ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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三章 雪ん子とウワバミ様
乙女たちのピザパーティ


「もう、先輩! あの時は本当に心配したんですからね!」

 

「それはごめん、本当にごめんね。せめて帰ってからすぐ連絡すべきだったよ」

 

「むぐむぐ」

 

「はむ……はむ……」

 

 

 琵琶湖ダンジョンでのあれやこれが終わった後、地上に戻ってきた桃子のスマホには後輩の柚花からそれはもう大量のメッセージが届いていた。

 桃子が地下でひたすら読書をしていた頃には「琵琶湖ダンジョンが一部崩壊した」というニュースが出回っていたようで、柚花はそれからずっと桃子に何度も連絡をよこしていたらしい。

 

「もう……琵琶湖ダンジョンの崩落のニュース見てからは、先輩に何かあったんじゃないかって、気が気じゃなかったですよ。それからずっと連絡つかないですし」

 

「うん、窓口さんにも同じこと言われちゃったよ」

 

 土曜日に一度ギルドに戻ったら、受付にいた窓口にも泣きつかれてしまったのだ。

 彼女もまた、桃子が妖精との関わりで琵琶湖ダンジョンへと出向いていたことを知っていたので、帰ってこない桃子の身を案じ、ずっと心配してくれていたのだ。

 他の探索者ならば自分の端末からギルドや他探索者へのメッセージを送れるのだろうが、桃子の場合は端末でメッセージを送っても文字化けになってしまい、身元不明の位置情報くらいしか送信できないことがわかっている。

 柚花や窓口ならそれでも察してくれるかもしれないが、そもそも桃子が端末でメッセージを送るという考えにすら至っていなかったので、それ以前の問題だろう。

 

「むぐむぐ。後輩。そっちの別な味のも。食べていいか?」

 

「うぅ……ヘノ、柚花さんたち、いまお話し中ですよぅ」

 

 そして、柚花に心配かけたことをひたすら謝る桃子の横で、口から白いチーズを伸ばしているのは緑の風の妖精ヘノと、蒼い水の妖精ニムの二人。

 房総ダンジョン第一層、森林迷宮のルートから外れた小高い丘の上で、妖精たちはピザにかじりついていた。

 これが噂の、房総ダンジョンの内部まで届けてくれる宅配ピザである。

 

「でも先輩、その琵琶湖ダンジョンの大冒険から戻ってきたら、なんでいきなりピザなんですか? 琵琶湖で何があったんです?」

 

 桃子からのお願いは、柚花は悩む素振りもなく即了承してくれた。

 房総ダンジョンピザ。これは、事前に時間と座標を伝えて予約しておけばその時間・その場所にピザが届くという、有名ピザチェーン店のサービスである。無論、房総ダンジョン前の店舗でしかこんなサービスは行っていない。

 こんなものを頼む人が本当にいるのかと桃子は思ったが、どうやら土日などは日に何組かはピザの予約があるらしい。房総ダンジョンにみんな何しに来ているんだろうと、桃子は疑問に思った。

 

「後輩。実はな。琵琶湖ダンジョンの第四層には。ピザ屋があるんだ」

 

「ピザ屋?」

 

 ヘノの説明に、柚花は首を傾げる。

 

「うぅ……あの、第五層へ向かう際の目印で……イタリアのピザ屋さんの大聖堂が……ええと、なんでしたっけ?」

 

「ピザ屋の大聖堂?」

 

 ニムの説明に、柚花は首を傾げる。

 

「違う違うよ、ピサの斜塔だよ、ヘノちゃんニムちゃん。ピザ屋さんじゃなくて、イタリアにあるのはピサの斜塔ね?」

 

 桃子の説明にも、柚花は首を傾げた。

 

「ピザ屋は。イタリアのものでは。なかったのか」

 

「いや、ピザ屋さんがイタリアのものなのも間違いじゃないんだけどね。あのね、今はピサの斜塔なの」

 

