ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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深夜の女子会

「もう、なんなんですかあのロリコンわんちゃんは」

 

「ロリコンて」

 

 ここは妖精の国にある、人間のための客室。時刻はすでに深夜の0時をとうに過ぎた、丑三つ時。妖精たちも、すでに寝息を立てている。

 当然いつもならば夢の中にいるはずの桃子だが、今日は先ほどの出来事のショックが大きく、丑三つ時だというのに頭が冴えてしまっている。

 なので、マシュマロと餅と綿菓子を足したようなベッド、すなわち『人を駄目にするベッド』に横になったまま、桃子は柚花と、つい先ほどの女王の間での出来事について話し合っていた。

 

「だって先輩。あのわんちゃん、クリスティーナ会長に言い寄ってるその口で、先輩を口説いてるんですよ?」

 

「まあ、あれには私もびっくりしちゃったけどね」

 

 すでに二十歳になった桃子に言い寄る相手が、俗に言うロリコンに当たるかどうかはともかくとして。

 つい先ほど、桃子は人生で初めての『家族になろう』という誘いを受けたのだ。

 もっとも、それは決してロマンチックなプロポーズのようなものではない。まさかの『義娘になれ』という、父娘関係の打診である。

 桃子も唐突のことでルシオンが何を言っているのかすぐに理解できなかったが、今改めて考えてみても、やっぱり理解できなかった。

 

「先輩も先輩ですよ、あんなのすぐにその場で平手打ちでもして、断っちゃっても良かったんですよ?」

 

「うーん、まあ、そうなんだけどさ」

 

 隣で横になっている柚花が、ぎゅっと桃子の腕をとる。

 互いの肌の温もりが伝わってくる。

 

「それとも、すぐに断らなかったのって、もしかして心が揺れちゃってたんですか? 家族になったら大きなわんちゃん抱き放題とか考えちゃったんですか?」

 

「あはは、違う違う、違うよお。たださ、なんか……ルシオンさん、冗談とかで言ってるわけじゃないんだろうなって思ったら、即座に断れなくて」

 

「何ですかそれ、押しに弱すぎません?」

 

 柚花の言う通り、桃子はルシオンに対して断りの言葉を言えずにその場は有耶無耶となった。

 というのも、直後に桃子の代わりに柚花とクリスティーナがルシオンを引き剥がし、半ば強引に桃の窪地へと追い返してしまったのだ。

 なので、桃子はあわあわ言っていただけで会話は終わってしまった。

 もっとも、答えはNOには決まっている。桃子には、すでに心優しい両親がいるのだから。今から別な父親を欲する理由も、そして当然、フランスに移り住みたいという気持ちもない。

 ただ、なんとなく。しっかり考えた上できちんと答えないといけない気がして、即座に言葉が出なかったのだ。

 

「先輩、本当に気をつけてくださいね。男はみんな狼なんですから、そんな甘いこと言ってたらろくな目に遭いませんからね」

 

「そうだねえ。ルシオンさんは狼じゃなくて、でっかい大型犬だったけどね」

 

「でっかい大型犬って、言い得て妙ですけど、いい表現ですね、先輩」

 

「あはは」

 

「ふふっ」

 

「なんだか楽しくなってきちゃった」

 

「きっとこれ、深夜テンションってやつですよ」

 

 大型犬。それもただの大型犬ではない、ド級の大型犬だ。ルシオンの獣状態の姿は、こう言っては悪いが、犬種こそ曖昧なものの間違いなく『犬』と呼ぶべき姿だ。

 そう考えると、昼間、スーツ姿でクリスティーナに言い寄っていたルシオンが、会長室でわんわん甘えていただけの犬に思えてしまうから不思議なものである。

 最初に抱いていた恐ろしい人食い魔獣のイメージとのギャップもあり、深夜のテンションもあり桃子と柚花は仲良く笑い出してしまった。

 ベッドの端ではヘノとニムが眠っているため大きな笑い声は出せないが、第三者から見ればベッドで密着したまま笑い合っている二人は仲良しの姉妹に見えるかもしれないし、それ以上の関係性に見えるという人もいるかもしれない。

