ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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幕間 百物語ふたたび
百物語リターンズ


 桃子たちがニライカナイから帰還し、ローラの話を聞いたのが日曜日の夜。

 続く月曜日は昼のうちはローラを交えて柚花の突発配信を行ったあと、ヘリで再び長崎空港へと帰還した桃子たちだが、その日は一旦長崎ダンジョンギルド近くのホテルに宿泊することになった。

 

 これは、そのホテルでのことである。

 

 

 

 

「え、また『百物語』をするんですか?!」 

 

 桃子たちの引率役として同じホテルに宿泊していた魔法協会職員の老芝奈々が、桃子たちの部屋を訪れるなり、目をまるくして驚いている。

 

 ここは、桃子と柚花が宿泊することになった客室だ。さすがに今回は以前宿泊したときのようなVIPルームではないのだが、それでも桃子たち二人が宿泊するには十分に広い部屋である。

 奥のベッドルームに加え、中央には5人は過ごせそうな広々としたリビングが設置されており、中央の座卓には上品な焼き菓子がウェルカムスイーツとして用意されていた。もっとも、菓子はすでにヘノとニムの胃の中だ。

 

 すでに早めの夕食を終え、あとはそれぞれが部屋で自由にくつろぐだけだったのだが、そこで桃子が――いや、ヘノが言い出したのだ。「百物語をしたい」と。

 

「そうだぞ。あれ。なかなか面白かったからな」

 

「うぅ……わ、私も……ど、どのようなものなのか、気になりますねぇ……」

 

「あはは。こんな感じで、ヘノちゃんたちが妙に乗り気なんです。だから、もし奈々さんが迷惑じゃなければどうかなって」

 

「今度は最初から。カステラを食べながらやるぞ。暗いところで食べてたら。怒られちゃったからな」

 

 前回、このホテルのVIPルームで行われた百物語は、共に宿泊していたりりたんが主導して行った企画だ。

 もっとも、百物語とは言っても、そこまで本格的なことはしていない。部屋の灯りを全て消し、蝋燭ならぬLEDランタンを各自が持ち、怪談話を語り終えた者から順にランタンを消していっただけである。

 それなりに雰囲気は出ていたものの、最後に何か起こったかといえば特に何もなく、強いて言えばヘノがどこからか取り出したお土産用のおやつを暗闇のなかで勝手に開いて食べていただけだった。

 

「私としては正直、前回があれだったんで怪談話は気は進まないんですけどね」

 

 とは、お洒落な座卓を囲むようにして置かれたクッションに腰掛け、ニムの髪を指先で撫でている柚花の言葉だ。

 柚花は前回、参加者では唯一と言って良いほど真っ当な怪談話を披露したにも拘わらず、オチをヘノと桃子の漫才染みたやりとりで引っかき回されてしまったので、怪談話にはいい思い出がないのだった。

 とはいえ、今回は柚花のパートナーであるニムまでもが百物語に興味を持っているため、柚花はニムのために渋々、この提案を受け入れている。

 

「別に。怖い話じゃなくても。面白い話でも。美味しい話でも。ヘノはなんでも構わないぞ」

 

 そしてさっそく、百物語の存在意義を揺るがしかねない発言を繰り出したのもまた、ヘノだ。

 

「い、いいですねぇ……うぅ……面白い、面白い話……」

 

「えー、怪談話じゃないならもう百物語じゃなくない? いいのかな」

 

「先輩、それはそれでいいんじゃないですか? 無理矢理怖い話なんてするよりは、楽しい話のほうが盛り上がりますよ」

 

 ニムは乗り気で、柚花も乗り気だ。柚花としては二度とヘノと桃子の前で怪談話はしたくなかったので、渡りに船である。

 しかし、桃子は考える。はたして百物語とは、その中身が面白い話でも構わないイベントなのか。

 面白い話を皆で語り合ったとして、それを百物語と呼んで構わないのか。

 桃子はヘノの斬新な提案に首を傾げるが、しかし柚花の言う通りだなと考え直す。そもそも桃子とてわざわざ暗い部屋の中で怖い話などしたくない。トイレに行けなくなったら困るのだ。

 愉快で面白い話のほうが、心理的にも楽に決まっている。トイレにも行きやすい。

 

「うん、そうだね。そうしよう! いっそ、話の内容はなんでもオッケーにしちゃおうか」

 

 桃子が笑顔でうんうんと頷くと、「鶴の一声」ならぬ「桃の一声」で、なんでもオッケーの百物語開催が決定した。

 なお結局、この部屋を訪れた奈々はほとんど何も発言をしていないのだが、聞くまでもなく頭数には数えられているのだろう。本人も、目の前の少女たちの会話を苦笑混じりに聞いている。

