ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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魔女会議

「はぁ……先輩は今頃、ダンジョンでカレーでも食べてるんですかね」

 

 ここは、東京都新宿区にそびえ立つ、ダンジョン庁本部の入るビルである。

 新宿ダンジョンの門と隣接しており、一般的には地階にある『新宿ダンジョンギルド』としても知られるビルだが、そのビルが世界魔法協会の日本本部も兼ねていることは、知らない人も多い。

 そのビル内の一室で、柚花は大きなため息をついていた。

 

「今日こそは先輩と一緒に遊び回りたかったのに。こう連日会議に呼び出されても困るんですけど」

 

「ごめんなサイ、ユカさん。でも、大切なことナノよ」

 

「そうですよ。【不老の魔女】、【深潭の魔女】、そして【看破の魔女】。三人そろってようやくの魔女会議なのですから」

 

「ちょっと、人をいきなり魔女に仕立て上げないでくださいよ」

 

 ここは、過去に何度か訪れたことのある会議室。そして、柚花の目の前に座る二名の美少女たちが、それぞれに柚花に言葉を投げかける。

 申し訳なさそうに言うのは、車椅子に座ったブロンドヘアの女性、不老の魔女クリスティーナ。世界魔法協会の会長であり、現妖精女王ティタニアのパートナーだ。不老と称されるだけのことはあり、齢六十になろうという身ながら、その姿は十代か、よくて二十代前半の若さを保っている。

 もう一人の全く悪びれていないほうは、深潭の魔女りりたん。先代妖精女王ネーレイスの転生した姿であり、人間としては聖ミュゲット女学園の一年生、天海梨々という名を持つ。つまりは柚花の学校の後輩だ。

 

「それにですけど、なんですか【看破の魔女】って」

 

「【看破】はゆかたんの代名詞ではないですか。本当はこの場に【飲酒の魔女】と【幼女の魔女】も呼びたかったのですけれどね」

 

「勝手に名付けるにしても、もう少しまともな魔女名にしません?」

 

 りりたんの物言いに、柚花は呆れ顔を隠そうともしない。

 あんまりにもあんまりなネーミングだが、【飲酒の魔女】とは深援隊副隊長であるオウカのことだろう。

 彼女は世界でも上位に位置する治癒のエキスパートであり、魔法生物とも非常に縁が深いため、世界魔法協会としては彼女を将来的な日本支部の幹部ポジションに招集する予定らしい。

 彼女は医療関係の人命に関わる予定が入っており、この会議には参加できなかったようだ。そればかりは仕方ないと、りりたんも彼女の不参加を大人しく受け入れている。

 そして【幼女の魔女】。これまた酷いネーミングだが、これは筑波ダンジョンに属する来智ミトのことだ。彼女は事情によりダンジョンから離れられないため、ギルドの代表ポジションにこそ就任してはいないが、実質日本ダンジョン庁、およびギルド組織での発言力はトップクラスである。

 もっとも、ミトはいま、永い眠りの真っ最中であり、いつ起きてくるのかもわからない状態だ。

 

「話を戻しマしょうか。これから先の計画のことですが……」

 

「ふふふ。ネックはやはり、新宿ダンジョン。そして、蔵王ダンジョンでしょうか」

 

 この室内にいるのはこの三人だけではなく、周囲にはギルドの人員、魔法協会の人員が何人か控えている。

 それこそ隣のテーブルでは、クリスティーナの秘書や護衛が、何故か呼び出されているギルド職員の窓口杏、魔法協会職員の老芝奈々を交えて、何かしらダンジョンの管理に関する話し合いを続けていた。

 柚花は、そちらの卓にも視線をちらりと向けてから、クリスティーナとりりたんに視線を戻し、会話に加わる。

 

「そもそも蔵王ダンジョンって、ティタニア様が掌握できているのが第一層までなんですよね? あの中、どうなってるんですか?」

 

「そうですね。深援隊の方々に加えて、私の部下の何人かにも踏み込んでもらいマしたが……」

 

