ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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激おこスティック人魚姫

「あ、そういえば良いものがあるんだよ」

 

 ヘノ、ニムと話しあった結果、まず下層へ向かう階段の入り口横にある岩壁の出っ張りをハンマーで砕いてみようということで落ち着いた。

 岩の硬度にもよるだろうが、いい感じに出っ張っているので、何度か叩けば通路に岩を落とすくらいは出来そうだ。

 適当な障害物でも並べようかと考えたが、小さい障害物では探索者たちが自分の腕で片付けてしまうだろうし、大砲の脚がキャタピラなので、多少の凸凹では効果がない。ここはひとつ、ダメ元で大岩にチャレンジしてみよう、ということになった。

 

 そこで桃子は思いだす。

 月曜日に工房で、和歌に貰った試供品があるはずだ。

 ベルトにつけた丈夫な革袋から、和歌に貰ったアイテムを取り出してみる。

 

「桃子。それ。なんだ?」

 

「これはね、一回だけ武器の威力を底上げできる魔石だって。一度使ったら壊れちゃう消耗品なんだけど、こういうタイミングで使わなきゃね」

 

 石座にはまった黒い魔石。確かによく見たら表面はざらついており、すぐに砕けてしまいそうな品質だ。

 桃子はハンマーの中央のあたりにその石座を押し付けて、【加工】を発動する。

 すると最初からデザインの一つだったかのようにハンマーに魔石が融合していた。

 

「も、桃子さん……武器に魔石つけるの……お上手なんですね」

 

「うん、実はこういうの仕事でいつもやってるんだー。ダンジョン内でやるのは初めてなんだけどね」

 

「面白いな。今度。桃子の仕事も見てみたいぞ」

 

「工房かあ。私もヘノちゃんに色々見てもらいたいけど、工房だと一日中ヘノちゃん隠れてないといけないから、最初はもっと簡単な場所に行こうね」

 

 先日はスーパーに立ち寄り、桃子の部屋にも一緒に帰った。

 次は桃子と一緒に工房や、他の色々なところを見てみたい。それがヘノの、新たな興味の対象であった。

 

 そんな風な話をしながら魔石もセットし、足場も滑らないように均す。

 

「じゃあ、ヘノちゃん、ニムちゃん。私に強化の魔法か何かお願いしていいかな? フルパワーで頑張ってみるね!」

 

「は、はい……わ、私も頑張ります……!」

 

「わかったぞ。桃子。フルパワーだな」

 

 二人の妖精が肩に乗り、桃子にパワーを送る。

 桃子のハンマーを、鵺と戦ったときと同じく緑のつむじ風が包み込む。

 白い霧が桃子を守るように発生し、衝撃の余波から桃子を守る力場を作り出す。

 

「じゃあ、魔石さん、頑張ってね……!」

 

 魔石に魔力がいきわたるように、【加工】の要領で、桃子が両腕に魔力を込める。

 するとハンマーに装着した魔石が淡い光を放ち、ハンマーに熱を持つ力が流れ込む。が、それだけではない。

 

 ヘノとニムは見た。

 

 桃子がベルトに括り付けている革袋。その中には、赤い色を失った鵺の魔石が入っている。この数日、ダンジョンに潜り続けたことである程度の魔力を取り戻したその鵺の魔石が、袋の中で反応し、輝いている。無論、袋の中なので桃子は気づかない。

 しかしその魔力はまだまだ膨れ上がり、桃子と、その手に持つハンマーを包み込んでいる。そして更に、鵺の魔石はヘノとニムの魔力まで吸いこんでいく。

 

「……桃子。まて。魔力が──」

 

「いっけええぇぇッ!!」

 

 ヘノの制止の声も間に合わず、桃子がハンマーを壁に向かって振り抜いた。

 ハンマーは光を放ち、出っ張った岩を砂糖菓子のように粉砕するが、勢いは全く止まらない。そのままの勢いで振り抜かれた魔力が、純粋な力の濁流となって岩壁へと叩き込まれ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズシン

 

 そのとき、琵琶湖ダンジョンを基点とした、局地的な地震が観測された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヘノちゃん、ニムちゃん……だ、大丈夫?」

 

 魔法の明かりがぼんやりと周囲を照らしているが、それでも薄暗い洞窟内。

 水着で晒した素肌に冷や汗をかき、地面に倒れ込むように脱力している桃子が、同じく脱力状態にある緑と蒼の光に、息も絶え絶えの状態で声をかける。

 

「うぅ……死ぬかと、思いました」

 

「……桃子。なんだかもう……滅茶苦茶だったぞ」

 

 蒼い光を纏う水の妖精ニムと、緑の光を纏う風の妖精ヘノ。両者とも魔力をかなり消耗し、疲れた様子で返事を返した。

 妖精二人もまた、魂が抜けたような状態で地面にへたり込んでいる。

 三人が呆けているこの場所は、琵琶湖ダンジョン第三層と第四層をつなぐ階段。その階段の下方――第四層の入り口近くの位置で、桃子たちはぐったりしている。

 

