ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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闘争の風

 大地からは轟々と灼熱の炎が吹き上がり、ヘノを中心とした強風の渦がその業火を天まで運ぶ。

 至る所に墓標の如く突き立てられた武器の亡骸は、吹き荒れる業火にまかれ、次第にその形状を失っていく。

 嵐とともに業火が吹き荒れるその戦場は、まさに人の想像する『地獄』のような風景になりつつあった。

 そんな中で、旋風の中心に陣取るヘノは、骸骨武者――躯と睨みあっていた。

 

「フラム。言っておくけど。余計なことは。するんじゃないぞ」

 

「でも、ヘノ! アイツ……むくろの武器は……!」

 

「わかってるけど。駄目だ。ヘノも。骸骨も。それを望んでるんだ」

 

「……わかった」

 

 未だ、顔を涙でぐしゃぐしゃにしたフラムを余所に、ヘノと躯は睨み合う。

 ヘノが軽く周囲の空気を操り、躯の周囲に真空の断裂を飛ばしていくが、それは挨拶代わりだ。

 周囲の炎熱を巻き込んだ真空の風は、しかし。魔力そのものを断裂させるような躯の剣舞によって、ボン、という空気が弾ける音と共に霧散していく。周囲には火の粉だけが弾けている。

 躯の刀が鈍く光り始め、ヘノの魔力を斬り裂くための紅蓮の炎が、刀身に絡みついていく。

 

『……良いのだな……』

 

 躯が、ヘノに問う。何がとは、問わない。

 ヘノも、躯の聞きたいことは分かっていた。ツヨマージをゆらゆらと揺らしながら、淡々としたいつもの無表情で、答えていく。

 

「いいんだ。骸骨。この前は途中で終わったけど。今日は。互いに全力だ」

 

 まだ、互いに序盤。人の言葉で言うならば、多少のジャブを打ち合った程度である。

 けれど、たったそれだけでも。躯はヘノの真意を読み解いた。

 

『……そうか……』

 

「お前が。とにかく。戦いに飢えてるって。聞いたんだ。だから――」

 

 ヘノが、己に風を纏う。

 風の妖精であるヘノの真骨頂は、ヘノ自身が風と化したかのような、自由な空中戦だ。

 その場で停滞したまま真空の刃や風の弾丸を飛ばして戦うのは、ヘノにとっては単なる力試しのようなものだ。決してそれは、本気の戦いではない。

 だが、今は。

 

「ヘノが。本気の戦いで。お前のことを。満足させてやる」

 

 爆発するような暴風が、ヘノを中心にして巻き上がった。

 

 

 

 

 

 

「これは。どうだ」

 

『……容易いこと……!』

 

 業火を巻き込んだ竜巻の数々が、縦横無尽に飛び交うヘノと共に躯に襲いかかる。

 だが、まるで本人も乱舞を踊るかのように躯もまた抜刀し、その紅蓮の軌跡が空中に出現する。一閃、二閃、三閃。その全ての軌跡が竜巻の魔力を断裂させ、切り裂き、真空の太刀筋で飲み込んでいく。

 躯の動きを目で追えるものはおらず、ヘノやフラムの目を以てしても、その太刀筋を正確に読み取ることは叶わない。

 

「やるな」

 

『貴様……昨日より……強いな』

 

「まだまだ。疾くなるぞ」

 

 風の弾丸――いや、嵐を凝縮した砲弾が縦横無尽に飛び交い、躯に襲いかかる。

 既に躯とヘノの周囲の地形は戦闘の余波でボロボロと崩れ去り、ここが枯れた炎の大地でなければ、周囲への被害は甚大なものになっていただろう。

 これが、ヘノの本気の戦いだ。

 そして、躯はそのヘノの猛攻を、炎の刃で捌き切っている。

 

 攻めているのはヘノだけではない。

 嵐の狭間を突き、炎熱の刃がヘノへと振るわれる瞬間。

 

 閃。

 

 しかし、ヘノが既に配置していた嵐の結界に阻まれ、コンマ一秒にも満たない時間、刀の動きが止まる。ヘノにはそれだけで十分だった。

 刀の届く範囲にすでにヘノの姿はなく、更には置き土産のように圧縮された嵐の球が設置され――躯の斬撃によって、圧縮された嵐が破裂する。

 爆発的な風圧に押された躯が一時、空中を捻れるように吹き飛び、炎の中へと着地する。

 

