ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「父ちゃん! トリック・オア・トリートっす!」
「そうだぞ。たぬき父。とりっくだぞ」
「うぅ……と、とりーとですねぇ……」
「んふふ♪ ハッピーハロウィン、皆でお酒を飲みに来たわよ♪」
ここは山形県に新たに生まれたダンジョンである、蔵王ダンジョン。ヘノたちからすれば『桃の窪地』と呼んだ方が通りは良いかもしれない、その場所の管理小屋だ。
小屋とは言っても、新たに建築されたその建物はライフラインも整った住居であり、管理人たるクヌギが住み込む上では十二分に広い造りである。
それこそ――知人だけで集まってパーティーを開ける程度には。
そしてまさに今。その管理小屋に多くの妖精たちが勝手になだれ込み、無断でパーティーを開催しようとしているところだった。
「ハロウィンのパーティーっすよー? 妖精の皆と一緒に、父ちゃんたちにお菓子を貰いに来たっすよー」
先頭に立ちやってきたのは化け狸のポンコだが、そのあとに続いて風の妖精ヘノ、水の妖精ニム、桃の木の妖精クルラ――と、新しく生まれた末妹のルゥまで、最終的には妖精の姉妹が全員で乗り込んできた。
目的は、ポンコの言葉でも分かるように、ハロウィンのパーティーだ。
トリック・オア・トリートを合い言葉に、この蔵王ダンジョンに常駐しているクヌギや深援隊の顔見知りからお菓子を大量に巻き上げようという、ある意味では強盗じみた集団だ。
「ポンコ、すでに酔っぱらっているね?」
「うわーん、父ちゃんがカボチャに見えるっすよー」
「ポンコ、それはカボチャだ」
たまたまそこに飾られていたカボチャに抱きつくポンコは、すでに頬が朱色に染まっていた。言動もおかしく、明らかに酔っている。
もちろん化け狸である彼女には人間の法律など関係ない。いくら見た目が若かろうが飲酒を禁じる掟などはないし、魔法生物である化け狸はちょっとやそっとの酒で酩酊することなどないので、父であるクヌギもそれを咎めるつもりはない。
しかし例えば、飲んだ酒が「酒を司る神としての側面を持つ妖精が作り出した特殊な酒」だったとしたら――いかに化け狸のポンコでも、場合によっては悪酔いしてしまう可能性がある。
つまり。
ポンコはいま、悪酔い中だった。
「今日は窪地の立ち入りを制限しておいてよかったな」
そして、妖精たちの襲来をうけたその小屋にいたのは、クヌギだけではない。
蔵王ダンジョンの暫定ギルド長であり、深援隊リーダーの風間が、すでに酒が入っている妖精たちの姿を見て呆れたようにぼやいている。
その横では、深援隊幹部である黄金の鎧マンであるサカモトが大きな袋を抱えており、奥の台所では同じく深援隊幹部であるオウカが、缶ビールを片手に、コンロで大きな鍋をかき混ぜている。
「【天啓】で姐さんが言ってましたもんね。収穫祭の夜、聖地にて妖精たちの宴がひらかれる――でしたっけ」
「わたくしの天啓をパーティーの予定を立てるのに使用しないでくださいまし」
「そうは言ってもな」
実は、彼らはすでにオウカの【天啓】で、この妖精たちの到来を知っていた。
なので、事前に大量の子供向けのお菓子を用意しており、鍋ではハロウィンらしくカボチャ料理を作っている。もっとも、料理内容は砂糖醤油味の煮付けで、ハロウィンらしさはあまりない。
「カレー! カレー・オア・カレー!」
初めて訪れる管理小屋でテンションをあげているのは、つい先日新たに自我を得て成長した妖精の末娘、ルゥである。
さすがに成長したばかりの彼女はハロウィンなどというものは理解しておらず、姉たちの言動を真似てそれっぽい言葉を叫んでいるだけだ。
「ルゥ。それではハロウィンというより、ただのカレーさぁ……」
「ルイ! いま、ハンバーグって、言った?」
「ククク、言ってないねぇ……」
ここにいる妖精たちのなかでは最年長となるルイが、いつものように陰気に含み笑いを浮かべながらも、ルゥにとって見知らぬ家電やコンロに近づき過ぎないように引率してくれていた。
持つべきものは、知識豊富な姉である。
