ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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焔と躯

【焔と躯 壱】

 

 それは、桃子とヘノが鎌倉ダンジョンで骸骨武者と戦うよりも――いや、桃子がヘノと出会うよりも、昔のこと。

 

『……我が身体も……漸く、戻ったか……』

 

 鎌倉ダンジョンの奥深く。燃え盛る炎の中を歩くのは、一体の骸骨武者だった。

 このダンジョンには、外見上は大差のない武者姿の骸骨が非常に多く出没する。しかし、第一層の魔物全ての頂点に立ったこの個体は、同じ武者姿の骸骨の中でも明らかに異端で、異常で、特異すぎる存在へと変貌していた。その証拠に彼は自我を持ち、人の言葉を理解している。

 その手に握られた刀は鋭く、他の骸骨の魔物たちの所有するボロボロの古い武器類とは明らかに違っていた。刀身には炎のような独特の刃紋が浮かび上がり、まるで鍛刀された直後のように鈍い光を放っていた。

 

『あの人間……強い、術士であった……』

 

 彼は間違いなく、第一層に現れた最強の骸骨武者であった。

 しかし、だからこそ。彼は絶対的な討伐対象とされ、その身を焼き尽くされたのだ。

 

 思い返すのは、己を獄炎で焼き尽くした人間の若い女。

 彼は、戦うまでもなく、刀を交えることもなく。その女の魔法ひとつで、一瞬にして敗北を喫した。

 こうして復活できた以上、その人間は彼を滅ぼすことには失敗している。けれど、彼の負ったダメージは大きく、こうして再び立ち上がるまでに幾年もの月日が過ぎてしまった。

 だが、この日。

 彼はダンジョンの下層にて復活し、その二本の足で歩いていた。骸骨武者の変異種として、完全なる復活を遂げた。

 

 そして――。

 

『骸骨! 喋る骸骨! すごい!』

 

『これは……妖精か……』

 

 その日が。

 自我を得た特異な魔物と、まだ自我の成長しきらぬ火の小妖精の二人が。

 初めての邂逅を果たした日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現代の妖精の国。

 女王ティタニアの語った話によって、鎌倉ダンジョンに出没する骸骨達が『闘争心』に呪われた魔物たちであることは理解できた。

 先日の大声で闘争心を沸き立たせる探索者、そして闘争心を隠そうともしない恐れ知らずの荒くれ妖精、ヘノ。

 その二名が襲われ、挑まれ、戦う羽目になった理由も理解できた。

 ただ、それでも。疑問は残っている。

 

「あいつ。妖精みたいな力を。持ってたんだ。どういうことなんだ?」

 

「そうなんです。ヘノちゃんの魔法も不思議な力で斬られちゃったんです」

 

「あれさえなければ。絶対にヘノが勝ってたんだけどな」

 

 あの骸骨武者は強かった。

 けれど、ただ剣術が強いだけならば、ヘノが負ける要素などなかったはずだ。ヘノは考えなしに戦いを挑む部分こそあるけれど、神槍に選ばれたその強さは本物なのだ。

 しかし、あの骸骨武者は、ヘノの魔法を斬り裂いた。

 世の中にはもちろん、風の魔法を切り裂ける強者くらい、いくらでもいるのだろう。ヘノとて、それくらいは理解している。

 けれど。あの骸骨と戦っていたとき、まさに「妖精みたいな力」がヘノの風の魔力に干渉したのを、ヘノ自身が肌で感じていたのだ。

 

 ティタニアは、真面目な顔でヘノを見つめてから。

 ゆっくりと、語り始める。

 

「その骸骨――彼の名は『躯』と呼びましょう」

 

「名前なんか。むくろでも。どくろでも。なんでもいいぞ」

 

「まあまあヘノちゃん」

 

 骸骨武者の名は『躯』。

 桃子はうんうんと頷きながら、ティタニアの話を聞いていた。名前というのは大切だ。実際に、鎌倉ダンジョンには骸骨の武者がいくらでもいるため、話題の中心となる彼に固有の名前がないのは非常に紛らわしかったのだ。

 ティタニアが名付けたのか、それとも元々そういう名前が伝えられていたのかはわからないが、桃子は『躯』という名には何の疑問も持たずに耳を傾ける。

 

