ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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深援隊配信

 桃の窪地に建てられているウワバミ様の社にて、クヌギが小さいカップに御神酒を注ぐ姿を眺める。

 

「お婆ちゃんも、クルラちゃんと一緒にこのお社にお酒を供えてたのかな」

 

「それで。その場でクルラが飲むわけか。なんだか面白いことしてるんだな」

 

 ここで休憩しているかと思われたクルラの姿は見当たらず、不在のようだった。

 そのためクヌギは家主不在の社の屋根の下に御神酒を供えて、軽く手を合わせる。まさか彼がクルラに信仰心を持っているわけではないだろうが、手を合わせるのは礼儀の問題なのだろう。

 桃子もクヌギに倣って軽く手を合わせる。祈る相手は普段から顔を合わせているクルラなので、なんだか変な感じだった。とりあえず、心の中のクルラに向けて、先日の桃のお礼でも伝えておく。

 顔を上げて。供えられたばかりのお酒を求めてクルラがすぐにでも飛んでくるのではないかと思い周囲を見回してみるが、しかし桃子の予想に反してクルラはやってこない。

 

「お酒を出しても飛んで来ないなら、クルラちゃん今は桃の窪地にはいないみたいだね」

 

「あいつも。色んなところ。ふらふらしてるからな」

 

 桃子とヘノがクルラを探している間に、クヌギは懐から小さな刷毛を出し、お社の中に入り込んだ砂や枯れ葉を掃いていく。

 きっとこれは、風間のお婆ちゃんが日頃からやっていたことなのだろうなと、桃子はクヌギの様子を見てからようやく理解する。

 

「そっか、お婆ちゃんが自由に出入りできなくなっちゃったから、クヌギさんが全部やってくれてるんですね」

 

「ご名答です」

 

 今のこの窪地は、ギルドの門によって区切られている。いくら風間のお婆ちゃんが探索者カードを所持しているとはいえ、以前のように気軽に出入りは出来なくなってしまったのだ。

 考えてみれば当たり前のことである。探索者カードというのはお酒をお供えしたり、キャベツを育てたりするために提出するものではないのだから。

 一年前には畑があった場所にはもう何も残っていない。ダンジョン区画内で一般市民が野菜を育てるというのは、さすがに許可が下りなかったようだ。

 桃子は感慨深げに畑の跡地を眺めると、その後は自らクヌギを手伝って社の屋根から雪と枯れ葉を落としていく。

 

「ただ、自由に出入りは出来ないとは言いましても、彼女も一応は探索者ですからね。すでに何回かは門をくぐり、深援隊と一緒にダンジョンに入っていますよ」

 

「ええ?! お婆ちゃん、本当にダンジョンに入ってるんですか?! あはは、すごいなあ……」

 

「あの年寄り。ずいぶんと元気だな」

 

 風間のお婆ちゃんは少なくともすでに八十を超えていたはずだ。

 昨年出会った頃も、年齢の割にはずいぶんと元気だなとは思っていたけれど、どうやら桃子の想像以上に彼女はパワフルなお年寄りだったようだ。

 桃子は驚きつつも、頭の中では元気にダンジョンを探索しているお婆ちゃんの様子を想像し、つい、笑みを零してしまうのだった。

 

 

 

 

 

「そういえば。もし潜行している探索隊の情報が知りたければ、リアルタイム配信で確認できますよ」

 

 それは、軽くお社の周囲を掃除しているときのことだった。

 周囲の小枝などを拾い集めながら桃子とヘノがカレーの食材について話していると、クヌギがぽんと手をうち、深援隊の配信を共に見ることを提案してきた。

 

「え、配信してるんですか?」

 

「あくまで今回は、深援隊の関係者のみが視聴できる配信ですけれどね」

 

 桃子もいまはクヌギの手伝いを買って出ているが、元々は深援隊の探索についていこうと考えてここまでやってきたのだ。配信画面とはいえ、深援隊が探索する様子が見られるならば、少なからず興味は湧いてくる。

 桃子のわら帽子のなかで暇そうにしていたヘノも、クヌギの言葉をきいてひょっこりと顔を出す。

 

「私も一応端末を割り振られておりますので、管理小屋でうどんでも食べながら見てみますか? ポンコの作り置きがありますので」

 

「じゃあ、せっかくなのでお世話になっていいですか? ヘノちゃんはそれでもいい?」

 

「本当は甘いものがよかったけど。たぬきのうどんも美味いからな。ヘノもそれでいいぞ」

 

「はは。では、とりあえず室内に戻りましょう」

 