『……くく……くははは……!!』

 

「火まみれだな。楽しいか? 骸骨。ヘノは。楽しいぞ――!」

 

 合図もなく。互いに再び交錯する。風が、炎が、真空が、刃が、幾度となく入り交じる。

 躯の甲冑は、すでにボロボロだ。ヘノの嵐の砲弾は、真空の刃は、それ一つで並の魔物など瞬殺できる規模の能力である。

 当然、ダメージを食らっているのは躯の身を守る甲冑だけではない。頑強さを誇る躯の身体を構成している白骨も、所々すでにヘノの猛攻によってへし折られているのが見える。

 けれど、躯は戦い続けている。むしろ、彼は表情こそ分からないものの、この戦いを心から楽しむような、高らかな笑い声をあげている。

 

 そして、ヘノもまた、戦いを楽しんでいた。

 ヘノはいま、かなりの無茶をしている。一撃でもまともに食らえば即死してもおかしくはない程の斬撃を躱し続け、その隙を見つけては強大なカウンターを決めていく、綱渡りのような戦いだ。

 けれど、いつもならば無表情なヘノの口元には。仄かに、笑みが浮かんでいた。

 

 

 ひりつくような戦いが続く。

 周囲を巻き込むほどの紅蓮の嵐の中で、ヘノと躯は全力で、互いの『闘争心』を食らい合っていた。

 これは、周囲の破壊を一切気にしなくていい下層であり、近くに護るべき人間である桃子がいないという、今のこの状況だからこそ許された、全力の戦いだ。

 

「ヘノ……むくろ……」

 

 フラムには、残念ながら、この二人の戦いについていくだけの力が無い。

 いかに自我を得た妖精で、火の力を自在に操る存在になろうとも。ツヨマージを使いこなすヘノほどの力も、躯ほどの戦闘経験もない。

 だから、それを離れて見ているしかできないフラムの目には。

 

 全力の力を叩きつけ合う二人が、とても、とても。楽しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 ヘノと躯の、剥き出しの『闘争心』の食らい合いを眺めているのは、フラムだけではない。

 鎌倉ダンジョン第四層から遠く離れた、新宿の地。

 そのビルの一室では、ヘノたちの戦いがプロジェクターの大画面に映し出され――あたかも、鑑賞会のような形で、上映されていた。

 これは、りりたんの【千里眼】の術の応用だ。普段ならば空間に浮かぶ、"次元を超えた球体"にて観察するところなのだが、この日は他の人間たちにも見やすいよう、【千里眼】を光の映像として画面に投影するという、実に器用な真似を披露していた。

 

「りりたん、ヘノ先輩ひとりで滅茶苦茶戦いはじめてますけど、本当に大丈夫なんですか?」

 

「どうでしょうか。躯さんは非常に強い剣士ですから、ヘノさんのやり方では勝てないかもしれませんね」

 

「ちょっと……ふざけないでくださいよ!」

 

 りりたんの横でその映像を真剣な目で見ていたのは柚花だった。

 柚花は最初、すぐにでもダンジョンに入ろうとするが、それはりりたんやクリスティーナに止められた。今から柚花の足でダンジョンに潜り、仮に妖精の国を経由して鎌倉ダンジョンへと急いだところで、あの場所までたどり着くのに何時間かかるかもわからない。

 つむじ風の魔法で最速移動ができる桃子に、生身の足で走って間に合うわけがない。だから、今はここで桃子たちを信じ、行く末をその目に焼き付けた方が良いという、りりたんの口車に乗せられたのだ。

 とはいえ実際に、この場にいる深潭の魔女――りりたんならば時間をかけずにあの場に干渉する術がある以上、悔しいことに、柚花が出向くよりはりりたんに任せたほうがよほど確実だ。

 

「事実は事実なのですから、怒らないでください。大丈夫ですよ、精霊樹の加護がありますから、魔物の刀で斬られた程度ではヘノさんは死にません」

 

「そうは言いますけど……」

 

