ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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けものたちのクリスマス

 妖精の畑の中心部。

 ここには、クルラの本体でもある桃の木を中心にして、そのすぐ横には土に下半身の埋もれた植物幼女の姿があり、さらにそのすぐそばには鞘に収められた刀が畑の土に突き立っている。

 この鞘は、どうしてもこの魔力の豊富な場所に躯の形見である刀を立てておきたいというフラムの願いを叶えるため、事情を伏せたまま親方に頼み込んで用意してもらったものだ。親方にはおかしな子だと思われてしまったかもしれないが、致し方がない。

 

「アルラウネちゃんはさすがにケーキは食べられないから、お水をあげようね」

 

『リリィ……リリリリ……』

 

「あはは、美味しい? よかった。それでなんだけど、お野菜を少しわけてもらってもいいかな」

 

『リリリィ』

 

「うん、ありがとうね」

 

 土に埋もれた緑色の幼女はアルラウネ。植物の魔法生物であり、その身には葉野菜のケールを主軸とした緑のドレスを身につけている。

 彼女はその力を失い畑に埋められていたのだが、最近は妖精の畑の豊潤な魔力の影響か、目を開き、周囲の風景に反応するようになってきた。とは言っても、現状では多少の反応を見せて、リリリィという声のようなものを発するだけだ。彼女が魔法生物としての力と、そして明確な自意識を取り戻すにはまだしばらくかかるらしい。

 ちなみに、桃子はアルラウネの出す声を聞いて理解できている風に話しているけれど、実は全く分からない。完全に当てずっぽうである。

 

「桃子は相変わらず。こいつの衣服を剥ぎ取るの。好きだな」

 

「ヘノちゃん、言い方、言い方。私が変なことしてるみたいじゃん」

 

 この日、桃子と柚花は手分けをしてケーキとチキンを配っていたのだ。どうやら桃子の方が早く妖精の国に戻ってきたようだけれど、柚花は今頃はいったい、何処で何をしているのだろうか。

 桃子は半身、埋められた幼女の衣服――ならぬ、後の夕食で使う予定の葉野菜を一枚一枚剥ぎ取りながら。

 まだ、この場にいない後輩の帰りを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、時間を巻き戻し。

 

 桃子と別行動をとった柚花が最初に訪れたのは、柚花が初めて顔を合わせる魔法生物の守護するダンジョンだった。

 

『ハハハハハハ! 世にスフィンクスの名を冠するものは多く居れども、クリスマスケーキの味を識るのは我だけであろうな!』

 

 己の身体からすれば豆粒ほどのチキンとケーキを数秒で平らげると、その巨大な獣は豪快に笑った。

 ここは、砂丘ダンジョン第三層『地下遺跡』。通称ピラミッドの最深部に存在する広々とした聖域。

 スフィンクスの間と呼ばれるそこでは、その部屋の主であるスフィンクスがその巨大な身体を揺らしながら、実に愉しげに笑っていた。

 巨大な身体が揺れると、その上半身を象る女性姿の豊満な胸がたゆんたゆんと豪快に揺れ動き、対面する人間はだいたい視線のやり場に困ってしまう。

 

「どうやら、後輩くんの差し入れは、スフィンクスのお気に召したようでは、ないかな?」

 

「喜んでいただけてよかったですよ。スフィンクスさんには先輩が何かとお世話になっているみたいですからね」

 

 そして、そのスフィンクスの正面でその豊満な胸を眺めながらも会話を交わしているのは、桃子の代理でチキンとケーキをこの地に持ってきた柚花だ。

 また、その横で賢そうなポーズを取っている妖精は、柚花のパートナーのニムではなく、スフィンクスのパートナーと言うべき褐色肌のボーイッシュな妖精、リドルである。

 ニムは、暑くて乾燥しているこのダンジョンを苦手としているので、今は妖精の国で待っている。

 

「先輩がお世話になっているという意味では、このダンジョンにいるはずの、別な子にもケーキを届けたいところなんですが……」

 

