ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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『赤ずきんとジェヴォーダンの獣』エピローグ

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 こんにちは、世界魔法協会所属、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!

 今日は平日で本当は学校だったんですけど、ちょっと魔法協会絡みのお仕事で、急遽沖縄の龍宮ダンジョンへとやってくることになりました!

 お仕事ですからね、サボりじゃないですよ?

 とはいっても、お仕事自体はどうにか無事に問題解決できたので、今日はゆっくりと休憩させてもらってますけどね。

 

 ほら、見てください、この綺麗な景色。

 ここはダンジョン内じゃなくて、ダンジョンの外。いわゆる龍宮礁と呼ばれる小さな孤島です。自然豊かで、もう十二月だっていうのに気候も安定していて過ごしやすいですよ!

 

 え? いいから横の美女を紹介しろ?

 平日からせっかちですね。まあいいですけど。

 

 はい、一部の人たちには『滝の女神』って言った方が有名かもしれませんが、この龍宮ダンジョンが誇る、怪異じみた美人配信者さん、ローラさんです!

 

『ククー♪ みんな、ローラよ♪ 今日は、お友達のタチバナさんと、突発コラボよ♪』

 

 ≪パシャ≫ ≪パシャ≫ ≪パシャ≫

 

 ちょっとローラさん、いきなり撮影会はやめてくださいよ。あとでちゃんと撮影タイミングは用意しますから。

 ほら、撮影カメラさんも落ち着いてください、撮影はまだです、まだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……ゆ、柚花さん、相変わらず素敵な配信姿ですねぇ……」

 

「なるほどな。さっきのボタンで。はいしんがはじまるわけか。ちょっとだけ。覚えたぞ」

 

 龍宮礁は小さな島だが、そこには本州では見られないような美しい景色が広がっている。

 月曜日の昼。柚花は特別生放送として、この龍宮礁からの配信を行っていた。ゲストはこの場所でしか会えない激レア美少女配信者であるローラだ。

 桃子はヘノとニムを懐に隠して、カメラに映らない位置からその配信風景を眺めていた。

 

「ヘノちゃん、配信の操作なんて覚えてどうするの? さすがにヘノちゃんは配信なんかしちゃダメだよ?」

 

「なんでだろうな。覚えておこうと思ったんだぞ」

 

 ニムは相変わらず、配信中の柚花の姿に熱中している。さすがに地上なので桃子の服に隠れた状態なのだが、妙に服がじめじめしてきているのは桃子の気のせいではない。

 ヘノはなぜだか、配信時の端末の挙動に興味を持っていた。ヘノは最近は時計の読み方も覚えてくれたので、『学び』という意味では最近は成長が著しい。

 

 そして、この場には魔法生物がもう一人存在する。

 

 ≪パシャ≫ ≪パシャ≫

 

「ルシオンさんもほら、撮影会はまたあとであるって柚花も言ってるじゃないですか。カメラを下ろしましょうよ」

 

「何を言うか幼子よ。彼女はいかなる時もシャッターチャンスであろうが」

 

 桃子の横で、ひたすらにカメラのシャッターを連写している、高級そうなスーツ姿の大男。人間形態のルシオンだ。

 桃子が注意しても彼は聞く耳も持たず、ひたすらにローラに向けてシャッターを切り続けている。

 

「あ、あのぉ……びーすとさん、柚花さんの写真もお願いしますねぇ……?」

 

「むう、小娘か? 仕方ない、友の願いならば、少しは撮影しておくか」

 

 ≪パシャ≫

 

「こいつ。昨日はダンジョンで泣きながら遠吠えしてたくせに。ものすごく。元気になったな」

 

 ルシオンは、絶好調だった。ハイテンションだった。

 それが何故かなどと、考えるまでもないだろう。

 今朝がた、エレーヌとの別離で泣きはらし、心がボロボロになったルシオンを『霧の海岸』で出迎えたのは、ローラ――いや、エレーヌだったのだ。

 ローラは本人が語っていたように、その身のうちにエレーヌを宿し、ダンジョンの中でだけはエレーヌが身体を動かすこともできるようになったのだそうだ。

 ローラとエレーヌ。二つの人格が同居するその様子は、ヘノが言うには「桃子と人魚姫そっくりだな」とのことである。

 

