ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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超弩級カボチャパフェ

「トリック・オア・トリート?」

 

「……」

 

「あら? 聞こえておりませんか? トリック・オア・トリート?」

 

 人の行き交う大通りで。柚花は口を真一文字に結び、むすっとした顔で黙り込んでいる。

 それは、ちょっとしたトラブルがあったものの、桃子が無事に目的の本を購入して書店を出た矢先のことだ。

 桃子と柚花の正面には、三人の少女の姿があった。

 出会い頭に、真っ先に上記の声をかけてきたのは、無駄に似合っている魔女のローブと三角帽子を被った少女だ。深海を思わせる独特の色合いの瞳で、柚花のことをジッと見つめている。

 また、その左右に立つ少女たちもカボチャのバッジやらなにやら、ハロウィンの街を満喫していることが窺える。

 

 柚花は、自分に話しかけてきた魔女の言葉がまるで聞こえていないかのように完全に無視をして、横に立つ桃子を振り返る。

 

「先輩、今日はハロウィンですから、魔女になりきってる不審な人がいますけど、気にしなくていいですからね?」

 

「あはは、もう、柚花ったら」

 

 桃子は、柚花の横で呆れたように苦笑を浮かべている。

 というのも、言うまでもなく、話しかけてきた魔女はりりたんであり、その横にいるのは檸檬とイチゴだ。三人ともつい先日共闘したばかりの仲間であり、決して見知らぬ不審者などではない。

 もちろん、柚花は相手が誰か理解した上で不機嫌になっているのだが、桃子を始め、檸檬とイチゴもそんな柚花とりりたんのやりとりに、ただただ苦笑を浮かべるしかないのだった。

 

「あのですね先輩。私と先輩のデートの邪魔をする魔女なんて、悪い魔女に違いないんですよ。絶対に、優しい顔しちゃ駄目ですからね」

 

 そして、柚花は桃子に向けて、まるで子供に聞かせるように言う。

 デート云々はともかく、りりたんの性格に難があることを桃子は理解しているので、悪い魔女に違いないと言われると否定ができなかった。

 

「なんですか? ゆかたんは反抗期ですか? この私――りりたんを無視するなど、天が許しても、れもたんとちごたんが黙っていませんよ?」

 

 りりたんは、まるで水戸の御老公が護衛の二人を呼ぶときのように、背後に立つ二人の名を呼ぶ。

 が、背後の二人からの反応はない。二人が黙っていないどころか、二人とも完全にそっぽを向いて黙っている。

 

「……」

 

「……」

 

「ちょっと、二人とも黙らないでくださいよ。あなた方、それでもりりたんチームですか?」

 

 そして、りりたんは背後の二人へと向き、すねたように唇をとがらせている。

 ハロウィンで浮かれているのか、りりたんのテンションは高い。一連の子供じみたやりとりには先代女王の面影はなく、そこにいるのは友人との悪ふざけを楽しむ普通の女子高生だった。

 

「いや、そもそも私ってスズランちゃんの幼なじみとして存在してるから、りりたんチームではないんじゃないかな、って」

 

「まあ……それもそうですね」

 

 りりたんチームから、さっそく一人離脱者がでた。

 

「れもたんは、りりたんチームですよね?」

 

「アタシは今、虫歯が痛くて喋れないんだ」

 

 りりたんチームのもう一人は、会話からログアウトする気満々だ。

 

「え、檸檬さん虫歯なの? 我慢しないで歯医者さん行った方がいいよ」

 

「あー、違うんだよ、桃子ちゃん。今のはこの魔女様を無視するための嘘っぱちでさ」

 

「スズランちゃん、あめ玉あげるよ」

 

「やった! あ、忘れてた、トリックオアトリート!」

 

「ちょっと二人とも、りりたんを無視しないでください」

 

 古来、『女三人寄れば姦しい』などという言葉がある。令和の今となっては社会的な風潮もあり使われる機会の減った言葉だけれど、実際に二人より三人、三人より四人のほうが騒がしくなるのは必然だ。

 りりたんのハロウィンの挨拶に始まり、桃子も含めて雑談の波がバラバラに広がっていき、収拾がつかなくなってきている。 

 

