ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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枯戦場と骸骨と

 桃子たちへ向けて真っ直ぐ――と言うには、途中で止まったり、ふらふらよれたり、道草を食ったりもしていたけれど、とにかく桃子たちの元へとやってきたのは二人の妖精、ヘノとニムだ。

 二人とも、桃子と柚花にそれぞれ妖精の加護を与えており、パートナーがダンジョンに入るとそれが感じ取れるらしい。この鎌倉ダンジョンでヘノと合流するのは初めてだけれど、問題なく桃子の気配を感じ取り、ここまでやってこられたようである。

 

「桃子。後輩。こんな場所で。何してるんだ。踊ってたのか?」

 

「なんで踊ってると思ったの?」

 

 一週間ぶりの再会だというのに、桃子の顔をみたヘノの第一声がそれだった。

 

「踊ってなかったのか?」

 

「うん。踊ってはいないかな」

 

 魔物との戦いを『踊る』と表現するような詩的でお洒落な人も世の中にはいるかもしれないが、少なくともヘノがそういうお洒落な意味合いで言ったわけではないだろう。

 桃子がヘノと愉快な会話をしている間にもニムは柚花に飛びついて、柚花の服の中にすっぽりと入り込んで顔だけ出している。

 柚花はニムの奇行にも動じず、たったいま訪れたばかりの妖精たちにも状況を説明していく。

 

「このダンジョンはいま魔物同士が争っている状況なので、私たちはそれに横やりを入れる形で戦ってたんです。りりたんから聞いてませんか?」

 

「なんだかややこしいな。魔女は。桃子と後輩が。骸骨と踊ってるって。言ってたぞ」

 

「うぅ……桃子さんと柚花さんが、とうとう骸骨踊りを始めちゃったって……み、みんなで心配してたんですよぉ……?」

 

「……どうやら伝言を頼む人選を誤ったみたいですね。なんですか、骸骨踊りって」

 

「骸骨みたいに。骨っぽく。踊るんだ」

 

「が、骸骨は……細くて、軽やかですからねぇ……」

 

「二人とも、実際に見たことあるみたいに言うじゃん」

 

 どうやら、骸骨踊り疑惑の発端はりりたんだったようだ。

 実は昨日、桃子が地上から鎌倉ダンジョンに向かうことが決定した際に、その場にいたりりたんがヘノたちへの言付けを買って出てくれたのだ。

 桃子はこれ幸いにとりりたんに伝言を頼んだのだが、りりたんは戦いを『踊る』と表現するような詩的でお洒落な人間だった。

 言い回しが独自な人間に伝言を頼んだらこうなるという、実にいい例だろう。

 

「じゃなくて、あのねヘノちゃん。この階層ね、いま骸骨たちが、とにかくハチャメチャに争ってるんだって」

 

「ハチャメチャなのか。なるほどな」

 

「なんでその説明で通じ合えるんです?」

 

 閑話休題。骸骨踊りには興味があるものの、その話は後日でも構わないのだ。桃子はひとまず脱線していた話を元に戻し、改めてヘノに現状を簡単に説明することにした。

 とにかくハチャメチャ。柚花は腑に落ちていない様子だが、色々と細かい部分を省けば大まかにはその説明で事足りる。

 

「そ、そういえば……こ、ここに来る前に……な、なんだか骸骨の集団が……あちこちで暴れてましたねぇ……」

 

「先輩。せっかくですし、感知が得意なヘノ先輩に索敵をお願いしましょうか。骸骨がたくさん集まってる場所を自力で探すには、階層丸ごとはさすがに範囲が広すぎますし」

 

「それもそうだね。ヘノちゃん、魔物の多い場所まで案内ってお願いしてもいい?」

 

「いいぞ。さっきもたくさんの骸骨が。何か叫んでる人間を。集団で追い掛けまわしてたぞ。ハチャメチャで楽しそうだったな」

 

「へ?」

 

 ヘノの言葉に、桃子は柚花と顔を見合わせる。

 てっきり、桃子は自分がヘノの言葉を何かしら聞き間違えたのかと思った。

 けれど、柚花も桃子と同じように、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。おそらく、聞き間違いではない。

 何か叫んでいる人間が、骸骨に集団で追われていた。ヘノはしれっとした顔で、そう言ったのだ。

 

「え、待って待って、それって人が襲われてるってことじゃないの?!」

 

「ヘノ先輩、ニムさん、それって大丈夫だったんですか?」

 

「なんか。かなり。元気な人間だったけどな」

 

 いかに桃子たちが他の探索者との接触を避けていると言っても、誰かが危機的な状況にいるならば話は別だ。

 叫びながら、骸骨の集団に追われる人間。それは、なんとなく、危機的状況な気がする。

 問われたヘノは、首を傾げて同じくそれを目撃していたであろうニムに振り返る。

 