 どちらにせよ、まともな感覚の持ち主ならば、いま、この二人の中に割り込もうという気持ちにはならないだろう。

 

 だからこそ。

 

 

「……あのさ、二人ともアタシが一緒にいるってこと忘れてない?」

 

 一緒にベッドに横になっている檸檬は、相変わらずの拷問染みた仕打ちを受けていた。

 りりたんに連れてこられた檸檬だが、時刻は深夜。いくら何でも、今からダンジョンを通って帰るような時間ではない。

 なので結局、この日も檸檬はこの客室で一泊する羽目に陥っていたのだが、居心地の悪さが半端ない。

 

「ちょっと、先輩にあんまりくっつかないでくださいよ、檸檬さん」

 

「ベッドが狭いんだっての」

 

「あはは。檸檬さんも、もっとこっち来なよ」

 

「嫌だよ、タチバナさんが怖いじゃん」

 

 檸檬がこのメンバーでこのベッドに押し込められるのはこれで二回目だ。以前よりは桃子と柚花の人となりを理解しているので、一度目よりはマシかもしれない。

 だがしかし、同じベッドで同年代の女子同士がイチャイチャしている横で何も気にせず眠れるほど、檸檬は神経が図太いわけではない。彼女は意外と繊細なのだ。

 そんな檸檬の気も知らず、女子二人に挟まれてサンドイッチになっている桃子はにこやかに、深夜テンションのままで檸檬にも話しかける。

 

「ねえねえ、檸檬さんはどう思った? あのルシオンさんのこと」

 

「アタシが? あの犬野郎を? そうだな……戦ってて、大型犬状態のアイツに押し倒されたときに気付いたんだけど……」

 

「うん」

 

 柚花も、口ではなんだかんだと言いつつも、別に桃子と檸檬がくっついていることに本気で怒ったりはしない。実際にベッドは狭いのだ。

 むしろ、興味深そうに桃子と檸檬のやりとりを眺めている。桃子に話しかけられたときの檸檬は、未だに接し方に戸惑っているようで、見ていて楽しいのだ。

 

「意外と毛並みは良かったな。まあ、それでも流石に野生的つーか、もふもふってよりはゴワゴワだったけど」

 

「そっかー」

 

「檸檬さんも着眼点がズレてるって言われませんか?」

 

 時刻はすでに、深夜の二時近く。

 深夜の小さな女子会は、深夜テンションのまま、静かに楽しく、盛り上がるのだった。

 

 なお、明日は桃子が昼近くまで起きれないことは確実であった。

 

 

 

 

 一方その頃、女王の間ではもう一つの女子会が盛り上がっていた。

 こちらは全員が流暢な海外の言葉で会話をしている。桃子がいたら、頭にハテナマークが浮かんでいたことだろう。

 

『クリス! アナタ、あんな変な動物に懐かれてるノネ! 駄目ヨ! アナタはティタのパートナーなんだからネ!』

 

「ええ、分かってるわよ、ルビィ。彼は彼で、決して悪い存在ではないんだけど、人間の常識を簡単に無視するから疲れるのよね」

 

 クリスティーナの耳元では、りりたんの眷属として呼び出されたルビィが、つい先ほどまでいたビーストについて好き放題言っていた。

 先ほどはいなかったルビィだけれど、どうやらりりたんの中でこの場の様子はしっかりと眺めていたようだ。出てきた先から、ビーストへの文句が止まらない。

 一方、車椅子に腰掛けたクリスティーナの膝の上では、妖精女王ティタニアが実にリラックスした様子で身体を預けている。

 

「クリス、無理をしないでね? 本当に、魔法協会の仕事というのは大変なのでしょう?」

 

「もう、大丈夫よティタニア。それよりほら、美味しいお菓子を持ってきたから食べましょう? 昼間に、ヘノさんが喜んで食べてたわよ」

 

『あの子、めちゃくちゃ食いしん坊なのヨネ! ツヨマージの持ち主として、心配になるワ!』

 