 

「じゃあバナナ女。あの面白い灯りの準備は頼んでいいか。ヘノはさすがに。わかんないんだ」

 

「なんだか主旨がよくはわからないものになってますけど、準備はお任せください! ランタンと、あとカステラもついでに私のほうで用意してきましょう!」

 

「なんだかすみません、奈々さんに色々任せちゃって」

 

「いえいえ。部屋の準備は任せちゃいますね!」

 

 LEDランタンはホテルのスタッフに頼めば貸し出してくれるだろう。

 カステラも、夕方を過ぎたとはいえ、まだホテルの売店は開いているはずだ。カステラくらいは、問題なく用意できるだろう。

 奈々は提案に多少困惑を残しつつも、テキパキと、百物語の準備に向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、しばらく後。

 以前りりたんが行ったように、桃子と柚花は部屋の家電の灯りにカバーをかけて、照明を落としたら真っ暗になるような細工を施していた。

 

「カーテン閉めても、端っこから外の光が入ってきちゃうね。どうしようか」

 

「それくらいなら、いいんじゃないですか? どうせ、全部消しても真っ暗になるわけじゃないですし」

 

「それもそっか」

 

 室内にヘノとニムという二人の光源がいる時点で真の闇はどうせ訪れないのだ。

 なので、そこまで神経質にはなっても仕方がないと納得し、桃子は窓の外に見下ろせる町並みを少し眺めてから、カーテンを閉じて、卓につく。

 なんだか妙にお洒落な雰囲気を醸し出している座卓には、人数分――妖精ふたりの分も含め、五つのLEDランタンがすでに並べられていた。

 

「こ、これが明かりなんですねぇ……」

 

「そうだぞ。カチカチすると。光ったり消えたりして。楽しいんだ」

 

 桃子、柚花、奈々は座卓を囲むように座って、ヘノたちはそれぞれのパートナーの横でランタンをいじっている。

 ボタン一つで灯りがついたり消えたりするランタンを、ヘノは楽しげに、ニムは恐ろしげに触っていた。

 見ていて可愛らしくはあるのだが、二人で灯りをカチカチされるとさすがに目にうるさいので、桃子と柚花がそれぞれのパートナーをひょいと掴んでランタンから引き剥がす。

 

「では、皆さん。準備ができたようですし、明かりを消しますね」

 

「はい、お願いします」

 

 奈々が部屋の照明をおとす。

 残された室内の光源は、卓上のランタン五つと、妖精二人のみ。妖精の光はともかくとして、これからそれぞれが物語を語るごとに、ランタンの明かりを消していくことになるのだ。

 そして、卓上にはランタンだけでなく、ヘノのリクエストどおりにカステラも並べられている。もちろん、ざらめ糖が紙にもじゃりっとついている、ヘノ一推し企業のカステラだ。

 開始前からさっそくカステラを食べようとするヘノを桃子が指先でつまみ上げる。さすがに、開始前から食べるのはフライングだ。

 

「じゃあ、ええと……始めよっか。第二回『百物語』でいいのかな。テーマは自由です。はじまりはじまりー」

 

「わ、わあ……ぱちぱち、ぱちぱち」

 

「さすが桃子だな。『百物語』の始め方がうまいな」

 

「えへへ、ありがと。どこを褒められてるのか全然わかんないけど」

 

 暗い部屋で、テーマが自由な『百物語っぽいもの』が開始される。

 司会を任された桃子としては、雰囲気だけはおどろおどろしくすべきなのか、それとも普通に明るく進めればいいのかも定まらぬまま、なんとも曖昧な司会進行になってしまったのだが、どうやらヘノたちはそんな司会にもご満悦である。

 そして。桃子が妖精たちと戯れる姿をしばし眺めてから、柚花がさっそく口を開いた。

 

「ところで先輩、順番はどうします? まずは誰から開始するかを決めないと、百物語が始まりませんよ?」

 

「あ、そっか。じゃあ――」

 

 司会進行を任せられた桃子が、うむむと頭を傾げて考え込む。

 今思えば、多少おかしいところがあったけれど、ノリノリで司会進行をしていたりりたんは、百物語の才能があったのかもしれない。

 

「そうだ、前は奈々さんが最後だったから、今回は奈々さんからってどうですか? 奈々さんから時計回りに、次はヘノちゃんで」

 

「ヘノは構わないぞ。じゃあ。バナナ女からだな」

 

「バ、バナナさんのお話……た、楽しみですねぇ……」

 