「わ、私たちが見たときは、大声をあげて……骸骨と追いかけっこをしていて……も、ものすごく、元気な人でしたねぇ……?」

 

「え、ええ……?」

 

 ヘノだけでなく、ニムも同じことを述べている。

 妖精たちは、二人とも。口をそろえて「元気な人間だった」と証言するのだった。

 

 

 

 

 

 

「ヘノちゃん、とにかくそこに行ってみよう。つむじ風の魔法をお願いね!」

 

 妖精たちの話では、何が起きているのかさっぱり分からなかった。

 だが、百聞は一見にしかず。妖精に百回説明を聞くよりも、自分の目で見るほうが間違いなく正しい情報を得られるのだと、桃子はこの一年以上の付き合いで把握している。

 だからまずは、その場所へ行ってみるべきだ。

 

「なんだ。やる気だな。いいぞ。全部倒すか」

 

「そうですね。救助の必要があるかないかはともかく、骸骨は全部倒す前提で大暴れしてきちゃいましょう!」

 

「じゃ、じゃあ……わ、私は柚花さんの服の中に隠れていますねぇ……? か、乾いた階層は、少し苦手なので……」

 

 ニムが柚花の服に入り込むのを確認してから、緑のつむじ風が桃子と柚花の足を包み込む。

 この階層の地面は非常に荒れた丘陵になっており、徒歩の移動はなかなか大変だ。反面、木々が全て枯れているため、空間を遮る障害物というのは少ない。

 なので、つむじ風の魔法で翔ぶように駆けていくならば、かなりの機動力を発揮できるはずだ。

 

 桃子は、いざ鎌倉、とでもいうように。

 ツヨマージ片手に『枯戦場』に吹く疾風となり飛んでいくヘノの後を追い、ヘノが見つけたという「骸骨の群れによる追いかけっこ現場」へと急行するのだった。

 

 

 

 

「うぉぉおぉおお!! 俺は、やるぞおおおお!!」

 

 そこにいたのは、両手剣で周囲の骸骨たちを薙ぎ払いながらひたすらに走る、やたらと元気でパワフルな探索者だった。

 多くの――それこそ、十や二十では済まない数の骸骨たちが、骸骨同士でも小競り合いを繰り返しながら、集団でその探索者の後に群れをなし続いている。骸骨たちが入り乱れすぎていて、何がどうなっているのか全然わからない。

 

「桃子。見ろ。ハチャメチャだぞ」

 

「うわ、本当にハチャメチャになってる。でも、あの探索者さんは本当に元気そうだね……」

 

「ですけど、一応はあれでもピンチっぽいですよ」

 

 桃子と柚花は一度足をとめ、高台の上で意見を交換する。

 ヘノたちが言っていたことは、すべて正しかった。やたらと元気な探索者が、豪快に骸骨を引き連れた追いかけっこをしている。

 いや、それどころか、離れた場所の骸骨たちまでが吸い寄せられるように彼の周囲へと集まってきており、群れの規模はどんどん膨れ上がってきていた。

 甲冑の骸骨が入り乱れて、もうどれとどれが戦っているのかも分からない。骸骨同士も状況がどうなっているのかよくわかっていないに違いない。

 だが、今一つ危機感が伝わりづらいだけで、間違いなくあの探索者は危機的状況といえるだろう。

 柚花は双剣を構えて、男の後方で群れをなす骸骨たちへと電撃の狙いを定めている。乾いた空気の中で、柚花の双剣がパチパチとスパークを放ち始める。

 

「先輩、後ろの大群は私が足止めするんで、あの人の周囲をお願いします!」

 

「わかった! じゃあ、ヘノちゃんは見つからないように私の服に隠れててね!」

 

 柚花とニムを高台に残し、桃子は颯爽と高台を駆け下りて、叫び続けている男性探索者へと向かう。

 桃子ならば、どれだけ接近して大暴れしても、彼から姿を目撃されることはない。やりたい放題だ。

 

「だぁぁああ! 仲間と合流して地上に帰ったら、地元のナポリタンを食うんだぁあああ!!」

 

「この人どこの地域の人なのっ?!」

 

「桃子。この骸骨。倒しても生き返って面白いな」

 