 とにかく。

 ルシオンは、昨晩の絶望から、今や幸福感でテンションがマックスになっていた。

 

「クハハハハ! 彼女と会えるようになったのに、嘆き続ける意味などなかろう!」

 

「ちょっと、撮影スタッフさん。配信撮影中に大声で笑い出さないでくださいよ! 追い出しますよ!」

 

「くっ、すまぬ」

 

 配信中に高笑いをしては、普通に配信妨害だ。

 カメラを意識したポーズで、腰に手をあててぷんすか怒る柚花の横では、ローラが目を細めて笑っていた。

 エレーヌではなく、ローラがルシオンをどう思っているのかまでは桃子は聞いていないけれど。

 きっと、ローラのあの表情からして、ルシオンは受け入れてもらえることだろう。

 

 

 

 

 

 そして、後日談。

 ここは山形県の蔵王に新たに建造された、世界魔法協会蔵王支部、その会長室である。

 会長たるクリスティーナと、その向かいのソファーには桃子と柚花が腰を下ろして、今回のことの顛末を報告していた。

 

「――っていうわけで、ルシオンさんはしばらくは龍宮礁に滞在することになりました」

 

「私が彼の紅珠残量を空っぽにしちゃったんで、しばらくはフランスどころか、本州にも戻ってこられないと思いますよ」

 

「そうですか。彼が暴走するようなことがなかったようで、ナニよりです」

 

 魔法協会が一番危惧していた『ルシオンの暴走』という展開にならなかったことで、クリスティーナも肩の荷が下りたことだろう。

 ふう、とほっとため息をつくと、彼女は目の前のカップを手に取り、秘書が用意した紅茶に口をつける。

 桃子は気にせずミルクティーにして飲んでいるのだが、これはかなりの高級紅茶だったらしい。ミルクと砂糖をじゃぶじゃぶ入れてかき混ぜる桃子を見て、柚花が何か言いたげだったのはまた、別の話である。

 

「……ルシオンは、きちんと運命の相手を見つけることができマしたか」

 

「クリスティーナ会長、もしかして寂しいんですか?」

 

「どうでしょうネ。たとえるなら、ずっと自分に懐いていた大型犬が、あっさりと本命の飼い主の元にいってしマった……という感じでしょうか」

 

「たとえどころか、そのまんまじゃないですか」

 

 柚花とクリスティーナの会話を聞きながら、甘いミルクティーを味わっていた桃子もうんうんと頷いた。

 

「ルシオンさんって犬っぽいところありますよね。最初は怖かったですけど、慣れるとものすごい人懐っこいですよね」

 

「ええ。恋愛とかそういう感情は、互いにありマせんでしたけれど、横に立つ仲間としては、私も彼のことは嫌いではありマせんでした」

 

 結局のところ、桃子、柚花、クリスティーナの三人の中で、ルシオンの印象は『大型犬』で統一されていた。見ればクリスティーナの秘書たちも頷いており、満場一致である。

 今頃、龍宮礁では噂をされたルシオンがくしゃみでもしているかもしれない。

 

「あ、そうだ先輩。わんちゃんと言えばほら、例の言付けのこと、忘れてません?」

 

「あー、あれかあ……」

 

 そこで、ふと。柚花がとあることを思い出して、桃子に声をかける。

 それは『言付け』だ。桃子は、ルシオンからクリスティーナへの言付けを預かっていたのだ。

 もっとも、その言付けをクリスティーナに伝えるべきかどうか。その判断に桃子はあからさまに悩んでおり、困り顔を浮かべている。

 

「そのぉ……クリスさんに、ルシオンさんからの言付けがあるんですけど」

 

「ルシオンから、私にですか? ええ、聞きマしょう」

 

