ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
今回のフルーツ☆タルトの配信は、決してコント配信などではなく、あくまで第一層での合戦の後始末――通称『石拾い』を解説する配信だ。
魔物に囲まれぬよう、入り口から離れすぎない場所を選んではいるものの、それでもやはり魔物は出現する。
まさにいま。パーティメンバーのクルミとリンゴ、そして応援ゲストのアケビが、互いに斬り合っている、甲冑姿の二体の骸骨と遭遇し、そこに横から割って入る形で戦闘中だった。
「骸骨たち、しぶといから倒しても油断は禁止」
「はい、すみませんアケビさん。勉強になります」
「本当っ! ゴブリンとは違うわねー」
今回の骸骨は三体。それぞれがこの合戦でここまで生き残っている個体なので、すでに何体かの魔物の力を吸収し、強化された骸骨だ。
剣を構えたクルミ、槍を構えたリンゴがそれぞれ一体ずつを相手取り、アケビが残り一体を受け持ちつつ、合間合間でクルミたちが戦っている骸骨にも牽制を入れていく。
「倒れた骸骨の、頭蓋骨をかかとで踏み抜くと早いよ」
「なるほど、骸骨も頭が弱点なんですね。ただ、踏み抜くとなると私のブーツじゃちょっと、やりにくいですね」
「ダンジョンごとに靴を履き替えるのって大切なのね」
ある程度二人が善戦する様子をカメラが配信したところで、アケビはすかさず一体の骸骨の足を切りつけ転倒させ、その頭蓋骨をブーツで思い切り踏み抜いた。
すでに何度もダウンし弱っていた骸骨は、それで沈黙し、煤へとなっていく。残る骸骨は、あと二体だ。
「でも、二人とも。初めて骸骨兵と戦うっていうのに、筋がいいね」
「まあ、カリンさんの補助魔法で強化してもらってるので」
「魔法をかけている本人はあの通りですけど……」
戦っている骸骨が復活してくるまでの短い隙に、クルミたちは軽く会話を交わしつつ、離れた岩の上に視線を向ける。
そこには仲良く並んでいる、フリフリアイドルとゆるゆる探索者が腰掛けていた。
「もぐもぐ……がんばってくださいねえ! 周囲に魔物がいないかどうかは、私が感知しますからねえ!」
「もぐもぐ……がんばれー! カリンの魔法で、三人とも強くなってるから、負けるなー!」
クルミたちは、カリンの『トゥインクル☆フラッシュ』つまりは集中力強化魔法の補助を受けている。そうでなければ、初めて戦う強化された骸骨と善戦するのは難しかったはずだ。
そういう意味では、カリンはきちんと補助魔法使いとしての仕事をしている。戦うのは前衛二人の役目である。
それは、間違いないのだが。
クルミたちが戦っているあいだ、エナジーバーをもぐもぐ食べながら呑気に応援しているだけの魔法使いたちに、なんとも解せぬ思いを抱いてしまうのは、仕方ないことだろう。
「へえ、ハスカップちゃんは五重の塔の攻略中なんだね! 塔ってやっぱり、階段ずっと上るの?」
クルミとリンゴが残りの骸骨と戦っている間、岩の上の二人はおしゃべりタイムだった。
カリンはもともと戦闘よりも人との会話が大好きなタイプだ。ドローンカメラは今は戦闘中のメンバーを映しているので、こちらの会話は完全にプライベートなやりとりである。
「どっちかというと、上から下りるんですよ。窓の外はずーっと下の方までどんよりした空が広がってるんです」
「下の方まで空……」
「さすがにどこかに地面はあるんでしょうけど、滅茶苦茶高い場所かもしれませんねえ。まさにバベルの塔ですよ、バベルの塔!」
話の内容は、鎌倉ダンジョンの下層についてだった。
今は合戦中なのでハスカたちのパーティであるKDT――鎌倉ダンジョン探検隊のメンバーもこの階層のどこかで石拾い中らしいが、本来的にはKDTは下層を目指すパーティだ。
合戦が終われば、来週からはまた、バベルの塔の如き階層『五重の塔』を延々と下りていくのだという。
「リフィさん……」
「あれれ? カリンさん? ぼんやりですかあ?」
「あ、ごめんなさい! 葉っぱのこと考えた!」
「残念ながら、鎌倉ダンジョンは枯れ木ばかりで葉っぱはないですねえ」
カリンが考えていたのは、過去に『大空ダンジョン』にて出会った妖精たちのこと。そしてその中でも、特に気持ちが通じ合った緑葉の妖精リフィのことだ。
あの日の別れ以降も、リフィは時折カリンたちの前に現れ助言を残したり、あるいは魔法の産物をプレゼントしてくれることはあるのだが、その大体が緑の茂ったダンジョンである。
この階層は全てが乾き、緑というものがないため、残念ながら今回はあの緑葉の妖精との出会いはなさそうだなと、心の片隅で残念がるカリンなのだった。
そうしている間にも、時間は過ぎていく。
カリンとハスカは戦う仲間をよそに雑談を続けていたのだが――。
「ちょっとカリンさん、人に戦わせて自分たちはなんで雑談に興じてるんですかっ」
「うわー! クルミちゃんが怒ったー!」
怒り顔を隠す気もないクルミがのしのしとやってきた。
どうやらカリンたちが話し込んでいる間に、目の前の骸骨の討伐は終わったようだ。
三体の骸骨は魔石を残して消失していた。リンゴがあきれ顔を浮かべながら、魔石を拾い集め、それを共有の魔石袋へと投入していく。
「ハスカも。もう少しまじめに」
