ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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五重の塔と宝箱

「えと、ここが……第二層?」

 

 階段を下りた先は、木組みの和風な構造の空間だった。

 桃子は、橙色の松明にも似た魔法光が照らすその空間内をくるりと覗き見る。体育館ひとつ分あるかないかといった広さで、天井も高く、太い木の柱や梁が多く張られている、たとえるなら『巨大な天井裏』とでも言うような空間だ。

 桃子が歩くと、木の床が桃子の歩調にあわせ、ミシリと音を立てる。

 

「ここ。階段が。あって。下にも沢山の大きな部屋があるんだ」

 

「あ、そっか。ずいぶん広いけど、一応ここって『塔』なんだよね」

 

 このスタート地点の空間は、面積としては体育館程度の広さはあるものの、柱や梁の他には一見すると何もない。

 四方は漆喰のような壁に囲まれていて、そこには数カ所、木枠の窓がはめ込まれている。

 窓とは言っても窓ガラスなどというものはなく、丈夫そうな木の格子がついているだけだ。格子の窓に囲まれて、どことなく座敷牢のような雰囲気がある。

 そこから覗き見えるはずの屋外の景色は、残念ながら第一層の空と同じくどんよりとした塵で覆われており、ここがどのような場所なのかは分からない。

 

「降りるだけなら。窓の外を飛んだ方が。早そうだな」

 

「ヘノちゃんはそれでもいいかもしれないけど、私は無理だからね?」

 

「頑張ればいけるんじゃないか? ここは物凄く高いけど。桃子なら。落ちても。なんとかならないか?」

 

「どう考えても大丈夫じゃないからね?」

 

 風の妖精であるヘノにとっては、この塵で覆われた不思議な空間も移動経路の一つなのだろう。ヘノは壁際にすいっと飛んでいくと、はめ込まれた格子窓から外の景色を一望する。

 もっとも、桃子はさすがにこの格子窓を通り抜けられないし、破壊して通り抜けられたとしても高さも分からないこの空間に身を投げ出すつもりはない。

 なので、大人しく室内を見渡して、視界の先に備えられた、下の階へと降りる階段を使うことにした。

 

 

 

 

 桃子はいま、ヘノに導かれるように延々と続く階段を下りている。

 和風建築ならではの、妙に角度の急勾配な階段だ。手すりなどという親切なものはついていないので、足を滑らせないよう気をつけながら降りていく。

 しんとした静かなダンジョン内に、桃子が階段を下りる際のギシギシという音が響きわたる。

 

「なんだか全体的に、マヨイガに似てるね」

 

「木でできてて。いろんな部屋があるのは。似てるかもな」

 

 桃子はひたすら、塔の壁際に設置されている階段を下りている。

『塔』の名の通り、階段を下りれば下には同じくらいの広さを持つフロアが広がっていた。

 そして、そのフロアの角からは更に下へと続く階段が伸びている。階段だけを見れば、巨大な螺旋階段の如く、壁沿いにぐるぐると四角形の螺旋を描いて降りていく構造だ。

 

「これは、降りるのも大変だけど帰りも大変そうだなあ」

 

 桃子たちはすでに壁沿いの階段をぐるぐると下り続け、いくつかのフロアを通り抜けている。

 スタート地点の巨大な天井裏と比べると、各フロアごとにその造りも大なり小なり違っていた。漆喰の壁で分断され、扉やふすまで区切られていたり、あるいは柱すらない木張りの床が体育館のごとく広がっていたり、マヨイガのように中央にいろりの置かれたフロアがあったりと、バリエーションは豊かだ。

 それらの部屋を調べずに、どうして延々と階段を下りているのか。それは単に、桃子を先導するヘノが、各フロアには目もくれずにひたすら降りているからだ。

 

「ヘノちゃんヘノちゃん。階段をずっと下りていくのもいいけど、そろそろ周囲の部屋とかも色々調べてみない?」

 

「そうか?」

 

「ほら、今日の目的ってとりあえずは宝箱探しだもん。それに、私も新しいダンジョンだから興味あるしね」

 

「それもそうだな。じゃあ。この階から。見て回るか」

 