「ええと……でも柚花、いいのかな、あの言付けって、そのまま伝えても」

 

「まあ、言付けですし、そのまま伝えちゃいましょう?」

 

「どうしマした?」

 

 桃子は困惑し、クリスティーナに伝えるべきかどうか悩んでいる。

 一方で、柚花はにやにやと口元に笑みを浮かべていた。わかりやすいほどの悪戯顔だ。柚花はもちろんその言付けの内容を知っている。

 

「ええと、言付けです」

 

 柚花は知っている。

 言付けの内容がどうであれ、桃子はルシオンからの頼まれたことを、なかったことにはできない性格なのだ。

 だから、ルシオンの言葉を一言一句違わず、桃子はそのまま言葉にした。

 

 

「『クリスティーナ、すまないが吾輩は真実の愛を見つけてしまった。どうか、婚約は解消してほしい』」

 

 

 沈黙。

 

 そして。

 

「……な、なっ?!」

 

「ぶふっ!」

 

 桃子の言葉に、クリスティーナは絶句し、柚花は吹き出した。

 クリスティーナの後ろでは、数秒おいてから彼女の秘書たちがプルプルとふるえだし、笑いを堪えている姿が見える。

 

「え、ええと……」

 

「ぷふっ、あっははは、良かったですね、クリスティーナ会長。最近流行のロマン小説の主人公みたいじゃないですか」

 

「な、なんで私が振られたみたいになってるんですか?! ルシオン、ルシオーンっ!!」

 

 もちろん、クリスティーナは婚約など了承していないのだが、ルシオンの中では婚約者設定は未だに健在だったようだ。

 クリスティーナは赤くなって怒りだし、柚花は笑い転げて、桃子はいたたまれなさを誤魔化すように、高級菓子を口につめこむ。

 

 クリスティーナへの報告会は、このようにして。

 怒りと笑いに包まれて、平和に終わったのだった。

 

 

 

 

 帰り道。

 魔法協会蔵王支部からの帰りは、もちろん新幹線などではなく、桃の窪地を経由する。窪地の管理小屋では妖精たちが桃子たちの帰りを待っているはずだ。

 桃子と柚花は、ざくざくと雪道を歩きながら、管理小屋への短い道のりをゆっくり歩いていく。

 

「まあ、クリスティーナ会長はとんだ災難でしたよね。見てる分には面白かったですけど」

 

「あはは。あれは結構、本気でイラッとしてたよね」

 

 慣用句で、『犬に噛まれたと思って忘れたほうがいい』などという言い回しがあるけれど、クリスティーナの場合はまさに文字通り、犬に振り回されたわけである。

 クリスティーナは一方的に身に覚えのない婚約破棄を申し出られたのは非常に不服そうだった。彼女とて誰かしらと婚約をしていてもおかしくはないけれど、何度も本人が訴えていたように、ルシオンと婚約した覚えなどはないのだ。

 とはいえ、最終的にはクリスティーナはぷんぷん怒りながらも、ルシオンが幸せを見つけたことを祝福していたので、終わり良ければ、というところだろうか。

 

 ざくざくと、硬くなった雪の上を歩く。

 妖精の国へとつながる管理小屋はすぐ目の前だが、柚花がふと。小屋を前にして足をとめた。

 

「……ねえ、先輩は」

 

「うん?」

 

「先輩は、人生の伴侶って……考えたことあります? 恋愛でも、そうでなくとも」

 

「え、私まだ二十歳だよ? そういうの早くない?」

 

「そりゃまあ、先輩には早いかもしれませんけど」

 

 桃子は年齢としてはもう二十歳。されど、逆に言えばまだ二十歳の若者だ。世の中でも、人生設計をそこまで見据えている二十歳の若者というのはまだまだ少ないだろう。

 それに加えて、桃子の場合はそもそもが今まで色恋沙汰とは縁のない人生だったので、結婚どころか、恋人などと言われてもいまひとつ実感がない。カレーや妖精のことを考えている時間の方が圧倒的に長いのだ。