「うぅ……ピサの斜塔屋さん……でしたっけ……」

 

 柚花が首を傾げ続けている間に、今度は漫才が始まった。

 

「ちょっと三人とも、ここで漫才始めないでくださいよ。ピザ屋でもピサの斜塔でもわけはわかりませんからね? なんで琵琶湖ダンジョンでイタリアの話になるんですか。約束なんですから、ちゃんと最初からお話聞かせてくださいよ」

 

「うーん、説明するのって難しいなあ」

 

 確かに、ピサの斜塔と言われてもわからないかもしれない。

 はてさて、どこから説明するべきかと、桃子は頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

「へぇー、あの朗読配信の女の子が、魔女だったんですね」

 

 今日は時間はいくらでもあるので、芝生の上にレジャーシートを敷いて、紙コップには午後に飲む市販の紅茶を注いで、ちょっとしたピザパーティだ。

 柚花がピザを大量に頼んでくれたので、ヘノとニムのものを差し引いてもまだ余裕がある。女王ティタニアのお土産にも出来そうだ。

 

「なんだ。後輩はりりたんのこと。知ってたのか?」

 

「はい。有名……ってわけじゃないですけど、知る人ぞ知る謎の美少女配信者、ですね。私、美少女のチェックは欠かしてませんからね!」

 

「柚花、それは胸を張って言うことなの?」

 

 自分のことを好きだとか言いながら、他の美少女をチェックを欠かさないとは実に失礼な話だなと、桃子はちょっとだけ唇を尖らせた。

 やはり桃子も乙女の端くれ。他の美少女とやらと比べられると少しだけ、モヤモヤすることもある。まあ相手があのりりたんでは、対抗しようという気もなくなるが。

 

「まあ、りりたんのことは置いていきましょう。でもさっそく、噂として広がってますよね、琵琶湖ダンジョンの魔女と人魚姫のお話」

 

「えっ、もう噂になってるんだ? じゃあ、イリアさんが広めてくれてるのかなあ」

 

「そうみたいですね。今回の件で生還したイリアさんが、かなり頑張ってるみたいですよ。普通にWebで文章化してますし、私も読みましたよ。ほら、SNSにも」

 

 所有スキルの影響でまともに機能しない桃子の端末と違い、柚花の端末は自分のスマホと連携がとれており、ダンジョン端末で普通にSNSを活用していた。

 どれどれ、と横から柚花の端末を覗くと、なるほど確かに人魚姫のことの顛末がある程度簡潔に書かれている。

 

 曰く。人魚姫は人間離れした怪力の持ち主で、たまに力ずくで人間を脅迫する不器用なところがあるが、心優しい存在である。

 曰く。深潭宮の主は魔物ではなく、人間を襲わない優しいクジラである。

 曰く。ダンジョンを荒らす人間への絶望と悲しみにより、人魚姫が深潭宮への扉を破壊してしまった。

 

「……うーん、なんか一部、私が知ってる話とも違ってる気がするんだけど」

 

 真実と違っているのはまだわかるのだが、しかし妖精りりたんと即興劇で作り出した設定ともまた違う。

 特に、怪力で人間を脅迫するとはいったいどういうことか?

 噂に尾ひれはつきものだとはドワーフや萌々子ちゃんの件で重々承知しているが、尾ひれがつくのが早すぎるんじゃない? と、桃子は訝しんだ。

 

「うぅ……でも、イリアさん、頑張ってお話を広げてくれたんですねぇ」

 

「私が色々見て回ったところですと、イリアさんのお話に出てくる献身的で優しい人魚姫と、力ずくで脅迫してきたり、ダンジョンを崩壊させたりっていうヤバい人魚姫のギャップが強すぎて、ネット上では人魚姫像のイメージが纏まり切らずに色々混乱してますね……」

 

「献身的で優しかったのはむしろニムちゃんだったからね。力ずくで脅迫とかいうのは私も全然覚えがないから、よくわからないけど」

 

