ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「おいルビィ。魔女の言ってることは。本当なのか?」
『嘘なんてつかないワヨ! 実際に、探索者たちがフラムを追いかけて第三層まで進んでるんだからネ! あとヘノ、ワタシはティタの親友なんだから、もっと敬意を払いなさいヨネ!』
「そうか」
「とりあえずヘノちゃん、私たちも急いで鎌倉ダンジョンまで行こう」
話を聞いても、ヘノは「わけがわからないぞ」とでも言うようにルビィを詰問する。ヘノは、妖精の妹でもあるフラムと鎌倉ダンジョンの関連性を分かっていないのだ。
一方、桃子はすぐに事情を察することができた。昨日はフラムの姿が見えなかったのだが、恐らく自分たちのいない間に妖精の国に帰ってきたのだろう。
そこで、何らかの誤解――いや、誤解ではないかもしれないが、ヘノが『躯』と戦ったという話を聞いたのかもしれない。
桃子の考え通りに、フラムこそが『焔』なのだとしたら。過去の家族である躯と、現在の家族であるヘノとの争いと聞いて、何かしら思うところはあったのだろう。
フラムの心境まではわからない。けれど、桃子には根拠こそないが、確信があった。
これを放置してしまうと、きっと。
取り返しのつかないことになる、と。
「ああもう、私の馬鹿。まず、フラムちゃんが戻ってくるまで待って、話をするべきだったんだ……!」
桃子は己の迂闊さを悔やみながら、ぽこぽこと自分の頭を拳で叩く。痛くはないが、そんな桃子の奇行をリドルが『新たな謎を見つけた!』と言いたげな顔で見ていた。
『モモコよ、まあ落ち着くが良い。急ぐならば、我が光の膜の入り口まで送ろう。荷物は置いていって構わん』
「転移の術は。本当に便利でいいな」
『ダンジョン内なら、自由に行き先も指定できるのネ! お母様も似たのを使うけど、高度な術だワ!』
スフィンクスの魔法陣が桃子の周囲に広がり、光の幾何学模様がぐるぐると渦を巻く。桃子が羽織っている白い布地――砂漠ポンチョが、魔力の風でパタパタとはためく。
ヘノとルビィは桃子と共に光の中、共についてこようとしたリドルは何故かスフィンクスに押さえつけられてもがいている。あちらはあちらで話でもあるのだろう。
「スフィンクスさん、ありがとうございます! えと、今度こそ本当に、絶対にブラジャー持ってきますね!」
『我はそのようなもの別に頼んでは――』
いつか、再びマヨイガで大量の布地を集めて。スフィンクスの豊満すぎる胸部を隠す下着を制作しようと心に決めながら。
桃子たちは、第二層『熱砂砂漠』へと転移されるのだった。
熱砂砂漠から妖精の国を経由し、花畑で楽しげに遊んでいる妖精たちと挨拶をする余裕もなく、桃子はヘノとルビィの二人とともに鎌倉ダンジョンへと飛び込んでいく。
第一層『枯戦場』は広く足場も悪いが、つむじ風の魔法の妨げになる障害がない。何人かの探索者たちの頭上を翔び、骸骨たちを蹴散らしながら、桃子は第二層へ続く階段へと到着した。
急いできたため、今の桃子は身体の上から白い砂漠ポンチョを羽織ったままだ。見るものが見れば、砂丘ダンジョンで噂されるメジェドの再臨かと思うかもしれない。
「ヘノちゃん、どのルートから行けばいい?」
『どうせ中で行き来出来るんだからどこでもいいジャナイ!』
「ルビィ。駄目だぞ。こういうときこそ。イソガバを回すんだ」
『イソガバってなんなノ!? 知らないワヨ!』
第二層『五重の塔』へ続く階段は、途中で五つに分岐している。これは、第一塔から第五塔、どの塔に向かうかの分岐点だ。
ルビィの言うとおり、中に入ってしまえば途中の渡り廊下で塔の移動は出来るのだが、しかし中で改めてフラムの行方を探すくらいならば、はじめからフラムの通った経路を辿るのが一番いいのは間違いないだろう。
急がば回れ。この言葉の意味をヘノは相変わらず勘違いしているが、使い方としてはあながち間違っていないので、桃子はノーコメントだ。
「よし。フラムの気配は。こっちにある気がするぞ」
そうして、ヘノが指さしたのは第二塔だった。