 死ななければいいというわけではない。

 仮に最終的に無事に済む確証があったとしても、ヘノが痛い思いをすることそのものに柚花は反対なのだ。

 が。

 先代女王ネーレイスであるりりたんは、なんということはないような物言いだ。更にはそもそも、激しい戦いを繰り広げているヘノ本人が、柚花が見たことないほどに戦いを楽しんでいる。画面越しに、それが嫌と言うほどに伝わってくる。

 妖精ならではの感覚なのか、単に荒くれ特有の思考回路なのかはわからないが、ヘノが戦いたがっているという事実を前に、柚花は言葉が出てこなくなる。

 

「それに、すでにあの場所にはルビィが近づいていますから、万が一のときは私が動きます」

 

「いざと言うときは、ルビィを中継点として、ネーレイス様が介入すると言うことでスね?」

 

「まあ、そういうことですよ」

 

 柚花と共に画面を見ていた世界魔法協会会長、不老の魔女クリスティーナが、りりたんの意図を確認する。

 彼女は瘴気の傷が悪化してしまうためダンジョンに入ることこそ許されないが、さすがは世界魔法協会の会長だ。魔法に関わるルールや例外については、かなりの知識を持っている。

 

「でも、ルビィさんいま別行動じゃないですか」

 

「ふふふ。ももたんの善良さが、仇になってしまいましたが。まあ、許容範囲内なのですよ」

 

 あの場にはいま、ルビィも桃子もいない。

 二人とも、いまはヘノたちより一つ上の階層『彼岸花の大地』にて、探索者パーティとともに骸骨の群れと戦っているところだ。もしかしたら既に一段落して第四層へと向かっているかもしれないが、そうだとしてもまだ時間はかかるだろう。

 結局、あの場でなにがどう転ぼうが。

 柚花に出来ることは、ここで応援し続けることくらいなのであった。

 

 

 

「ヘノさん……」

 

「もう何がなんだかわからないですけど、ヘノさん! 頑張ってください!」

 

 いま、この部屋でこのりりたんの写す大画面を見ているのは、りりたん、柚花、クリスティーナだけではない。

 桃子の事情を知らない日本のギルド職員はりりたんによって夢の世界に引きずり込まれているものの、クリスティーナの秘書や護衛といったメンバーに加えて、窓口杏や老芝奈々といった、事情を知っている者たちもヘノの戦いを心配げに見つめている。

 まさかヘノも、このような形で応援上映のような真似をされているとは思うまい。

 

 そんな、純粋にヘノを応援する人間たちをちらりと見てから、りりたんは声色を弱めて、確認するように柚花たちへと質問を投げかける。

 

「それに、ゆかたんにクリスティーナ。骸骨武者について、あなたたちもそろそろ、本質的なことは理解しているでしょう? 今、ここでこうして落ち着いてあちらの様子を見ていられるのは、そういうことではありませんか?」

 

「……まあ、そうですけど」

 

「かといって、万が一はあり得マす。彼女がもし、判断を誤ったらと思うと……ここでこうして見ているダケというのは、堪えマす」

 

 本質的なこと。柚花も、それに気付いている。

 それはきっと、りりたんの解説付きで客観的に眺めている観客の立場だからこそ、気付くことが出来たことだ。だからこそ、ここである程度は安心してヘノたちの戦いを眺めていられるのだ。

 現地でいまも戦っている桃子たちは、それに気付いてはいないのだろう。

 

「私、こういう時に限って、先輩の隣にいられないのが悔しくてたまらないですよ……」

 

「ふふふ。仕方ありませんよ。私たちは地上に住む人間であり、ダンジョンに住まう妖精たちとは、どうしても世界が違うのですから」

 

「いや、先輩は人間だと思いますけど……」

 

 桃子をさらりと妖精の一味扱いしているりりたんに柚花はツッコミをいれるが、キレが悪い。実際に桃子はそろそろ妖精側の存在なのではないかと、柚花も内心では同意してしまっている。

 そんな柚花の様子を、いつものように目を細めて笑って眺めながら。りりたんは再び、大画面に映し出したヘノたちの戦いに視線を向ける。

 

「私たちはせめて――『焔と躯の物語』を、最後まで見ていることにしましょうか」

 

 画面では。

 ヘノと躯が、最後の力を振り絞り、激突する瞬間が映し出されていた。

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