ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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うどん閉会式

『香川ダンジョンうどん大会フェス祭り、終了でぇええっす!! ご来客の皆さまは、投票をお願いいたしまーす!!』

 

 武舞台に作られた櫓の上で、大会のMCの男性が魔石動力のスピーカーを手にし、大きく声を張り上げている。

 一昨年の大会ではポンコの父親クヌギに眠らされて成り代わられていたMCは、今年はきちんと本物が司会を進行しているようだ。

 昼前から開催されていたこの年末の大会も、このアナウンスで終了だ。未投票の来客は最後に票を入れていき、うどん職人たちはその間に撤収作業に入る。

 

「ずるずる。えへへ、ポンコちゃんのおうどんは、どんどんレベルアップしていくねー。ずるずる」

 

「去年は。全然駄目だったのに。随分と。成長したんだな」

 

 そして、客のはけたポンコのテント内では、ポンコにとってこの日最後の客がカレーうどんを食べているところだった。

 つい先ほどまでは大勢のうどんファンがひっきりなしに出入りしていた食事テーブルでは、今はポンコと向かい合う形で桃子が妖精たちとともにカレーうどんを味わっている。その横では柚花が、美味しそうにうどんを食べている桃子のことを眺めていた。

 奥ではすでに化け狸の兄貴分たちが撤収作業を始めているが、この日一番頑張ったポンコは現在休憩中だ。

 

「キューン……桃子師匠たちに褒められると、なんだか気恥ずかしいっすねえ」

 

「じゃあ。褒めるのはやめておくか。全然駄目だな」

 

「うわーっ! 嘘っす、嘘っす! ポンのおうどん、もっともっと褒めてほしいっす!」

 

「あはは、美味しいよ、大丈夫だよ、ポンコちゃん」

 

 思えば、昨年の冬に桃子が初めて出会った日のポンコは、料理というものを全くと言っていいほどよくわかっていなかったのだ。

 あの日桃子たちに提供されたのは、鍋に丸ごと入れた沼地の魚をひたすら煮込んで、素人が見よう見まねで作っただけの乱雑なうどんの麺を合わせただけの、率直に言ってしまえばとてもではないが美味しくはない『生臭い何か』だったのだ。

 それが今では、大勢の来客を笑顔にするカレーうどんを提供しているのだから、桃子も一人目の『師匠』として感慨深いものがある。

 

「美味しいよ、ポンコちゃん。もうカレーうどんに関しては私より断然料理上手だよ」

 

「そうですね。先輩のカレーは美味しいですけど、カレーうどんに限定するならポンコさんのうどんはかなりのものですよ」

 

「でへへへ、嬉しいっす! 頑張ってきた甲斐があったっす!」

 

 桃子はポンコが出してくれたカレーうどんのスープも全て飲み干した。

 ポンコが試行錯誤を繰り返した、化け狸の沼でとれた魚の旨味とワイルドな泥臭さ、それにハクロウダケの風味が合わさり、最後の一滴までがとても美味しいものだった。

 見れば、卓上のヘノとニムも、それぞれに出されていた小皿の中身を全て飲み干している。

 

 けれど、当のポンコは褒められて喜びながらも、どこか。

 残念そうな、悔しそうな。そのような感情を、隠しきれてはいなかった。

 

「……けど、まだ上には上がいるっすね。うどんのことを知れば知るほど、ポンが優勝するためには足りないものだらけなんだって、自分でわかるようになったっすよ」

 

「それがきっとさ、ポンコちゃんの成長の証なんだよ」

 

「きゅーん……」

 

 ポンコの呟きとともに、会場の前面に設けられた大きな檜舞台に動きがあった。

 どうやら、この日の大会の優勝者が決定したようだ。

 

 

 

 

 

 ――結論から言えば、ポンコは入賞すらできなかった。それだけ、上位の壁は厚かった。

 

「えと……残念だったね、ポンコちゃん」

 

「んー、そうっすね。力が及ばないってことはわかってたっすけど、本音を言えば、なにかしら受賞くらいはしたかったっすね」

 

「ポンコさんなら半年後にはいけるんじゃないですか? たった一年でここまで上達したんですから」

 

「えへへ、もちろんっすよ! ポン、諦めないでまだまだ上達していくつもりっすからね!」

 

 ポンコは、前向きに結果を受け入れていた。

 もちろんポンコにも悔しさはあるはずだ。けれど、ポンコの目は、前向きに輝いていた。

 檜舞台には、今回の大会の優勝者と準優勝者が並んでいる。それは、うどん職人見習いのポンコにとっては憧れであり、そしてポンコという少女にとっては優しい兄と姉でもある二人だ。

 優勝は、赤い調理服に身を包んだ炎のうどん職人、炎城寺マグマ。準優勝は緑の調理服に身を包んだ風のうどん職人、風祭えあろ。

 ポンコの師匠でもあるこの二名が、この冬のうどん大会フェス祭りの覇者となった。

 

