ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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年末百鬼夜行

 十二月三十一日、大晦日。

 西に傾きつつある太陽の光の下、蔵王ダンジョンの入り口『桃の窪地』には多くの者たちが、集まっていた。

 この場に集う大半は、今からこの蔵王ダンジョンへと潜り、第三層を目指すメンバーである。

 今回のミッション。それは、風間のお婆ちゃんこと風間イネを、鏡の妖精のもとまで送り届けること。そして、桃子の【創造】で鏡の妖精の呪縛を解き放つことだ。

 

 

 

 その集団の中で、クヌギやフルドラと言った魔法生物たちに改めて今回のミッションについて確認をしているのは、雪ん子衣装に身を包んだ成人女児である桃子である。

 桃子のそばには、丸眼鏡の書生のような人間姿のクヌギ、フルドラ、リヨンゴの昨日までも一緒に潜っていたメンバーに加えて、当事者である風間イネとその孫である深援隊リーダーの風間がいた。

 なお、桃子は風間の下の名前を『リュウちゃん』あるいは『リュウくん』としか知らない。

 

「じゃあ、お婆ちゃんは魔力酔いの心配はないんですか?」

 

 話の中心は、今回ダンジョンへと連れて行く風間イネについてである。

 彼女は日本最高齢の新人探索者という異名の通り、しっかりと国に認められた探索者だ。

 けれど、いくら探索者カードを持っていたとしても、普通に考えて蔵王ダンジョンの第三層への道のりは、四捨五入すれば齢九十にもなる老人を連れていくべき場所ではない。

 気温の低さや道のりの過酷さはもちろんだが、蔵王ダンジョンには『濃すぎる魔力濃度』という問題がある。よほど魔力制御ができる人間でなければ、あの場所ではあっという間に『魔力酔い』を発症してしまう場所なのだ。

 だが、今回は、それについては考えなくてもよかった。

 

 そう、桃子の心配はどうやら杞憂だったようだ。

 

「ええ。今回は私たちが総出でサポートしますから。そもそもお婆さんの場合は『ミカガミ様』にも守られているのでしょうからね」

 

「寒さ対策も私どもが全力でサポートいたしますので、どうぞ安心なさってください」

 

「魔物が出ても、今更第三層までの魔物に後れをとるメンバーじゃないですぜー? ノープロブレム、泥船に乗った気持ちでいましょうぜ」

 

「『泥船』は沈む船ですけど……」

 

 一部心配になる言葉の誤用もあったものの、イネの安全は魔法生物たちが総力をあげて確保してくれるようだ。

 いざとなれば、自分の被っているわら帽子をイネに貸し出し、自分は砂漠ポンチョやルシオンの赤ずきんでどうにかならないかと考えていた桃子としては、心配ごとが解消されて一安心である。

 

「わははは、心配かけちまってすまねえなあ、桃ちゃん。でも安心してけろ、俺は大丈夫だべ」

 

「あはは、気にしないでください。お婆ちゃんが大丈夫ならいいんです」

 

「婆ちゃん、俺もついてくけど、本当に無理だけはしないでくれよ?」

 

「リュウこそ、次は眠りこけるんでねえよ? 正月にゃ和歌ちゃんが来てくれるんだからよ。ずーと片思いしてた和歌ちゃんに心配かけるでねえよ?」

 

「婆ちゃん、そういう話は今ここで言わないでいいって、勘弁してくれよ」

 

 イネの横では、その孫である風間がずっと心配げな顔を見せていた。桃子より一回り以上年上の彼だが、やはり祖母の前では一人の孫であるようだ。

 普段とは違う一面を見せる風間たちのやりとりに、一同はなんとも和やかに笑い合うのだった。

 

 

 

「皆様。ご武運をお祈りしておりマすね」

 

「任せて下さいよ。今回は危険が伴うようなものじゃありませんから」

 

「柚花の言うとおりです。クリスティーナさんも、大船に乗った気持ちで待っててくださいね」

 

