ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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十五章 骸骨武者と焔の彼岸花
聖ミュゲット文化祭


『ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなっ!』

 

『アタシは……アタシは! そんなことの為に生まれたんじゃない!』

 

 ――それは、炎から生まれた少女の、魂の叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暦は十一月。

 月の初めの土曜日、桃子はこの日、スカジャンでもツナギでもない、きちんとしたお出かけ用の服装に身を包んでいた。

 ミモレ丈のワンピースの上にアイボリーのカーディガンを羽織り、年相応の落ち着きを醸し出している。もっとも、見ようによっては背伸びした子供にも見えてしまうが、本人が気にした様子はない。

 秋空の下、桃子は道の先へ視線を向ける。その先に見えるのは、過去には毎日のようにくぐり抜けていた場所。懐かしき母校『聖ミュゲット女学園』の校門が、桃子を迎えてくれる。

 この日、桃子は一年ぶりとなる母校の文化祭に足を運んでいた。

 

「せんぱーい、こっちです」

 

「ふふふ。笹川先輩、ようこそいらっしゃいました」

 

「うん、お待たせ」

 

 校門の中から手を振るのは、母校の後輩である柚花とりりたんの二人。最寄り駅から連絡を送っていたので、時間ちょうどに迎えに来てくれたようだ。

 在校生である二人が、本日の桃子をエスコートしてくれる。

 いまの桃子はカレー妖精系探索者ではなく、この学園の先輩だ。その仕草や言動もどことなく、いつもよりも大人びたものになる。

 

「今日は案内よろしくね。柚花に、りりたん……じゃなくて、校内では天海さんって呼んだ方がいいかな?」

 

「ももたんに『天海さん』と呼ばれるのは気持ち悪いので、梨々さんでお願いしますね」

 

「気持ち悪いってひどくない?」

 

 りりたんのあんまりな対応に、柚花は笑い、桃子は合流早々、腑に落ちない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「今日はどうしようか。柚花と梨々さんは、クラスの出し物とかはいいの?」

 

「私は部活やってませんしね。クラスの出し物は午前中でずっぱりだったんで午後はフリーです」

 

「私はあとで、図書委員の朗読会がありますが、それまでは大丈夫ですよ」

 

 受付に招待状を差しだし、来客名簿に名前を記入していく。

 ゆっくりと校門から校舎への道のりを歩いていけば、時折在校生からの視線を感じる。

 もっとも、さすがに卒業してから二年も経てば、桃子の姿を見てもすぐに反応をみせる在校生の姿は少ない。どちらかというとこの視線の大半は、ダンジョン配信者である柚花とりりたんの両者に挟まれていることが原因だろう。

 りりたんは表だって配信者ということを公言しているわけではないけれど、顔を隠すことなく素顔で配信しているので、学校では普通に正体がバレていた。その上で普段から柚花と仲良くしている姿がよく目撃されているため、今では天海梨々が謎のダンジョン配信者だということは周知の事実となっている。

 

「とりあえずですけど、昨年と同じように『お料理研究部レストラン』でご飯を食べるところからでいいんじゃないですか?」

 

「ん、そうだね。じゃあとりあえず、レストランに行こうか。楽しみだなあ」

 

 お料理研究部は、桃子が在学中に所属していた部活動だ。

 文化祭の『お料理研究部レストラン』では、前年度の卒業生が残したレシピを使用したメニューを出すのが習わしだ。なので、今年のメニューは、桃子の一学年下の後輩たちが残したレシピである。

 桃子にとっても、大切な後輩たちの残したレシピだ。脳裏に、後輩たちも交えてスパイスを調合し続けていた懐かしい日々が蘇る。

 

「でも先輩、今年はカレーは出してないみたいですけど、活動限界とかは大丈夫ですか? カレー成分足ります?」

 

「あのね、カレーがなくても私は動けるからね? 私ってどういう生き物だと思われてるの?」

 

「でも、先輩ってカレーの妖精みたいなものですし」

 

「え?」

 

「え?」

 

 どうやら、カレーがなければ桃子が禁断症状でも発症するのではないかと疑われているようだ。

 柚花が本気で言っているのか冗談なのかはわからないが、本気だとしたらとんでもない誤解である。桃子とて、数日程度はカレーがなくても問題ない。

 そんな桃子と柚花のやりとりの横で、りりたんは一歩引き。深海のような瞳を細めて、ほくそ笑んでいるのだった。

 