 

 

『俺は今回っ! 優勝したら伝えようと決めていたことがある! ……個人的なことで済まないが、この場で伝えさせてほしいっ!!』

 

 檜舞台では、魔石動力の拡声器を受け取ったマグマが、相変わらずの熱い雄叫びをあげていた。

 優勝者コメントとして自分の個人的な用件を叫ぶというのは、なかなかの心臓の強さである。だが、マグマが無駄に熱く、そしてそのハートが無闇に強いことはこの場の誰しもが知っていることなので、その時までは、誰もが「いつものマグマだな」と考えていた。

 

 しかし、この後の展開は。

 誰も想像していない、驚くべきものとなる。

 

『えあろ!!』

 

 炎城寺マグマは観客側ではなく、すぐ横に立つ人物に向き直り。大きな声で、その名を呼ぶ。

 その相手はもちろん、準優勝者として壇上に並んでいるうどん四天王の紅一点、風祭えあろだ。

 マグマが、たった三文字の名を呼ぶ。えあろの瞳を見つめている。

 その声はどこか、一世一代の勝負に挑むような、そんな声だった。マグマが、魂を込めて、言葉を紡いでいた。

 

 いま、この第二層に未だ残っている者たちは。観客も、職人たちも、運営スタッフも、化け狸たちも。

 とある予感を胸に――続くマグマの言葉を、固唾を呑んで見守っていた。

 

『えあろ! これから先の人生は! 俺と――俺と一緒に、うどんを作ってくれっ!!』

 

 言った。

 

 マグマは、ずっと言えなかった言葉を言った。

 それは随分とひねくれた言い回しだけれど、間違いなく。うどん職人である炎城寺マグマから、風祭えあろへの。

 長年、言葉に出来なかった、不器用だけれど、大切な想いの込められた――愛の告白だった。

 

 しかし。

 

 現実は、非情である。

 

 檜舞台の上で。スタッフから拡声器を手渡された風祭えあろは、マグマに負けじと大きな声を返す。

 それは、見ているものたち全員が唖然とするような、堂々としたものだった。

 

『さては、共同店舗のお誘いね! 面白いじゃない、そのコラボうどん店のお誘い、乗ったわ!』

 

 風祭えあろの返答は。

 会場の空気を氷点下にするのに、十分な威力を秘めていた。

 

 

 

「……うわあ」

 

 桃子は、炎城寺マグマが風祭えあろに向けている恋愛感情を知っている。

 なので、マグマによる一世一代の愛の告白劇を見て、無関係な第三者ながら顔を真っ赤にし、心はうっきうきになっていたのだが、えあろの「全くわかっていない返答」を聞いて、言葉を失ってしまった。

 恋愛には疎い側である桃子ですらこれなのだから、会場はちょっとした極寒地獄のような空気になっていた。この場には大勢の人がいるにもかかわらず、シンと静まりかえっている。

 

「あの……会場の空気が一瞬でお通夜みたいになってるんですけど、どうするんですかこれ」

 

「マグマ師匠、あれはどうしようもないっすね。膝から崩れ落ちちゃったっすよ」

 

「うわあ……MCの人、がんばれっ! がんばれっ!」

 

 ポンコのテントの中では、桃子も柚花も、そしてマグマ達の弟子であるポンコまでもが呆れたように檜舞台の上で繰り広げられたコント染みた告白劇を眺めていた。

 マグマは崩れ落ち、えあろは不思議そうに首を傾げている。頼みの綱は、舞台上で二人の前にいるMCだけである。

 

「よくわからないけど。あいつらのうどんが合わさるわけか。うまそうだな」

 

「お、美味しいうどんが食べられるなら、嬉しいですねぇ」

 

「ヘノちゃんたちはなんていうか、安心だよね」

 

 何も知らず、純粋に炎と風の融合したうどんを楽しみにしているのは、おそらくこの会場内でも風祭えあろ本人とヘノとニムだけだろう。

 桃子はいつもと変わらぬ妖精たちの言葉に、心が洗われるような気がした。

 

 なお、この後どうにか立ち直ったMCが強引に話を切り上げて、優勝者コメントなどなかったかのように閉会式を進めていった。

 桃子は「プロってすごいな」と、心の底から感心するのだった。

 

 

 

『さ、さあ! 盛り上がっていきましょう!』

 

 MCの言葉に、会場内のそこかしこから拍手が湧きあがり、どうにか闘技場の空気に温度が戻り始める。

 何一つ盛り上がれる要素のない凍り付いた空気を払拭しようと、MCと観客の心が一つになった瞬間だ。

 

『でははい! 続いては、優勝賞品の授与です。世界魔法協会日本支部所属、鳳桜華様から賞品が贈呈されます』

 