 クリスティーナが車椅子の下から出したのは、人間用のクッキーの缶だった。

 これは昼間、ヘノがもりもりと食べていたクッキーだ。クッキーの中に生チョコのクリームが入っていたため、それを食べていたヘノの顔はチョコレートでベトベトになっていた。

 妖精たちには食べづらいタイプの菓子かもしれないが、味に関してはヘノの反応からして妖精好みなのは間違いないだろう。

 卓上に缶を載せて、蓋を開くと、ルビィが真っ先にその中身を確認するためにふわりと宙に浮く。

 

「ヘノはまだまだ子供だもの。でも、桃子さんと出会ってからは成長著しい子なのよ。ね、お母様」

 

「ふふふ。そうですね、ヘノさんは桃子さんと一緒に成長を止めない子です。かなり変わった子であることは間違いありませんけれどね」

 

 そして、ティタニアの言葉を受けて口を開いたのは、先ほどからずっと黙って、己の娘たちのやりとりを眺めていたりりたん、つまりは――先代女王ネーレイスだ。

 りりたんが座っているのは人間サイズの木椅子であり、上等なソファでも、ましてや玉座でもない。だというのにその姿は、どことなく、女王としての威厳を醸し出している。

 遥か昔。

 女王ネーレイスは花弁の玉座に座り、ティタニアやルビィ、フェイランといった愛する娘たちを見つめるのが好きだった。

 それは、今でも変わらないのだ。

 

「お母様。桃子さんは大丈夫でしょうか。唐突に彼、ビーストに……その、家族になろうと誘われていましたけれど」

 

『そうヨ! ピーチがもしフランスに行っちゃったら、ヘノはどうなるノヨ! 駄目ヨネ!』

 

「大丈夫ですよ、ティタニア、ルビィ。桃子さんにはきちんとした人間のご両親がいますから、ビーストの義娘などにはならないでしょう」

 

 りりたんは、娘たちを安心させるように言う。

 もちろんこれは根拠のない発言などではない。様々な視点で考えてみても、今の桃子がビーストの話にのり、彼と共にフランスへと渡る可能性などあり得ない。

 仮に今の桃子ではなく、10年後、50年後、100年後の桃子ならば、また話は変わるのかもしれないが――それを論じるのは、少なくとも今の時代ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ダンジョン情報総合スレ 雑談はほどほどに】

 

 

:鎌倉の合戦は早くても来年の梅雨くらいかな?

 

:上高地ダンジョンで、スカイフィッシュ捕獲罠のテスト日程終了。来年には新たなダンジョン食材、しかも甲殻類として出まわる日が来るかもしれないって。

 

:(スカイフィッシュって甲殻類なのか?)

 

:間もなく年末。年末は香川ダンジョン、うどん大会フェス祭り。

 

:去年は軽いスタンピードが発生したんだっけ。今年は大丈夫か?

 

:大丈夫だろ、諸悪の根源の牛鬼を討伐できたわけだし

 

:夏は風使いの女の人が優勝してたけど、冬はまた炎城寺マグマの勝利だろうな。寒い季節にあの身体が芯から温まるマグマうどんは本当、ヤバいのよ

 

:カレーうどんのももぽんちゃんは出るのかな 顔を思い出せないんだけど

 

:うどん食いたい……

 

:長崎ダンジョン 第二層大規模ダンジョン変動は収束した模様

 

:ああいう迷宮タイプのダンジョンが変動するのが一番恐ろしい

 

:調査にいってるパーティは大丈夫なのかな

 

:あんな迷宮の奥まで入ってるタイミングで変動があったらダンジョンで遭難するんじゃないか

 

:まあ詳しくは長崎ダンジョンスレで続けてくれ。ここは情報総合だ。

 

:鎌倉ダンジョンでは赤い妖精の目撃例が出てるらしい 真偽は不明

 

:砂丘ダンジョン。石化から生還してきた教授、とんでもないものを開発していた

 

:とんでもないものとは?

 

:なんか、やべえカート

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