 

 

 久しぶりに訪れた校舎は、すでに桃子にとってはすべてが『懐かしい』ものだった。

 在校生たちの活気ある出し物や呼びかけの全てが懐かしく、それが余計に、自分がもうここの生徒ではないのだなと感じさせる。

 秋という季節柄、楽しさの中でもどことなく寂しい気分になってしまうのは、仕方のないことだろう。

 

「いらっしゃいませ、笹川先輩! それに橘さん、天海さん。本日のメニューはこちらになります」

 

「うん、ありがとう。それじゃあどれにしようかな」

 

 それでも、目的のレストランに到着すれば心は弾む。

 桃子を迎えてくれたのは、現三年生。つまり、桃子が在籍中にはまだ一年生だった少女たちだ。

 懐かしい下級生たちに促され、桃子たちは白いレースで整えられたテーブルへと腰を下ろす。

 窓の外からはガヤガヤと文化祭の騒がしい声が聞こえるが、室内にはお洒落なカフェミュージックが流れており、個人経営の素敵な喫茶店のような雰囲気だ。

 受け取った手作りメニュー表を卓上に広げ、桃子、柚花、りりたんの三人は、本日のメニューに目を通していく。

 

「気のせいか……なんか、一つだけ明らかに異色なものがありますね」

 

 柚花が、ぽつりと呟く。

 口には出さなかったが、桃子も心のなかでは同じことを思っていた。

 今見ているメニューは、昨年の卒業生――桃子のひとつ下の後輩たちが残していったレシピなので、先輩たる桃子がどうこう言うものではないのだが、どうしてこれを選んだの? と聞きたい気持ちがこみ上げる。

 

「では私は、和風ポトフにしますよ」

 

「私は、こっちの大正浪漫サンドイッチにしますね。先輩はどうします?」

 

「じゃあ……私がこれ、かなあ。『乙女のなまこセット』で」

 

 乙女のなまこセット。

 乙女のなまこセットだ。

 

 どうしてこれを選んだの? せめて、もう少しいいネーミングはなかったの? セットには何がつくの?

 疑問は尽きないが、桃子にとっては大切な後輩の残していったレシピだ。桃子が現役のときに、なにかとぬめっとしたものを愛する下級生がいたのを思い出す。これはきっと、あの子の残したレシピだ。

 

「まあ、名前はちょっと変だけど、きっとおいしいと思うしね」

 

 聖ミュゲット女学園の文化祭で出すべきかどうかはさておいて。

 柚花とりりたんが食べないのなら、せめて先輩である自分が味わってみるべきだろうと思い、ウェイトレスをしている現役の下級生に注文する。

 そうしたら、更にびっくりだ。

 

「さっすがお料理研究部の先輩ですね! それを頼むとは、度胸がありますね!」

 

「え、ええ……?」

 

 注文したことを驚かれた。

 やはり、頼むのに度胸が必要なレシピだと分かった上で載せていたようだ。桃子は「この部活、大丈夫なの?」と心配になってきた。

 自分が現役の頃は毎日スパイスの香りを漂わせ、学校の一つの名物となっていたことを棚にあげて。桃子は己の後輩たちの将来を、ただ心配するのだった。

 

 

 

「なまこ、だねえ……」

 

「コリコリしてて、まあ……おいしいですね」

 

「ふふふ。でも、どうして写真を添えようと思ったのでしょうね」

 

 乙女のなまこセット。

 出てきたのは、なまこチャーハン、なまこスープ、そしてなまこの酢の物と、材料となったなまこの写真プリントだ。

 聖ミュゲット女学園のイメージとはかけ離れているものの、なまこそのものはコリコリした歯ごたえも心地よく、スープもとろみがあり美味しいものだった。柚花とりりたんも桃子の皿から少しずつつまんでおり、味そのものは好評だ。

 コラーゲン豊富なため、美容にも良いのだろう。そういう意味では『乙女の』という形容も、頷けなくはない。

 ただし、卓上に飾られたなまこの写真――イボイボのついた、ナメクジとゴーヤを足して二で割ったような生き物の写真だけが、異様な存在感を放っていた。

 それこそ、この写真ひとつで泣き出してしまう乙女もいるのではないだろうか。

 