「躯は、過去に鎌倉ダンジョンの合戦で勝ち残り、多くの魔物の頂点に立った個体でした」

 

 鎌倉ダンジョンの骸骨たちの特性は、桃子も把握している。

 鎌倉ダンジョンの『合戦』にて敵を討ち倒した骸骨は、その敵の力――瘴気や魔力を吸収していく。そして最後に残った一体は、全ての骸骨たちの力を吸収した存在となる。

 ティタニアの言葉が確かならば、躯は、他の骸骨たちを倒し尽くし、吸収し尽くし、その力の全てを己の糧としてきた究極の一体だった。

 その説明を聞いても桃子の心に驚きはなく、むしろ納得の心地である。

 

 ティタニアは言葉を続けていく。

 

「魔物の頂点に立つことで得た力は、並の魔物と比べられるものではありません。恐らく、第一層という浅い階層においては、すでに敵はいなかったでしょう」

 

「あいつ。やっぱり。普通の魔物じゃなかったんだな。喋ってたしな」

 

「ええ、躯は普通の魔物ではなかった。けれど……だからこそ、躯は人間たちに討伐されました。強大な魔物と戦う力を備えた探索者たちが派遣され、躯は敗北したのです。大地を燃やし尽くすような、強大な炎の力で」

 

「フレアバースト……ですね」

 

 桃子は、躯を燃やし尽くした魔法を知っている。躯を討伐した探索者を知っている。

 いや、この場合は残念ながら、討伐失敗した探索者――と言うべきなのかもしれない。

 しかし言葉での表現がどうであれ、大地にクレーターを作るほどの威力を誇る和歌の『フレアバースト』を食らって尚そこから生き残ったのならば、それはもう躯を賞賛するしかない。

 

「でも女王。あの骸骨。炎で燃やし尽くされたどころか。元気に生きてたぞ。物凄くピンピンした元気な骸骨だったぞ」

 

「躯は進化の中で新たな権能を会得しておりましたから、その影響もあったのかもしれませんね。彼は長い年月をかけ、鎌倉ダンジョンの下層にて、炎の中で、復活を果たしました」

 

「そうか。やっぱり。あの骸骨は死んだふりして。生きてたのか」

 

 同僚の女性を思い浮かべてた桃子を尻目に、ヘノがティタニアに質問を投げかける。

 ヘノの言葉を聞いた桃子は「骸骨ってもとから死んでるんだけどな」などと頭の片隅で思ったが、なんとなく無粋なのでやめておくことにした。

 その理由はどうであれ、躯は一度は究極の炎魔法で焼き尽くされた後に、炎の中から復活したのだ。

 

「そして、ヘノが知りたがっていた部分なのですが――」

 

 今ここで語られたのは、骸骨武者が誕生するまでの話だ。

 一言でまとめてしまえば単純な話で、合戦で最後まで生き残った個体が、柿沼和歌のフレアバーストで滅んだ。しかし、その後の長い年月をかけてその個体は復活を果たした。それこそが、ヘノと戦ったあの骸骨武者――躯だ。

 しかし、そこまでの説明だけでは、彼がどうして「妖精の力」を、もしくはそれに類する力を所持したのかまでは解明されていないのだ。

 そして、女王ティタニアは、静かに語り出す。

 

「私が聞いた話ではその時、復活した彼の隣に、一人の小さな少女がおりました。それは……偶然か、必然か。彼と同じ炎から生まれた、一人の小妖精でした」

 

「同じ炎から生まれた……?」

 

「そうですね。人間の言葉で言うなら、あの子と躯は――義理の家族のようなものだったのかもしれませんね」

 

 桃子がぽつりと口にした言葉に、ティタニアが反応する。

 女王は瞳を伏せている。そこに、どのような感情があるのかは桃子には読み取れない。

 

「でも。ヘノが戦ったときには。そんなやつ。いなかったけどな」

 

「それからのことは……私も詳しくは聞いてはいないのです。ですが、躯とあの子がそれから長い年月を共に過ごし、躯の武器に妖精の力を分け与えていたのは、確かなようです」

 

「なんだそれ。魔物の武器に力を分けてやる妖精なんて。いるんだな」

 

「……」

 

