ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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いびきと花畑

 ンゴゴ

 

 

「ヘノちゃん、リフィちゃん、あそこに雪ちゃんが!」

 

「あの雪ん子。なんだかちょっと。だんだん出方が雑になってきてないか」

 

 周囲の風景が次なる夢の世界へと切り替わり、その世界をしばらく眺めたところで、桃子たちは雪ん子の姿を発見した。

 雪ん子のわら帽子を被った幼い少女、風間雪。彼女はここまで幾つもの記憶の世界で、桃子たちにゆくべき道を指し示してくれた。

 例の如く、この世界にもやはり彼女の姿はあったわけだが――。

 

「言われてみると、最初はもっとミステリアスな感じの雪ん子だった気がするけど、なんだか緩くなってきたねえ」

 

「ここの花畑は気持ちいいから、ああなっちゃうのも仕方ないのヨ」

 

 次なる夢の世界は、広大な花畑を大勢の小妖精たちが飛び交う幻想的な風景――つまり、妖精の国だった。

 そして、桃子たちの視線を集めている雪ん子こと風間雪は、花畑で大の字になり健康的にお昼寝中だった。

 小妖精たちに囲まれるようにしてすやすや眠るもんぺにわら帽子の雪ん子は、幻想的というべきか、シュールというべきか、なかなか絶妙な風景である。ただ少なくとも、戦後にダンジョンで非業の死を迎えた少女の姿とは思えない。

 

 そして、そんな雪ん子の姿に複雑そうな顔をしているのは桃子たちだけではない。

 ともにこの世界へと足を踏み込んだ深援隊メンバーたちもまた、広大な花畑でひとり大の字になって眠る雪ん子の姿を発見している。

 深援隊の副隊長であるオウカを筆頭に、弓使いのハマノ、剣士の猫屋敷、魔法使いのもじゃもじゃが、桃子たちと同様に広大な花畑へと姿を現していた。

 

 ンガー

 

「副隊長。あれって……雪ん子の雪ちゃんですよね?」

 

「そうですわね。妖精の子供たちに囲まれて、実に気持ちよさげに眠っておりますわ」

 

「……まあ、今回は雪ん子は目的じゃないですし、そっとしておいてあげましょうか」

 

「それがよろしいですわ。叩き起こすべきは、別にいらっしゃいますものね」

 

 ンゴゴ

 

 深援隊メンバーの目からみても、花畑で大の字になって眠る少女は非常に気持ちよさそうだった。

 彼らもまた、雪ん子こと風間雪が過去の時代に亡くなったことを知っている。なにせ彼女の遺骨を見つけて保護したのは自分たちなのだから。

 だからこそ、彼女が花畑で気持ちよさげに眠っている姿には、複雑な思いがこみ上げる。

 とはいえ。いまの彼らの目的は、風間雪ではない。現実でいまだに眠り続けている残りの深援隊メンバーこそが、彼らの目的だ。

 

 そして、その夢の主が誰で、どこにいるのか。

 それは考えるまでもないことだった。

 

 ンゴー

 

「夢の世界とはいえ、すごいいびきですね……」

 

「本当に、よくもまあ妖精の皆様の怒りを買わず、無事に地上へ戻ってこられましたわね。あの鎧さんは」

 

 先ほどからこの花畑に響き渡っているのは『いびき』である。もちろん、ここまでいびきが響きわたるのは夢の世界ならではの現象であり、実際にはこんな遠方まで響きわたるものではない。さすがは夢の世界と言ったところか。

 だが、なんにせよ。このいびきこそが、この夢の主がどこで何をしているのかを教えてくれた。

 全身甲冑姿の鎧マン、名をサカモト。彼は昨年、半年のあいだ妖精の国で眠り続けていた。

 そして、彼こそがこのバケモノ染みた『いびき』の持ち主だった。

 

 そう、この場所は。

 サカモトが、妖精の国で半年間眠り続けていたときの『夢』なのだった。

 

 

 

 

「お話中に申し訳ありませんが、妖精のお二方。あの騒音の出所まで案内をお願いしてもよろしいかしら?」

 

 オウカたちは、花畑を飛び交う夢の世界の妖精たちではなく、自分たちをここまで案内してくれた二人の妖精へと歩み寄る。

 風の妖精と緑葉の妖精、彼女らは現実世界からやってきた妖精だ。この夢の舞台が妖精たちの花畑だというのならば、この二人に案内を頼むのは当然の判断だった。

 もちろんオウカはその場にもう一人、小さな成人女児がいることを把握しているのだが、他のメンバーの手前、桃子については触れないことにする。

 オウカに問われた妖精たちは、顔を合わせて数秒ほど目と目で相談してから、返答を返す。

 

「案内はいいけどヨ。夢の中と言っても、人間を入れちゃ駄目な場所なのヨ」

 