 柚花はスフィンクスと交流を続けながらも、先ほどから【看破】の瞳に魔力を集中し続けている。

 実は、柚花がここに持ってきたチキンとケーキは、スフィンクス宛てのものだけではない。まだこの場には、紙皿に置かれたチキンとケーキが残っている。

 柚花はオッドアイに魔力の光を宿らせて、このスフィンクスの間をくまなく観察するけれど、残念ながら、そこに目当ての相手の姿は映らない。

 

『そなたの能力で探しても、あやつは見つからぬよ。姿が見えない。それがあやつの本質であるのだから、看破もなにもない』

 

「なるほど。先輩の【創造】で生まれた子とはいえ、神話通りの性質を受け継いでいるわけですね」

 

「さては、二人とも。メジェドの話をしているのでは、ないかな?」

 

 柚花たちの会話を聞きながら、意外にもリドルが正確な答えをはじき出した。

 メジェド。それはエジプトの壁画にも描かれている、謎に満ちた存在だ。

 その神は日本では白い布を被ったお化けのようなキャラクターとして知られているけれど、実際にはただ『打ち倒すもの』とだけ語られており、その姿は誰の目にも映らないのだという。

 

 そんなメジェドについて正しく言い当てたリドルを珍しく思い、柚花とスフィンクスが少しだけ、驚き顔でリドルに視線を向ける。

 リドルは普段は全く人の話を聞いておらず、着眼点がとにかくおかしいだけで、話さえ聞いていれば即座に正解を導き出すだけの賢さはあるのだ。

 だが、その機会があまりにもレアなのだ。

 

「おやおや。ボクの顔に、なにかついているのかな?」

 

 リドルの顔にはいつの間にかつまみ食いしたらしきケーキのクリームがついている。

 が、柚花とスフィンクスはノーコメントのまま、自分たちの会話に戻る。

 

『しかし、メジェドもケーキと肉には興味を持っているようだからな。置いておけば、そのうちこっそりと食いにくるであろうよ』

 

「なんだか野生動物みたいな扱いですね」

 

『あれは、我の前にもなかなか姿を見せんでな。野生の獣のほうが、いくらか飼い慣らせるのではないか?』

 

「さては二人とも、動物の話をしているのでは、ないかな?」

 

 そんな取り留めのない会話を交わしながら、柚花とスフィンクスの顔合わせは問題なく進んでいった。

 柚花は、桃子の協力者としては特殊な立ち位置であるスフィンクスを見定めて。スフィンクスは、桃子に続いて妖精の加護を得たという柚花の人となりを観察し。

 最終的には、双方が互いを認めたように笑いあって、この場はお開きになるのだった。

 

 なお。柚花とスフィンクスが話しているあいだに、いつの間にか部屋の端においておいたチキンとケーキは消えていた。

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、ケーキとチキンなんですけど、数は少ないので子狸たちで分けてくれると助かります」

 

「やったぽん!」

 

「ありがとたぬー」

 

 そして、柚花がニムをつれて砂丘ダンジョンに続き訪れたのは、すでに柚花たちにとってはお馴染みの土地、香川ダンジョン第三層『妖狸の森』に存在する隠れ里。通称、化け狸の里である。

 この場所には多数の化け狸がいるため、柚花は自分が任されたケーキとチキンを残り全てここに運び込んだ。全ての化け狸で分けられるほどの量はないけれど、幼い子供の狸たちが分けて食べるくらいの量は足りているはずだ。

 

「ったく、どこの化け狸がクリスマスなんぞを喜ぶってんだ。異国の宗教の生誕祭じゃろが」

 

「お爺ちゃん、日本のクリスマスは宗教とか関係ないんですよ。お孫さんから聞いてませんか?」

 

「残念じゃが、ポンコは肉や菓子よりもうどんで頭がいっぱいみたいじゃからな」

 

 柚花がいるのは、長がよく寛いでいる東屋だ。柚花の目の前では、巨大な二足歩行の狸――化け狸の長が、定期的に柚花が持ち込んでいる、薬草の妖精ルイ手作りの薬草煙草をふかしている。

