ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「本来は、この国に迷い込んだ人間は、眠りについている間に私の魔法で外へと転送することになっているんです。ですが、この方は困ったことに、【魔法耐性】という強力な能力を宿しておりまして」
ティタニアはそう説明しながら、眠りこける男性――鎧騎士へとその小さな手のひらを向け、魔力を放出する。
が、 鎧騎士に触れた魔力は、煙のように霧散してしまう。
「いくら耐性があるといえど、女王の間まで人間が迷い込むだなんて、妖精の歴史でも初のことです……」
フワリと浮かんで鎧騎士の顔もとへと近づき、優しくその額に手を当てる。
その表情は、困ったように眉を下げつつも、優しいほほえみを浮かべていた。
「本当に困った人間さん。この国にいる間は、命に別状はありません。それでも、いつまでも眠り続けていれば、いつかは限界が訪れるのです」
「つまり、その人を外まで運べばいい……ってコトですよね?」
桃子も、ティタニアの横に並んで鎧騎士の顔を覗き込む。
年のころは20代後半くらいだろうか。顔立ちは彫りが深く、やや体育会系に見えるが、もしかしたら外国の血が混ざっているのかもしれない。
女王の言う通り、その顔色は悪くない。というかむしろ、豪快ないびきをかきながら、幸せそうにふにゃっとした笑顔を浮かべているようにも見える。
「その通りです。本来、妖精から人間を引き入れることは禁忌。とはいえ、妖精の手に負えない以上、信頼できる人間を探すしかありません」
「女王。桃子は。信頼できる。他人から見えないスキルで。いつも一人ぼっちだし。はいしん? とかもしてないし。あと。カレーがおいしい」
「まあ、カレーが……」
ヘノの説明に、女王がほっと眉を下げる。
一人ぼっちって言い方はどうなの? あとなんでカレー? 妖精はカレーが好きなの? 桃子の脳裏に次々と疑問が浮かぶが、さすがに今聞くような内容ではないと判断し、どうにか我慢した。
「お話はわかりました。私これでも力持ちですから、出口に案内さえして頂ければ、この人を外まで運びますよ」
「ありがとう、桃子さん。では、その大きなハンマーをこちらに向けていただけますか?」
ハンマーを? 桃子は疑問に思いつつ、妖精と比べたら巨大すぎるハンマーを女王に差し出した。サイズ比が大きすぎて、うっかり潰してしまいそうで少々緊張する。
「これは、先払いのお礼と考えてくださいね。こちらのハンマーに、少々魔法を付与させていただきます」
女王が両手をハンマーにかざすと、その桃子の目にも見える濃度の魔力がハンマーを覆うように広がっていく。
そして、小さく、呪文のような祈りのような何かを女王が読み上げると、驚くことに魔力がハンマーに徐々に浸透していき――
「うわっ、ハンマーが小さくなっちゃった!?」
巨大ハンマーだったそれがみるみる小さくなっていき、例えるなら昔話に出てくる打ち出の小槌のような姿に変形してしまった。
手にかかる重量もやはり、手のひらサイズの小さな木槌のそれだ。
「桃子さんの槌ですが、そのサイズのものを持ちながらですと人間を運ぶのは大変でしょう。あなたが念じれば自由にサイズを変更できるよう、拡縮の魔法を付与しておきました」
「か、拡縮?! すごい、魔法武器だ……」
桃子が念じてみると、小さかった打ち出の小槌がいつもの巨大ハンマーへと逆戻りする。
どのような魔法技術なのかはわからないが、少なくとも地上の物理法則は完全に無視した現象である。
「では、よろしくお願いいたしますね。ヘノ、桃子さんを案内してあげて」
「わかった。桃子。いこう。そいつが入ってきた穴に。案内する」
「うわっ、ヘノちゃん待って待って、まだ抱えてすらいないよっ。力はあっても体格差がすごいから大変なんだからね」
魔法武器に感動していたのも束の間、ヘノがさっさと移動しようとするので桃子も慌ててその鎧騎士を抱きあげ……るのだがサイズがでかすぎた。
仕方なく、申し訳なく思いつつ上半身だけ抱え上げ、男性の足で地面をこすりながらヘノの後へと続く。
「ところで、この人が入ってきた穴って? やっぱり、房総ダンジョンじゃあないよね?」
