ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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尾道クラスメイト

「ねえ、聞いた? 尾道ダンジョンの――」

 

「うん。あやかしが――」

 

「大神さんが崩壊に巻き込まれたって――」

 

 月曜日の教室。クラスメイトたちの話題の中心は、昨日の『尾道ダンジョン』の事件についてだった。

 新種の魔物や呪いの被害者など、先週からずっと暗いニュースが連続していた中で、昨日はあの『あやかし』が一時的に復活していたというではないか。

 あやかし。それは、私たちこの地域に住む人間にとって、忘れられない名前だ。

 私が子供の頃。尾道ダンジョンにあやかしという魔物が台頭し、私たちの海はおかしくなった。

 親の仕事が立ち行かなくなり、広島を去った友達がいた。原因不明の不調で、まともに動けなくなる人もいた。海を取り戻そうとダンジョンに挑み、帰ってこられなかった人たちも大勢いた。

 

 だからこそ日曜日にあった事件は、瀬戸内海に面する土地に住む私たちにとって、とてもではないが無視できない話題だった。

 けれど――。

 その中心にいたはずの、私たちのクラスメイトは。尾道ダンジョンの、神弓士の弟子である彼女は。

 未だ、学校には現れない。

 

 

 

 

 あれから何日が経っただろうか。

 朝、教室で友人たちと挨拶を交わしていると、彼女はやってきた。

 途端に、クラス中がシンと静まる。

 

「おはよ」

 

「おはよう、大神さん。あの……ええと、これ、休みの間のプリントをまとめておいたよ」

 

「あー、うん。あんがと」

 

 大神さん。大神檸檬さん。

 彼女は、ぱっと見では髪の毛は派手な金色に染め、こう言ってはなんだが雰囲気も怖い。昨年は留年したらしく、クラスメイトではあるけれど年齢も彼女の方がひとつ上であり、お世辞にも会話をしやすい人ではない。

 しかし、そんな彼女は尾道ダンジョンの事件の中心にいて、噂ではあやかしを討伐するのに一役買っていたのだという。

 皆の、恩人なのだ。

 

「うん。ええと……」

 

「……ん?」

 

「その、分からないことあったら聞いてねっ」

 

「ん、助かる」

 

 恩人だけれど、皆は彼女にどう接すればいいのか分からない。

 春先に、彼女は教室の全員へと向けて、こう宣言したのだ。『ダンジョンの話をするつもりはないから』と。それはまさに、クラスメイトに対して強固な壁を作りだす言葉だった。

 こう言ってはなんだが、私たちと彼女には接点などなく、大神さんは頻繁に学校をさぼるので、学校の話題も振りづらい。

 彼女がダンジョンでは凄腕の弓使いだということは誰もが知っている唯一の共通の話題だが、その話題そのものを彼女本人から禁じられているのだ。

 そんなわけで、クラスでの彼女は意図せず、腫れ物扱いのようになってしまっていた。

 

 

 

 

 休み時間。

 お手洗いで教室を離れていたら、クラスの子たちがやってきて、私にそそくさと声をかけてくる。

 

「戸鳴さん。大神さん、やっぱり怪我治ってないのかな」

 

「従兄弟が探索者なんだけど、例の事件のときに大神さんが大怪我したって聞いて……心配で、心配で」

 

 いや、それを私に聞かれてもな。

 

 私は大神さんの隣の席で、何かとプリントやら授業のノートやらのやりとりが発生するため、大神さんと会話する機会も少なくない。

 けれど、それだけなのだ。このように大神さんについての情報を求められたところで、そんなもの分かりようがない。

 彼女たちの気持も分からないでもないけれど、さすがにその、困る。

 

「戸鳴さんなら大神さんとよく話してるからさ。戸鳴さんって、怖いものなしなところもあるし」

 

 怖いものなしって……。

 でもま、仕方ない。私が彼女たちの悩みを少しは背負ってやるか。

 

「じゃあ一応、お昼のときにでも、それとなく聞いてみるよ。期待しないでね?」

 