 開けた東屋から周囲を見渡せば、目の前の広場では子狸たちが何匹かの若いオオカミたちと戯れている。彼らはこの香川ダンジョンの存在ではなく、この化け狸の里と光の膜で繋がれた吉野ダンジョン第三層『ヒトザト』からやってきたオオカミたちだ。

 柚花や桃子といった『人間』があの地を訪れることは二度とないけれど、化け狸とオオカミの交流はしっかりと根付いているようである。

 

 柚花はさらに、広場の先に見える沼へと視線を向ける。そこでは水面に釣り竿を伸ばしている狸とともに、小さく青い光が水面からしきりに出入りしているのが見える。

 どうやらニムも、今ではもう顔なじみになった狸たちとともに、魚釣りを楽しんでいるようだ。

 そんな景色を眺めながら、長がぷはあと煙草の煙を吐き出し、次の話題を口にする。

 

「しかし、あれからもう一年か。次のうどん大会とやらは、平和に終わればよいのじゃがな」

 

「ああ、明日ですからね。ポンコさんは今も上層で大会に向けての準備ですか?」

 

「うむ。お陰で、この化け狸の里でも最近は常にカレーの香りが漂っておるわ。どうしてくれるんじゃい」

 

「それは私じゃなくて、あなたの息子さんを助けてくれたカレーの妖精に言ってくださいよ」

 

 うどん大会。正式には『うどん大会フェス祭り』なる、ネーミングセンスを疑わざるを得ない名称のイベントだ。香川ダンジョンで日頃腕を磨き合ううどん職人たちが、第二層の闘技場に出店を並べて最高のうどん職人を決定する、年に二回の大イベントである。

 一年前の冬の大会の日には、この香川ダンジョンに小規模のスタンピードが発生して、うどん大会が戦いの場となった。そして半年前の夏大会の際には、瀬戸内海を挟んだ向かい、尾道ダンジョンにて特殊個体あやかしが復活し、スタンピードが発生している。

 さすがにそんなことが三度は続かないだろうとは思いつつも、平和な大会を望んでいるのは、恐らくこの香川ダンジョンに関わるもの全ての願いだろう。

 

「まあ、なんにしても。好きなうどんに専念出来るのは、素敵なことだと思いますよ」

 

「ふん、まあな」

 

 なんにせよ、今ここにはポンコはいない。

 明日。12月25日に開催される『うどん大会フェス祭り』こそが。化け狸の少女、けものの姫。ポンコにとっての本番なのだ。

 柚花と長は、広間で戯れる子狸たちの楽しげな鳴き声をバックに。

 しばらくの間、ゆっくりとした時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――時間は過ぎて、時刻は夕食時。

 

 柚花も桃子もそれぞれの行き先から帰還して、今は女王の間でのクリスマスディナーである。

 この日はいつも通りのカレーに加えて、桃子たちが持ち込んだチキンとケーキが卓上には並んでおり、女王ティタニアとその娘たちがその場に揃い、いつもとひと味違う御馳走に舌鼓を打っていた。なお、桃子と柚花の目の前には小さくちぎった葉野菜のサラダもあるが、妖精たちは葉野菜が好みではないようで食べようとする妖精はいない。

 桃子と柚花もまた、チキンやカレーを食べつつ、雑談に興じていた。

 

「――っていう感じで、狸の子供たちはケーキを喜んでましたよ。スポンジとか苺よりも、生クリームが特別感あったみたいですね」

 

「うわー、私も行けばよかったなあ。小さい狸、可愛かっただろうなあ」

 

 自我の育った妖精の姉妹たちは思い思いにお喋りをしており、テーブルは非常に賑やかだ。

 桃子と柚花も、この日にあった出来事をそれぞれが報告しあう形で語りあっていた。そんな中、桃子が特に食いついてきたのは、やはり化け狸の里にて子狸たちがケーキを喜んでいたという話題である。