「さては、ハロウィンの限定ハンバーグでは、ないかな?」
「リドル、余計に話がややこしくなるから、あっちに行こうよぉ」
「うおお! なんだか燃えてきた! アタシの炎が溢れてきたぞ!」
「やめろヨ。火がついたらどうするのヨ」
あれよあれよという間に、現場はお祭り騒ぎのようになった。
九人の妖精に、ポンコがひとり。小さな少女たちとはいえ、これだけ集まって騒いでいれば、なかなかに壮観だ。
「リーダー、可愛い子たちが沢山いて、まさに桃源郷ですね」
「サカモトお前、よくこの状況でそんなに浮かれていられるな」
風間は先ほどからひたすらに、突飛な行動ばかりする妖精たちのフォローにてんてこまいだ。
普段ならばさすがにもう少しは理性的な妖精たちが、今日に限ってクルラの酒に当てられ、悪酔い状態なのである。全員にしっかり目を配らねばならず、気分は幼稚園の保育士だ。
ついでに言うなら、ときおり妖精たちに紛れて、古めかしいわら帽子を被った少女の姿も見える。噂に聞く自分の遠縁の雪ん子かもしれないが、お菓子を食べているだけで害はないため、風間は気にしないことにした。
「でもリーダー。ハロウィンですし、女の子たちに悪戯されるのはご褒美だと思いませんか?」
「その悪戯でこの建物が崩壊しかねないんだがな」
お菓子をむしゃむしゃ食べているだけのヘノなどはまだ楽なほうで、勝手に管理小屋の壁に魔力回路を作ろうとするリドルや、テンションがあがり火の粉をまき散らすフラムなどは、放置していたら大惨事だ。
主な原因は酒を全員に飲ませてしまったクルラ――ウワバミ様だが、風間はウワバミ様の弟子であり、過去に何度も世話になってきたので、あまり文句も言えない。
頼みの綱のクヌギも、ぐだぐだに酔っぱらった娘の介抱を優先している。
「大丈夫ですよ。妖精の子たちは全員いい子ですし、ルイちゃんやノンちゃんもいますしね。悪戯って言っても――」
話している途中、サカモトが紅蓮の炎に炙られた。
「うわあ! すまん、いびき男! 本当にごめん! テンションあがっちゃって炎がでちゃった!」
「大丈夫だよ、フラムちゃん。俺は魔法に耐性があるから、俺のことならいくらでも炙っていいからね」
「サカモト、お前ってやつは……」
風間は額に手を当てて、呆れたように呟くのだった。
「はい、カボチャの煮付けが仕上がりましたわよ。ハロウィンらしいディナーではありませんが、村のお婆さま直伝の味ですわ」
「カレー! カレー!」
そして、オウカの声がかかると、全員が一斉に調理場へと顔を向ける。
調理場からは先ほどから、妖精たちにはあまり嗅ぎ慣れない『砂糖醤油の香り』が漂っていた。
普段からカレーを食べる機会に恵まれている妖精たちだが、それに反してこのような和風な煮付けなどは食べる機会がなく、全員が少なからず気になっていたのだ。
「んふふ♪ お婆ちゃんの煮物は美味しいのよ♪ 絶品なの」
「んえっ! 食べるっす! 地上の人間が作った料理、食べるっす!」
クヌギの膝枕でうとうとしていたポンコが飛び起きる。
やはり彼女も料理人の端くれという自負があるのか、お婆ちゃんの煮物と聞いてすぐに反応を見せる。うどんについては様々なことを学んできたポンコだが、東北の山村に住むお婆ちゃんの味というのは、滅多に経験できるものではないのだ。
ポンコは一気に酔いから醒め、オウカが火加減を見ていた大鍋へと駆け寄った。
「では、煮物の配膳は手慣れているポンコさんにお願いいたしますわね」
「えへへ、任せて欲しいっす。ポン、料理人っすからね!」
ポンコに大鍋を任せると、オウカはようやく肩の荷が下りたとでも言うように、クルラの横に腰を下ろし。
おもむろに卓上に置かれたコップを手に取り、クルラと乾杯をするのだった。
「なんだこれ。しょっぱくて。甘くて。悪くないな。これが。カボチャか?」
「黄色い、ぽていとう? 甘い、ね!」
「うぅ……で、でも、私たちだけで楽しんでたら、女王様が……さ、寂しいんじゃないですかねぇ」
ポンコが配ったカボチャの煮付けを皆で不思議そうに味わっている途中で、ふとニムが口をひらく。