 大神さんとしても、きっとあのクラスは居心地は悪いのだろう。お昼になると、お弁当を持ってふらりとどこかへ消えてしまうのだ。

 だから、私は――昼休みになったら、大神さんを追跡してみることにした。

 ちょっと怖い。けれど、彼女は決して悪い人ではないはずだ。

 

 

 

 

「大神さん、ここでお昼食べてるんだね」

 

 それは、屋上だった。

 確かに今日は天気もよく、屋上は気持ちいい風が吹いている。

 けれど、一人で屋上に出てお弁当を食べているだなんて、クラスメイトがそんな漫画のキャラクターみたいなお昼をとっているだなんて、思いもしなかった。

 私が声をかけると、大神さんは驚きもせず、私にちらりと視線を向ける。

 

「アンタ……ええと、戸鳴さん、だっけ?」

 

「うん、覚えててくれたのね」

 

「隣の席のトナリさん、覚えやすいからな」

 

 なるほど。

 小学生の頃からずっとそのいじり方をされてきた苗字だけれど、どうやら今回はそのギャグみたいな苗字が功を奏したようだ。親に感謝せねばならない。

 覚えて貰っていたことに気を良くし、私はおもむろに彼女の横に座り、膝の上に弁当箱を乗せる。

 

「ここで食うの?」

 

「駄目かな?」

 

「いや、いいけど……」

 

 昔から、友人からは『戸鳴ちゃんはたまに突拍子もない行動力を発揮して怖い』などと言われることがあるけれど、きっとまさに今のような状況を指した言葉だったのだろうなと、今更ながら自覚する。そういえば、さっきもクラスメイトから『怖いものなし』呼ばわりされたんだった。

 実際に、その通りだ。私は一度決めたら、なんかやたらと腹が括れるのだ。

 見た目がどれだけ怖い大神さんでも、今日は一緒にお弁当を食べると決めてしまったのだ。

 

 大神さんのお弁当は、ご飯といくつかの惣菜という、良い意味で普通のお弁当だった。

 彼女は両親をなくしており、今は親代わりの整体師さんだか鍼灸師さんだかが後継人となり一緒に暮らしていると聞いたことがある。なので、お弁当事情などもあまり良くはないのかとイメージしていたけれど、そんなことはなさそうだ。

 一方私は、余ったカレーにジャガイモを追加してから、水分を飛ばしてパンに挟んだだけの、特製カレーポテトサンドである。

 我ながら、人前で食べるにしては雑な弁当だなと思ったが、余ったカレーを食べるにはこれはなかなかちょうどいいのだ。

 

「なあ、戸鳴さん。そのカレーって手作りなの?」

 

「え? うん、これは自衛隊カレーのレシピを使った改造品。うちのお父さん、職場が呉市だからさ」

 

「そっか……なあ、そのレシピって譲って貰えたりする?」

 

「へ? あ、うん。いいけど……」

 

 意外な展開だ。あの大神さんが、私のお弁当――自衛隊カレーに興味を持っている。

 名前のイメージもあるけれど、一匹狼という印象の強かった大神さんが、カレーに興味を持っているのだ。

 

 なんだか。

 

 可愛い。

 

「あの……そうだ、いきなりだけどさ。怪我とか大丈夫?」

 

「ん?」

 

「ほら、ダンジョンの……ニュースにもなってたから」

 

「あー、恥ずかしい。やめて、やめて。アタシはその件はノーコメント」

 

「あ……ごめん」

 

 なんだか、今ならば突っ込んだ会話が出来そうだと踏んで、私は聞きたかったことをぶち込んでみた。

 孤高の一匹狼という雰囲気を常にまとっている大神さんだけれど、カレーに興味を持っている今ならば餌付けできそうな気配を感じたのだ。

 だが、残念。予想していたトゲトゲしい反応ではないものの、やはりその話題はNGらしい。ノーコメントということで、会話が終了してしまった。

 

