ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ヘノと座敷童子

「というわけだから。ヘノが。持ってきてあげたぞ」

 

 平日の昼間。

 遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』には、自分の身体よりも何倍もあるポリ袋をぶら下げたヘノが訪れていた。

 目的は、乾燥なまこのお裾分けだ。

 ヘノと共に広大な和風建築の迷宮内を歩いているのは、赤い着物姿の、桃子を小さくしたような童女――座敷童子の萌々子である。

 

『これが、なまこっていうの? なんか、黒くて、かたくて、ちょっとよく分からないね』

 

「乾燥させたら。こんな風になっちゃうんだ。もともとは。もっとでっかくて。いぼいぼで。ぐにゃぐにゃだったんだけどな」

 

『ふーん。でも、ありがとうね、ヘノちゃん!』

 

 ヘノからポリ袋を受け取り、萌々子はさっそく中身を確認してみる。

 袋からはどことなく海の香りがするけれど、中身は真っ黒で、堅くて、意味不明な物体だ。

 ヘノから「これはなまこだぞ」と説明を聞いたはずの萌々子だけれど、袋の中身には疑いの視線を向けている。

 

「じゃあ。渡すものも渡したから。ヘノは帰るぞ。今日は。ダンジョンで葉っぱを吹き飛ばして。遊ぶつもりなんだ」

 

『わあ、面白そう! でも待って待って。せっかくだし、たまには私と一緒にマヨイガで遊んでいこうよお』

 

「なんだ。何か面白いものでも。あるのか?」

 

『うん。きっとヘノちゃんがまだ知らない場所とか、教えてあげるねっ』

 

 萌々子がポリ袋を懐にしまったのを確認して、ヘノはさっさと帰ろうとするけれど、そこにストップをかけたのは萌々子だった。

 ヘノという妖精は、時折マヨイガに訪れて探検をしていくことはあるけれど、だいたいの場合は一人で好き勝手に行動しており、こうして萌々子と二人きりになることは思いの外少ない。

 なので、萌々子は今日、せっかくの機会なのでヘノを遊びに誘うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『これね、お風呂だって』

 

「知ってるぞ。お湯を入れて。泡で遊ぶ場所だぞ」

 

『そうなの? それは知らなかったかも』

 

 萌々子がヘノを連れてきた場所、それは最近になって探索者たちが新しく発見した区画に存在する『風呂場』だった。

 風呂といっても、それは決して大きなものではない。小部屋と言うべき小さな空間に、古めかしい木組みの浴槽が組まれているだけである。

 

 ちょうど今は男性探索者が入浴中らしく、「くはあ」だの「生き返る」だのといった声が漏れている。

 だが、生き返るもなにもない。その体格の良い男性は、身体中に傷跡があるものの、そもそも死んではいないのだ。

 ヘノは不思議に思いつつも、傷だらけで筋肉質な男性探索者の貴重な入浴シーンを覗き続けている。

 

『気持ちよさそうだね』

 

「桃子も。お風呂は気持ちいいって言ってたな」

 

 ヘノも過去に何度か、桃子とともに温泉や風呂に入ったことはある。泡で遊んだ印象のほうが強いものの、言われてみれば確かに、湯に浸かるのは気持ちよかったような気もする。

 もしかしたら、桃子にこの場所を紹介したら喜ぶかなと、ヘノは頭の片隅で考える。

 そしてそれと同時に、先ほどから感じていた疑問を座敷童子にぶつけてみる。

 

「ところで。他の連中は。なんで外で待ってるんだ? 一緒に入ればいいだろ」

 

『んっとね、誰かがこっちで火をみてないと、いい温度にならないんだよ』

 

 浴室の、壁ひとつ反対側。湯気が出て行く格子状の窓枠の外。

 そこでは、他の探索者らがしゃがみ込んで、先ほどからずっと火を焚いているのだ。ヘノたちが潜んでいるのは、その更に背後の空間だ。

 

「こいつらが。火を使って。お湯を作ってたのか」

 

