ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「へー、面白そうだねえ。なんだか衣装も本格的じゃない?」
「なんでも、装備品は実際に本物を借りてまわったものらしいですよ? さすがに武器は小道具の偽物でしょうけど」
講堂までくると、軽めの防具類やバックラーに手足を守るガードを装着した、まるでこれからダンジョンに潜るのではないかというような服装の女生徒たちが案内をしてくれていた。
おそらく彼女らは演劇部員で、それぞれが着込んでいるのは舞台での衣装なのだろう。
案内に従って講堂に入れば、座席はすでに七割がたが埋まっており、三人並んで劇を見るのは難しそうに思えた。
桃子は最後尾からの立ち見でも構わなかったのだが、しかしりりたんがすたすたと、迷いなく講堂の中へと進んでいく。
「お二人とも。偶然にも中央の座席が並んで空いておりますから、あそこで観劇しましょう」
見れば、ちょうど室内の中央ほどにある座席が何席か空いている。
不自然すぎて、誰かが座席に荷物でも置いてとっているのかな? と桃子は考えるが、しかし見ればそういうわけでもなさそうだ。
不思議がる桃子の横では、柚花がジト目をりりたんに向けている。
「ちょっと、なにか変なことしてませんか?」
「何のことだかわかりませんが、学友たちに被害がでるような魔法ではありませんから、ご心配なく」
「やっぱり何かやったんじゃないですか。やめてくださいよ、そういうのは本当に、駄目です」
「ふふふ。仕方ないですね。次からはやめておきますよ」
どうやら、席が空いていたのは偶然などではなく、りりたんがちゃっかり魔法でこの席が空くように細工をしていたらしい。
卒業生の先輩としてはりりたんの行いにはきちんと注意すべきだろうが、そこは現役の先輩である柚花がしっかりと注意してくれていた。りりたんはあまり人の言うことを素直に聞くタイプではないが、意外にも柚花の言葉は素直に受け入れており、桃子は少しだけ驚いた。
桃子はそんな二人のやりとりに耳を傾けつつ。過程はどうであれ、実際に空いている席に罪はないと割り切って、中央の空いている席に座らせてもらうことにした。
劇は、最初にストーリーテラーの不思議な少女が舞台に立ち、ダンジョンに存在すると言われる守護者たちを紹介していくという、いわゆるオムニバス形式の演劇のようだ。
講堂の明かりが落とされると、雰囲気のあるBGMとともに、舞台の幕が開かれた。
『誰か! 助けて……! 仲間が岩に挟まれて……!』
壇舞台上では、坑道の崖崩れに巻き込まれた探索者が魔物に囲まれ、必死で戦っていた。助けを求めていた。
そして、そこに現れたのは――。
『いま、助ける。動くでないぞ』
それは、長い立派な髭の戦士、ドワーフだった。
ドワーフは、その力で、周囲の魔物を一撃のもとに屠っていく。もちろん演じているのは少女なので、あくまで付け髭だ。だというのに、演技ひとつで実際にその少女が強く、頼もしい存在に見えてくる。
激しい音楽とともに、ドワーフが圧倒的な強さで魔物たちを倒していく。そして、その背後を追い掛けるように当てられている小さなスポットライトは、おそらくドワーフと共にいる妖精を表現しているのだろう。
けれど、そのドワーフの姿は――探索者たちからは、認識されていない。
『これは……ドワーフ? ドワーフが、助けてくれたの?!』
ドワーフは、探索者たちを助けると、満足したように頷いて。
そして人知れず、誰にも気付かれないまま。静かにその場を立ち去るのだった。
「……」
「先輩。なんで劇をみながら顔を真っ赤にしてるんですか」
「ももたんは、相変わらず可愛らしいですね」
