ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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文化祭

「あれが。桃子の通っていた。学校か」

 

「ヘノちゃん、絶対に顔は出さないで、見つからないように注意してね?」

 

「ちょっと疲れるけど。ちゃんと光も抑えるし。桃子のマフラーからは。出ないから。大丈夫だぞ」

 

 桃子が訪れているのは、聖ミュゲット女学園。桃子の母校であり、柚花の通う学校である。

 文化祭を見に行きたいというヘノの強い要望もあり、今日はヘノは桃子の薄緑色のマフラーに隠れるかたちで外の世界へと外出中なのだ。

 

 今日の桃子の服装は、いつものスカジャンにショートパンツという元気丸出しのダンジョンスタイルではなく、ふんわりしたワンピースにピンクのカーディガンという、年齢相応の服装である。荷物を入れているのもいつもの馬鹿でかいリュックではなく、ミニサイズのショルダーバッグだ。

 ちなみに、このバッグは桃子が自分で買ったわけではなく、和歌が譲ってくれた中古品だ。とはいえ、普通に買えばかなり上等なものではあるが。

 

「あ、せんぱーい、こっちですこっちです。今日は私がエスコートしますよ」

 

 そんな桃子とヘノを出迎えたのは、いつぞや房総ダンジョンギルド前で会った時と同じセーラー服姿の柚花である。

 ヘノを連れていくという話を聞いた柚花は、この日は桃子のサポートを自分から買って出てくれたのだ。

 

「ありがとう、柚花。でも柚花のクラスの出し物とかは大丈夫なの?」

 

「私は午前中にフルで出てたんで、そのぶん午後は自由時間をもぎ取ってきました! 桃子先輩は母校だからいいとしても、ヘノ先輩もいらしてることですしね。今はマフラーの中に?」

 

「後輩。ヘノは今日は。ずっと隠れてるから。呼ばれても顔は出せないぞ」

 

 柚花が桃子の隣に立つと、桃子のマフラーから聞きなれたヘノの声が聞こえる。

 きちんとマフラーの繊維越しに外の景色は見えているようで、人前で姿を現さないという約束もきちんとわかってくれているようだった。

 

「おっと、ごめんなさい。でももし何か困ったことがあったら、私なら大丈夫ですから頼ってくださいね?」

 

「わかったぞ。後輩。頼りにさせてもらうぞ」

 

 桃子のマフラーに話しかける柚花と、マフラーから聞こえる少女の声。

 傍から見れば、桃子が腹話術でもしているように見えたかもしれない。

 

 そんな風な挨拶を済ましてから、そうだ、と柚花は懐から一つの袋を取り出す。

 桃子が袋を覗くと、それは100円ショップなどでも売っているような光るブレスレットだった。

 チューブの中に、混ざると発光する二種の溶液が入っており、ギュッと曲げることでその溶液が発光するという、いわゆるサイリウムやケミカルライトと呼ばれるグッズである。

 柚花がそれをパキっと曲げると、そのチューブは薄緑色に発光しだす。

 

「先輩、これをどうぞ。輪っかにして、マフラーにでもつけておきましょうね」

 

 桃子の緑色のマフラーに巻き付けるように、薄緑に光るチューブを装着する。

 

「あ、いいねこれ。ヘノちゃんが緑色に光ってても、このブレスレットである程度誤魔化せそう。よく思いついたね柚花」

 

「えへへ、もっと褒めてください。これ、うちのクラスで配ってる景品なんですよね。あとで立ち寄ってくださいね」

 

「人間は。不思議な魔法を。使うんだな」

 

 楽しそうに話している桃子と柚花をよそに、ヘノは自分と同じような光を発する謎のチューブを、マフラーの中からまじまじと観察していた。

 

 

 

「柚花先輩! 柚花先輩の妹さんですか? カワイイですね……!」

 

 校門に設置された大きな門のオブジェを潜ると、受付のテーブルが並んでいた。

 この学園の文化祭は無関係な部外者は入れず、基本的には関係者や招待客のみが入場できるようになっている。

 そして桃子もさっそく、郵送されてきた入場チケットを持って受付に向かったのだが、受付に座っていた在校生の少女に最初に言われた台詞がそれである。

 どうやら柚花のことは知っていても、昨年の卒業生である桃子のことまでは知らないようだ。柚花と連れ添っていたのを見て、柚花の妹と判断されてしまったようだ。

 

「あはは、ええと……その、私ね、卒業生なんだけど」

 

「えっ?! あっ、しし、失礼しましたっ! 先輩だとは……も、申し訳ありませんっ」

 

 卒業生へと送られてきたチケットと身分証を見せると、受付に立つ少女は目を白黒させて、慌てて頭を下げる。

 なお、苦笑いする桃子の後ろで、柚花は何故だか嬉しそうな顔をしているが、果たして何を思っていたのかは本人のみぞ知る。

 