「えー、私、アイドルちゃんに鎌倉ダンジョンのお話をしてただけですよー?」
「雑談は雑談」
「ほっへはほひゃいひゃふほー」
カリンの横では同じように、アケビからハスカがお説教を受けて、引っ張られた両頬が真っ赤に染まっているのだった。
魔物たちとも戦い、鎌倉ダンジョンの『合戦』の空気感をある程度配信で伝え終えたので、配信は無事に終了し、あとは自由時間である。
とはいえ、終結しつつあるとはいえ現在は未だ合戦中であり、フルーツ☆タルトの面々はあまり階層内をうろつくわけにも行かない。
なので、一同は安全性の高いダンジョンの入り口付近の岩に並んで座り、休憩がてらのフリートークと洒落込んでいた。
「カリンちゃんは妖精に助けられたんですよねえ。鎌倉ダンジョンにも、噂では赤い妖精がいるんですよお?」
「そうなんですか!?」
「骸骨武者っていう噂話でね。人を助ける武者と妖精の二人組が目撃されてる」
雑談の中でどうしても話題にあがるのは、やはりカリンが出会ったという妖精たちの話である。
いくら魔法協会が情報の隠蔽操作をしたところで、空へと落ちて行方不明になっている最中の少女が『妖精に助けてもらっている』とリアルタイム配信を繰り返していたのだから、話題にならないわけもない。
更に、この鎌倉ダンジョンでもかなり前から『赤い妖精』の目撃談が噂になっているのだから、なおのことだ。
「もしかしたら骸骨武者と一緒にいる赤い妖精は、カリンちゃんが世話になった子たちのお仲間かもしれませんねえ」
「赤い妖精……赤い妖精……」
「あれ、またぼーっとしちゃいましたねえ?」
「カリンさん、大丈夫ですか?」
会話の途中で、唐突にスイッチが切れたようなカリンを見て、クルミが心配げに声をかける。
カリンはあの大空での事件以降、とても前向きでやる気を出すようになった反面、ときおりこのように遠い目をして自分の世界に浸ってしまうことがあるのだ。
そういう場合は大体が『葉っぱ妖精のリフィさん』のことを考えているのだが、今回はどうやら妖精は妖精でも、別な妖精のことを思い返していたようだ。
「あ、ごめんねっ。ちょっと思い出してたの。カリンに焚き火を焚いてくれた妖精さんが、赤い妖精さんだったなーって」
「焚き火なら、火の妖精なのかな」
「もしかしたら、同じ子かもしれないですねえ」
骸骨武者は、炎の刀を所持しているという。ならば、その武者とともにいる赤い妖精は、その刀の炎を司っていると考えても不思議ではない。
もちろんただの噂話であり、根拠も薄い話だが、勝手に想像する分には自由なのだ。
「もし骸骨武者と妖精さんに会ったら、カリンちゃんの焚き火のお礼をしないといけませんねえ。焚き火のお礼なら、木炭みたいなものとか喜びますかねえ?」
「喜ぶかはわかんないけど、ありがとう、カップちゃん!」
「いいんですよお、カリンちゃん!」
赤い妖精、ひいては骸骨武者が木炭を喜ぶかはさておいて。
カリンは、喜びの声とともに、ハスカに遠慮なしにハグをする。呼び名も「ハスカちゃん」でも「ハスカップちゃん」でもなく「カップちゃん」といつのまにか進化していた。
「カリン、あなたって相変わらず、人との距離感の詰め方がえぐいわね……」
妙なノリでハグし合う二人。
そこには、この日出会ったばかりでありながらも、熱い絆がかいま見えた。配信こそ終了しているけれど、この様子を彼女らの視聴者であるパティシエたちが見たならば、おそらく盛り上がったことは間違いないだろう。
なお、残念ながらここには盛り上がるパティシエたちはいない。
むしろ、底冷えするような視線を送る仲間たちが、そこにいた。
「ハスカ」
「ぐえーしぬー」
刺すような視線のアケビが、ハスカの衣装の首根っこを鷲掴みにして吊り上げる。ハスカの首がぎゅうぎゅうになっている。
スカウト職の彼女だが、腕力はなかなかに強い。
「カリンさん」
「え、クルミちゃん何で怒ってるの?」
「いえ、怒ってませんよ」
「えー?! カリンがクルミちゃんのノートにミルクティぶちまけたのを隠したまま返したときくらい怒ってるよね?」
「あー、あれ思い出したら普通にイライラしてきました」
「もとから怒ってたよね?」
クルミはアケビほど直接的な行動には出ないが、つき合いの長いカリンからはクルミが怒っていることが丸わかりである。
もっとも、クルミは怒ったところで何も手出しはしてこないし、気づけばまた機嫌が直っていることも多々あるので、カリンとしてはわけがわからない。
「アケビちゃんまでなんで不機嫌なんですかあ?!」
「いや、怒ってないし」
「えー?! 私がアケビちゃんの座敷童子おにぎりを勝手に食べたときくらい怒ってますよねえ?」
「そんなことで怒ってるって思われてることが腹立たしい」
クルミたちの横では殆ど同じようなやりとりが繰り広げられている。
もし、まだ配信を終わらせずにこの様子を映しだしていれば、愉快な漫才動画として広まっていたことだろう。
そして。
「はぁ。探索者って、どうしてこう変な人ばっかりなのかしら……」
一人、取り残されたリンゴだけが。
十代の少女とは思えない、年期を感じさせるアンニュイなため息をつきながら、騒ぎが収まるのを待っているのだった。
幕間 アイドル配信者 vs ゆるゆる探索者 了
次回更新は12月31日に短編を更新予定です