん丸なカボチャちゃんよ。コスプレというよりも、着ぐるみっていうのかしら?

 本当に大きくて、扉を通るのも一苦労なのよね、この衣装。クローゼットに入らなくて困ってたのだけれど、ギルドの倉庫を使わせてもらえるらしいから、助かったわ。やっぱり最高の環境ね、ここは。

 

 パンプキン♪

 

 でも、さすがにこの格好でダンジョンに入るのは禁止されちゃったわ。仕方ないわよね、この着ぐるみじゃ、魔物に襲われても体当たりしかできないもの。

 

 パンプキン♪

 

  ≪パシャ≫  ≪パシャ≫

 

 見て、ハロウィンの夕暮れ。

 綺麗な海岸を望む、ローラカボチャよ。こんな風景、人生で何度も見られるものじゃないの。カメラでは撮影しているけれど、配信を見ているみんなは、心のシャッターで撮影してね?

 

 パンプキン♪

 

  ≪パシャ≫  ≪パシャ≫  ≪パシャ≫

 

 パンプキン♪

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