「そういえばさ、なまこってカレーに合うと思う?」

 

「先輩、なにがなんでも話題がカレーに飛ぶ癖はどうにかしたほうがいいですよ?」

 

「ももたんは相変わらず愉快ですね」

 

 桃子がカレーの話をしたら、後輩たちから駄目出しをされてしまった。

 

「まあでも、干しなまことかは高級食材として有名ですし、意外と高級なカレーになるんじゃないですか?」

 

「ふふふ。深潭宮にはなまこはいませんでしたが、瀬戸幻海や長崎の海で探せば、ダンジョンなまこもいるかもしれませんよ」

 

「うーん、ヒメちゃんたちに頼んだら、食材として穫ってきてくれないかな」

 

「ヒメさんがその生き物を食べ物と認識してるかどうかがまず問題ですよ」

 

 そして結局、探索者がそろって料理を食べれば、ダンジョン食材の話になってしまうのだ。

 話題が乙女らしいかどうかはさておき、心を許した仲間とともに食べたお料理研究部レストランの昼食は。

 一部のネーミングセンスを除けば、安心して後を任せられる、満足度の高いものだった。

 

 

 

「そういえば先輩。今年の講堂での演劇は、ダンジョンの守護者をテーマにした作品があるんですよ」

 

「守護者? ダンジョンの? えと、それってドワーフさんのこと?」

 

「まあ……ドワーフさんもそうですけど、萌々子ちゃんとか、ヒメさんとか、そういう都市伝説みたいな存在全般ですね。私はその業界の第一人者なので、演劇部からは根ほり葉ほりインタビューを受けましたよ」

 

「面白そうだね。それって何時からなの?」

 

「えとですね――」

 

 こうして、次にどこへ向かうかと悩むこともなく、皆で講堂での演劇部の劇を見に行こうという話にまとまった。

 演劇部は大きく、文化祭では数チームに分かれている。そのうち一つはダンジョンや妖精に関わる演目を行うというのが、ここ数年のお約束となりつつあるようだ。

 

「ふふふ。ゆかたんと同様、配信者である私にも聞き取り調査はありましたよ。あることないこと、適当に答えておきました」

 

「いやそこはちゃんと答えてあげよう?」

 

 ミュゲットの生徒に、ダンジョンという危険で荒々しい世界になじむ生徒は少ない。その中で、ダンジョンに入り浸り、なおかつ配信者として活動している柚花やりりたんは異質な存在だ。

 ただ、そのおかげか、ダンジョンに関わる出し物では意見を求められることもあるようだ。

 りりたんの言動につっこみをいれつつ、桃子は席を立つ。いつまでも、食後にレストランの座席を占領するのもマナー違反である。

 

「じゃあ、時間もちょうどいいですし。講堂に向かいましょうね」

 

「なんだか懐かしいなあ。私が劇に出たのって、もう三年前なんだよね」

 

「そうですね。あのとき私はまだ中学生でしたよ」

 

 二年生だった桃子が出演した劇『希望の少女とスズランの妖精』は、今から向かう講堂で、ちょうど三年前のこの日に演じられたものだ。

 あれから色々なことがあり、桃子の周囲の環境は驚くほどに変わっていった。

 妖精のパートナーができ、各地のダンジョンで冒険を繰り広げ、あの当時に生まれたイマジナリーフレンドのイチゴが怪異として本当にこの世界に出現するなどとは、当時は考えもしなかった。

 

「時間の流れって早いよね。私もあれから、ずいぶんと成長したなあって思うよ」

 

「……」

 

「……」

 

 桃子の呟きに、柚花とりりたんが、何故だか口を閉ざしている。

 

「あれ? どうしたの?」

 

「あ、すみません先輩。ちょっと、世界平和について考え込んでました」

 

「ふふふ。私もです」

 

「そうなの? 二人とも偉いねえ」

 

 桃子は頭の横にハテナマークを浮かべながらも。

 こんなときでも世界平和について考える後輩たちの意識の高さに、ちょっとした感動を覚えるのだった。

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