小声で、柚花とりりたんが話しかけてくるが、桃子の耳には入っていない。
このエピソードは、説明などされずともわかる。出演しているのは全て女生徒なので雰囲気はだいぶ違うけれど、これは桃子が過去、坑道の崩落で危機に陥った『草薙』のメンバーを助け出した際の出来事の焼き直しだ。
自分の行いは他の人にはこういう風に見えてしまうのかと、桃子は始めて客観的な視点でそれを眺めることになった。
そして、なんだかもう、恥ずかしくなり。耳まで赤く染め、シーンが切り替わるまで羞恥に俯いているのだった。
『もう、駄目なのかな……。地上に、帰れないのかな……』
『大丈夫ですよ。お姉さんたちのことは、私が、助けてあげますね』
『え……?』
鵺に追い立てられ、巨大なマヨイガの迷宮を彷徨うこととなった探索者たちは、絶望のふちに立っていた。
助けはなく、食料や水すらない。そんな中で、やはり探索者たちから見えない小柄な着物の少女だけが、そこで明るい笑顔を見せていた。
『そんな、このお墓は……』
探索者たちは、おにぎりを貰い、そして拠点となる場所を手紙で示されることで、水と食料を得ることが出来た。
そして、その道のりで彼女らがみつけたのは、ひとりの少女の墓石であったという。
「今更ですけど、萌々子ちゃんのお墓ってなんなんですか?」
「やめて、やめて……」
「ももたんは、本当に愉快ですね」
舞台の上で、墓に向かって探索者たちが号泣するシーンでは、観客席からもすすり泣くような音が聞こえてきた。唯一その真相を知っている桃子にしてみれば、その状況はもはや針のむしろである。
あれは、ヘノのトンチンカンな作戦に従って潰れたカレーおにぎりの付いた石を、意味もなく立てただけなのだ。埋まっているのは萌々子ちゃんではなく、ただの潰れたカレーおにぎりなのだ。
もう、桃子はどういう顔をしながらこの劇を見続ければいいのかがわからない。
桃子はとにかく劇を眺めながら、「お墓の秘密はお墓まで持って行こう」と。ちょっとしたギャグみたいな誓いを、心に刻むのだった。
『……答えろ。お前たちは……我が友、ペルケトゥスを討ちに来たのか?』
『お待ちなさい、人魚姫。どうやらこの者らは怪我をしているようです』
『……そうなのか?』
劇の上では、まるでどこぞの部族のような装飾を身につけた人魚が、怪我をした探索者たちを問い詰めている。
しかしそれは、桃子が当時考えていた「心優しい慈愛の人魚姫」などではない。無愛想で、今にも爪楊枝みたいな槍で刺してきそうな殺伐としたものだった。
更には、そこに現れたのは黒い蝶の翅を持つ『深潭の魔女』である。
こちらは蝶の翅と黒いローブ姿であり、ある意味本物の深潭の魔女に近しい感じもするけれど、やはりどうしても違和感がある。というか、隣で本物の『深潭の魔女』が静かに観劇している状況で、これまたどういう顔でこの劇を見続けるべきなのか、桃子にはさっぱりわからなかった。
「……」
「……」
「……」
桃子のみならず、柚花やりりたんもそれぞれ思うところがあるのかもしれない。
観劇中なので全くおかしいことではないのだが、桃子も、柚花も、りりたんも。三人とも言葉なく、黙り込んだまま舞台上に視線を向けていた。
最後に、怪我が完治した探索者の女性が、魔女と新たな『契約』を結ぶシーンまで語られて、人魚姫のパートは終了する。
『なんだ、ここ。彼岸花がいっぱいで……まさか、下層に来てしまったのか?』
舞台が変わる。照明が赤く染まり、探索者の台詞からして、そこには真っ赤な彼岸花が咲き乱れているようだ。
『ま。魔物が……ぐ、誰か、助けて……!』
『……弱きもの、ニンゲンよ。ここは貴様が来る場所ではない』
『骸骨と、炎の妖精……?』
