ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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イソガバを回して

「ヘノちゃん、今日はキノコたくさん取れちゃったね」

 

「良かったな。豪勢だぞ。キノコカレー作り放題だな」

 

 

 

 

 週末になると、桃子は今日も今日とてヘノとダンジョン探索だ。

 房総ダンジョンに踏み込んでしばらく森の中をうろうろしていると、桃子の到着に気付いたヘノがやってきて、桃子の胸元に飛び込んできた。

 いつも無表情で、桃子への扱いもかなり雑になってきた感のあるヘノだけれど、二人きりのときはこうして甘えん坊な一面を見せるのだ。

 桃子はヘノを胸元に抱き寄せ、小さなぬくもりを感じながら、森の中をゆっくりと歩き続ける。

 鬱蒼とした木々を抜け、うろつくゴブリンを素通りし、きれいな花があれば香りをかぐ。特に目的はないが、ヘノとともに森を歩くことそのものが目的だ。

 そうこうして歩いていると、いつもと違う箇所を歩いたお陰か、食べられるキノコを大量に採取できたのだった。

 

「こういう風に遠回りするのも悪くないね」

 

「次から。色々な場所で。遠回りしてみるか」

 

「そういえば、『急がば回れ』っていう言葉があるんだよ。急いでるときこそ遠回りをしたほうがいいっていう意味なんだけどね」

 

「なるほどな。今度ヘノも。イソガバを見つけたら。回しておくぞ」

 

「えへへ、そうだね。何言ってるかわかんないけど」

 

 ヘノは、桃子が何を言っているのかわからない。

 桃子も、ヘノが何を言っているのかわからない。

 互いに言っていることがよく分からない。けれど、笑顔で一緒に居られるなら言葉の意味などどうでもよいのだ。桃子もヘノも、理屈でなく心でそれを理解している。

 傍から見ればなんら噛み合っていない会話だが、これもまた以心伝心の一つの形である。

 

「イソガバはぐるぐる回すとして。桃子。このあとは。どこか行きたい場所はあるか?」

 

「うーん、ちなみにヘノちゃんは?」

 

「ヘノは。桃子と一緒に遊びに行くなら。どこでもいいぞ」

 

「私も、ヘノちゃんと一緒ならどこでもいいんだけどなあ」

 

 この日はニムはどこかに遊びに行ってしまったらしく、お一人様になったヘノは妙に甘えん坊だ。

 また、ニムのパートナーである柚花もまた、今週は都合が合わずにダンジョンには来られない。

 大学受験を前にしても、ダンジョンで勉強したほうが捗ると言って妖精の国に入り浸っていた柚花なので、勉強そのものは心配はないだろう。だが、それ以外にも色々と彼女は多忙な立場だ。

 とにかく、そのような理由により、この日は久しぶりに二人きりの探索だ。

 

「あ……でも、それならさ。また鎌倉ダンジョンに行ってみない? ほら、第二層に宝箱が出やすいって柚花が話してたじゃない?」

 

「そういえば。後輩がそんなこと。言ってた気がするな。宝箱か。気になるな」

 

「うん。あとは……」

 

「どうした。何かあったのか?」

 

 桃子は、つい先週に交わした会話を思い出す。

 先週、鎌倉ダンジョン第一層での石拾いに参加した後、その第二層にも興味があったのだが、結局は長崎ダンジョンでの食材探しを優先したのだ。

 結果として巨大ななまこを入手できたのだが、ならば今回改めて、後回しにしていた鎌倉ダンジョンの第二層へと潜ってみるのも悪くはない。

 それに、桃子にはもう一つ気になるものがある。

 

「鎌倉ダンジョンにね、『骸骨武者』っていう……なんだろう、守護者? 魔法生物なのかな? とにかく、そういうのがいるっていう噂があるんだよ」

 

「骸骨なら。この前いくらでもいたけどな。それとは違うのか?」

 

「聞いた話じゃ、ドワーフさんみたいに人間を守ってくれてるらしいんだよね。だから、本当にいるなら会ってみたいなって」

 

「そうか。そんな奴がいるなら。ヘノも見てみたいぞ」

 