それは、母である女王ティタニアのことだ。娘である妖精たちが全員で桃の窪地へ遊びに来ているこの時も、ティタニアは妖精の国からは離れられないのだ。
「それはきっと、大丈夫だヨ。あっちは今、親子水入らずだヨ」
「え、えぇ……水いらず……わ、私はいらないっていうことですかぁ……? めそめそ」
「泣かないでヨ。そういう意味じゃないヨ」
緑葉の妖精が、よしよしと水の妖精の頭を撫でて慰める。
親子水入らず。それは決して、水の妖精を不要と断ずる言葉ではないのだ。
妖精の国、女王の間。
普段なら妖精、小妖精たちの誰かしらが訪れているこの部屋には、今は二人の人影ならぬ、妖精影だけがあった。
「お母様、いまあちらで食べている『超弩級カボチャパフェ』というものは、どのような味なんですか?」
「そうですね。甘さと……甘さと、甘さ。時折フルーツの酸味やビターなチョコの苦みもありますが、基本的には甘さの暴力のような食べ物ですよ」
「まあ……」
今、ティタニアは玉座から降りて、食卓の上に腰をおろしている。
そして、ティタニアの横に同じように腰をおろしているのは、黒い蝶の翅をもつ、ティタニアより少しだけ身体が小柄な妖精、つまり妖精りりたんだ。
ティタニアと妖精りりたんは二人で寄り添いながら、目の前に浮かぶ球体をのぞき込んでいる。
ガラス玉よりも透明で、こことは別な場所の風景がそのまま映り込んでいる球体だ。これは、りりたんの【千里眼】の魔法によって作り出されたものである。
その【千里眼】が映し出しているのは、東京、秋葉原の一つの喫茶店の座席の風景だ。
そこには、桃子、柚花、檸檬、イチゴ、そしてりりたん本人が、驚くほどに巨大なパフェをシェアして食べている姿が映し出されていた。
「でも、桃子さんたちだけで、あれ程の量を食べきれますか?」
「ふふふ。案外どうにかなるのではないでしょうか。人間の女の子は、甘いものはいくらでも入るものですよ」
「それは、お母様も含めて、ですか?」
「ええ。天海梨々も、パフェならいくらでも食べられます。別腹、というのですよ」
本来はあくまでダンジョン内の景色を映すだけの【千里眼】だが、今回は本体であるりりたんが魔法の中継地点の役割を果たすことで、ダンジョン内から地上の風景を覗き込むことに成功している。
これは、【分身】と【千里眼】を同時使用出来るりりたんだからこそ許された裏技だ。
時折、怪異であるイチゴがこちらを覗きこむ素振りがみえる。彼女はこの【千里眼】による空間のレンズの存在に気づいているのかもしれない。
桃子は呑気にカレーの話をしながらパフェを食べ続けている。
「お母様が、地上でも楽しそうでほっとしました」
「ふふふ。そうですか? でも、ここにいる妖精姿の私も、ティタニアと静かに過ごす時間を楽しんでおりますよ」
二人の前には、皿に並べられた小さなハロウィンのお菓子類と、ミニチュアサイズの食器に注がれた紅茶が準備されている。
これは、りりたん――いや、先代女王ネーレイスと、その娘のティタニアだけの、二人だけのハロウィンパーティーだ。
りりたんは時折【千里眼】の映像を桃の窪地の様子に切り替えつつ、パーティーに興じる少女たちの姿を肴にし、ティタニアとの時間をゆっくりと過ごしていた。
球体の向こうでは、桃子たちが笑いながらパフェを食べ続けている。
球体の向こうでは、娘たちが、化け狸や人間の友人たちとともに、楽しげに過ごしている。
りりたんが【千里眼】を切り替えれば他にも、マヨイガでカボチャを食べる探索者たちを見守る童女の姿や、ハロウィンなど関係なく水中を泳ぐ人魚たちの姿が映し出される。
「きっと、この風景を守るために、私はこの時代に転生したのでしょうね」
「……頑張りましょうね、お母様」
いつか来る、戦いのときを想いながらも。
りりたんとティタニア、二人だけのハロウィンパーティーは。
静かに、優しく、過ぎていくのだった。
次話は11月3日(月) 23時更新予定です
また、11月1日(土)には書籍二巻の追加情報も解禁されるので、夜には活動報告で記載させて頂く予定です。興味があればそちらもどうぞ覗きにきてみてください。