「うん。あとね、たまに魔物が出てくるから、見張ってるんだよ。ベロが長くて、お風呂のあかをべろべろ舐めに来る妖怪がいるんだって』

 

「なんだそれ。気持ち悪いな」

 

 そんな気持ち悪いのが出てくるならば、桃子にこの場所を紹介するのはやめよう、と。ヘノは頭の片隅で結論づけるのだった。

 

 

 

 

『ヘノちゃんにだけ教えるね。ここにはね、すごいのがあるんだよ』

 

「なんだそれ」

 

 次にヘノが連れてこられたのは、ひとつの広い部屋だ。このマヨイガの中では珍しくもない、襖と畳で構成されただけの、ただ広いだけの地味な部屋である。

 萌々子は「すごいの」と言うけれど、見たところ何か面白そうなものがあるわけでも、美味しそうなものが落ちているわけでもない。

 ヘノは拍子抜けしたように、しらけた顔で萌々子の様子を眺めている。

 

『見ててね? 壁にこうやって、くっついて、ぽんって勢いつけて叩くと――』

 

 ぐるん。

 萌々子が消えた。

 

 いや、正しくは、萌々子が壁に背中をつけるように寄りかかって、勢いつけて壁を叩くと、その壁がぐるりと回転したのだ。

 これはいわゆる回転扉という仕掛けである。もしこれを桃子が見れば、忍者屋敷によくあるやつだと驚いたことだろう。

 しばらくすると、再び壁がぐるりと周り、壁に張り付いていた萌々子もこちらの部屋へと戻ってくる。

 

「壁が回ったぞ。面白いな」

 

『ここから先はまだ皆もきちんと調べてない場所だから、危険なんだけどね』

 

 萌々子が、今度は壁を半回転の状態で止めて、ヘノからも向こうが視えるようにする。

 扉が開けば風が漂う。そして、風に乗って、ヘノにもその向こうの様子が把握できる。

 

「……そうか。こっちは。第五層があるのか」

 

『うん……本当に、危険なんだよ。だからヘノちゃんにも教えたの。この扉だけは、ずっと見つからないでいてほしいから』

 

「わかったぞ。桃子はここには連れてこないから。安心しろ」

 

 ヘノは萌々子の頭にちょこんと着地して、小さな手で萌々子の頭の頂点をぽんぽんと優しくたたく。

 無造作で、不器用な、ヘノの優しさだ。

 萌々子は、頭のてっぺんに響く小さな刺激を感じながら、笑顔に戻り、次の探検ポイントへとヘノを連れて行くのだった。

 

 

 

 

 そうして、色々とまわった最後に訪れたのは、この階層『マヨイガ』を探索する者たちにとっての最重要ポイントである、炊事場だ。

 減っていたはずの玄米の米俵は数が再び戻っており、相変わらず外の大きな中庭に大根が干されている。

 今は探索者たちの姿はないが、すぐ隣の部屋には幾人かの探索者たちの気配がある。

 

『この壺にね、守る会の人が作ったものが入ってるんだよ』

 

 萌々子の言う「守る会」とは「萌々子ちゃんを守る会」というハジケた名称の集団だ。名前はともかく、彼らはこの第四層である『マヨイガ』に定着し、日々その探索を進め続けているという、かなり上位の探索者集団である。

 萌々子がヘノに見せたかったもの。それは、その守る会のメンバーが作り出した、とある食品だった。

 ヘノは萌々子に促されるままに、萌々子が蓋を外したその壷を覗き込む。過去にニムが、じめじめしていて中に入ると落ち着くと言っていた壷を覗き込む。

 そこには、何やら甘しょっぱそうな香りの何かが詰まっていた。

 

『これ、福神漬けっていうんだって!』

 

「ふくじんづけ?」

 

『ええとね、マヨイガの干し大根を戻して、特製の調味料に漬け込んで作ってくれたものなんだよ。それでね――』

 

 萌々子が更に続けた説明によれば、守る会の探索者に、実家で漬け物を扱っているメンバーがいたらしい。これは、そのメンバーがここの干し大根を使って少し前に製作した、特製の福神漬けだそうだ。

