ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 アイドル配信者 vs ゆるゆる探索者
カリンとハスカ 前編


 ここは鎌倉ダンジョン第一層『枯戦場』。

 ダンジョンの第四層にて躯との戦いが起きるよりも更に時を遡り、これは桃子たちが長崎でなまこを集めていた日のこと。

 ここ『枯戦場』は、魔物同士の合戦がようやく終結を見せるタイミングを迎えていた。

 

 赤茶け、どんよりとした塵が層を成す空。

 割れた地面と枯れ木が立ち並ぶ、乾燥した大地。広大な階層のどこかには巨大な枯れ木の森や謎の大穴洞窟、鉱石採掘スポットなどもあるらしいが、少なくとも第一層の入り口周辺は、枯れ果てた風景が広がっているだけである。

 そんな階層に、この日。とてもこのダンジョンには似つかわしくない、華やかな一団の姿があった。

 

 

「パティシエのみんな、見てるー? 今日は合戦に乱入しに来たよ~♪」

 

「こんにちは、クルミです。カリンさんが説明不足なので補足しますと、こちら鎌倉ダンジョン第一層です」

 

「リンゴよ。簡単に説明をすると、この鎌倉ダンジョンの第一層では定期的に魔物の軍勢が二つに分かれて大きな合戦が発生するのよ」

 

 まだ購入してからさほど月日の経っていないドローンカメラに向かい、挨拶を述べている少女たち。

 

 中央に陣取るのは、ダンジョンで着用するにはやや常軌を逸した感のある、フリフリのリボンや装飾を多くした、フレアスカートシルエットのアニメヒロインのような衣装に身を包んだ自称アイドルの少女、カリン。

 なかなか日常で見かけることのないくらいには大きく自己主張するツインテールと、童顔気味の可愛らしい顔立ちが、一周回ってそのヘンテコな衣装とマッチしている。

 もっとも、背景は乾いた荒れ地であるため、画面としてのアンバランスさは否めない。

 

 その左右には、オーソドックスなジャケットにそれぞれの武器を手にしたクルミとリンゴの二人が控えている。

 クルミはボーイッシュなショートカットで、中性的な凛とした顔立ちだ。もっとも、力自慢の多い男性探索者と比べればやはり華奢で綺麗な容姿であるのは間違いない。

 最後の一人、リンゴは二人から一歩引いた位置を陣取る姉役だ。

 ややウェーブのかかった髪型で、実年齢よりも年が上に見られるのが最近の悩みの種らしい。視聴者たちからは、カリンたちの保護者として認識されている。

 

 彼女たちは、一部では有名になりつつある探索者パーティ『フルーツ☆タルト』のメンバーである。

 

「二人とも説明ばっちりだねっ。さすが! よっ、受験生♪ 大統領♪ 大魔神♪」

 

「カリンさんは黙っててください」

 

 カメラ――視聴者である、通称パティシエたちに向けて説明をしていくクルミとリンゴ。

 途中でカリンが口を挟むが、クルミにあっさり封殺される。このやりとりも、この配信ではいつもの光景だ。

 

「合戦の後半には、実力を認められたパーティが入場を許可されて、魔物の討伐――通称、石拾いに参加できるようになります」

 

「ここの魔物は、同士討ちを繰り返してどんどん強くなっていくから、合戦をそのまま放置してると危険なのよ」

 

「ねえ、説明長くなーい?」

 

 飽きてきたらしきカリンが言葉を挟む。

 これまたいつも通りの展開だが、これは決してお約束の台本があるわけではない。カリンは本当に、小難しい説明に飽きてきているのだ。

 ぼんやりと景色を眺めても赤茶けた風景で、緑色の一つもないため、カリンは本当に暇そうだ。

 

「私たちも去年までは参加は許可が下りなかったんですが、今年はいろいろな活動が認められて、条件付きで合戦の石拾いに参加許可が下りたんです」

 

