ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 遠い夢 -廻-
閑話/遠い夢 風


 ずっと前の夢を見ていた。

 ヘノはまだ妖精の国に来たばかりで。ノンに連れられて。女王の間に行った時の出来事だ。

 ノン以外の連中はろくでもないのばっかりだったから。ノンには色々と。案内してもらってたな。

 

 

「女王。何を作ってるんだ」

 

 女王は。花びらの上で何かをやっていた。

 ヘノが最初に来たときは随分とやつれてた女王だけど。この頃は元気を取り戻してた気がするぞ。

 

「ヘノ、女王様にはもっときちんと丁寧にお話しないと、だめだよぉ?」

 

「考えておくぞ。それで女王。何をつくってるんだ」

 

「ふふふ。これは、ヘノのために神槍ツヨマージを作っているところです。こうして、若樹の力を一本の槍に込めていくんですよ」

 

 女王は。精霊樹の若樹を魔法で小さく削り取っていた。

 夢を見ているヘノはそれを知っている。何度もヘノと桃子を助けてくれる。精霊樹の力を持った。とても強い武器だ。

 よくわからないけど。ヘノが初めてここに来たときに。精霊樹が強く反応したから。ヘノだけが使いこなせるらしいぞ。

 

「ヘノ、良かったねぇ。ツヨマージは、とても素敵な武器なんだよぉ?」

 

「ノンも。作ってもらえばいいだろ」

 

「私も前に触らせてもらったことはあるけど、精霊樹に選ばれなかった私だと、使いこなせる気はしなかったよぉ」

 

「触ったことがあるのか?」

 

「あっ……えと、まあ、色々とあったんだよぉ」

 

「そうか」

 

 あの時は。ノンが珍しく変なことを言ってるんだと思ったけど。今ならわかるぞ。

 ノンは。エレクっていう妖精に。ツヨマージを触らせてもらったことがあるんだな。

 

「精霊樹に選ばれなかったというと語弊があります。ノンもそうですし、精霊樹は他の妖精たちのことも守護してくれているのです。ただ、相性の善し悪しがあるだけなのですよ」

 

「そういうことなんだねぇ」

 

「そうなのか。じゃあ。相性がいい妖精が。あとからもっと生まれてくるかもな」

 

「ええ。ヘノに続いて、自我に目覚める娘たちがこれからも増えていきますよ。きっと、素敵な妹たちです」

 

「あんまり。興味ないけどな」

 

「そんなこと言っても、ヘノだって妹が増えたら大切に思えるようになるよぉ」

 

「そうか?」

 

 そういえばあの頃は。ニムがまだいなかったから。ノンがあれこれ教えてくれてたな。

 ヘノの一つ上は。リドルだったけど。あいつ。あの頃から。『謎』だとか『自分探し』だとかばっかりで。わけわからなかったしな。

 あの時は。ニムにフラム。それにルゥが生まれてくるなんて知らなかったけど。

 ノンが言ってたことは。今ならなんとなくわかるかもな。

 

 

 

 

 

 

 夢の中身が切り替わった。

 

 女王が。人間の『本』を熱心に読んでるな。これはつい最近だ。ちょっと前の夢だぞ。

 妖精の身体には大きい本を。時々笑いながら読んでたな。

 

「女王。またそれを読んでるのか?」

 

「ええ。とても面白いのですが、なにぶん文章量が多いので。今はまだ、人魚姫が座敷童子の萌々子さんと合流したシーンなんです」

 

「なんだそれ。人魚姫と座敷童子が会ってるなんて。聞いたことないけどな」

 

「あくまで小説ですからね。創作の要素も混ざっているんですよ」

 

 女王が読んでるのは『人魚の姫はボコらない!』とかいう本だ。桃子が人魚姫になりきって。魔物をボコボコにしてたときの出来事が。人間の本になったらしい。

 ヘノは文字があまりわからないからな。読んだことはないぞ。

 

「せっかくですし、ヘノも文字を学んでみませんか? こうして、桃子さんの物語をあとから読めるようになりますよ?」

 