 探索者の男性も、これだけ元気ならば真っ直ぐに駆け抜ければ骸骨の集団など振り切れそうなものだが、そうさせてくれないのがこの荒れた大地だった。

 彼がどれだけパワフルに駆けても、起伏が激しく足場も脆いこの大地が、全力での逃走を許してくれない。

 一方、骸骨たちはその軽量化された身体が幸いしてか、思いの外身軽な動きで荒れ地をひょいひょいと進んでいくため、地の利は骸骨側にあると言えるだろう。

 そうして回り込んだ骸骨たちが男性に襲いかかり、男性はそれを撃退して逃走を続ける。見たところ、それを何度も繰り返しているようだ。

 おそらく彼は逸れてしまった仲間の元へと行こうとしているのだろうが、残念ながらこの方向はどんどん階層の端へと向かっているため、仲間との合流も難しそうだ。

 

「でも、私が来たからには大丈夫だよ! えぇぇいやっ!!」

 

 桃子が駆けつけ、勢いのままにハンマーを振り抜いた。

 ズドン、という衝撃音。

 そして、それと共に。男性を横から襲おうとしていた骸骨たちがすぐ側の岩に叩きつけられ、それどころか、その岩もろともハンマーの一撃で粉々に粉砕される。完全に、オーバーキルだ。

 

「うおおお!! なんだぁああ!? 骸骨が吹き飛んで爆発したぞおお!!」

 

 男性は突然の爆発に驚きの大声をあげるが、しかしそれでも、この魔物に囲まれた状況で足を止めることはない。

 この日はギルドから実力を認められた探索者のみが立ち入りを許可されている。つまり、元気すぎるこの男性もまた、ランクとしては高ランクの実力者だ。この状況で足を止める危険性を、よく理解している。

 彼はそのままの勢いで、両手剣を振り回して目の前の骸骨を両断し、吹き飛ばす。

 

「桃子。こいつ。うるさいけど。妙に強いな」

 

「分からんがどれかの骸骨が助けてくれたんだなああ! 助かったあああ! うおおぉおお!!」

 

「うわああ! もうわけがわかんないよぉお!!」

 

「お。桃子も楽しそうだな」

 

 間近で男性の絶叫を聞かされ続け、気付けば桃子までが負けじと大声を出している。

 男性はとにかく大声をあげて戦い続けた。桃子も大声をあげて戦い始めた。ヘノは本気を出すと男性に気付かれてしまうので、桃子と男性に風で援護をする程度に抑えているが、どことなく楽しそうだ。

 桃子が周囲の魔物を粉砕し、男性も前方に現れる骸骨を薙ぎ払い続け、後方にいた大集団は柚花が【チェイン・ライトニング】の連発で削り続ける。そうしてようやく、増える骸骨よりも減る骸骨の方が上回ってきた。

 

 そして――。

 

「げほっ、げほっ……ヤバい、声が……!」

 

「ああ、言わんこっちゃない! 大丈夫ですか? って、聞こえてないか……」

 

「あれっ……骸骨ども……消えてやがる……げほっ……」

 

 この乾いた空気の中であれだけ絶叫していれば、声帯がダメージを食らうのは当然だ。

 男性は咳き込み、その場にうずくまる。周囲の骸骨は桃子と柚花の加勢もあってどうにか殲滅させたので、男性がここで足を止めたとしても安全を保証されているのだが、本人にしてみれば何が何やら分からない状況だろう。

 しかし、周囲に骸骨たちがいなくなっていることを確認して、彼はようやく地面に腰をおろした。桃子はやることがなくなってしまったので、手持ち無沙汰に、ぽつりぽつり落ちている魔石を拾い集めることにする。

 あとは、高台の上で呆れ顔をしている柚花が、どうにかしてくれると信じて。

 

 

 

 

「さっきの男性ですけど『大声を出して闘争心を燃やしている間は身体強化される』っていう、随分と人騒がせなスキルの持ち主だったようですよ」

 

 あの後、柚花が男性の前に姿を晒し、周囲の魔物を全滅させた旨を伝えて、ついでに器に注がれた水を差し出すことで、男性は無事に復活を遂げた。差し出した水はニム特製の癒やしの水なので、喉へのダメージも緩和出来たことだろう。

 

「あいつ。面白かったな」

 

「そっかそっか、大声を出さないと戦い続けられなかったんだね。そりゃ、必死で叫び続けるわけだよね」

 

 男性が仲間と連絡をとり、迎えにきた仲間と共に周囲の魔石を拾い始めたところで、桃子と柚花はその場を離れることにした。

 今は、男性が走ってきた道のりを辿り、そこら中に落ちている魔石を拾い集めている最中である。

 

「まあ、彼のお陰で魔石の報酬もかなり増えたでしょうし、結果オーライですかね」

 

「あの人だけで百体くらい引き寄せてたもんね」

 

 なお、その後。

「周囲に骸骨しか居ない状態で何者かが共に戦ってくれていた」という男性の証言によって。

 再び『骸骨武者』の噂が再燃し始めたのだが――今はまだ、桃子には無関係な話であった。













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