不思議な、彼岸花の咲き乱れる階層に迷い込んだ探索者。
魔物に囲まれ、もはやお終いかと思ったところで、探索者は突如現れた骸骨に救われる。
炎の妖精を引き連れた骸骨の武者は、探索者に地上への道を示し。そのまま何も言わずに、立ち去っていく。
これは、桃子も初めて聞く、そして今の桃子には無関係な都市伝説だった。
「これが鎌倉ダンジョンの『骸骨武者』です」
「そうなんだ。なんか、骸骨が、炎の妖精つれてるけど……」
「ふふふ。真実はどこにあるのでしょうね。噂に尾鰭がついているだけなのか。それとも……」
ダンジョンに住む、炎の妖精。それはどうしても、桃子もよく知る妖精のひとりを連想させる存在だった。桃子は、妖精たちの過去を知らない。だから、この都市伝説が嘘だと断言するだけの材料を持たない。
何か知っていそうなりりたんは、意味深に言葉を途切らせる。
――が、りりたんはそもそも何にもなくても意味深に言いがちなので、いまひとつ信頼できないことを、桃子は知っている。
『妖精さん……! 私、私……』
舞台は、クライマックスだ。
背景は空色に染められ、音響による風の音が響いている。
空の上で孤独に取り残されたのは、一人の少女だった。
フリルのついた、まるで魔法少女のような衣装に身を包んだツインテールの少女。そしてその周囲にはいくつものスポットライトが飛び交っている。何人もの妖精がこれまで、入れ替わりに彼女を守ってくれたのだ。
『あなたの居場所はここではありませんよ。さあ……地上へお戻りなさい』
そして、最後に現れたのは、その背に大きな羽衣をまとった妖精だ。
大空の妖精。それが、このシーンのタイトルとなる、空のダンジョンの守護者の名である。
『私、皆さんに助けられました。皆さんと、皆さんと……』
『そんな悲しい顔をしないでください。私たちは、いつもこの大空で、あなたたちを見守っているのですよ』
大空の妖精は、まるで天女のような佇まいで、優しく。
慈愛とともに、人間の少女を導いていた。
「……誰ですか、あれは」
「……誰だろうね、あれは」
「ふふふ」
桃子と柚花は、唖然として最後のシーンを眺めていた。
この事件はノイズまみれだったとはいえ動画配信されてしまったこともあり、羽衣をまとった天女然とした妖精のシルエットが広く知れ渡っている。それ自体は、桃子も話としては聞いたことがあった。
けれど、さすがに。
あまりに自分とは違いすぎて、恥ずかしさを感じる以前に「誰?」という疑問が先行してしまう。
なお、柚花は柚花でこの事件の中心人物だったカリンの役の女生徒があまりに正統派すぎたので、違和感しかなかったようだ。
そうして、最後に再びストーリーテラーの少女の語りで、劇は幕を閉じた。
昨年までのストーリー仕立てのものとは違い、読後感にも似た深い余韻はさほどないけれど、オムニバス劇ならではの見応えはなかなかのものだった。周囲を見れば、客の反応も上々だ。
もっとも、桃子がこの劇を純粋な娯楽として楽しめたかというと、こみ上げてくる様々な感情――その大半は羞恥だが――に終始振り回される大変な時間だったのだが、そればかりは仕方のないことだろう。
「やっぱりさ、まあ……その、私が関わってるのは別にして。鎌倉ダンジョンの骸骨さんは、なんだか気になるね」
桃子は、大きく一つ呼吸を吐いてから。
劇の中で、自分が全く関わっていなかった『骸骨武者』という存在について、感想を述べる。
たったいま見た物語通りならば――鎌倉ダンジョンの見知らぬ階層に足を踏み入れてしまった探索者が、魔物に囲まれ危機に陥ったところを、炎の妖精を引き連れた骸骨武者が救ってくれた――という物語だ。