『……こほん、とんでもない空気で呼ばれましたが、ただいまご紹介に与りました鳳桜華ですわ。深援隊のオウカと名乗ったほうが、通りは良いかもしれませんわね』

 

『こちらの鳳桜華様は、奇しくも、優勝者の炎城寺マグマさん、準優勝者の風祭えあろさんとともに、北海道『摩周ダンジョンの奇跡』を共に戦い抜いたご友人です!』

 

 そして、続いて壇上にはオウカの姿があった。会場からは、やけっぱちのような拍手が湧き、壇上のオウカを迎え入れている。

 実は先ほどまで桃子たちとともにうどんを食べていたオウカだけれど、彼女も別にうどんを食べるために香川まではるばるやってきたわけではないのだ。MCが紹介したように、オウカは今回の賞品授与役としてのゲストである。

 今回の優勝賞品は、治癒の魔法が付与された魔法道具である。それは決して素人が乱雑に扱っていいものではないため、優勝者には治癒の使い手がレクチャーする必要があるのだという。その役割を、えあろの友人であるオウカが買って出た、というわけだ。

 もっとも、優勝者のマグマがその繊細な道具を上手く扱いきれるかどうかという問題は別にあるのだが、それはそれ、これはこれだろう。

 

「オウカさんって、お酒さえ飲んでなければ立派な大人の人って感じなんだよね」

 

「基本的にいつもお酒飲んでますから、いつもは立派な大人の人じゃないってことになりますね」

 

 壇上では、オウカが祝辞を述べている。

 さすがは良家のお嬢様である。普段のお酒を飲んでいるときとは違い、凛とした佇まいのオウカは、非の打ち所のない立派な『上に立つもの』のオーラを放っていた。

 だが桃子は知っている。オウカは先ほど、閉会式を待たずにクルラとお酒を飲んでいた。やっぱり駄目な大人かもしれない。

 

「ええと、まあ、とりあえずはオウカさんのお話を……って、あれ? 柚花?」

 

「……は? あの人、嘘でしょ!? 壇上で?!」

 

「なんすかあれ。なんすかあれ」

 

 桃子が気を取り直して壇上のオウカに視線を向けると、オウカが無言になり、ぼんやりと遠くを見ているようだった。

 そしてそれとほぼ同時に、柚花が慌てた様子でガバリと立ち上がる。柚花のオッドアイは、魔力の光をたたえている。

 次に、ポンコもまた、目を丸くしてオウカの姿を見つめている。

 

 会場でオウカの言葉を聞いていた観客や職人たちもまた、この不自然な『間』に違和感を覚え始め、MCが横から声をかけようかと動いたとき。

 それは、始まった。

 

『――雪を冠するものよ』

 

 オウカが、唐突に何かを語り出した。

 いや、桃子は知っている。これを語っているのは、オウカではない。

 

「これ……【天啓】なの?!」

 

 桃子が驚いて呟くと、柚花が無言で頷いた。

 ヘノとニムも、桃子と柚花の肩に乗り、興味深げに壇上に視線を向けている。

 

『――氷に埋もれしイニシエの鏡は

 いまなお、黄金色のイネの光を求めている』

 

 会場はいま、誰も言葉を発さない。

 オウカの言葉だけが、皆の耳へと入り込む。

 そして【天啓】は、最後の一説を語る。

 

『――キオクの巡礼に伴うは、風と緑葉のみにせよ』

 

 会場には、沈黙が戻る。

 壇上ではえあろがオウカに駆け寄り、意識が朦朧としている彼女を支えている姿が見えた。

 MCはもう、どうしたらいいのかわからず、半泣きだった。

 

 

 結局。

 閉会式はMCが頑張った甲斐があり、色々有耶無耶にして、どうにか終了した。

 あとは撤収作業だけである。

 

 ――が。

 

「桃子師匠、どうするんすか?」

 

「そうですよ先輩。いまのって先輩への【天啓】じゃないですか?」

 

「うぅ……も、桃子さんのことなんですかねぇ」

 

「うーん、そうかな? うーん、そうかも?」

 

 ポンコと、柚花と、ニムと、そして桃子が。テント内の一カ所に視線を向ける。

 そこにいるのは『風』を司る存在だ。

 

「なんだ。ヘノのこと見ても。何もでないぞ」

 

 キオクの巡礼に伴うは、風と緑葉のみにせよ。

 キオクの巡礼はわからない。けれど、桃子たちには、旅に伴うことのできる『風』と『緑葉』に心当たりがあった。風の妖精と、緑葉の妖精。妖精の国には、そのものズバリな妖精たちがいる。

 

「とりあえず先輩。また厄介ごとに巻き込まれそうですね」

 

「念のため、リフィちゃんにも伝えておかないとだね……」

 

 こうして、なんだかスッキリしない謎やもやもやでいっぱいなまま。

 冬の『うどん大会フェス祭り』は、無事に終了を迎えたのだった。

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