 まいった。

 やってしまった。

 

 とても気まずい。

 なので、私はこれ以上変な空気になる前に、さっさと謝ることにした。

 

「あのさ、ごめんね。大神さんがダンジョンの話題を嫌ってるのは知ってるんだけど、怪我とかが心配でつい……」

 

「ん? アタシがダンジョンの話を嫌いなわけないじゃん。何の話?」

 

「え?」

 

「あ?」

 

 

 

 

 つまりは、全てが誤解だった。

 大神さんは、クラスメイトにダンジョンの話題を自分からするつもりはない。

 けれど、それは決して、そのテーマを拒否するための言葉ではなかったのだ。

 

「――ダンジョンって危ない場所なんだよ。アタシの話でダンジョンに興味持っちゃう子がいたとしても責任とれないし、軽い気持ちでダンジョンの話なんて聞かせられないっしょ」

 

「……そういう意味だったの?」

 

「そりゃ、それ以外の意味なんかないっしょ?」

 

「いやーそれ、伝わらないよ……」

 

 なんだこの子。

 年上だけど、見た目が不良っぽくて警戒しちゃったけど。もしかして、誰かがフォローしてあげないといけないタイプなんじゃない?

 おいおい、どういうことだよ。

 私が今までおっかなびっくりしていたのはなんだったんだよ。

 

「あーあと、怪我は凄腕の治癒魔法の使い手に治してもらったから心配しなくていいよ。ちと高くついたけどな」

 

「さいですか」

 

 

 

 

 結局、私はこのお昼に、なんとなくだけれど大神さんと仲良くなることができた……と、思う。

 相変わらず、大神さんは会話が塩対応でしょっぱいし、言葉足らずだし、本人にその気はないらしいけれど見るからにピリピリした不機嫌そうな空気をまとっている。

 けれど、神々よ、聞いて驚け。

 カレーのレシピを人質にして、私は大神さんと、SNSのフレンド登録までこぎ着けたのだ。

 

「アタシあんましこういうの確認しないから、返信無くても気を悪くしないでね」

 

「うん、大丈夫。ええと……これ、大神さんのアカウント名、フェイラン?」

 

 なんか、大神さんは妙に格好良いアカウント名を使っていた。

 フェイラン。どういう意味なんだろうか。中国語かな?

 

「ああ。アタシって苗字が『オオカミ』じゃん? アイルランドの言葉で、小さい狼って意味らしい。まあ、主に男の人の名前に使われてるらしいけどな」

 

「格好いいじゃん。大神さんて、フェイランって感じするよ。変な意味じゃなくて……男らしいところあるもの」

 

 フェイラン。中国語ではなくアイルランドの言葉だそうだ。

 彼女は、フェイラン。なんとなく格好良い響きで、とてもしっくりくる。

 サバサバしてて、体育の授業ではそこらの男子よりも活躍してて、実際に彼女は『強い人』なのだ。男らしい人と称しても、きっと間違いではない。

 クラスの女子たちに聞いたら、みんな頷いてくれると思う。

 

「男らしいって言われてもな。アタシはそれを喜べばいいの?」

 

「もちろん。大神さんが口説いたら、クラスの女子の大半は落ちるよ。試してみる?」

 

「やんない」

 

 大神さんは、雰囲気が台無しにしているだけで、実は会話をしてみると意外と普通の人だった。

 もしクラスのみんながこれを知っていれば、大神さんは今頃クラスの人気者だったんじゃなかろうか。

 だって、みんな大神さんには尾道を守ってくれた恩を感じこそすれ、嫌う理由なんてないのだから。

 

「ねえ、大神さん。もう一学期は終わっちゃうけどさ……」

 

「うん?」

 

「二学期は、もっと一緒にお話とかしようね。お弁当もさ、一緒に食べよう」

 

「……まあ、気が向いたらな」

 

 そう、つっけんどんに言う大神さんの耳が。

 少しだけ赤らんでいたことは、私だけの秘密にしておこうと思う。

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