ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ケーキと伝説

 誕生日パーティといえば、やはりケーキがつきものだ。

 プレゼントの受け渡しが終わり、女王の間のテーブルは、いよいよ皆でケーキを食べる時間を迎えていた。

 この日のために柚花が持ち込んだ誕生日ケーキは、普通に買えばかなりの高額であろう特大ケーキである。桃子と柚花、そしてティタニアとその娘たち。それだけの人数で食べたとしても、なかなかの量と言えるだろう。

 丁寧にケーキを切り分ける柚花へ向けて、妖精の姉妹たちはまだかまだかと熱い視線を送っていた。

 

「はい、お皿に分けますからもう少し待っててくださいね。ケーキ以外にも、買っておいたポテトチップスなんかもあるので、皆さん好きに頂いてくださいね」

 

「うんうん。ハンバーグとスルメもあるからね」

 

「ふふふ。では皆さん、柚花さんと桃子さんに感謝して、いただきましょうね」

 

「ククク……いただこうかねぇ」

 

「んふふ♪ いただきます、柚花、桃子♪」

 

 妖精の長女たちが挨拶をすると、妹たちもそれに倣って口々に「いただきます」を述べて、そして我先にとケーキやハンバーグにかぶりつく。

 予想通り、さっそく何人かの食いしん坊たちは顔をベチョベチョにしていた。もちろん、その筆頭は桃子のパートナーのヘノである。桃子が見たときにはすでに、ヘノの顔は生クリームでデコレーションされていた。

 

「むぐむぐ。桃子。このケーキと。クルラの桃を合わせると。うまいんじゃないか」

 

「ヘノちゃん、いいところに気付いたじゃん。地上でも桃のケーキは美味しいから、きっと美味しくなると思うよ」

 

「むぐむぐ。イカも。もしかしたら。ケーキと合うんじゃないか?」

 

「それはきっとやめた方がいいと思うよ」

 

 それぞれに切り分けてなお、特大サイズと呼べそうなショートケーキを味わいながら、桃子とヘノはきゃっきゃとはしゃいでいた。

 周囲の妖精たちもそれぞれの小さな器にスポンジとクリーム、そして苺を均等に盛り分けてもらっているので、滅多に食べられない人間のケーキに舌鼓を打っている。

 桃子の誕生日祝いという目的はすでに忘れられているかもしれないが、この雰囲気を桃子本人が満喫しているので、結果的には大成功と言えるだろう。

 

「ゼ、ゼリーがたくさん……うぅ……な、悩みますねぇ」

 

「ニムさんが好きそうなゼリーをいっぱい買ってきちゃいました。記念日ですし、好きなだけ食べていいですからね」

 

 そして、桃子の横では柚花とニムが、ケーキでなく大量のゼリーを前にしてこの時間を楽しんでいた。

 この会の主題はあくまで『桃子の誕生日』なのだが、ニムが柚花をパートナーとし、その加護を与えたのがまさにちょうど一年前のこの日である。

 なので、柚花とニムにとってもこの日はとても大切な記念日なのだ。だからこそ柚花は、しっかりと、ニムが喜びそうな水菓子を用意しておいた。

 

「うぅ……うぇへへへ……き、記念日ですねぇ」

 

「ニムさん、私を選んでくれたこと、後悔はさせませんからね。ずっと、一緒にいてくださいね?」

 

「うぅ……も、もちろんですよぉ……」

 

「後輩。ヘノもゼリー。もらっていいか」

 

「ヘノちゃん、ここはもうちょっと空気読んでさ、もう少しだけ我慢しようね」

 

「そうか」

 

 その後、ゼリーは分けてもらえた。

 

 

 

 ケーキを食べて、桃を食べて、ゼリーを分けてもらって、ハンバーグを一切れずつわけて食べて、市販のスナック菓子を頬張って、時折フラムに炙ってもらったイカをおつまみにして。

 そんな風に愉しく過ごしていると、皆の交わす会話もあれこれと賑わってくる。

 そんな中、フラムがふいに問いかけてきた話題に、桃子と柚花は頭を悩ませることとなった。

 

「アタシ、桃子たちに聞きたい話があるんだ!」

 

「え? お話?」

 

「うん! 実はさ、――」

 