「は、恥ずかしいです……うぅ……」

 

「もしかして。力ずくでダンジョン壊したところを。誰かに見られてたのかもな」

 

「やっぱり、先輩がダンジョン崩壊させたのは本当なんですね……」

 

 柚花がジト目で桃子を見つめる。

 

 柚花は今日までの付き合いで、外ではきちんと思慮深い先輩である桃子が、ダンジョン内だとはっちゃけてしまうタイプだということは薄々勘付いていた。とはいえ、流石にそれでもダンジョンを崩壊させるほどのはっちゃけ具合だとは思いもしなかったが。

 目の前で目を泳がせている小さく可愛い先輩を観察しながら、好意に揺るぎはないものの、その人物像に対する認識はきちんと修正しておかないといけないなと、柚花は考えるのだった。

 

 

「あのね、柚花。一応本当に、言い訳させてほしいんだけどね。あれはダンジョンを壊すつもりなんかなくて、魔石が暴走した結果なの。私を破壊神みたいな目で見ないでほしいなあ……って」

 

「むぐむぐ……鵺の魔石が。あんな形で暴走するとは。思わなかったからな。壁が崩れたときは。驚いたぞ」

 

「うぅ……本当に……み、みんなぺちゃんこに潰れるかと思いました……」

 

 上目づかいで言い訳をしてくる先輩と、またピザを食べ始める風の妖精と、半泣きの水の妖精を順番に見てから、柚花は小さく息をついて。

 

「本当に……潰れなくてよかったですよ、お三方とも。二度とそんな無茶しないでくださいね? 私だって、桃子先輩も、ヘノ先輩も、ニムちゃんも、何かあったら嫌ですからね!」

 

 お叱り……というよりも、もはや懇願のような言葉。

 後輩にそこまで心配させてしまったことを、改めて桃子も反省して、柚花を心配させまいと笑いかける。

 

「うん、二度と無茶はしないね。柚花が悲しむことは、私も嫌だからね」

 

「……ハンマー持ってはっちゃけたかと思ったら、いきなり優しいお姉さんになるし。先輩って、罪作りですよね、ほんと」

 

「ん? なんて?」

 

「なんでもないですっ! ピザ食べましょ、ピザ! まだたくさんありますよっ!」

 

 桃子の微笑みを間近で向けられ、耳をちょっとだけ赤くしてピザに噛り付く柚花だった。

 

 

 

 

「ところで先輩、全く話は変わるんですけど、今度ミュゲットの文化祭ってもちろん来てくれますよね?」

 

 ある程度お腹が膨れて、桃子と柚花はダンジョンとは無関係な雑談に花を咲かせる。

 やれ、最近流行りのスイーツが美味しいだの、素材の買取ショップが都内で新規オープンしただの。ヘノとニムは、そんな人間界の話を興味深そうに聞いている。

 それに続いて、柚花が話題に出したのは『文化祭』である。

 

「あ、うん。うちにも招待状が届いてたよ。そうだねえ、先生とか後輩の子たちにも会いたいし、久しぶりに学校に顔出してみようかな」

 

「桃子。ぶんかさい。っていうのは。桃子の通ってた学校で。やるものなのか?」

 

「うん、そうだよ。その日は生徒たちが色々と出し物をしたり、劇とか、あとちっちゃいけどちょっとした出店とか、カフェみたいなのもやるんだよ」

 

 先日のスーパーを皮切りに、ヘノは地上のことに興味を持ち始めている。桃子がふいに口にした言葉に対して、それはなんだ、食べ物か、と聞いてくることが増えた。

 そして今回も、会話に出てきた『文化祭』に興味をひかれたようである。

 

「桃子先輩はお料理研究部だったんですよね。今年はカレー屋さんやるみたいですよ?」

 

「わ、それは行きたいな。もしかしたら、私が残したレシピ使ってくれてるのかな。桃カレーっていうんだけど」

 