「文字は難しいからな。でも。最近は桃子と後輩に聞いて。ひらがなとカタカナは。少しだけ。わかるようになったぞ」

 

「あら、そうなのですか?」

 

「あと。自分の名前も。『ヘノ』って。書けるぞ」

 

「まあ、素晴らしいですね。その調子で、もっと色々と覚えていきましょうか」

 

「次は。『カレー』を間違えないように。練習中だ」

 

 ヘノは人間の文字には興味なかったけど。桃子がみてるものは。ヘノもわかるようになりたくて。色々と教えてもらってるんだ。

 ルイは『えいご』とかいうのも読めるし。クルラは『かんじ』を沢山読めるからな。ヘノもちょっと。負けてられないぞ。

 文字じゃないけど。ニムは最近。後輩の持ってる端末っていうものの動かし方を。色々聞いてるみたいだな。

 なんだかわからないけど。ヘノも。気が向いたら。桃子に聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 夢の中身が切り替わった。

 なんだこれ。

 これはヘノが知ってる風景じゃないぞ。

 

 妖精の花畑の地形が変わってる気がする。

 あと。なんだか知らないけど。花が咲いてない広場みたいなのがあるぞ。

 それに。覚えのないテーブルと椅子があるな。

 さては。これは。夢だな?

 

「ヘノちゃーん、カレーができたよー? どこー?」

 

 夢の中の桃子が呼んでいる。

 困ったな。桃子が呼んでるなら行かないといけないけど。夢の中の桃子は。本物じゃなくて。夢の桃子だ。

 桃子は大切だけど。夢の桃子は。どう扱えばいいんだ?

 

「あ、いたいた。ヘノちゃん、ぼんやりしちゃってどうしたの?」

 

「桃子。ヘノはいま。夢を見てるから。桃子も夢の桃子なんだ。どうしたらいいと思う?」

 

「ヘノちゃん、いつにも増して意味不明だよ? 大丈夫?」

 

 なんだか夢の桃子に心配されてしまった。

 夢の桃子も。見た限りでは。いつもの桃子と変わらないな。耳になにかつけてるけど。三つ編みはでっかいし。手にはカレーの鍋を抱えている。

 カレーを食べる桃子なら。もしかしたら。夢の中の桃子も。本物と違いないのかもしれないな。

 

「うぅ……ヘノぉ……? さ、さっきからどうしたんですかぁ……?」

 

「なんだ。夢のニムも。いつもどおりだな」

 

「え、えぇ……? わ、私、夢のニムなんですかぁ……?」

 

 ニムは夢のなかでもいつもどおりだ。

 周囲を見れば。桃子のカレーに誘われたのか。いつもどおりの連中が揃ってるぞ。

 夢だけど。いつもどおりだから。ヘノもいつもどおりに。カレーでも食べようか。

 

 そう思ったとき。

 

「んふふ♪ ヘノったら、どうしたの? ぼんやりしちゃって、危ないわよ♪」

 

 クルラの背後に見知らぬ奴がいた。

 銀色の翅で。クルラにも少し似てるけれど。初めて見る顔の妖精がいた。

 

「……」

 

 銀色の妖精は。無言でヘノの顔を覗き見ている。

 慌ててツヨマージを構えようとしたけれど。夢の中だからか。身体が思うように動かない。

 気づけば夢の中のヘノは。銀色の妖精に何か話しかけている。

 

「     」

 

「……ええ。そう。だけど、アナタの中に、もう一人」

 

 夢の中のヘノと。銀色の妖精。

 二人が何かを話しているけれど。何を話しているのかは。聞こえない。

 やっぱり夢は駄目だな。わけがわからないぞ。

 

 そう思った瞬間。周囲の景色が一瞬にして変わる。

 違うな。周囲の景色は変わってないんだけど。みんな止まってしまった。

 銀色に空気がぴかぴかしている。なんだこれ。

 

「アナタは『いつ』のアナタ……なの?」

 