 フラムが問いかけてきた内容。それは、『人間と親しくなった魔物』の話がないか聞かせてくれ、というものだった。

 桃子と柚花はどうしたものかと互いに顔を見合わせる。

 フラムはつい先日、自分の家族同然だった魔物、躯との別れを経験したばかりだ。そんなフラムに人間と仲良くなった魔物の話をしていいものかと判断に困る。

 そしてそもそもだが、話を聞かせる以前の問題で、そんな魔物の話など聞いたことがない。

 冷静に考えてみれば、魔物の身でありながら妖精と絆を結んだ躯という存在が、どれだけ異端だったのかがわかろうというものである。

 

「なら……関連しそうな話を一つ。魔物じゃありませんから、フラムさんのリクエストとはちょっと違いますけど、いいですか?」

 

「構わないぞ! 面白い話なら、沢山聞きたいからな!」

 

「なら、香川ダンジョンの話です。あそこには知っての通り、化け狸の皆さんの里がありますが――」

 

 柚花は、フラムをはじめとした妖精たちにゆっくりと語っていく。

 化け狸といえば、この妖精の国には頻繁に化け狸の少女であるポンコが遊びに来ているため、ここで妖精たちが思い浮かべるのはいつも平和なポンコの姿だろう。

 

「化け狸のみんなは、とっても優しくて、人間にも好意的だよぉ?」

 

「そうだヨ。あいつら、人間と一緒に戦ったり、うどん作ったりしてるヨ?」

 

「ええ『今は』そうなんです。けど、以前は彼らが人間と争いを繰り返していた時期もあったんですよ」

 

「なるほど。つまり、ボクらの知らない過去があるということ、なのだね?」

 

「あいつら。うどんを作ってばかりの動物じゃ。なかったんだな」

 

「ヘノちゃん、化け狸でもうどん作ってるのはポンコちゃんだけだからね?」

 

 化け狸。今でこそ彼らは人間にも友好的な種族として認識されている。

 しかし思い返せば、桃子が出会った当初の彼らは、人間に対しては明らかに壁を作っていたのを覚えている。ポンコの紹介で里に初めて入ったときなどは、遠くから警戒の視線に囲まれて、ヘノなどは桃子を守るために非常にピリピリしていたのだ。

 それでも、だ。

 いくら人間を警戒しようと、彼らは根は温厚だ。なので、化け狸たちが頻繁に人間と争う姿が想像できず、桃子は柚花の話にしっくりこないような顔を見せる。

 しかし、そんな桃子の疑問に補足を付け加えたのはニムだった。

 

「ず、ずっと昔は、刀をもった『おさむらい』という方が……よ、妖怪退治として襲ってきたこともあるって……い、言ってましたねえ」

 

「ククク……随分と、古い話じゃあないか」

 

「んふふ♪ 知ってるわ、お侍さんは、江戸時代にたくさんいたのよね? 時代劇で見たことがあるわ♪」

 

「えどじだいって。桃子が生まれるよりも。それなりに前なんだろ。知ってるぞ」

 

「そ、想像もつきませんねぇ……」

 

 妖精たちも、思い思いに感想を口にしている。

 刀を持った侍。地上に生きる現代人ならば、それが現代日本に存在していないことくらいは分かるだろう。

 漫画やアニメ、あるいは時代劇などではお馴染みの『侍』だが、明治時代には既にその形式は消えていたはずだ。となると、侍が化け狸に挑んでいたのは江戸時代以前の話だろう。

 香川ダンジョンが古くから存在が確認されていたダンジョンであることは桃子も知っていたが、はたして江戸時代の人々はどのような形でダンジョンに挑んでいたのか。

 当時はポンコは当然生まれておらず、もしかしたら化け狸の里を統べる長ですらまだ若い化け狸だったのだろうかと、桃子は二足歩行の狸たちに想いを馳せる。

 

 そんな中で。

 妖精の姉妹が口々に感想を述べている中で、ただ一人沈黙を守っていた人物が、ふと声をあげる。

 

「ずっと昔の話ですので、私も詳しく知っているわけではありませんが――」

 

 それは、それまではただ微笑みながら娘たちの様子を眺めていたティタニアだった。

 いつもならば桃子たちの会話の聞き役に徹している女王からの会話の介入に、一同はティタニアへと真っ直ぐ視線を向ける。

 ティタニアとしてはただ思い出したことを発言しただけだが、それが全員の視線を集めてしまい、面食らっていた。もっとも、さすがは女王だけあって、すぐに毅然とした口調で言葉を続ける。

 

「まだ私がヘノたちほどの妖精だった頃、風の噂として、今のお話と状況の近しい存在について聞いたことがあります」

 