 興味深そうに聞いていただけのヘノだが、とある単語がヘノのやる気スイッチを切り替えた。

 すなわち『桃カレー』である。

 

「桃子。桃子。決めたぞ。その日はヘノも。ぶんかさいを見に行くぞ」

 

 すくっと立ち上がり、唐突にヘノが宣言した。

 桃子も柚花もそれには目を丸くし、固まったチーズを口に含んでうまうましていたニムも、ぽろりとチーズを口から落とす。

 

「ええっ?!」

 

「うぅ……ヘノ、流石に、人間が多い地上は……危険だと思いますよぅ……」

 

「大丈夫だぞ。スーパーにも。行ったからな。桃子のカレーなら。ヘノが食べないと駄目だろ」

 

 中指サイズになった中指姫の意思は強い。

 文化祭への同行はすでに決まったのだと、桃子の肩に移動して強気で宣言する。

 

「せ、先輩、大丈夫なんですか? ヘノ先輩はこう言ってますけど……」

 

「ど、どうしようか……?」

 

 ヘノの言葉に、人が集まる文化祭というものを知る人間二人は、どうしたものかと顔を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オウカお嬢様の本日のお食事チャンネル】

 

 

 うふふ、ごきげんよう、初めまして、皆さま。

 

 わたくし、本日より、所属パーティでの活動とはまた別に、個人で配信活動を始めてみましたの。オウカと申しますわ。

 桜に華やかで桜華、なのですが、ここは他の配信者の方々に倣ってカタカナ表記でやっていきますわね。

 このチャンネルでは皆様に、ダンジョン内ならではのお食事をご紹介する配信を予定しております。

 

 はい? あら、そうですね。

 わたくしとしたことが、自己紹介を忘れておりましたわ。

 

 探索者としての名はオウカ。年齢は秘密ですのよ? スリーサイズは……自分で言うのは恥ずかしいのですが、悪くはないと思いますの。

 所属パーティは……まあ、現在は遠野にホームを構えているパーティですわ。

 え? どこかで見たことがある? キャラが違う? し、失礼ですね。気のせいではありませんこと?

 年齢? ですから、それは秘密だと……まあ、そうですね。まだツヤツヤの10代の乙女とお答えしておきます。うふふふ。

 

 さて、本日はさっそくこちら。

 ちゃんと画面には映っておりますかしら? 遠野ダンジョン二層、大竹林より掘りたての筍、ですの。

 

 こちらはまだ獲れたてのダンジョン産ですからアクも殆どなく、生でも食べられるのだそうですよ?

 でも、本日はこちらを持ち込みましたオリーブオイルでアヒージョにし頂こうかと思います。

 皆さまはご存じかしら。ダンジョン産の食べ物は地上のものとは違って、魔力が保たれたままの、ダンジョン内で食べる時が一番美味しく頂けますのよ。

 では、さっそく調理ですわ。

 

 スタッフさん? 調理スタッフの鎧さん? 出番ですわよ?

 

 ・

 

 ・

 

 え? 鎧の調理スタッフに見覚え? 気のせいではないかしら。よくいる服装ですものね。

 

 では、実食ですわね。

 第二層の筍と、こちらが用意したものはオリーブオイルに、ニンニクに塩胡椒。たったこれだけですのに、素晴らしく食欲を誘う芳醇な香りが周囲に漂っておりますわ。

 現在は第一層の入り口すぐですから安全ですが、ダンジョン内でこのような香りを広げてしまえば、探索者の皆様も、魔物さんたちも、みなお腹を空かせてしまいますわね。うふふ。

 

 では僭越ながら、さっそく、いただきますわね。

 

 はむっ。

 

 んーッ!!! これは!! 美味ですの! 食感が最強に美味しくて、香りが最高に美味しくて、味が究極に美味しいですわっ!

 

 これはもう、こちらが必要ですわね!! 早く! 口から消える前に早く!!

 

 んぐっんぐっ!! おぎゃあ! お酒うんまあぁい! サカモトお酒お代わりぃ!!

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