「ううん、いいのいいの。受付お疲れ様、頑張ってね」

 

「はいっ」

 

 きちんと受付を済ませた桃子は、笑顔で在校生たちを応援する。

 やはり卒業生としては、頑張る後輩たちを見ていると嬉しくなるし、自分も元気が貰える気がしてくるのだった。

 

 さて、そんな受付を抜けて、校舎へと続く並木道。

 そこには既にいくつかの屋台や、部活動やクラスの出し物を紹介する生徒でにぎわっていた。

 そんな道のりでは――。

 

「も、桃子先輩……! あの、ようこそミュゲット祭へ!」

 

「柚花ちゃん、妹さん? カワイイねー」

 

「桃子先輩、お久しぶりです。今日は……え、橘さんとご一緒なんですか? い、いったいどういうご関係で?」

 

「た、橘さんが女の子と……はうっ……」

 

 どうやら現役ソロ探索者であり配信者でもある柚花はそれぞれがそれなりに学園でも有名であるらしく、何かと周囲の視線を集めていた。

 反応を見せた生徒たちのうち、桃子を柚花の妹かなにかと勘違いした生徒が大半ではあるが、桃子が昨年の卒業生だと気づく生徒も意外と少なくない。大体7:3くらいだろうか。なお、特殊な反応はカウントしていない。

 普段ダンジョンの中の姿しか知らない桃子と柚花が、周囲からどういう目で見られているのか。マフラーの中から覗いているヘノにとっては、非常に興味深い風景だった。

 

「なんだか。桃子も後輩も。ここだと。有名なんだな」

 

「桃子先輩は、まあ見た目からして目立ってましたしね。それでいて優しくて、お姉さんっぽくて、特に今の三年生にはそのギャップにやられちゃったファンが多いみたいですよ?」

 

「あはは、なんだか恥ずかしいね。私、特に何かしてたわけじゃないんだけどね」

 

 学年が離れていた柚花は、桃子の在学中に直接関わることこそなかったが、非常に小柄な上級生の姿は何度か見かけたこともあるし、実際に特徴的だった。

 今でこそ個人的に連絡をとったりダンジョンでピザを食べたりする関係だけれど、当時は二学年上の上級生など、ちょっとした別な世界の人たちという印象があったのも確かだ。

 まあ、当時はあくまで可愛らしく優しい先輩という噂は聞いても、ダンジョンではっちゃける人だなんて想像もしていなかったが。

 

「ちなみに私は、やっぱりソロ探索者で配信なんてやってますから、自分で言うのもなんですけど知られてる方だと思いますよ」

 

「桃子は。学校では。探索者していることは。話さなかったのか?」

 

 校舎へ向かう道を、少しだけ遠回りして花壇の前を歩く。

 文化祭とは言えさすがに道を外れれば他の人もいないため、ヘノと会話をしてもおかしくみられることはない。

 はたから見れば、卒業生と在校生が花壇を散歩しているだけに見えるだろう。

 

「さすがに学校では話さなかったかなー。柚花と違って、私の場合は目立った活動どころか、【隠遁】のお陰で目立たない活動しか出来なかったし、大っぴらに話せるスキルでもなかったしね」

 

「【隠遁】ももちろんそうなんですけど、先輩に憧れてる女の子に、ダンジョンでの姿なんてみせたら皆ショックうけちゃいますから、気を付けてくださいよ?」

 

「まあ、私に憧れてる子なんていたら、だけどねー。でも、学校では私はちゃんとした先輩してたつもりだし、私のダンジョンの姿を知ってるのは柚花だけ。ね?」

 

「う……まあ、私はいいですけど」

 

 桃子と話しているときの後輩の感情の動きは面白いなと思いながら、ヘノはじーっと、マフラーの中から二人のやりとりを眺めていた。

 

 

 

 

 

「あ、お料理研究部ですよ、カレー食べていくんですよね?」

 

 色々な生徒たちの出し物を見たり、発表を眺めたりしながら校舎を歩いていく。

 そして桃子たちの視線の先の部屋には、手作りの『お料理研究部のカレーレストラン』という看板が掛けられていた。

 

 これが、今日の一番の目的だ。

 桃子が所属していたお料理研究部は、例年のお約束として卒業した先輩の残したレシピの料理を文化祭で制作するという。そして今年の料理は、桃子が記した特製カレーのレシピを使用したものであるらしい。

 

「一緒に食べられないのは残念だけど。ちゃんと。持ち帰りも。頼むんだぞ。絶対だぞ」

 

「うん、ごめんねヘノちゃん。先に頂くね」

 