 見知らぬ妖精が語りかけてくるけど。ヘノは身体が動かないから。答えようがないな。

 なんだこの夢。困ったな。

 

「そう……きっと、そういうことなの……ね」

 

 なんだこいつ。独り言を言ってるかと思ったら。勝手に納得してるぞ。

 そう思って見てたら。そいつが。いつのまにか鏡を取り出した。

 いつ出したのかは分からないけど。ヘノの目の前には。丸い鏡があって。そこにはヘノが映っている。

 

 そして。鏡に映っている風景が。

 ふっと。切り替わった。

 前に後輩が配信をしていたときの。『配信画面』というのが。映り込んだ。なんて書いてあるのかは。わからないぞ。ヘノは文字が。読めないからな。

 

「アナタは、学んでおきなさい……ね」

 

 銀の妖精が独り言を呟いたかと思ったら。また風景が変わる。

 海と砂が見えるけど。霧が立ちこめてて。奥までは見えないな。そこに。変な格好でポーズをとっている。やたらと整った外見の。金髪の女が映りこんだ。横には。でっかい。見たことない動物がいるな。

 

「彼女の運命は、紡がないといけないわ……ね」

 

 こいつ。本当に独り言が多いな。

 そして次にまた風景が変わった。

 みたこともない場所だ。岩とかがゴツゴツしてて。通路が続いてるからダンジョンだと思うぞ。そこにふと。大きな鏡が。映り込んだ。鏡に鏡が映ってるぞ。ちょっと面白いな。

 

「――を、見つけてね、ヘノ」

 

 銀の妖精が。最後にもう一度ヘノの名前を呼んだところで。

 ヘノの視界は。真っ白く薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘノちゃん? どうしたの? ヘノちゃん?」

 

「むにゃ……桃子か。どうした。何かあったのか?」

 

「いや、それはこっちの台詞なんだけど。ヘノちゃん、なんか珍しく変な寝言言ってたよ? 『なんだこいつ』とか『独り言が多いな』とか」

 

「そうか? 気のせいじゃないか?」

 

「えー?」

 

 目が覚めたら桃子の膝の上だった。妖精の畑に面したベンチで。桃子は人魚姫が魔物をボコボコにする本を読んでいる最中だった。

 ヘノは起き上がって。伸びをする。

 なんだか変な夢を見ていた気がする。ニムもいて。桃子もいて。誰かに話しかけられた気がするぞ。

 頭の中になにか。よくわからない映像が思い浮かぶ。配信画面。変な金髪女。でかい動物。鏡のあるダンジョン。それに、銀の――。

 

 あれ……?

 困ったな。思い出そうとすればするほど。いま浮かんできた景色も忘れてきちゃったぞ。

 

「思い出せないから。思い出そうとして。思い出しかけたと思ったけど。すっかり忘れたぞ」

 

「なるほど、そういうことね」

 

 桃子は理解が早くて助かる。

 

「そんなことより桃子。今度――」

 

 おかしいな。自分でも何でそんなことを言ったのかわからないぞ。

 ただ。何故か当然のように。桃子にこう頼んだ。

 

「今度。端末の動かし方。教えてくれ」

 

「え? ヘノちゃんも動画とか興味あるの? じゃあ、ティタニア様と食後の動画みるときに、ヘノちゃんにも説明してあげるね!」

 

 別に。動画とかは興味ないけどな。

 でも。なんとなく。桃子に教えてもらうのは楽しそうだから。それでいいか。

 

「今日はカレー蕎麦だよ。もらい物のお蕎麦を持ってきて、いまから茹でるからね」

 

「そばか。なるほどな」

 

 そんなことより。今日のカレーはカレーそばらしい。

 そばが何かわからないけど。きっと美味いに違いない。なんだか。夢の内容とか。どうでもよくなってきたな。

 桃子のカレーは。美味しいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話/遠い夢 風    了









活動報告に年末の挨拶記事も公開しております
次話「閑話/遠い夢 桃」が明日、1月1日23時更新予定です
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