 しかしヘノはそこらへんの事情には全く興味がなかったので、一連の話はヘノの右耳から左耳に抜けていった。

 

「よく分からないけど。食べ物なら。味見をしておかないとな」

 

『うん。おにぎりとかにも合うから、もしかしたらお母さんのカレーにも似合うかなって』

 

「どうだろうな。桃子のカレーは。何をいれても美味いから。駄目っていうことは。ないだろうけどな」

 

『まあ、そうだよねー』

 

 カレーに福神漬け。

 自分ではカレーを作れない萌々子はもとより、ヘノもいまひとつ頭のなかでうまく繋がらない。

 桃子が聞けば理性を無くして壷ごと持ち帰ってしまいそうなくらいにカレーにマッチする食べ物なのだが、残念ながら今ここに桃子はいない。

 

「でも。せっかくだから。なまこが入ってた袋に入れて。持って帰るか。なまこを代わりにおいておけば。大丈夫だろ」

 

『この黒くて堅いの、本当に食べ物なの?』

 

 そこでようやく、萌々子が懐から最初に受け取った『乾燥なまこ』の話題に戻ってきた。

 そもそもこの日は、ヘノが桃子に代わり、その乾燥させたなまこを萌々子に差し入れしにきたのだ。

 ぬめぬめしていた時とは違い、今は全体的に黒く、堅い。もとのサイズがサイズだったので、いくつかに分割した上で乾燥させているのだが、お陰で見た目だけではそれがなんなのかがよく分からない。

 萌々子も、もともと備わっている第六感的な感覚にて、母親である桃子が遠くの海で何か食べ物を採取していたことは知っていた。だが、実物を見て、その確信は揺らいでいる。

 

「なんか。ずっと水に入れたり。何度も茹でたりして。ようやく食べられるようになるらしいぞ」

 

『えー、なんだか面倒くさい食べ物だね』

 

「きっと。安上がりな。非常食か何かなんだろうな」

 

 干したキノコはそのままかじっても美味しい。

 干したデーツは甘さがより凝縮されていて美味しい。

 しかし、干したなまこはすぐには食べられないし、コリコリした食感は面白かったものの、特別美味しい味かというと、ヘノには特に響く味ではなかった。

 結論。乾燥なまこは、人気のない非常食である。

 

『ダンジョンだと、非常食は大切だもんね』

 

「人間は。こんなものまで食べないといけなくて。大変だな」

 

 ヘノと萌々子は、桃子のつくった変な食べ物を無造作に炊事場の流しに置いて。

 あとはそのまま、その存在を忘れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【遠野ダンジョン雑談スレ】

 

 

:こちら、守る会所属探索者。第四層炊事場になにかわからないカチカチのものが置かれていた。有識者求む(画像)

 

:なんだそれ、炭じゃないの?。

 

:冷蔵庫焼けして真っ黒になったバナナに見えなくもない

 

:バナナでも炭でもないな。当然ながら現地にいた全員、心当たりがないらしい。

 

:じゃあ……ほら、ねえ?

 

:萌々子「黒くてカチカチの変なものあげますね」

 

:あーあと、壺に入ってた福神漬けがごっそり減ってた

 

:それはつまみ食い犯がどこかにいるんだろ

 

:松茸……つまみぐい……う、頭が

 

:写真のそれ、裏側にイボイボがついてるじゃん。ちょうどこの前、某配信チャンネルで見たんだけど、それなまこじゃない?

 

:んなばかな

 

:遠野ダンジョンになまこはいないし、サイズがおかしいだろ

 

:でもほら、萌々子ちゃんて人魚姫とマブダチじゃん?

 

:マブダチでも黒くてカチカチの謎の物体はあげないだろ

 

:人魚姫「やる」 萌々子「えぇ・・・」

 

:しかも福神漬けと引き換えに

 

:ちょっとダメ元で、水に漬けて一晩くらい放置しといたらどうだ?

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:お前ら、すごいぞ。あれ、なまこだった!

 

:マジかよ

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