 今でこそ、桃子の【創造】によって生み出されたドワーフが房総ダンジョンを見守ってくれているが、ドワーフの噂はもともと桃子による房総ダンジョンでの救助活動がその真相である。

 しかし、桃子は鎌倉ダンジョンで人助けなどしたことはない。

 つまり――鎌倉ダンジョンで語られる噂は桃子の活動由来の勘違いなどではなく、本物なのかもしれない。

 

「じゃあ、決定だね! なら今日はさ、軽くお弁当でも作っていこうか。おにぎりとか」

 

「そういえば。座敷童子のところから。福神漬けっていうのを。貰ってきたぞ」

 

「え?!」

 

 桃子の時間がとまった。

 

 

 

 

 

「美味しい! なにこれ、市販の福神漬けと全然違うよ?!」

 

 ここは鎌倉ダンジョン第一層『枯戦場』の、見晴らしの良い丘の上である。

 とは言っても、空はどんよりと重苦しい塵で沈んでおり、地上は遙か先まで乾燥した荒れ地と枯れ木、時々岩が存在するだけだ。

 先週の合戦風景と違い、骸骨たちの姿もあるにはあるが、骸骨同士で争っているということはない。

 

 この階層の両端には、次の合戦に向けて徐々に骸骨たちが集まり始め、骸骨の軍勢が待機する風景が臨めるらしい。

 けれど、合戦が終わったばかりの今の第一層は、一般的な骸骨がうろつく普通の荒野である。

 桃子とヘノは、そんな殺風景な丘の上に腰をおろして、おにぎりを食べていた。

 

「むぐ。座敷童子が言うには。福神漬けの国からきた。探索者がいるらしいぞ」

 

「福神漬けの国は嘘だと思うけど、でも何かしら特別な知識がある人がいたのかな」

 

 このおにぎりは、桃子の特製カレーおにぎりである。

 妖精の国で手早く玄米を炊き、午後の探索のお弁当として久しぶりのカレーおにぎりをいくつか製作してきたのだ。

 そして今回のカレーおにぎりには、ヘノがマヨイガから持ち帰ってきたという福神漬けが入っている。

 桃子がおにぎりを美味しそうに食べる姿を、福神漬けをポリポリたべながらヘノがじっと見つめていた。

 

「私でもレシピ通りの福神漬けなら作れるけど、やっぱりその道の人がつくったものってぜんぜん違うや」

 

「桃子が喜んでくれたなら。福神漬けを。もらってきた甲斐が。あったぞ」

 

「うん、ありがとう、ヘノちゃん」

 

「よし! じゃあ、福神漬けカレーおにぎりで元気百倍だよ! 残りのおにぎりはリュックにしまって、いよいよ第二層に向かおうか」

 

「そういえば。そういう話だったな。こっちだぞ」

 

 おにぎりはあくまでお弁当なので、探索を始める前に食べ尽くしても仕方がない。

 想像以上のおいしさに、このままの勢いで全部食べてしまいたくなる気持ちを抑えつつ、桃子はおにぎりを丁寧に包みなおしてリュックに戻す。これは、探索で疲れたときのごちそうとしてとっておく。

 

 

 

「こっちだ。ここの先に。第二層の入り口があるぞ」

 

「あれ? ここって……なんか、海みたいだね」

 

「桃子。どうしたんだ。海なんかどこにもないぞ?」

 

 一見すると今進んでいる『枯戦場』は殺風景なだけの荒野だが、ヘノと共に歩いていくと、区画ごとに特徴があることがわかる。

 全てが枯れているものの、いま歩いている辺りに生えているのは松だろう。ここは、枯れた松林だ。

 更に、その先には他と同様乾いてひび割れているものの、地形からして川や、その先に広がる深く平坦な荒れ地は、海だったのではなかろうか。

 ここは、本来は浜辺を臨む松林だったのかもしれないなと思いながら、ヘノと共にその海へと向かい進んでいく。無論、乾いた地面だけで、そこに海水はない。

 