奇しくも昨日、探索者パーティが魔物たちの挟み撃ちに合い、ハスカとアケビの二人が彼岸花の大地へと転移された、まさにその塔である。
「本当に。フラムが。骸骨と一緒にいたっていう妖精だったのか? あいつ。そんな話。したことなかったぞ」
「まあ、フラムちゃんも、みんなには知られたくない話だったのかもしれないしっ……!」
つむじ風をまとったまま、階段を一足飛びで飛び込むように降りていく。決して広い通路ではないので力加減を間違えれば天井や梁に激突してしまう恐れがあるが、力加減は身体で覚えていけばよい。
ダンジョン内での桃子は非常に頑丈なのだ。何度か失敗して天井や梁に激突したものの、全て「イテテ」で済んでいるので、問題はない。
桃子とルビィはひたすら塔を降りながら、ヘノに説明をしていく。
フラムこそが、ティタニアの語っていた『躯と暮らしていた火の小妖精』の現在の姿であること。
そして、恐らくだが。ヘノと躯が争ったことを又聞きで知ってしまったフラムが先走り、飛び出ていってしまったこと。
それらは桃子の推理で補った要素も多々あるが、フラムが鎌倉ダンジョンへと潜っていったこの状況こそが、それが真実だと物語っている。
『私もあまり詳しくは知らないけど、フラムとムクロは、大喧嘩してそれきりだったはずナノヨ』
「そうか」
ルビィの補足に、ヘノは少しだけ黙って、考えて。
そして、言葉を付け加える。
「大喧嘩してるんだったら。ヘノはフラムの味方をするぞ。あの骸骨とは。もう一度戦いたいし。フラムはヘノの。妹だからな」
躯と戦いたい。
妹を助けたい。
どちらもヘノの本心だ。そして、どちらの方がよりヘノの心を占めているのかは、ヘノ自身もよくわかっていないのだった。
桃子たちが階段を駆け下りていくと、その途中では何組かの探索者パーティを追い越すことがあった。
いつもならばバラバラに潜っている彼らだが、今は皆が同じルートを辿っているようだ。
「おっと、ヘノちゃんいったんストップ! この勢いで駆け下りたら探索者さんたちをひき殺しちゃう」
「ひき殺しちゃったら。どうするかは。そのとき考えよう」
『そのとき考えるんじゃ遅すぎるワヨ!』
勢いのままにぶつかれば、探索者たちが無事では済まない。
ヘノとルビィのブラックジョークじみたやりとりをBGMに、桃子は一時的に速度を下げて、そろりそろりと彼らの脇を抜けていく。
探索者たちから見つからぬよう、ヘノは桃子の砂漠ポンチョの内側に隠れ、ルビィは魔法の力で自分の気配を薄くすることで対処していた。
「今日は。探索者たち。端末で何かを見ながら進んでるな」
どうやら、先ほどから見かける探索者パーティは、何らかの配信動画を見ながら進んでいるようだ。そして彼らは、所々に存在する転移の罠を、見えていないはずだというのに的確に避けている。
「この人たちが見てるのって、別なパーティの探索映像? そこで、ルートが紹介されてるってこと?」
『そうナノ。フラムのあとを追いかけることで、第三層へのルートが確定しちゃったんですッテ。もう、彼岸花の世界に踏み行ってるパーティもいるノヨ』
「なるほど、そういうことなのね」
フラムはよほど冷静さを欠いてしまっていたらしい。
気持ちがまっすぐに出てしまう子だ。探索者たちから隠れようとも思えないほどに、周囲が見えなくなってしまっていたのだろう。桃子はフラムを追いかけながら、先を行っているはずのフラムのことを心配する。
そして、それと同時に、別な心配事が湧き上がる。
「でも……このままだと本当に、一気に第三層に探索者のみんながなだれ込むことになるね」
桃子は、階段で追い越した探索者パーティを後にして、再びつむじ風の勢いで階段を下り始める。
すでに桃子たちは、かなり塔を降りてきている。恐らく、第三層は近いだろう。
ここまでに追い越した何組かのパーティが彼岸花の大地に踏み込むのは、もう時間の問題だ。
「それだと。何か困るのか?」
「うん、もしかしたら。危険かもしれない」
『あのねヘノ。人間は、人数が増えると強気になるノヨ。強気は、闘争心につながるノ』
「それで、闘争心は魔物を呼び寄せるんだよ。この鎌倉ダンジョンに限っては」
「そうか。女王が話してたな。骸骨は。誰かと戦いたい気持ちで。動いてるんだったな」