「あまり人間に来て欲しくないから。酒飲みだけ来てくれるか」

 

「わかりましたわ」

 

「そういえばこれってサカモトさんの夢だから、調理部屋はないんだよね。調理部屋があったらカレーを作れたのに、ちょっと残念だよね」

 

 サカモトが眠り続けている場所とは、女王ティタニアの玉座のある『女王の間』だ。これが現実ではない夢の世界であろうと、無関係な人間を入れるわけにはいかない。それが妖精たちの判断だ。

 例外として、オウカだけは既に過去の女王アリ・女王蜂討伐作戦の際には女王の間でティタニアと共にいた人間なので、ヘノとリフィも受け入れていた。

 なお、ヘノ、リフィ、オウカの三人が話している真ん中で、ひとりだけ全く違うことを述べているものがいるけれど、誰もそれに触れることはなかった

 

「ではハマノさん、猫屋敷さん、オオアシさん。皆様は、そこで花畑でも眺めて楽しんでいてくださいませ」

 

「そうだな。お前らはそこで。もじゃもじゃして待ってるといいぞ」

 

「あ、はい。もじゃもじゃは難しいですが、わかりました」

 

「とりあえず、騒音を止める役目はお任せします」

 

「僕、もじゃもじゃ……」

 

 メンバーたちも、自分らが妖精にとっては招かれざる客なのだということは理解しているため、この決定に反対意見を出す者はおらず、大人しくオウカを見送ることにしたようだ。

 そうして、深援隊メンバーを花畑に残し、オウカをつれたヘノとリフィが女王の間へ向かうこととなった。もちろん、メンバーたちには見えていないが桃子も一緒である。

 なお、桃子はなんだかんだでオウカには心を許しているので、女王の間への道のりはオウカの手をぎゅっと握った状態で仲良く花畑を歩いている。

 これは【隠遁】でオウカが桃子を見失わないための措置なのだが、桃子はどことなく嬉しげで、柚花が見ていたら一悶着あるのは間違いない光景だ。もちろん、オウカとしてはいい迷惑だが。

 

「……まるで小児科ですわね」

 

 ごきげんな桃子に手を握られたオウカの呟きは、夢の花畑の空に消えていき。

 桃子の耳に届くことはないのだった。

 

 

 

 

 

 ンガガガガ

 

 一同は、光の膜を辿って『女王の間』へとやってくる。

 サカモトは女王アリ・女王蜂の討伐隊として呼ばれたときに、この部屋の内装を記憶していたようで、夢の中の女王の間は、本物の女王の間とそっくりだった。

 花弁の玉座の裏に飾られているりりたんとクリスティーナの写真が入った額縁もそのままだ。強いて言えば、りりたんとクリスティーナの顔が現実より幼く見えるくらいだ。誰の趣味が混ざってしまったのかは定かではない。

 

 そしてそこではやはり、全身鎧姿のサカモトが女王ティタニアの目の前で眠りにつき、壮大ないびきをかいていた。夢の中だからか彼は当時の鎧ではなく、最近のトレードマークである黄金の甲冑姿だ。おかげで、音だけでなく見た目にもうるさい印象をうける。

 夢の中の女王の間では、同じく夢のティタニアが椅子に座って、困った顔をしてサカモトに視線を向けていた。

 

 

 

「こいつ。夢のなかでも女王のこと困らせてるぞ」

 

「この金ぴか見てると、なんだかムカムカしてきたヨ」

 

「まあまあ、さすがに今回は巻き込まれた側だから、許してあげようね」

 

 このままではヘノとリフィによってサカモトがぼこぼこにされかねないので、桃子が間に入って怒りを抑えてもらう。

 サカモトは普段の言動が少々アレなところがあるし、件のいびき事変では妖精たちは非常に大きな迷惑を被っていた側だが、今回はさすがに彼も巻き込まれた被害者である。なにより、今回の彼は魔法で眠らされる直前まで風間雪の遺骨を庇ってくれていたようなので、さすがにその上で酷い目にあわせたくはなかった。

 もっとも、この場には妖精たち以外にもサカモトに怒りを覚えている人間がいるのだが、そればかりは桃子もフォローできそうにはない。

 

「サカモトさんは、妖精の皆様……そしてティタニア様に、こんな騒音を半年間も聞かせていたわけですのね」

 

 深援隊副隊長オウカ。

 彼女たちがサカモトの帰還を純粋に喜んだのはすでに一年以上も前のこと。今のこの状況では、彼が無事に帰還した歓びよりも、彼が半年間も妖精の国をこの怪獣の鳴き声のようないびきで苦しめてきた事実に対する羞恥と怒りのほうが上回る。