 新宿ダンジョンは、単純に瘴気が濃く、魔物が強い。ダンジョンの踏破もまだ上層のみであり、ティタニアによる掌握も出来ていない。

 何故そんなことになっているのかと言えば、それは非常に単純な理由だ。新宿という土地が日本の中心であり、そこに集まる負の念が、他のダンジョンと比べて圧倒的に多いのが理由だそうだ。

 しかし、新宿は立地的に仕方ないとして。意外なことに、新たに誕生したばかりの蔵王ダンジョンが思いの外、問題を含んでいた。

 第一層『雪の果樹園』は問題なくティタニアの管理下である。だが、第二層は空間の魔力が濃く、並の探索者ではまともに歩くこともままならないらしい。

 

「ふふふ。第二層は魔力の波長が違いすぎてティタニアも手こずっているようですが、それでもティタニアならば時間の問題でしょう」

 

「なら、問題は第三層ですか?」

 

 そして、深援隊という高ランクパーティが総出で挑んでも、未だ第三層にまともに踏み込めていないのが実状だ。

 いや、厳密には違う。すでに、目の前にいる深潭の魔女をはじめ、ごく一握りは第三層がどのような場所なのか把握している。

 その上で、手をこまねいているのだ。

 

「ふふふ。第三層は一筋縄ではいきませんね。場合によっては、ももたんに頼らざるを得ませんよ」

 

「ちょっと、先輩に負担をかけるのやめてください。深援隊ならともかく、なんでそこで先輩が出てくるんですか」

 

「そうでもないのですよ。なにせあの地にはずっと昔から、【創造】の――」

 

 りりたんが何かを言い掛ける。

 しかし、その声は、この魔女会議へと声をかけるクリスティーナの秘書の声で遮られた。

 

「すみません、会長。日本のダンジョンで、リアルタイムで妖精に関わる情報が報告されています」

 

 会議室内が、シンと静まる。

 この室内にいる人員は全員、『そちらの事情』に精通したメンバーだ。

 そして、妖精の目撃談というのは、何かしらの問題を孕む場合が多い。

 

「……どうぞ。話しなさい」

 

 それが、緑の風をまとう妖精、もしくは爪楊枝を所持した妖精の目撃談ならば、話は早いのだ。単純に、桃子が何かしらでとちっただけと考えられる。

 けれど、秘書が報告してきたのは――。

 

 

 

 

 

【鎌倉ダンジョン専用 雑談スレ】

 

 

:第三層へのルート確定ってマジか?

 

:今ほかのパーティもそのルートを辿ってどんどん降りて行ってる。

 

:五重の塔探索してるパーティいくつかあるけど、どのパーティだ

 

:ハスカップのところ

 

:あいつらつい昨日、骸骨武者に助けられたって報告してたばかりじゃねえか

 

:(ハスカップで通じるんだ……)

 

:今も生配信で妖精のあとを追跡して、五重の塔をすごい勢いで下降中

 

:妖精? 配信に?

 

:いや、赤い妖精が猛スピードで通り過ぎて行くのに遭遇したらしい。それにハスカップの『追跡』魔法がヒット。

 

:追跡とは、ダンジョンにいる間は魔法をかけた相手を追跡できるという、使いどころが微妙な魔法だ

 

:解説乙

 

:追跡って、ワープ罠も避けられるの?

 

:房総のピザ屋や美食家と同様の、正解ルートが脳裏に浮かぶタイプの魔法だそうだ

 

 

 

 

 柚花たちは、そのリアルタイムで盛り上がり、なお書き込みが増え続ける掲示板を追いかけ、その該当パーティの配信チャンネルを会議室の大画面に投影する。

 書き込み通り、画面には妖精そのものは映っていないが、第二層である『五重の塔』をどんどん下降していくパーティの映像が映っている。

 転移の罠があるはずだが、それを的確に避けて進むことに成功している。妖精を『追跡』しているというのは本当のことのようだ。

 

「りりたん。ここで言われてる赤い妖精ってフラムさんですか?」

 

 柚花は、映像から視線を外してりりたんに顔を向ける。

 このパーティが第三層に降りること。それ自体は何も問題はないし、彼らの実力的には緊急事態というわけではないだろう。少なくとも、彼らが魔物に襲われ死亡するショッキングな映像になる可能性は低い。