 桃子はカレーと松茸が好きだが、子狸などの小さく可愛い動物も大好きなのだ。見かける度に、ハグをして毛皮に顔をおしつけ、いわゆる『たぬ吸い』に興じてしまうのだ。

 

「桃子は。ちいさい狸をみると。すぐに吸うからな」

 

「えへへ」

 

「先輩、こんど長にも抱きついてみてくださいよ。子狸も可愛いですけど、大きい狸はまた別格ですから」

 

「えー、いや、わかるけど……うーん……」

 

 一方、柚花は大したもので、子狸も好きだけれど人間大の大きな狸に抱きつくことの素晴らしさを知っている。

 最近はようやく化け狸の里での『長の妾』疑惑も解けてきたものの、それとは別に『大きな狸を見たら抱きついてくる人間』として、一部の化け狸たちからは、そわそわした目で見られていたりする。

 そして、そんな狸談義に花を咲かせる少女たちに、女王ティタニアが声をかけてきた。

 ティタニアはさすがに他の妖精の娘たちよりも食事マナーが一歩秀でており、チキンやケーキを食べたあとでも頬にべったり油やクリームがついていたりすることがない。さすがは女王だ。

 

「ところでお二人は、明日はその『うどん祭りフェスティバル』に行かれるのですか?」

 

「なんだ。女王も『うどん大会まつり』が。気になるのか」

 

「そうですね。『うどん祭りフェスティバル』というより、やはり既知の仲であるポンコさんの健闘は気になります」

 

「うぅ……ポ、ポンコさん……次こそは『うどんフェスティバル大会』で、優勝できますかねぇ……?」

 

 ポンコは、この妖精の国ではもう身内カウントされるほどの常連だ。彼女の遠慮しないポジティブで元気な性格も相まって、この女王の間にも気軽に遊びに来るのだそうだ。ここは本来部外者立ち入り禁止なのだが、ポンコは自分が部外者だとは考えていないのだろう。

 というか実際に、ティタニアからみて一番馴染みのある『妖精以外の魔法生物』の友人は、他でもないポンコなのだ。

 

「『うどん食材フェス大会』はカリンも見に行きたがってたけど、遠すぎたらしいヨ。残念だヨ」

 

「んふふ♪『うどん大会カーニバル』よね? 今頃はオウカが香川ダンジョンまで向かってるはずだわ♪」

 

「すごい、ね!『カレー大会ハンバーグ』って、面白そう!」

 

 話が聞こえていたのか、周囲で雑談中だった妖精たちが次々にコメントを残していく。

 だが、明日のイベント名は『うどん大会フェス祭り』である。誰も正しく言えていない。ルゥに至ってはとうとううどんが消えてしまった。

 

「明日は私と柚花がこっそりと会場入りして、ポンコちゃんを応援してきますね」

 

「そうです、そうです。私と先輩で、ティタニア様のぶんまで応援しておきますから」

 

「ふふふ。お二人が応援に行かれるのでしたら、ポンコさんも心強いですね」

 

 大会名がどうだったとしても、だ。

 どうやら、明日のポンコには強い味方がついていると知り、ティタニアも安心したように目を細める。

 優勝こそは難しいだろうけれど、あれだけうどんに情熱を燃やしている少女なのだ。きちんと、全力を出し切ってほしいものだと、ティタニアは明るい化け狸少女の姿を思い浮かべた。

 彼女はきっと今頃、最後の最後までうどんのことを考えて、クリスマスなど眼中にないに違いない。

 

「女王。明日は。お土産にうどんかなにかあったら。持ってきてやるからな」

 

「あ、明日が楽しみですねぇ……」

 

「ヘノ、ニム。人間に見つからないようにする必要はありますが――明日は、存分に楽しんできてくださいね」

 

 そんなこんなで。

 話が何故だか、クリスマスどころかうどんと狸の話ばかりになってしまったが。

 二十歳になった桃子のクリスマスは、こうして、妖精たちとの輪の中で過ぎていくのだった。

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