「条件というのが、現地の探索者たちの案内をつけること。というわけで、本日のゲストがこちらの方々です」

 

「ねえ、カリンのこと無視してない? ちょっとー? つまんないよー?」

 

「はあ……わかりました、わかりました。じゃあ続きははい、カリンさんが紹介してくださいよ」

 

「やった!」

 

 長い説明にカリンがごねだしたところで、ようやくクルミがため息とともにカリンに反応を見せる。

 彼女たち三人は、今年の春に起きた事件をきっかけにして世間からの認知度が高まり、いまはギルドの広報部がスポンサーとなり、専属契約のような関係となっていた。

 なので、各ダンジョンの説明はしっかりとしていかねばならないという制約があるのだ。

 主にそれを担当するのがクルミとリンゴ。パーティの華であるカリンは何も考えずに行動する。

 一見すると歪んだ関係性にも思えるが、この三人はこれが一番しっくりくるらしく、なんやかんや仲良くやっている。

 

「カリンさん。どちらも探索者としては先輩にあたる方なんですから、失礼のないように気をつけてくださいね」

 

 そして、冒頭の説明が終わると、次は今回のゲスト紹介パートが始まった。

 これは、ギルドから紹介された現地の探索者たちだ。配信の性質上、各地のダンジョンに慣れている女性探索者が案内として紹介されることが常である。

 

「はーい、まず一人目がこちらの人! なんか、忍者みたいな人です」

 

「えと、アケビ……です」

 

「はい、アケビさんでした~♪」

 

 ドローンカメラがカリンを映す。そして、その横に現れたのは現地の女性探索者、アケビだった。

 黒い軽装衣装に、長い黒髪が揺れる。その手には細身の短剣を所持している。

 鋭い目つきはやや近寄りがたいところがあるが、カリンは全く気にした様子もない。ただし、紹介は雑だった。

 

「いやいや、もうちょっとちゃんと紹介してください。アケビさんも、なんかすみません」

 

「いや、私はいいけど」

 

「アケビさんは、鎌倉ダンジョンをホームとするパーティ『KDT』所属の、いわゆるスカウト的な役割の探索者よ。忍者ではないわね」

 

 そして、クルミとリンゴが左右から補足を入れていく。

 なお、『KDT』は『鎌倉ダンジョン探検隊』の略である。

 

「そして、二人目! こっちの、ハスカップちゃん!」

 

「みんなー、ハスカップですよおー! ……って、それはあだ名ですからね? 本当の名前は、ハスカって言いますからねえ?」

 

 続いてドローンカメラが動くと、今度は反対側から別な女性探索者が画面へと映り込む。

 後衛担当のようで、手に構えた杖と、長く丈夫そうな布地の衣装から、魔法使いということが察せられる。

 先のアケビとは違い、カメラに向かいにっこにこの笑顔だ。カリンと並ぶと、魔物の蔓延るダンジョン内とは思えないような、ゆるい空気が画面に広がる。

 

「でも、カリンは知ってるよ? 掲示板で、ハスカップちゃんって呼ばれてるでしょ?」

 

「お、知ってますね! さては、情報通ですねえ? でも、本当はハスカって言うんですよ」

 

「は~い、質問! ハスカップちゃんは、なんでハスカップって呼ばれてるんですかー?」

 

「聞いてますかあ?」

 

「は~い、質問! なんでハスカップって呼ばれてるんですか?」

 

「ええ?! そんなに繰り返すほど知りたいですか? 実は前に配信で胸のカップ数を聞かれて、そのまま答えちゃったのがきっかけなんですよお」

 

「ほえー。ハスカップ、ハスカップ……えっ、まさかっ!」

 

 ここは第一層に入ってすぐの場所であり、こうして配信をしている間にも何人かの探索者たちが通り過ぎている。

 人通りは多いが、その分魔物に襲われる心配がなく、多少ならば羽目を外しても問題はない。

 