 見上げた階段の上半分は、埋もれていた。

 

 通路を形どっていた岩壁が見事に崩落しており、とても人が通れる場所ではなくなっていた。

 

 とはいえ、完全に埋もれたわけではない。崩れた岩をよく見れば、それこそ妖精たちならば通れる程度の隙間は残っているようで、そういう意味では完全に埋もれたわけではないだろう。ただ、人間は通れないだけである。

 

 なお、桃子からは見えない位置ではあるが、崩壊しているのは層を繋ぐ階段の上半分のみで、第三層や第四層に大した被害は出ていないのは、幸運だったと言えよう。

 階段を人間が通れなくなった時点で、桃子としてはちょっと詰んでいるのだが。

 

 

 

 一体この場所で、何が起こったのか。

 

 それは少し、時間を遡る。

 

 

 

 

 あのとき。桃子がハンマーを振り抜いたとき。

 

 それはもう鬼のようなパワーがハンマーから溢れ出し、桃子が狙った出っ張り岩どころか、目の前に広がる岩壁を広範囲に吹き飛ばしたのだ。

 その魔力の爆発によるあまりの衝撃で、ハンマーを振り抜いた桃子も10メートルは軽く吹き飛んだ。

 

 ──桃子さんの武器に融合させるならば、山を砕くほど……と言うと大げさかもしれませんが、大岩くらいならば容易く砕ける武器となりましょう。

 

 いつの日か、鵺の魔石について女王ティタニアが桃子に話した言葉は、決して大袈裟ではなかったのだ。

 あくまで偶然の産物ではあるのだが、和歌にもらった使い捨て魔石がその一度きりの力で、鵺の魔石とハンマーをつなぐ仲介の役割を担ってしまったのだ。

 更には鵺の魔石は桃子にかけられていた魔法をも逆流させ、ヘノとニムの魔力すら奪い取り、ハンマーへと送り込んでしまった。

 

 その結果がこれである。

 

 魔力の爆発と、それで吹き飛ぶ桃子。ヘノとニムはそれぞれ魔力の衝撃でかなり上まで吹き飛ばされたが、何とか体勢を整えなおした。

 しかし、そのあとすぐに目の前の崖が崩壊を始めたので、妖精たちは慌ててハンマーを握ったまま転がっていた桃子の救助に向かった。

 

 桃子がハンマーを振るう前にニムが霧の障壁を張っていたのは僥倖である。あの障壁のお陰で、魔力の爆発の衝撃を軽減することができたのだ。

 桃子は吹き飛んだ先で地面に打ち付けられ滅茶苦茶痛かったものの、痛いだけで済んでいた。【頑強〇】のスキルも相変わらず自分の仕事をこなしている。

 

 とにかく半ばパニックになりながらも、立ち上がった桃子を引っ張って、目の前にあった階段へ続く洞穴に走り込んだ。とにかくダッシュで、穴へと飛び込む勢いで駆け込んだ。

 途端に洞穴の前に巨大な崖岩が崩れてきて、入り口を塞いでしまう。

 

 しかしそこで命拾いにホッとしたのもつかの間、今度はそこの天井が崩落しだしたため、三人は悲鳴を上げながら階段を下へと転げるように下へ下へと走った。

 普段はクールなヘノですら、大きい声で慌てていた。もし誰かがこの光景を見ていたのなら、滅多に見れないレアな姿だったことだろう。

 

 三人は最悪、そのまま深潭宮まで飛び込む覚悟もしていたが、どうやら崩壊は階段の上半分だけで済んだようである。

 

 九死に一生を得る、とはこのことだ。

 

 

「……ええと。とりあえずだけど、まずはりりたんの所に行こうか?」

 

 それから、しばらくの間三人で呆けていたのだが、さすがにいつまでもそうしているわけにもいかない。

 そして、どこに行くかとなると、ここから階段を登れなくなっている以上は下に降りるしかない。つまりは、深潭宮に潜ろう、ということだ。

 もともとそのつもりでやってきたので深潭宮に潜ることは構わないのだが、しかし桃子たち三人は思う。

 

 

「もう、討伐兵器とか気にしなくていいじゃんね」

 

 

 イリアに解毒薬は届ける。届けるが、その後説得して討伐計画を止めてもらおうとか、アカヒトの証言で強硬派が思いとどまるのを待つとか、そういう部分はなんだかどうでもよくなってきた。

 ペルケトゥスの討伐もなにも、物理的に洞窟が崩壊してしまったのだから、もはや討伐以前の問題だろう。もう探索者たちは深潭宮へと降りれないし、逆に桃子はここから帰れなくなってしまった。

 

 帰り道は、もう、どうしようもない。何でも出来そうな魔女、りりたんに頼ろう。

 今は、何はともあれイリアに解毒薬を飲んでもらおう。

 

 

 それが、三人が出した結論であった。

 

「とりあえず桃子。水の中に入るなら。さっそく水中呼吸の魔法だ。流石にもう。慣れただろう」

 