「あーもう! 分かりましたよ、分かりましたから、きちんと会話をしてくださいよ、もう!」

 

「ふふふ。では、とりあえずはゆっくりお話が出来るよう、カフェへと向かいましょうか」

 

 結局、柚花が折れる形でこの場はひとまとまりになるのだった。

 五人揃って向かう場所。それは当初の予定通り、ハロウィンメニューを揃えている、柚花と桃子が気に入っていた喫茶店である。

 

 

 

 喫茶店には、事前に柚花が予約の連絡を入れてくれていた。

 平日なので決して混雑していたわけではないけれど、突然五人で入店して、すんなりと奥の大テーブルへと案内してもらえたのはありがたい。 

 

「なんだかんだ言って、柚花ったら大きなテーブルで予約してくれてたんだね」

 

「……不本意ですけどね。絶対に誰かしらが増える予感はしてましたから」

 

 結論から言えば、柚花はメンバーにりりたんが増えることを初めから視野に入れていた。

 というより、事前に学校で、りりたんからハロウィンの予定とスケジュールを問われたときから、こうなることは確信していたようだ。

 なので、3人以上になる前提で座席のキープをしていたらしい。

 

「ふふふ。柚花先輩は、後輩想いの素敵な先輩ですよ」

 

「こんなときだけ後輩ぶらないでくださいよ、もう」

 

 りりたんと遭遇した際にはむすっとして無視していた割に、なんだかんだで初めから受け入れる準備はしていた柚花の行動に、周囲の視線は生温かくなり、柚花は余計にむすっとした顔つきになる。

 とはいえ、これ以上その話題を続けていると本当に柚花が不機嫌になってしまうため、桃子はさっさと話題を変える。

 というより、桃子としては目の前にあるハロウィン限定メニューの話をしたくて仕方がない。

 

「ねえ! ねえ! 今日はみんなでこの『ハロウィン限定! 超弩級カボチャパフェ』っての食べてみない?」

 

「さすがももたんですね。りりたんもそれを注文しようと思っていたところですよ」

 

 桃子が指さしているのは、ぱっと見で「本気か?」と疑ってしまうような、やたらに巨大なパフェの写真の付いている限定メニューだ。

 昨年の冬に訪れたときには、桃子と柚花の二人でシェアする形でジャンボパフェを食べたけれども、それとすら比較にならないサイズの超弩級サイズである。

 

「え、マジでこれ頼むの?」

 

「怪異の私もびっくりなんだけど……」

 

 檸檬とイチゴが、メニュー写真を見て絶句している。二人も、世の中にはジャンボサイズを売りにするパフェがあることくらいは知っているけれど、そこにあるのはその想像上のジャンボパフェの何倍もある代物だ。

 初めて見るような巨大なガラスの器に、これでもかというくらいに大盛りに盛られたフルーツや生クリームを始めとした具材の数々。写真には、横に比較用の通常サイズパフェも置かれているが、まるで力士と小学生だ。

 ハロウィン限定メニューらしくカボチャをふんだんに使用しているようで、カボチャを使った黄色い層が多い。一番上には、カボチャのモンブランクリームが大胆に飾られている。

 重さこそ書いていないが、キロは軽く超えているだろう。 

 

 しかし、檸檬たちは驚きはしつつも、しかし反対意見というものはない。

 なぜならば、女子は甘いものが大好きなのだ。皆、驚きの中に、わくわくの感情が隠し切れていなかった。

 

「でも私、先輩はカレーを食べるものかと思ってましたよ。ほら、ハロウィン限定のカボチャカレーもありますよ?」

 

「カレーは食べたいけどさ。友達が五人も揃ってるなら、こういうのにチャレンジしたいじゃない?」

 

「まあ、否定はできませんね」

 

 彼女らは、ただの女子の集まりではない。一部特殊な存在もいるが、全員が探索者であり、未知を求めるチャレンジ精神を心に秘めているのだ。

 五人揃ってようやくチャレンジできる頂が目の前にあるならば、チャレンジせずにはいられないのが本音である。

 それには、檸檬やイチゴもうんうんと頷いていた。

 