 とは言え。

 カメラを前にした、フリフリのアイドルと、妙に緩い雰囲気の女性魔法使いは、初対面とは思えぬ相性の良さを発揮して、息のあったやりとりを繰り広げている。

 互いにほどよくリアクションが大きいため、配信を見ている視聴者たちのコメントでも『コントはじまた』『もしかして台本つくってたのか?』などと疑われているほどだ。

 

「……なんか、コントがはじまっちゃいましたよ? しかもなんか、きわどい内容の」

 

「ええ、なんだかやっかいな気配を感じるわね……」

 

「ハスカは、ストッパーがいないとどうにもならないよ」

 

「うわ、カリンさんと同類の方なんですか?!」

 

 置いてきぼりをされているのは視聴者だけではなく、パーティメンバーたちも同様だ。

 口を挟むタイミングを逸したクルミとリンゴがそわそわとし始め、アケビはあまり表情を崩さないものの、落ちつきなく右手の短剣がゆらゆらと揺れている。クルミはそれを見て、少しだけ血の気が引く。

 

「とっ、とにかく止めましょう」

 

 

 

「ふっふー、ではカリンちゃんはかわいいですから、少しだけなら触ってもいいですよお?」

 

「うわー、うわー! じゃあ思い切って、後ろから……ごくん」

 

 カメラの前では、カリンが緊張した面もちで、妙にどや顔で胸を張っているハスカの背後に立つ。

 カリンが生唾を飲み込み、それを見ている多くの視聴者も生唾を飲み込んだ。

 ――が。

 

「はい、ストップです。カリンさんは両手を上にあげて、その口を閉ざしましょうか」

 

「パティシエのみなさん、今から説教タイムだから、ごめんなさいねー」

 

「むぐー」

 

 あわや、遙か遠くのどこかのビル内で、ギルドの広報担当者が放送を強制的に止めようかと動き始めたところで、ギリギリのストップがかかる。

 生唾を飲み込んでいたカリンは背後からクルミに両手首をとらえられ、吊り上げるかのように、頭上に持ち上げられている。

 口にはリンゴが棒状のエナジーバーを加えさせ、物理的に黙らせる。

 これはこれでどうしたものかとギルドの広報担当者が頭を抱えるのだが、幸か不幸か配信はそのまま進んでいった。

 

「ハスカ、あほ。生配信でなにしてるの」

 

「んぐー」

 

 同じく、横では同じポーズでエナジーバーを咥えたハスカがアケビに捕まっており、視聴者たちは『これってどこまでコントなの?』と困惑しきりだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フルーツ☆タルト公式チャンネル コメント抜粋】

 

 

:カリンちゃん新衣装かわいい 手作りなんだよな

 

:クルミ「黙っててください」

 

:w

 

:しかしフルーツタルトが石拾い参加に許可出たのかあ。去年は普通に却下されたんだよね。

 

:知名度が上がったのもあるけど、クルミとリンゴも地味に腕前あがってるからね。アイドルオーラの影に隠れて目立たないポジションだけど。

 

:カリンちゃんも強くなってるよ!(魔法が地味すぎて見た目じゃわからないだけだよ!)

 

:カリンちゃんも成長してるんですよ!(身長とか!)

 

:行方不明の間に身長伸びて帰ってきたエピソードは今だから言えるけど普通に面白い

 

:浦島太郎やんけ

 

:合戦時期の鎌倉ダンジョンって入ったことないわ 魔物同士が争ってるってのが意味不明すぎてなんか怖い

 

:今回のゲストは?

 

:ハスカップ! 鎌倉ダンジョンの(ある意味)名物探索者!

 

:知らない人だけど可愛い系とクール系でなんかいいね

 

:カップ数……だと!?

 

:涙出てきた

 

:ヤバい! 逃げろ、この人イロモノだ!

 

:え? 触るの? マジ? え?

 

 

 

 

:あ コメントできるようになったぞ

 

:話題がセンシティブになるとコメントできなくなるシステム

 

:スタッフさんお疲れさまです

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