「バナナさんではなく、老芝奈々ですけどね?」

 

 おいしばなな。妖精たちが、いよいよ本格的にバナナの人として覚えはじめているけれど、それはそれ、これはこれ。今は関係ないので、それぞれのパートナーである桃子と柚花もスルーの構えだ。

 奈々はふう、と一度深呼吸をすると、雰囲気を変えて。

 

「では、テーマがフリーとのことなので、最近の私の身に起こったことを報告がてらお話しさせていただきますね」

 

 静かに。まるで怪談話のように、語りはじめた。

 

 

「みなさま知っての通り、ちょうど今年の夏のお盆にも、私ここで皆様とともに過ごしていたわけですが……」

 

 それは、今年の夏のこと。

 なんやかんやの様々な事情が重なり、桃子たちは長崎ダンジョンで『ハーメルンの笛吹き』に振り回され、さらにはりりたんや英霊たちの救援として、長崎ダンジョン下層にて不死者の群れ相手の大活劇を繰り広げた。

 その際に、桃子たちの引率として同行してくれていたのが、やはりこの老芝奈々だった。

 

「あのあと何故か、世界魔法協会トップのクリスティーナ会長から、直接電話がかかってきたんです」

 

「えっ、直接ですか?」

 

 桃子がつい驚いて、声をあげてしまう。なにせ、世界に名だたる不老の魔女からの直電だ。

 もっとも、桃子の場合はつい先日も会っているし、なんなら数日後にはルシオンの件の報告として再び顔を合わせる相手ではあるのだが、しかしそれでも世界的な偉い人であることには変わりない。

 

「はい。それで、色々と……そのぉ、根ほり葉ほり問いただされてしまいまして」

 

「問いただされたって、何をですか?」

 

「それがですね――」

 

 声をあげてしまった手前、桃子が続けて相づちをうつ。

 ヘノとニムはクリスティーナから電話が来ることの価値をわかっておらず、無言で話を聞きながらカステラをぱくついている。柚花は何か知っているのかいないのか、黙りだ。

 

 奈々の話としては、こうである。

 桃子たちと別れた後、夜に自室でくつろいでいると見知らぬ番号から電話がかかってきた。

 それに出ると、見知らぬ女性の声。しかも、どことなく日本語の発音が不慣れらしく、辿々しい。

 最初は間違い電話かなにかかと思って対応していたのだが、相手が途中からテレビ電話で話したいというではないか。

 

「画面にクリスティーナ会長が表示されたときは、冷や汗が流れました」

 

「あの人、忙しい忙しいって言ってる割に、変なところで暇そうですよね」

 

 所属する協会のトップ。世界的にも有名な不老の魔女から直接ビデオ通話を繋がれた奈々の心境は、いかほどのものだっただろうか。

 柚花などはすでにクリスティーナ相手にも物怖じしなくなっているが、これは柚花が特殊すぎるだけである。

 そしてその後、主に長崎への旅路について。奈々は不老の魔女から直接、問いただされたのだそうだ。

 

「――具体的には、梨々さんと桃子さんが食事でどんなメニューを好んで食べていたのかとか、他にも何か食べたいと言っていなかったかどうかとか……」

 

「……へ? 奈々さんじゃなくて、私の話を聞かれたんですか?」

 

「なんだあいつ。桃子のこと知りたいなら。ヘノに聞いてくれればいいのにな」

 

 普通に、桃子にとってはなんだか怖い話だった。

 つい先日、にこやかに話していたクリスティーナが、自分の知らないところで自分の情報を集めているのだ。目的がわからず、桃子としてはうすら怖さしかない。

 なお、仮にヘノに桃子の食事について聞いたところで「カレーだぞ」しか言わない。

 

「奈々さん、他には何か聞いてました? 私のこととか」

 

「いえ、食べ物について聞いたらそれだけでしたね。私も緊張してて、こちらから質問はできませんでした……」

 

「うー……なんなんだろう、なんなんだろう」

 

「おろおろしてる先輩って、可愛いですね」

 

 と、いうように。

 テーマフリーの百物語の一発目は、桃子にとっては『怖い話』として開始されるのだった。

 

 

 

 なお、当時クリスティーナと直接会っていた柚花は。その真実を、真相を、知っていた。

 というのも、なんということはない。クリスティーナは単に、日本の文化『お中元』にサプライズチャレンジすべく、何を贈ったら喜ばれるのかを本人にばれないように調査していただけなのだ。

 

 だが、桃子の反応がなんだかおもしろいので。

 柚花は最後まで、その事実を黙っていることにしたのだった。

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