どうやら、ヘノも合点がいったようである。
この鎌倉ダンジョンは――この場所に出没する骸骨たちは、『闘争心』に呪われていると、ティタニアは言っていた。
今まで骸骨武者の犠牲者が――少なくとも、桃子の知る範囲では――いなかったのは、彼岸花の大地に迷い込んだ彼らが、恐怖、困惑、不安、それらの感情によって余裕をなくし、闘争心を燃やすどころではなかったからだ。
けれど。
人間は、仲間といれば、心を強く保てる。保ててしまう。
闘争心を燃やす余裕を得てしまう。
『お母様が言ってたワ。今回はフラムがきっかけになりはしたけど、時間の問題だったノヨ』
「時間の問題……って、第二層の攻略が?」
『そうヨ。魔法で転移の罠を避けられる人間がいるんだモノ。そうでなくとも、ユカを招集すれば一発クリアだったノヨ』
「それも、そっか」
時間の問題だった。それはまさに、その通りだ。
まさに昨日も、感知魔法の使い手がいた。そうでなくとも、人間側には「柚花のように罠を直接視られる探索者を呼び出す」という手段がある。柚花でなくとも、その手段を持つ探索者は探せばいるはずだ。
つまり、骸骨武者の躯のもとに人間が現れるのは、時間の問題。避けようもない運命だったのだ。
「……あの骸骨武者――躯は、闘争心の強い相手を求めてるんだよね」
「じゃあ。あの強い骸骨に。人間が。襲われるわけか」
人間たちが自分の足で第三層への道筋を見つけるのと、躯が彼らを標的にするのは、イコールだ。
「うん。きっとそれはさ、本能で、抗えないところなんだと思う。だから、どうにか……どうにか、しないとね」
「……。あの骸骨。そんなにまで。強い奴と戦いたいんだな」
どうにかする。
そのやり方は、未だ何も思いつかない。
けれど、どうにかしなければいけない。
そのような葛藤を抱きながら階段を降りていく桃子の前に出現したのは――五重の塔の最下層と思わしき空間だ。天井は今までのフロアよりも広く、玄関口、もしくはロビーといった内装だ
そしてそこには、巨大な門がある。地面にそびえ立つ建築物として考えるなら、ここが塔の入り口にあたる正門なのだろう。
「とにかく……行こう、ヘノちゃん、ルビィちゃん」
「……ヘノが。どうにかしてやるか」
「ん?」
「なんでもないぞ。行こう」
ギィ、と音を立てて門を開くと、そこには。
第三層『彼岸花の大地』へと続く岩肌の階段が、大きく口を開いていた。
【焔と躯 参】
桃子とヘノが出会う日より、幾年か遡る。
鎌倉ダンジョンの下層では、骸骨武者の躯、そして火の小妖精の焔が、日々、魔物との戦いに明け暮れていた。
闘争に飢えた魔物を倒し。下層に迷い込んできた人間に群がる魔物たちを、餌として殲滅して。その都度、焔の願い通りに人間たちを上層へと送り返す。
焔は躯に力を与え、彼の強さをただ喜び。躯は、焔の応援に支えられ、魔物を狩り続ける。
二人は、そのような時間を共に生きていた。
しかし――。
『……強き人間が、現れたか……』
『えっ……? むくろ、むくろ?』
その暮らしは、その日。突如として終焉を迎えることとなる。
その日に下層に迷い込んだ人間は――強かったのだ。
躯は当然のようにその人間に群がる魔物を殲滅し、そして、残された人間にも炎の刃を向けたのだ。
「くそがぁっ! 魔物の親玉かぁ……っ?!」
『待って! むくろ! これは人間、人間!』
『……焔……どけ……。強き者と戦うことこそ……我が、本望よ……』
焔は、人間と躯が戦うことなぞ望んではいない。
だから彼女は、必死で躯を止めようとした。人間と躯の間に舞い降りて、会話をしようとした。誤解を解こうとした。
自我の薄い小妖精の身でありながら、焔は――大切なものを守ろうと、大切な生活を死守しようと、必死だった。
けれど。
「内輪もめたぁ、余裕だなあ化け物どもがよおお! 俺がいるのを忘れんじゃねえぞっ!!」
『ぎゃっ!?』
その人間は、生き残るために戦うことを選んだだけである。彼もまた、必死だっただけである。
たったそれだけで。魔力が込められた人間のひと薙ぎで、焔の小さな身体は吹き飛び。
そして、意識を失った。