「近しいっていうと……えと、『人間と親しい魔物』っていう話ですか?」

 

「ええ。今からですと、二百年……もしかしたら、三百年は昔のことでしょうか。当時のヨーロッパに『人間を食い殺す』として恐れられていた魔獣がおりました」

 

「食い殺す……」

 

 桃子がつい、小さく呟いた。

 ダンジョンの魔物たちは、人を襲う。それは間違いない共通点なのだが、その中でも『食い殺す』となるとまた、話は変わってくる。

 人間を殺すのみならず、それを食らい、己の糧とする。桃子の記憶の中に、深淵渓谷に巣くっていた『鵺』の影がよぎる。

 

「それが魔物かそうでないのかはわかりません。ですが、その魔獣はある時期を境に――人間を守護するようになったのです」

 

「すごい方向転換では、ないかな?」

 

「食い殺すのと、守護するのじゃ、まったく逆だよぉ」

 

「二、三百年前っていうと、それこそ日本も江戸時代かな。柚花はなにか知ってる? そういう都市伝説とか」

 

「数百年前のヨーロッパですか。何か聞いたことはあるかもしれませんが、範囲が広すぎて今すぐパッとは出てきませんね」

 

「そっかー」

 

 いかに都市伝説などに詳しい柚花といえど、さすがに三世紀前のヨーロッパの噂話までは把握していない。

 いや、ティタニアの語ったそれは噂話というよりも、国や地域に根付いた伝承と呼んだほうがいいくらいの話だろう。三百年というのは、それくらいの時間だ。

 なんにせよ残念ながら、ティタニアの話だけでは、情報不足だった。

 

「もしかしたら、お母様なら詳しく知っているかと思いますが……」

 

 ティタニアが子供の頃に聞いた噂話。つまりそれは、りりたんが先代女王ネーレイスだった頃に聞いた話である。

 今の話そのものは、ネーレイスが治めていたアイルランド・イギリス圏内のダンジョンの話ではないようだが、しかし娘であるティタニアが知っていたのだ。当時の女王だったネーレイス――りりたんならば、詳しく知っているかもしれない。

 だが、残念ながら肝心のりりたんは今日は不在である。

 

「りりたん、こういう日に限って不在なんですよね。一緒にパーティを祝うのは解釈違いだって、未だに謎の魔女を気取ってるんですから」

 

「ふふふ。お母様は、こだわりが強いですからね」

 

 りりたんはいない。後日あらためて聞くことはできるだろうが、少なくとも今この場での疑問が解決されることはなさそうだ。

 そこで、桃子はふと思いつく。

 りりたんと同様に今この場にいないことには変わりないのだが、世界のダンジョンについて詳しい人間が、桃子たちの知人にはもう一人いたはずだ。

 

「ねえ、ヨーロッパの噂なら、クリスティーナさんも詳しいんじゃない? 世界魔法協会の誇る『不老の魔女』だし! 今度どこかで会ったら聞いて見ようよ」

 

「先輩。あの人あれでも世界魔法協会のトップですから、そうそう会える機会なんてないですからね?」

 

「あっ、それもそっか……。なんだかしょっちゅう会ってるイメージで考えてた」

 

 桃子は直接顔を合わせてはいないが、それこそ一週間前には新宿ダンジョンで柚花とクリスティーナは顔を合わせていたはずだ。

 その上、女王ティタニアの玉座の背後には、クリスティーナの写真が飾られている。それも含めて、クリスティーナがしょっちゅうこの場に来ているイメージがあったのは否めない。

 しかし、実際には柚花の言う通りでクリスティーナは非常に多忙な身だ。そう易々と、顔を合わせる機会などないだろう。

 

「ふふふ、そうですね。クリスと、次はいつ会えるのでしょうか……」

 

 自分が、加護を与えた大切な人間のことを想い。

 女王ティタニアが小さく呟いた声は、他の誰にも聞こえてはいなかった。

 

「仕方ないな! じゃあ、今度また別な話を聞かせてくれ!」

 

 そして、結局。

 最初に話をねだってきたフラムとしては今のでも十分楽しかったようで、話題はあっさりと終了し、妖精たちはすぐに別な話題で盛り上がりはじめる。

 

 妖精たちが楽しく歓談するなかで。

 たった今、ティタニアが語った話題が。世界魔法協会会長、クリスティーナの名前が。

 まもなく、桃子を巻き込むとある『騒動』の中心にくるとは。

 今はまだ誰も、知らぬことだった。

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