 桃子が話しかけると、ヘノは階段を下りるのをやめてくれた。

 ちょうどいま降りてきたフロアは、その大半が壁で区切られており、壁と壁に挟まれる形で廊下が伸びている。

 廊下には観音開きの大きな扉がいくつか並んでいるため、探索し甲斐もありそうだ。

 

「ええと……じゃあ、一番近い場所から見ていこうかな」

 

「魔物が隠れてる部屋もあるけど。桃子なら大丈夫だろ」

 

 桃子が扉に手をかけたところで、ヘノが不穏な台詞を挟み込む。

 ここはダンジョンの第二層で、魔物がいるのは当たり前だ。階段を下りる最中にも、所々、梁の上やフロアの奥に、人ならざる存在の影は確認できていた。

 もっとも、桃子の【隠遁】が効力を発揮しており、階段を下りる桃子がそれらに襲われることはない。ヘノの「桃子なら大丈夫」という言葉は間違いなく事実だろう。

 けれど、扉を開ける直前にいきなりそんなことを言われると、やはり緊張が走る。

 

「いや、大丈夫かもしれないけどさ。万が一もあるし、魔物がいるなら教えてね?」

 

「分かったぞ」

 

 ヘノの返答を聞き、桃子はゆっくりと目の前の観音開きの扉を開く。

 ギギギという軋む音とともに、扉がゆっくりと開いていく。

 

「じゃあ教えるぞ。この扉の目の前に。魔物がずっと待機してるぞ」

 

「え?」

 

 ヘノの言う通り。

 扉が開いた目の前。桃子の目と鼻の先に、古めかしい着物を着た骸骨が立っていた。扉の真正面に陣取るように、棒立ちで立ちふさがっている。

 先日第一層で暴れていた骸骨たちとは違い、甲冑姿ではない。ただし、その手には鞘に入ったままの刀が握られており、本来ならば出会い頭に切りかかってくる魔物だったのかもしれない――が。

 

「……ふぎゃああっ!!」

 

 桃子は悲鳴と共に腰につけたハンマーに手を伸ばす。

 うちでの小槌のようなサイズに縮小していたハンマーの持ち手を瞬時に握りしめ、振り上げると同時に魔力を込めて、振り下ろすと同時に巨大化させ――叩き潰す。

 哀れ、部屋を守るように棒立ちしていた骸骨は、扉をあけて悲鳴をあげている少女の姿を認識すらできないまま、ハンマーの一撃で復活の余地すらないほどに粉砕された。

 それは、時間にして一秒足らず。流れるような、悲鳴からの洗練された一撃だった。

 

「さすが桃子。一撃だったな」

 

「あのさっ、あのねっ、あのだよヘノちゃん!」

 

 桃子の発する『あのさ三段活用』に、ヘノがきょとんとした顔を向ける。

 

「魔物がいる場合はさ、もっと早めに教えてね? 驚きすぎて、私の心臓が止まっちゃうよっ」

 

「ん。そうか」

 

 桃子の必死の訴えに、ヘノはクールなものである。

 とりあえず罰として、桃子はヘノを鷲掴みにして胸元に強引にだきよせて、その小さなほっぺたを指先でグニグニと責め立てた。

 

「おしおきです」

 

「むぎゅ。むぎゅ」

 

 

 

 

 

 おしおきを堪能した桃子とヘノは、気をとりなおして室内を調べ始める。

 そこはどうやら、巨大な物置然とした空間のようだ。室内には大きな棚が並んでおり、所々に木箱が置かれている。だが、棚の中も、木箱の中も空っぽだ。

 これらははじめから空だったのか、他の探索者がすでに品物を持ち帰ったあとなのか、桃子にはわからない。

 

「うーん、物置っぽいけど、だいたい空っぽだね」

 

「桃子。天井の方にも魔物がいるから。気をつけろ」

 

「うん、なんかでっかいネズミみたいなのがいるね。梁づたいに、あちこちの階を行き来してるのかな」

 

「あいつら。桃子に気づいてないみたいだから。あとで。ヘノが倒しておくぞ」

 

「ん、ありがと」

 

 階段を下りているときから、大型のネズミじみた魔獣の姿を随所で見かけている。

 あちこちの部屋を自由に移動しているらしいネズミの魔獣は動きも速く、もしかしたら刀を携えた骸骨以上にやっかいな魔物かもしれない。

 生憎、【隠遁】をまとった桃子には気づいていないようなので、ヘノが適度に対処してくれていた。

 