「……ま、まあ、頑張るよ」

 

 

 

 

 

『ぶくぶく……ぶくぶく……』

 

「じゃあ。桃子がぶくぶく言っている間に。ニム。案内って。出来そうか?」

 

「は、はい……この前みたいに、そ、速度を出して泳げば……」

 

 相変わらず、桃子は水中呼吸の最初はぶくぶく空気を出すだけの存在になってしまう。

 初めのうちはヘノやニムも桃子の様子を気遣っていたが、流石に三回目になると反応が少々ドライになってきた。すでに別の話をしている。

 桃子は少し寂しそうにぶくぶくしている。

 

『ぶくぶく……ぶくぶく……』

 

「とりあえず。桃子。ニムの案内通りに泳ぐので。大丈夫か?」

 

「と、とりあえず……うぅ……ええと、前の……ピザ屋さんの柱の方向へ……お願いします」

 

 ぶくぶく言っている桃子をよそに、とりあえずはニムの案内通りに泳いでいこうということになった。

 まだぶくぶく言っている桃子の水着の胸元にすぽっと入り込み、桃子の起動を待つ妖精たち。桃子は自分が乗り込み式のロボットになった気分だった。

 

『っぷはあ、ようやく肺に水が入ってきた。この魔法、肺に水を入れるのが大変なんだけど……もう少しどうにかできない?』

 

「そう言われてもな。さすがに。そこまで。万能な魔法は。知らないぞ」

 

「うぅ……もしかしたら、ま、魔女さんなら……知っているかもしれないですけど」

 

 相変わらず、肺に水が入り込む感覚には慣れなかった。

 どうにかならないかとダメ元で聞いてみたが、やはり無理なものは無理なようだ。りりたんなら何か知っているかもしれないが、まあ機会があれば聞いてみようと思う。

 

 何はともあれ、ニムの案内通りにピザ屋の柱へ向かおう。

 

 ……と思ったが、桃子は考える。

 

 ピザ屋の柱とは?

 

『……一応確認だけど、ピザ屋の柱って、あの斜めになってる柱、でいいんだよね?』

 

 以前来たときに、斜めに傾いている柱をピサの斜塔と呼んだのは覚えている。

 ピサの斜塔。ピザ屋の柱。なるほど、似たようなものだった。

 

 しかし念のため、ニムたちに確認してみる。十中八九、ニムの覚え間違いだとは思うのだが、万が一別な建物のことだったら困る。

 そして、念のためで確認した桃子に返ってきた妖精たちの返答は、実に心外なものであった。

 

「桃子。やっぱり。頭でも打ったのか。前に桃子が教えてくれたんだぞ。ピザ屋の柱だぞ。大丈夫か?」

 

「あ、あの……斜めになっている……柱です……よ? 桃子さん、だ、大丈夫ですか?」

 

 確認したら、逆に桃子が心配されてしまった。

 

 実に、理不尽な話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【琵琶湖ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:なんかダンジョン立ち入り禁止なんだけどそんなことあるの?

 

:穏健派を無視して強硬派が突入してって、危険だから一般人は立ち入り禁止らしい

 

:うーん

 

:深潭宮の主がでかくて倒せないのは分かるけど、ああいうのはなあ

 

:今頃は第三層くらいか? もう第四層かな?

 

:なんであいつらのせいで一般探索者が立ち入り禁止にならなきゃならないのか

 

:人魚姫が怒り狂うぞ

 

:あれだけ警告されてたのに、あんな大砲持ち込んじゃったらもうアウトな気がするよ

 

:警告 ※探索者の目の前で魔物をいきなり破裂させ、敵対したらどうなるか教えてくれる

 

:警告 ※怪我を治してくれる代わりに悶絶するほどの苦しみも与える

 

:琵琶湖ダンジョン、どうなっちゃうんだろうね

 

:ダンジョン入れないから今日はギルドに人が多いんだけど、なんか奥の方が騒ぎになってる

 

:詳しく

 

:アカヒトから生存連絡が来たって言ってる 人魚とくじらに助けられたって

 

:ファ?! なんで

 

:ギルドが騒ぎになっててちょっと情報が混乱してる

 

:だっていまクジラ殺しに行ってるんだぞ?

 

:ふふふ そろそろ面白いことになりそうですね

 

:怖いよ何笑ってるの

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:地震

 

:じしんゆれれれえr

 

:直下型じゃなかった? もしかして大砲撃ったの?

 

:さすがに地震を起こすほどの代物じゃないと思うが

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:ギルド員がパニクってる

 

:なんて?

 

:ダンジョン、崩壊、って聞こえた

 

:ファ?! なんで

 

:ふふふ 人魚姫を怒らせてしまったのですね

 

:大砲じゃなくて、人魚姫が崩壊させたのか?!

 

:ひ、姫が怒っておられる・・激おこぷんぷん丸じゃあ・・・!!

 

:不謹慎だけどちょっと笑っちゃった

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