 とはいえ。漠然と、思うところはある。

 

 桃子は、エレーヌを失い、永遠の時間に取り残されてしまったルシオンの姿を思い出す。

 永久に続く喪失感に心を削り落とされた、彼の涙を、慟哭を、思い出す。

 

「きっと……私たちはさ、普通の人と結婚したら、後にずっと取り残される側なんだよね」

 

「そうですよ。私たちはもう、そっち側の存在になったんですよ」

 

 死が、二人を分かつまで。

 

 それはきっと、長寿という祝福を得てしまった桃子たちにとって、目を背けてはいけない問題なのだ。

 寿命の差。それは、これから先の人生において、桃子は何度も直面することになる、命題だ。

 そして、桃子は更に、気付いたこともある。

 

「もし、私たちが結婚して子供が産まれたとしてもさ。子供が先に寿命を迎えたりとかするのは……きっと、つらいはずだよね」

 

「はい。そうですね」

 

 桃子は、少し前に交わした和歌の言葉を思い出していた。

 和歌は、己と同様の長寿になった風間とともに二人三脚で生きる選択肢を与えられた希有な存在だ。それはきっと、とても幸せなことなのだ。彼とずっと、長い時間を過ごせるのだから。

 しかし、そんな和歌ですら「子供を産むこと」だけは、考えていなかった。

 

 桃子は考える。

 もし、自分の愛した子供が、自分よりも早く寿命を迎えることになってしまったら。最愛のものが老いて、死ぬのを。自分だけが若いまま見送ることになったとしたら。その時、自分はどうなってしまうのだろうかと。

 ルシオンのように、何十年、何百年の悲しみの時間を過ごすことになるかもしれない。

 苦しみに負け、その後を追い掛けてしまうかもしれない。

 そして――自分に果てなき命を与えた妖精たちを、憎んでしまうかもしれない。

 

 そんなのは、嫌だ。

 そんな未来になるくらいならば、最初から――。

 

「私には……ヘノちゃんと柚花がいてくれれば、それだけでいいや」

 

「そうですか。そうですか。ふふっ、そうですか」

 

「えっ、柚花? どうしたの? どうかしちゃったの?」

 

 今のやりとりは、とてもではないが笑えるような話ではなかったはずだ。どちらかと言えば、傷つくことを避け、自ら選択肢を斬り捨てるような後ろ向きな発言だったはずだ。寿命差という、避けようがない、とても重たい命題だったはずだ。

 だというのに、柚花は妙に嬉しそうだった。

 先ほどは沈んでいるように見えた表情が、今では頬が赤らんで、実に楽しそうである。

 

「いえ。先輩、私もヘノ先輩と同格になれたんだなって思っただけですよ。ああ……なんだかもう、今すぐにクルラさんから妖精のお酒をもらっちゃってもいいくらいですよ」

 

「ダメダメ、そもそもお酒は二十歳からだからね? 長生きでもそうでなくとも、法律はちゃんと守ろうね」

 

「昨年のうちにお酒を飲んでる先輩がそれを言いますか?」

 

「あ、あれはほら、不可抗力みたいなものだから……セーフじゃない?」

 

 そんな風に。重たい話を、笑い話で上書きしながら。二人は再び足を動かし始める。

 真っ白な雪に、柚花の足跡が残る。その横には、ひとまわり小さい桃子の足跡が残る。

 

 この足跡は、数時間もせずに消えてしまうだろう。

 そこに、柚花と桃子が歩いた軌跡は失われてしまうだろう。

 時間とともに。時代とともに。誰の記憶にも、残らずに。

 

 だが、足跡が残るのは、地面だけではない。

 

「先輩」

 

 柚花が、言う。

 

「私はずっと一緒ですよ。死が、二人を分かつまで」

 

「……うん、ありがとう、柚花」

 

 死が、二人を分かつまで。

 

 そんな誓いとともに。

 桃子の右手を握る柚花の手のひらは。桃子の指に触れる柚花の指は。

 とても、とても。温かかった。

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