「この国への出入り口は。色々なところにある。このイビキ男が入り込んだのは。こっち」
景色は変わって再び花畑にて。
ヘノが何もない空間に手をかざすと、入ってきた時と同じようにその場所に白い光が膜を作った。
鎧騎士を抱えた状態で桃子がその膜に触れると、周囲が白く染まり――
「ええと、ここって、どこなの? ここもダンジョン、だよね?」
周囲は見たこともない、和風建築のような廊下。左右にはふすまが立ち並び、きしむ廊下の先が見えない程長く続いている。
更に、上を見上げれば、ビルのように高い天井。吹き抜け越しに、上に何階もの部屋が重なっているのがわかる。
先の見えない、巨大な和風建築。
「桃子たちの。言うところの。トオノダンジョンの。上から四つ目の場所。なんとかという。名称があったはず。」
「それって、マヨイガ……」
遠野ダンジョン第四層、マヨイガ 。
未だ踏破した者の居ない国内でも最難関とされる幻迷宮へと、桃子は意図せず踏み込んでしまった。
【タチバナの真相解明チャンネル!】
はいはい、続けますよー。
じゃあ次の質問。『一番やばいダンジョンはどこですか?』。
いや、難しいですね。どのダンジョンも下層のほうは難易度高いし、そもそも最下層まで探索されているダンジョンがほぼ無いですからね。
とはいえ、いくつかの有名どころをあげるなら、ですけど、そうですねえ。
まず一つ目。滋賀県は彦根城近くにある、通称、琵琶湖ダンジョン。ここの第四層が、現代技術では踏破が不可能って言われています。
琵琶湖ダンジョンはその立地通り、水の多いダンジョンなんですけど、この第四層は全てが水の中なんですよ。空気があるのは第三層から降りた通路くらいで、あとは全部水。
そして水の中では巨大な水棲モンスターたちが自由に泳ぎ回っています。とてもじゃないけど人間の探索者ではどうにもなりません。
最近は魔石を動力にした遠隔操作の水中カメラを使ったりしてますけど、カメラだけ奥に進んでもどうにもなりませんからね。
滋賀の探索者ギルドでは水中戦に特化した固有スキル所持者を集めているらしいですから、我こそはという人は立候補してみてね。
次に来るのは……いや、これは難しいというか、通過して下層に行くこと自体は簡単なんですけど、しんどさ的には鳥取の砂丘ダンジョン。
第一層はただただ広い砂丘。入ってすぐの小高い砂の丘に登れば景色が見渡せますし、なんなら砂丘の真ん中にでっかい探索者用のテントがありますから、まずそこを目指せば問題ありません。
問題は第二層。ここは、砂丘というには滅茶苦茶広くて、ダンジョン内のくせに日照りがすごくて常に50度以上はキープ。つまりは、熱砂砂漠です。
障害物そのものはないので下層への入り口がある方角にまっすぐ進めばいいだけなんですけど……私は一回行ったことあるけど、二度とあそこにアタックすることはないですね。
そして三つ目、これは実は、さっきの妖精の話に戻るんですけど、メンバーが行方不明になった場所でもあるんです。
岩手県、遠野に現れた遠野ダンジョン。通称、妖怪迷宮。
それまでダンジョンは完全に異世界の産物とされていた学説をひっくり返したダンジョンです。ここに現れる魔物は、古くから日本で語り継がれている妖怪たち。
しかもダンジョン内には明らかに和風建築とかの、人工的なデザインの場所もあってね。異世界でなく、それぞれの国の文化がダンジョンに影響を与えているんじゃないかっていう考え方が、ここから広まっていったんですよ。
話を戻して、その第四層、通称マヨイガ。まあその名の通り、人を迷わせる巨大な日本建築です。
正解のルート……というのがあるのかはわかりませんが、部屋も廊下も階段も、すべてのつながりが滅茶苦茶で、地図が全く役に立ちません。
この屋敷に踏み込んだら、常に目印か何かを残しておかなければ、戻ることも不可能と言われています。
そんな屋敷がそれこそ何キロもの広さで続いてるんだから、そりゃ踏破は不可能ってもんでしょ。定期的に構造変化するから地図も作りようがないんですよね。
まあ、そこに出てくる妖怪自体はそんなにヤバいのはいなくて、牛鬼とか妖狐とかがいるわけじゃないから、そこだけが救いかな。
そんな感じです!