 ヘノは食べ物につられているような気もするが、意見としては賛成のようだ。

 方針が決まったのなら、善は急げだ。ヘノを懐に抱いたまま、桃子はクヌギに続いて管理小屋までの雪道を歩いていく。

 

 ざく、ざく。

 桃子の足跡が雪の上に残っていく。

 そこで――ふと。

 

「あれ?」

 

「どうした桃子。何かあったのか?」

 

「ううん、今……誰か、いなかった?」

 

「気づかなかったな。気のせいじゃないか?」

 

 ダンジョンへと続く洞穴のあたりから。桃子は誰かの気配を感じ取った。振り返った瞬間、そこから誰かが見つめていたような気がした。

 けれど、もちろんそこにはそんな『誰か』など存在しない。なにより、この場に他の第三者がいたのならば、感知に秀でたヘノや、化け狸であるクヌギが気付かないわけもない。

 

「うーん……まあ、ヘノちゃんがそういうなら、気のせいだよね」

 

 残念ながら、今は頭からわら帽子を被っているので視界が悪い。

 ただ、なんとなく。どことなく、寂しそうな。縋るような。そんな視線だったような気がする。

 管理小屋の扉を潜るまで、桃子はずっと。そんな、根拠のない感覚を振り払えずにいた。

 

 

 

 

 

 管理小屋に戻ると、クヌギは当たり前のようにリモコンで室内の照明をつけ、暖房器具を起動する。

 冷蔵庫から出した小鍋をIHコンロの上に置いて加熱し、続いて水を注いだ電気ケトルのスイッチを入れる。そして更に、ケトルが沸くまでの間に戸棚からヘノが好みそうな甘いお菓子まで探して準備してくれていた。至れり尽くせりだ。

 

「たぬき父。お前。ずいぶんと。機械の使い方が。うまいな」

 

「それに、なんか色々と手慣れてますね」

 

「ええ。一年も地上で過ごしていれば、機械類の使い方や来客の扱い方も学んできましたよ」

 

 この管理小屋は魔力のある土地でありながら、地上から電気も引いている。魔力と電気の両立という意味では筑波ダンジョンと同様の条件を満たす、非常に珍しい空間だ。

 そんな中でクヌギがてきぱきと準備をしている姿を、桃子とヘノは物珍しそうに眺めていた。

 今年建てられたばかりのこの管理小屋の設備は、その全てが最新のもので揃えられている。桃子はまだしも、ヘノからすれば、IHがなんなのかすらよくわかっていないはずだ。

 

「お二人とも、もう少しかかりますからこたつで待っていてください。うどんはカレーうどんでも構いませんか?」

 

「はい! ポンコちゃんのカレーうどんなら無限に食べられます!」

 

「ヘノも。たぬきのカレーうどん。好きだぞ」

 

 クヌギをずっと見ていても仕方がないので、彼の言葉どおり桃子とヘノはこたつに入って待つことしばらく。クヌギは温かいカレーうどんと、急須に入れられた緑茶。そして市販品のクッキー箱を運んできてくれた。

 全部やってもらった立場の桃子は恐縮しつつも、クヌギにお礼を述べるとさっそく割り箸を手にとる。カレーうどんは割り箸が妙に似合う。

 そして、いただきます、の挨拶とともに。ポンコのつくりおきカレーうどんに手を伸ばした。

 

 

 ずるずる。

 ずるずる。

 

 

 クヌギの所有する探索者用端末を卓上に立てて、配信動画を画面に映し出す。

 カレーうどんを食べる桃子のすぐ横に、画面を操作するためクヌギが座る。

 友人の父親の隣でうどんを食べつつ動画を見る。言葉にすると随分とへんてこなシチュエーションだが、クヌギが化け狸だからかさほど緊張もせずに、桃子はうどんに集中できた。

 

 そして、画面では。

 桃子が初めて見る蔵王ダンジョン下層の光景が映し出された。

 映像そのものは今回の深援隊メンバーの誰かしらが所持しているようで、正直言えば手ぶれが酷い。けれど、それが逆に緊迫感を醸し出している。

 場所は、周囲のきらきらの水晶が目立つ美しい洞窟だ。洞窟の先に注目すると、非常に目立つ金色の全身鎧がまず目を引き、あとは深援隊リーダーの風間、先日も顔を合わせたばかりのオウカと、ほか桃子が初めて見るメンバーが数人いるようだ。

 ダンジョンを歩く彼らの息が白くなっているので、第二層もかなり気温が低いに違いない。

 