 ネズミをヘノに任せて、桃子が部屋の奥にあった棚を漁っていると、蓋が開かれていないままの木箱を見つけることができた。

 それは大きさにして十センチほどの小さな木箱だ。装飾もなにもなく、宝箱というより、何の変哲もない小物入れのようである。

 桃子がその木箱を手に取ると、中に何か小さなものが入っているようなカタカタいう音がする。

 

「わっ?! ヘノちゃん、何か入ってるのがあった! あったよ!」

 

「本当だ。宝箱が多いって。本当だったんだな」

 

「これを宝箱って言うのかどうかはわかんないけどね。開けてみていい?」

 

「いいぞ。魔物だったら。ヘノが倒してやるからな」

 

「さすがヘノちゃん、頼りになるね。じゃあ――えい! ぱかっ!」

 

 気合いの声とともに、桃子は蓋を開ける。

 とは言っても、ほんの小さな木箱なので、気合いを入れるまでもなく簡単にその蓋は簡単にはずれた。

 そして――そこに入れられていたものを、桃子たちはまじまじと覗き見る。

 

「なんだこれ。タマネギか?」

 

「タマネギに似てはいるけど、違うやつだよ。何かの植物の球根かな?」

 

 それは、タマネギならぬ、球根と思わしきものだった。

 球根のサイズはヘノよりちいさく、ほんの二、三センチほどだ。そこからは何本かの根が伸びている。

 

「どうする。小さいし。そのまま食べてみるか?」

 

「待って待って」

 

 タマネギやニンニクという球根野菜は、桃子がカレーの材料として地上のスーパーでよく購入してくるので、ヘノはそれらと混同しているのかもしれない。

 だが、箱の中の球根はタマネギやニンニクに似ているだけで、明らかに違ったものである。

 

「何かの薬になるような貴重なものかもしれないでしょ? だからさ、これは食べないでひとまず持って帰ろう?」

 

「わかったぞ。じゃあ。持ち帰って。ルイやリフィあたりに。聞いてみるか。畑に植えてもいいしな」

 

「うん、そうしよう。じゃあ……とりあえず箱のままリュックに入れておこうね」

 

 見たところ、この部屋にあるのはこれくらいのようだ。

 しいて言えば、空になった木箱そのものを持ち帰ることも可能なので、念のため小さなものを幾つか拝借しておく。大きな箱は普通にかさばるし、そこまで貴重とも思えないため今回はさよならだ。

 しかし、一番初めに踏み込んだ部屋と考えれば、収穫としては上々だろう。幸先は悪くない。

 

「この調子で。他の部屋も調べて。もっと物凄い宝を。探してみるか」

 

「うん、そうしよう! なんだかワクワクしてきちゃった」

 

「ヘノもだぞ」

 

 まだまだこの階層は入ったばかりで、広大な『五重の塔』のたったひとフロアしか、桃子は調べていない。

 だから、桃子はまだ気づいていなかった。

 この、階段を下りるだけで奥へと進めるはずの『五重の塔』が、なぜ難所とされているのか。どうして探索者たちは、この塔を突破できていないのか。

 それを桃子が苦難と共に知るのは――もう少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

「うぅ……ヘノは、今日はまた、か、鎌倉ダンジョンに行っているみたいですねぇ……」

 

「ククク……そういえば、先週も話していたねぇ。五重の塔で、宝箱を探すのだったかねぇ……?」

 

「カマクラ? それって、カレーの仲間? 行ったら、面白い?」

 

「ち、違いますねぇ。た、食べ物はなくて、カレーとは縁がないダンジョンですねぇ……」

 

「空気が乾燥していて、下層に降りれば気温も高くなるはずさぁ。キミたちには、合わないだろうねぇ……」

 

「そっか! じゃあ、ルゥは行かない!」

 

「そ、それがいいですねぇ……」

 

「ククク……ところでフラム、先ほどから静かだが……キミはどうするんだい? 今なら、桃子くんたちにも追いつけるだろう?」

 

「アタシ、アタシは……えっと、そうだ! 今から長崎ダンジョンってとこで武器探してくる!」

 

「そうかい……キミがそれでいいのなら、私も何も言わないさぁ」

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