「それに、カレーはパフェの後でもおいしく食べられるからね」

 

「……」

 

 全員が、黙り込む。

 

「あれ? みんな、どうしたの?」

 

「いえ、先輩は先輩だなって思っただけですよ」

 

 

 

 

 

 そして、特大のバカみたいに巨大なパフェが届けば、全員で写真撮影をしてから、仲良くスイーツタイムだ。

 さすがに巨大なパフェと共に甘い飲み物はきついという意見もあり、全員が紅茶を飲みながらのティータイムである。

 女子が揃えば会話も弾む。ただし、会話の中心が恋愛話でも話題のアイドルでもなく、ダンジョンの無骨な話題の数々なのはご愛敬だ。

 

「それでさ、教会の前で大量の落ち葉を焼いてたら、きっとその煙を何かの信号かと思ったんだね。次々とほかの探索者が――」

 

 イチゴの語る、最近の長崎ダンジョンでの出来事。

 

「その琵琶湖ダンジョンからきた男女の探索者なんだけどさ、スイムスーツっての? そんなの着込んでて、どうやらセイレーンが目当てみたいで――」

 

 檸檬の語る、ここ最近の尾道ダンジョンでの出来事。

 

「そしたらヘノちゃんがさ、『桃子。カレーだ。カレーを感じるんだ』って応援してくれて――」

 

 桃子の語る、妖精たちとの出来事。

 

「あ、そういえばもうすぐミュゲットの文化祭ですけど、檸檬さんは見に来たりはしますか?」

 

「興味はあるけど、アタシの学校も文化祭があるからパス。っていうか、広島から東京の学校の文化祭なんか、普通は行けないからね」

 

「ももたんはもちろん、母校の文化祭ですから覗きにきますよね?」

 

「じゃあ、せっかくだし行ってみようかなあ」

 

 そして、まもなく訪れる文化祭の話など。

 話題が尽きることなく、超弩級カボチャパフェも尽きることなく。

 最終的には、店員が見ていない隙にりりたんが眷属のルビィを呼び出し、皆が食べきれなかったパフェの残りを食べてもらったりして。

 少女たちのハロウィンは、超弩級カボチャパフェの豪快な思い出とともに、温かく過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フルーツ☆タルト所属 カリンの配信チャンネル】

 

 

 ええと、ハロウィンの呪文……なんて言ったっけ? パティシエさんたち、覚えてる?

 あ、そうだ! トリック、トリックだね!

 リンゴちゃん、クルミちゃん。トリック・オア・トリック!

 

『お馬鹿。それじゃあ悪戯しか選択肢にないじゃない。そこはトリートでしょ』

 

『トリックは悪戯、トリートはもてなし、という意味合いですよ』

 

 へー、リンゴちゃんもクルミちゃんも博識だねっ!

 じゃあ言い直すよ、トリック・オア・トリート! 今から悪戯して二人のお菓子を奪い取るぞ!

 

『お馬鹿。それじゃただのハロウィン強盗よ』

 

 え? ハロウィンって、悪戯でお菓子をもらうイベントでしょ? よくニュースでもやってるじゃん、繁華街でコスプレしてる人たちが暴れ回ってるじゃん。

 

『それは格別に悪い例ですから鵜呑みにしちゃだめですよ。カリンさんって、今までハロウィンの日はどうやって生きてきたんですか?』

 

 そうなんだ? 都会のハロウィン怖いなって思ってたけど、あれって違うんだ?

 今までは、家でお父さんとお母さんがお菓子を出してくれるまでくすぐり続けてたけど、他の家はそういうのじゃないの?

 

『ほのぼのしてるけど、やってることは本当にハロウィン強盗だったのね』

 

『カリンさんの家って、なんだか楽しそうですよね。良くも悪くも』

 

『そうね、カリンの奔放な性格は、ご両親の育成の賜物なのね。良くも悪くも』

 

 良くも悪くもってなに?

 まあいいや、じゃあもう一回、ハロウィンやりまーす。

 

 二人とも、トリートメントしないと後悔することになるぞ!

 

『カリンさん、ヘアケアの専門家みたいになってますよ?』

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