『皆、魔力の運用は大丈夫か? 何か異変があったら絶対に無理をするんじゃないぞ』

 

『大丈夫です! 地獄の修行の甲斐あって、目眩がひどい程度で済んでます! 魔物と戦うことは問題ないです』

 

『ぼ、僕も吐き気だけです。魔法は問題ないです』

 

『ったく、お前らなあ』

 

 先頭を歩く風間が、ときおり背後を振り返ってメンバーの調子を確認する。

 後ろを歩くメンバーたちは目眩や吐き気を訴えているが、会話の雰囲気からしてあくまで冗談交じりなのだろう。サカモトが黄金の鎧をガシャガシャ鳴らしながら、肩をすくめている。

 顔見知りの幹部三人と、二人のメンバー。そこにカメラを所持しているメンバーをあわせて、計六人。それが今回の人員のようだ。

 

『まあ、魔物と戦えるならこのまま行きますかね。いざとなれば、オウカの姐さんがどうにかしてくれるってことで』

 

『ちょっと鎧さん。どうにかするのは構いませんが、あまりアテにされても困りますわよ? 治療費は高くつきますからね』

 

『治療費取るんすか、地元の銘酒で勘弁してください』

 

 楽しげな雑談を交わしながらも、一行は油断などしない。時折魔物が現れて、先頭で妙に目立っている黄金鎧へと突進していく。だが、サカモトの防御の硬さは折り紙付きだ。

 サカモトが壁になっている隙に、風間の黄金に輝くサーベル、見知らぬ隊員の振るう槍と、同じく見知らぬ探索者による火球の魔法によって、魔物たちは順調に煤へと還っていく。サカモトは完全に壁役に徹しており、オウカはあくまでいざと言うときのサポート要員のようだ。

 昨年のスタンピードで桃子や柚花を苦しめたあの巨獣までもが深援隊の前に現れるが、風間を中心にして冷静に陣を組むことで、魔獣たちは危なげなく討伐されていった。

 

「こいつら。やっぱり。強いな」

 

「うん。風間さんとサカモトさんだけじゃなくて、他の人たちもすごく強いね」

 

 武器や能力の相性があるとはいえ、昨年苦戦した巨獣がこうもあっさりと倒されていく様子を見ると、桃子は当時の自分の弱さを思い知ると同時に、深援隊が高ランクパーティと呼ばれる所以を再確認する。

 桃子は風間やサカモトといった幹部メンバーの実力は知っていたが、幹部以外のメンバーも皆が、選りすぐりの精鋭だった。

 

「ここの第二層は魔力濃度が非常に高く、全身に流れる魔力をうまく操作しないとすぐに魔力酔いになってしまうんです」

 

 配信を見ながら、クヌギが適時解説を入れてくれる。

 以前にも少しばかり聞いたことはあるけれど、どうやら蔵王ダンジョンは魔力操作の技術がものをいうのだそうだ。

 逆に、それを完璧にマスターできたのなら探索者として何倍も強くなれるという、まさに修行にうってつけの過酷な環境である。

 

「でも、そういうことなら私は気軽に入らない方が良さそうかなあ。私も魔力操作とか、よく分からないしね」

 

「桃子ならきっと。すぐに慣れるだろ。いろんな魔力をまとったり。ハンマーに移したり。器用に魔力操作できてると思うぞ」

 

「えへへ、そう? そうだとしたら嬉しいな」

 

 桃子が魔力を意識するのは工房で【加工】を使用するときと、戦闘中にハンマーに魔力を込めるときくらいだ。

 なので、つま先から頭のてっぺんまでというような、全身の魔力操作というのは意識したことがなかったのだが、ヘノが言うには桃子はかなり器用に魔力を操っているのだそうだ。

 実感はないが、桃子としても、そう言われると自信が湧いてくる。

 

「後輩の半分の半分の半分くらい。うまく操作できてると思うぞ」

 

「それってうまく操作できてるっていうの?」

 

 自信が湧いてきたのもつかの間、ヘノが出した追加情報のおかげで、あっさりと自信は揺らいでいく。

 果たして、柚花の半分の半分の半分というのは、一体どのくらいの実力になるのだろうか。魔力を目視できる柚花は魔力操作はトップクラスのはずなので、いまひとつ基準にし辛いのだ。

 でもきっと、それでも桃子は魔力操作が得意なのだ。なぜなら、ヘノがそう言ってくれたのだから。桃子は揺らぐ自信をどうにか押さえつけて、そのように。

 ポジティブに考えることにするのだった。

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