 廊下まで漂ってくるカレーの香りに、マフラーの中からヘノの恨めしそうな声が聞こえる。

 さすがにヘノが人前に出てカレーを食べるわけにはいかないため、今回は持ち帰りを頼んで帰ってから食べるということになったのだ。

 しかし、カレーの香りが漂う空間で、目の前で桃子がカレーを食べるのを見ているだけというのは、ヘノにとってはなかなか過酷なイベントであった。

 

「きゃー! 桃子先輩、お久しぶりですよーっ!!」

 

「わー、先輩来てくれたんですね! 先輩のレシピ、活用してます!!」

 

「う、うわー、本物だっ?!」

 

 お料理研究部に入ると、半年ぶりに顔をあわせる後輩たちが黄色い歓声を上げる。まるでちょっとした有名人になったみたいで、桃子は照れ笑いだ。

 

「先輩、大人気ですね……」

 

「あはは、ここの子たちはみんな一緒に料理してた仲だからね。まあとりあえず、柚花も食べてみてよ、お料理研究部特製『桃カレー』だよっ」

 

 桃子もまた、昨年までは三年連続でこの場所でレストランの手伝いをしてきた経験があるため、客ではあるものの慣れた様子で注文を終わらせて、柚花と共に座席へと向かう。

 学校で普段使っている机と椅子ではあるものの、きちんとテーブルクロスを張ってあり、卓上にはナプキンやカトラリーも並べられていて、レストランと言わないまでも、個人経営の喫茶店くらいの雰囲気はある。

 そしてしばらく待っていると運ばれてきたのは、スパイシーな香りのカレー。

 なのだが。

 

「え?! このカレー、でっかい桃がごろっごろ入ってますけど? ジャガイモに見えるの全部桃なんですか?!」

 

「うふふーっ、これが美味しいんだよ。まあ、騙されたと思って、ね?」

 

 桃カレー。

 桃子のカレーで桃カレーという名称なのかと思っていた柚花だったが、まさか本当に桃カレーだった。しかもそれが、小さい欠片とかいうレベルでなく、なかなかゴロゴロと入っている。

 さすがに学生の文化祭料理なので桃自体は缶詰のよくある白桃・黄桃のようだが、それぞれがきちんとサイズが違っており、味や食感に合わせて形状を変えてあることが窺えた。

 

 しかし、カレーに桃の缶詰。

 果たしてどういうものなのかと、柚花は恐る恐るスプーンにすくって口へと運ぶのだが。

 

「……うまっ! 美味しいですよこれ、桃と辛口カレーが逆に合ってる、すごい」

 

 意外な味わいに、柚花は目を丸くした。

 フルーティなカレーというのは、最近だとそれほど珍しいわけではない。りんごの入ったカレーなどは有名な部類だろう。

 しかし、この桃カレーはそれともまた違っていた。

 カレーに甘い付け合わせと言えば福神漬けが有名だが、まさにそれに近いのかもしれない。桃の心地よいプリっとした歯ごたえ、そして桃の甘さが、このスパイス強めのカレーに非常にマッチしているのだ。柚花は目を丸くしながらも、ついつい淑女にしては恥ずかしい勢いでお皿のカレーを食べつくしてしまう。

 食べてる間、気のせいか、桃子のマフラーから「じゅるり」というような音も聞こえた気がした。

 

「これはねえ、桃を入れただけじゃなくて、料理研究部のみんなが研究したスパイスの配合が……っと、さすがにこれは企業秘密だから内緒ね?」

 

「桃子。ちゃんと。容器に入れて。持ち帰るんだぞ。絶対だぞ」

 

「うんうん、大丈夫大丈夫。さっき伝えておいたからね」

 

 他の生徒に聞こえない様に小さな声で、マフラーの中から実に恨めしそうな声が聞こえる。

 自分だけが食べられない状況で、目の前の人間たちにカレーを食べられることが、ここまで過酷だとはヘノは想像もしていなかった。

 

 目の前で好物を食べられるという拷問。

 

 ヘノは今日、一つの拷問に耐えきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「おい! ルイ! なんだこの変なにおい!!」

 

「ククク……これは、この葉っぱを焼いているのさ……」

 

「なんだ! 枯れ葉に火をつけてるのか? 焚火っていうんだろ、知ってるぞ!」

 

「違うねぇ。桃子くんがくれた人間の毒……『タバコ』というものを……バラバラにして、調べていたのさぁ」

 

「タバコ! 知ってるぞ! 前におっさんの探索者が! 口にずっと咥えてたんだ!」

 

「面白いねぇ……乾燥させた葉を、細かくして、筒状にする。そして火をつけて吸うらしいよぉ」

 

「面倒くさいな! 葉っぱなんて、直接食べればいいのにな!」

 

「ククク……しかし、これは面白いアイデアだねぇ。今度、桃子くんに一つ、面白いものを作ってあげられるかもしれないよぉ」

 

「面白いのか! じゃあ私も手伝うぞ!」

 

「ククク……火つけ役にでも、なってもらおうかねえ」

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