 事実として、桃子はヘノよりも賢い。

 だから、ティタニアの言葉の裏に隠された意味を、読み取れた。もしかしたらティタニアも、桃子にはそれとなく伝わるように語っているのかもしれない。

 ティタニアは、この登場人物が二人しか出ていない話を、誰かから聞いた話として語っている。ティタニアは、その火の小妖精を『あの子』と言っている。つまりは、ティタニアはこの話を、その火の小妖精――あるいは、火の妖精から直接聞いたのだろう。

 

「女王。その小妖精は。今はどこに行っちゃったんだ?」

 

「あの子は『躯とは決別した』と言っておりました。互いの望むことの違いに、耐えられなくなったのだそうです。それからは、二度と会うことはないと言っておりました」

 

「そうなのか。よくわからないけど。骸骨と。喧嘩したってことか。骸骨と一緒に暮らすのも。大変だったんだな」

 

「ええ。骸骨も妖精も、みんな大変なのですよ」

 

 そうして結局、ヘノがよくわからない納得をした形で、この会話は終了した。ヘノとしては、骸骨がどうして妖精の力を持っていたのかを知りたかっただけなので、なんとなくでもその答えに納得できたのでこれでいいのだろう。

 あの骸骨が闘争心を基準にしていることはわかったが、だとしても、どうして人間たちを逃がしたのか。そして骸骨と妖精との間に、何が起きたのか。

 そこまでの答えは、いまこの場では出そうにない。

 

「ではヘノ、そろそろ寝室に戻る時間でしょう? 桃子さんが眠そうですよ?」

 

「え、私はまだ……」

 

「なんだ。桃子。難しい話を聞いて。眠くなっちゃったのか。じゃあ。一緒に寝ような」

 

「ん、しょうがないなあ。じゃあ、そろそろ寝室に戻ろうか。えと、ティタニア様……」

 

「ふふふ。ゆっくりとお休みになってくださいね」

 

 ティタニアに、ちゃっかり話題を終わらせるために使われてしまった桃子だけれど、これ以上この話題を続ける気にもならなかったので、ティタニアの気転には乗っからせてもらうことにした。

 今日は、寝室でヘノと一緒に寝て。明日はまた、骸骨のいないダンジョンで遊べば良いだけだ。

 そう考え、桃子はティタニアにぺこりと頭をさげて挨拶をすると、ヘノに連れられて女王の間を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 人間を駄目にするベッドに沈み込んで、桃子はヘノに声をかける。

 ヘノもこのベッドのどこかに沈んで遊んでいるはずだ。

 

「ヘノちゃん、明日はどうしよっか」

 

「どこでもいいけど。鎌倉ダンジョンは。やめておくか。ヘノはいいけど。あいつ。桃子にまで襲いかかってくるからな」

 

「ん……わかった……むにゃ……」

 

 鎌倉ダンジョンは気になるけれど。躯のこと、そして――躯とともにいたという、火の小妖精のことは、気になるけれど。

 けれどこの日は、疲れすぎた。今はただ、五体満足で怪我もなく妖精の国に戻ってこられたことに、感謝をしながら。

 桃子は、深い深い夢の世界へと、落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある探索者たち】

 

「いやもう、すごかったんですよお! 骸骨武者が魔物を一掃して、スーパーパワーで私たちのピンチを救ってくれたんですよお!」

 

「オーケイ、それはもう何度も聞いたぜ」

 

「その後、放り投げられたけどね」

 

「想像よりもワイルドでした! はぁ……ほんとにほんとに、噂の骸骨武者に出会っちゃいましたよお、どうしましょうか」

 

「どうもしないけどね」

 

「しかし、お前らが骸骨武者に放り投げられて? 戻ってきたのがたまたま場所の分かる渡り廊下のロビーだったのは、本当に幸運だったな」

 

「そうね」

 

「本当に、お前たちはラッキーだぜ。数年前には、転移されたままとうとう帰らぬ人になった探索者もいたんだからな……」

 

「たまたまのラッキーなんかじゃないですよお? 私たちは、骸骨武者さんが意図的に安全な場所まで送り返してくれたんですから!」

 

「ホワッツ? そうなのか?」

 

「渡り廊下だったのも、武者さんに渡り廊下で拾った黒い塊をあげたので、そのお礼じゃないですかねえ」

 

「すぐに粉砕されてたけどね」

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