 だが、問題はその前提となる『妖精』だ。

 ティタニアの娘たちのなかで、赤い妖精といえば火を司るフラムが真っ先に思い浮かぶ。数多の小妖精も含めれば他にも赤い色合いの少女は多くいるだろうが、小妖精が何か目的を持ってダンジョン奥を目指して飛んでいくということなどないだろう。

 

「ふふふ。どうやら、彼女は――焔は、けじめをつける気ですね」

 

「ほむら? また知らない名前が出ましたね」

 

「ネーレイス様、説明を。場合によっては、魔法協会を動かさねばなりマせん」

 

「ふふふ。そうですね。ならば――ダンジョンには、ルビィに向かってもらうことにして……」

 

 りりたんは勝手にリモコンを操作して、映像として大画面に映されている生配信の音量をゼロに落とす。

 そして、いつものように、何か含んだような瞳で、クリスティーナと柚花の前にたち、語り始めた。

 

「私たちはここで一つ、昔話をしましょうか。焔と躯、とある絆で結ばれた――結ばれてしまった、魔物と妖精、二人の出会いの物語です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【焔と躯 弐】

 

 それは、桃子がヘノと出会うよりも前。

 鎌倉ダンジョン第三層、彼岸花の咲き乱れる赤い大地でのことだ。

 

『やれ! いけ! 強いぞ! むくろ!』

 

『……』

 

 そこには、燃えさかる炎の刀を手にした一体の骸骨武者と、その横で彼を応援している無邪気な小妖精の姿があった。

 骸骨武者の名は躯、火を司る小妖精の名は焔。

 大した捻りもない見た目通りの名前であるこれは、名前を聞かせろと騒ぐ小妖精のため、この骸骨武者がつけたそれぞれの名だ。

 その名そのものに大した意味など込めてはいないが、小妖精の焔はその名をいたく気に入っていた。

 

 そして、焔が何を応援しているのかというと、躯の戦いである。

 相手は、同じく武器を手にした骸骨たちだった。

 人間の訪れることのないこの下層にて、焔と躯の二人は、ただひたすらに自分以外の魔物と戦い、討伐しながら日々を過ごしていた。

 

『焔……そなたの力があれば……我に負けはなし……』

 

『じゃあ! 明日は、もっと強くて! 格好いい武器の敵と、戦おう!』

 

『焔……それは……そなたが危険だ……』

 

『ほむらは、大丈夫! むくろがいるから!』

 

『ふむ……』

 

 彼らは日々、戦い続けた。

 この地の魔物たちは、闘争心に飢えている。本来ならば本能的に人間に襲いかかる魔物たちだが、この彼岸花の大地――そして、その下に広がる階層に人間が訪れることはなく、結果として、闘争を求めた魔物同士の争いが頻繁に勃発する、そんな場所だった。

 そんな世界で、焔と躯は共に生きていた。魔物と戦い、倒した相手の力を吸収することで、更に強くなる。その繰り返しの日々だった。

 

 焔は小妖精ながらも、己の名付け親でもある躯という魔物に懐いていた。

 躯は魔物ながらも、己に力を注いでくれる焔を受け入れていた。少なくとも、共に長い時間を過ごす程には。

 

『むくろ! なんだあれ! なんだあれ!』

 

『……人間、か。しかし……弱いな……』

 

『あれが人間か! 初めて見たけど、魔物に襲われてる! 魔物! 倒そう!』

 

『……ふむ……』

 

 その日、第三層に迷い込んだ人間――転移の罠で運ばれてきた探索者を、二人は発見することになる。

 

 そこで焔は、直感的に『人間を助けよう』と思った。焔は決して人間を襲う本能など持っておらず、そこにあったのは純粋な善意だった。

 そこで躯は、闘争心を持たぬ人間などに興味はなく『人間を襲う魔物たち』に目をつけた。人間を前にして闘争心を剥き出しにする魔物たちこそを、己の標的と定めた。

 

 その致命的な、想いの差違は――。

 二人の運命を、永遠に隔てることとなる。

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