 ぷるぷると震えるオウカの拳は、ここでサカモトに一発殴りかかるべきかどうか悩んでいるのかもしれない。もっとも、鎧なんて殴ろうものならオウカの拳のほうが痛むだけなので、やめた方がいいだろうなと、横で見ている桃子は考える。

 

「はぁ……本当に、うちの隊員がご迷惑をおかけしましたわ」

 

「本当に迷惑だったぞ」

 

「本当に迷惑だったヨ」

 

「あはは、まあ、迷惑かけてたのは否定できないですね……」

 

 そして、イビキの黄金鎧男に対するため息と共に。

 曲がりなりにも彼を預かる部隊の副隊長として。

 改めて、ヘノとリフィに向けて謝罪するオウカなのだった。

 

 

 なお。

 現段階で、蔵王ダンジョンギルドの一室――深援隊メンバーが眠り続けている部屋では、怪獣のようなイビキが鳴り響いているのだが。

 それはまた、別な話である。

 

 

 

 

 

「葉っぱだヨ! なんでリフィが鎧を葉っぱで叩かないといけないのヨ! 意味わからないのヨ!」

 

「本当に。意味のわからない。光景だな」

 

 べちん

 べちん

 べっちん

 

 ンゴー

 

 そうして、起床の儀式が開始される。

 儀式と言っても、それはこれまでの深援隊メンバーを起こしたときと変わりない。リフィが厚手の葉っぱを束にして、それで起こすべき対象をビンタしまくっているだけである。

 今までと違いがあるとすれば、相手が全身鎧を着込んでおり、更には【魔法耐性】なる能力のお陰で、リフィの葉っぱビンタの効力が大幅に無効化されていることだろう。

 

「この鎧、魔法耐性があるからリフィの魔法がなかなか効かないのヨ! なんなのヨ!」

 

「こいつの耐性は。こういうときに。本当に厄介だな」

 

 つんつん

 べっちん

 ンゴー

 つんつん

 べっちん

 ンゴー

 

 リフィを手伝うようにして、ヘノもサカモトの鎧をツヨマージで突き始める。

 ヘノは精神に影響する魔法は使えないので、これはただの気分の問題――もしくはストレス発散かもしれないが、ヘノが突き、リフィが叩き、いびきが響き、桃子とオウカはそれをジッと見つめている。いったい何を見せられているのかという疑問も生じるが、それでも見ているしかなかった。

 そんな時間が何分ほど過ぎた頃だろうか。

 

「なんだこの鎧。動くぞ?」

 

「ヘノちゃん、これはサカモトさんだから動いていいの。目的を見失わないでね」

 

 鎧が、ようやく動きだした。

 顔には黄金のフェイスガードがかかっているので彼が目を覚ましたのかどうかもよくわからないが、桃子たちの視線を受けた黄金鎧は、ゆっくりと、その首を動かして周囲の様子を確認しているように見える。

 

「んご……あれ? ここ、どこだ? 夢かな? もっかい寝ようかな」

 

「ここで二度寝したらその鎧兜をハンマーで叩き潰しますわよ」

 

「うぉ!? 姐さん、なんでっ?!」

 

 オウカの脅し文句にサカモトはびくりとし、桃子はささっと自分のハンマーを隠すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【今年一年を振り返るスレ】

 

 

:なんだかんだで年明け早々のカムイダンジョンの奇跡が一番印象深い

 

:マタギムービー何度も見ました

 

:あれ何度も見てるとそのうち夢にマタギの爺さんが出るようになるよね。

 

:呪いのビデオかな?

 

:今年一番輝いてた探索者はやっぱタチバナかな

 

:俺はカリンちゃん

 

:お前はカリンちゃんじゃない。

 

:俺はカリンちゃんじゃない

 

:それでよし。

 

:コロポックル、メジェド様、大空の妖精、色々とダンジョンで見つかったな。一度も会ったことないけど。

 

:守秘義務が無ければ、俺が見たものを何時間でも語れるんだが……

 

:高ランク探索者は今年は色んなところに招集かかってたよな スタンピードっぽいのも沢山あったし

 

:お前ら、そういう書き込みは匂わせでもNGだぞ 筑波ダンジョンがガチで監視してるからな

 

:こわ

 

:今年は萌々子×人魚姫というカップリングが生まれただけでも俺は満足です

 

:姫×萌じゃろがい

 

:それもまたよし。

 

:座敷童子も人魚姫も好きだけど、ドワーフ大好き 涙でるほど大好き

 

:人の好みにとやかくは言わんが、それでいいのか?

 

:嘆けとて 月やはものを 思はする  かこち顔なる わが涙かな

 

:(これはそっとしておくか)

 

:一番輝いてた探索者って意味では、やっぱりタチバナだと思う

 

:馬鹿だな。一番輝いてたのはこの人に決まってるだろう(画像URL)

 

:黄金鎧はなんか一人だけ世界観違くて好き

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