骸骨というと恐ろしい印象があるものの、本当に人を守ってくれたというのならば、まさに守護者と呼べるのではないだろうか。
「りりたんの知る限りですが、鎌倉ダンジョンでは数年前から目撃例のある存在のようですよ」
「そっか、そうなんだ。鎌倉ダンジョンってあんまり縁がなくて、知らなかったよ」
「そういえば先輩は鎌倉ダンジョンは行ったことないんでしたっけ?」
「うん。ヘノちゃんと出会うまでは、房総ダンジョン以外に行かないように窓口さんから言われてたしね」
今でこそヘノとともにあちこちのダンジョンを旅して回っている桃子だけれど、それまでの桃子は房総ダンジョン以外には足を踏み入れないようにと注意を受けていた身だ。
桃子は【隠遁】という能力のお陰で、魔物から認識されることはない。しかしそれと同時に、万が一桃子に何かあったとしても、人間は助けに来てくれないのだ。
だからこそ、危険の少ない房総ダンジョン限定で、桃子は活動を許されてきたのである。
しかし、そんな話を聞いた柚花は、判断が早かった。
「じゃあ……先輩がよければ、明日一緒に鎌倉ダンジョンまでいきましょう! タイミング的に、石拾いのピークですからね」
「鎌倉ダンジョンに、明日? いいけど、石拾いって?」
唐突のお誘いだった。
この日は土曜日でありで、国民の休日を絡めた三連休の初日である。つまり明日も休日ではあるのだが、それにしてもいきなりだ。
鎌倉ダンジョンは、その名の通り神奈川県は鎌倉市に口を開くダンジョンだ。房総ダンジョンから見れば東京を挟み真逆の方向に位置するダンジョンなので、桃子としては決して近い場所ではないものの、しかし日帰りできない距離でもない。
ただ、桃子が気になるのは『石拾い』という謎ワードである。
「ふふふ。鎌倉ダンジョン名物の『合戦』がちょうど今週、勃発したのですよ」
「か、合戦……?」
よこからりりたんも口を開く。
てっきり、石拾いについて補足説明でもしてくれるのかと思ったら、余計に意味がわからなかった。
どうやら、鎌倉ダンジョンでは合戦が勃発しており、探索者たちは石拾いを行うらしい。
「まあ、いっか」
聞けば答えてくれるだろうが、なにも今この講堂内で長々と続ける話題でもないだろう。
桃子は、頭の横にクエスチョンを浮かべたまま、とりあえずは柚花の提案に乗ってみせるのだった。
【遠野萌々子ちゃん貼り付けスレ】
:ハチミツをべろべろなめる鎧萌々子(イラスト)
:あのハチミツ俺も舐めてみたいわ。房総ダンジョンはハンバーグといいハチミツといい、良い食生活してるな。
:知ってるか、房総ダンジョンはダンジョン内にピザの配達がくるぞ
:あいつらどうかしてやがる
:なんで萌々子ちゃんスレで房総ダンジョンの話題ばっかりしてるんじゃい!
:このスレ、ダンジョン守護者総合イラストスレって名称のほうがいいんじゃないかって思います。
:友達集合萌々子ちゃん(イラスト)
:すげえ! 大作すぎる!
:萌々子ちゃん、人魚姫、鎧萌々子、鎧マン、鎧ドワーフ、キムンカムイ、コロポックル、骸骨武者、アルラウネ、けものの姫、滝の女神、セイレーン、沢山いる狸、シーサー、キジムナー、スフィンクスとメジェド、空の妖精率いる妖精たくさん、あと変な怪獣とか俺の知らないやつがいくつか
:あなたが神か!
:知らないの多い
:どうして黒背景なのかと思ったけど、これペルケトゥスが見切れてるだけかw
:芸細かくて草
:おいおい英霊様がいねえぞ
:英霊は人間やんけ
:ニホンオオカミもいれたげて。吉野ダンジョンはずっと昔からマスコットとして扱ってるんやで(イラスト)
:絶滅させた動物をマスコットとして扱う人間の所業よ。
:鎧三人組に人間が混ざってるんだけど誰も突っ込まないの?