「まあ、海はともかくさ。第二層は『五重の塔』って呼ばれてるらしいけど、ヘノちゃんはわかる?」

 

「ごじゅうのとう? それって。どういうことだ?」

 

「普通に考えれば五階建ての塔なんだけどね」

 

 そんな話をしていると、行き先には広く口をあけた、第二層へと繋がる大きな石階段の洞窟が見えてくる。

 階段前には何人かの探索者たちが集まっており、何やら話し合っていた。第二層へ潜る前に、ミーティング中なのかもしれない。

 桃子はもちろん、彼らに気付かれることもなくすんなりと石壁で作られた下層へ続く通路へと入っていく。ソロ探索者は、ミーティングの必要などないのだ。

 

 そして、かつ、かつと軽い足音を響かせながら、階段を下りていくが――。

 

「え?! ヘノちゃん、これどういうこと?!」

 

「どうした。桃子」

 

「ヘノちゃん、見てこれ。第二層に続く階段が……」

 

 桃子は足を止め、その眼前に広がる光景に目を丸くしている。

 そこは、階層と階層をつなぐ階段の洞窟だ。階段そのものは大体どのダンジョンでも似たような作りであり、驚きに値しない。

 だが、ここは、明らかに。

 他のダンジョンと、大きく違っていた。

 

「これか。分かれ道だな。どこから行っても。第二層には出るから。大丈夫だぞ」

 

「待って待って、つまり――第二層の入り口が、五つあるっていうこと?」

 

「そうだな」

 

 桃子の目の前では、道が五つに分かれていた。

 ヘノはもとから知っていたのか、桃子のような驚きはない。ただ一言「分かれ道だな」で済ましているが、桃子としては予想だにしない構造にぽかんと気の抜けた表情をしている。

 

 そして、桃子はここでようやく思い出す。

 五重の塔。

 第二層の名前は『五重の塔』だ。

 

「ちなみにヘノちゃん、この先はどういう階層なのか知ってる?」

 

「一応は知ってるぞ。どの道を選んでも。狭い建物に出て。ずっと続く階段を下りていくだけの階層だぞ」

 

「そっか、そっか……」

 

 狭い建物。ずっと続く階段。おそらく、それが『塔』なのだ。

 つまり、ここを進んだ先、第二層には五階建ての塔があるわけではない。

 

「第二層『五重の塔』は、五つの塔があるっていうことか」

 

「そうか。そうだな。そうかもな」

 

「でも……ならさ、ヘノちゃん」

 

 ヘノの「そうか三段階活用」をBGMにして。

 桃子は早速、この第二層のギミックに頭を悩ませることとなるのだった。

 

「入り口はさ、どの道を選べばいいと思う?」

 

「てきとうで。いいんじゃないか? イソガバが。回ってるかもしれないしな」

 

「あはは、ヘノちゃん、いいこと言うじゃん。意味はわかんないけど」

 

 意味が分からなくとも、心は通じ合う。

 桃子は言葉の意味を深く考えるのをやめて、ヘノの言う通り、頭を空っぽにしててきとうに道を選ぶことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【鎌倉ダンジョン専用 雑談スレ】

 

:合戦も無事に終了しました

 

:ギルドからの告知で、次からは大声禁止ってあるけど、どういうこと?

 

:なんか、大声出して戦うスキルが骸骨を引き寄せちゃって大変なことになってたらしい

 

:骸骨って音に反応するのか。鼓膜ないのにな。

 

:なお、骸骨が助けてくれたって証言してる模様

 

:あ、ふーん

 

:数年前は眉唾だと思ってたけど、最近の人魚姫と座敷童子の騒動見てると、骸骨武者ももしかしたらって思っちゃうよね(人魚の姫はボコらない!を読みながら)

 

:でも、今まで骸骨武者が目撃されてきたのって下層なんじゃないの?

 

:合戦おわったからまた五重の塔チャレンジが再開されるのか。

 

:前はかなり底の方まで解析できたから、あと一歩で三層までいけるようになるかも知れないんだっけ?

 

:そうらしい。第三層までいけたら、骸骨武者の真偽もはっきりするんじゃないかな。

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