 桃子はイネを囲う輪を抜けて、離れたところで話し込んでいたクリスティーナと柚花のもとにやってきていた。

 人間の身に瘴気の傷を持つクリスティーナは、ここから先のダンジョンには入れない。なのでクリスティーナはあくまで今回のメンバーの見送りだ。

 そんなクリスティーナと柚花の周囲には、今回同行する妖精たちも集まっていた。

 

「そういえば先輩。クリスティーナ会長は、私たちを見送ったら妖精の国に遊びに行くらしいですよ」

 

「あっ、そうなんですか?」

 

「遊びに行くだなんて、人聞きが悪い言い方はよくありマせん。あくマで、ティタニアとともに皆様の帰りを待たせていただくだけでス」

 

「こいつ。そんなこと言いながら。顔がにやけてるぞ」

 

「うぅ……じょ、女王様のこと、お願いしますねぇ……?」

 

「遊びでもなんでもいいけど、お前も足が不自由なんだから、無理するんじゃないのヨ」

 

 昨日までの事情を把握しているヘノ、ニム、リフィの三人がクリスティーナに声をかける。

 そんな三人に答えたのは、クリスティーナではなく、意外な妖精だった。

 その妖精は、やや透き通った身体でクリスティーナの周囲をくるりと回り、紅いキラキラをまき散らしながら、ヘノたちに気高く告げる。

 

『ティタとクリスの心配は無用ヨネ! アナタたちがいない間、ワタシがいるんだモノ!』

 

「心配はしてないけどな。今日は。あの魔女はいないのか?」

 

『お母様は今日はお休みナノ』

 

 それは、ルビィ。

 今はりりたんの眷属として存在している彼女が、今回のクリスティーナの手助けとしてこの地にやってきていたのだ。

 それはすなわち、りりたんがこの蔵王ダンジョンの一連の事件を認知しているということである。

 

「りりたんも来ればよかったのに」

 

『お母様は、お母様のパパとママと一緒に過ごしているノヨ。お正月なんだモノ』

 

「先輩。実はあの子、あれでいて意外と人間のご両親のこと大切にしてるんですよ」

 

「へー……なんか、嬉しいね、それは」

 

 柚花が補足してくれた情報に、桃子は意外そうな顔を見せる。

 なんだかんだで、人間という存在に対しては達観しているりりたんが、今の世では人間としての両親を大切にしているというのは。

 桃子にとって、とても意外で、だけどしっくりきて、そしてなんだかうれしい話なのだった。

 

 

 

 桃子たちが、クリスティーナやルビィとわいわいと話している一方で。

 窪地には風間イネを中心とした輪、クリスティーナを中心とした輪とは別に、もう一つの輪が存在していた。

 ある意味では、この輪が一番バラエティにとんだメンツが揃っていると言える、そんな集まりだった。

 

「ククク……いやはや、ここは一応地上だというのに……大所帯だねぇ」

 

「しかし、寒い場所となるとボクも少々苦手なのでは、ないかな?」

 

「リドルはフラムと一緒に行動しておくのが良いと思うよぉ」

 

「任せとけ! 寒い場所なんだろ! 燃やし甲斐があるな!」

 

「カレー! カレー!」

 

 今回、ここに集まっている妖精はヘノたちだけではなかった。

 妖精の国からは、長女のルイから末妹のルゥまで、その全員がこの場に揃っていた。

 昨日までは大人しく桃子たちの話を聞くだけだった姉妹たちも、内心では蔵王ダンジョンの『鏡の妖精』に興味があったようで、この日は桃子に誘われるや否や、全員がその場で参加を表明したのだ。

 カレー調理時に集まっていた妖精たちを気軽に誘ってみただけの桃子も、全員参加という結果には目を丸くしたものだ。

 そして。ここにいるのは妖精だけではない。

 

「なんだかわくわくするっすね! ポン、こんな大勢で知らないダンジョンに入れるなんて夢みたいっす!」

 

「ポンコちゃん、大丈夫か? やっぱり俺も一緒に潜ってあげたほうが……」

 

「駄目ですわよ。今回わたくしどもは留守番です。あなたのような危険人物を、子供たちに同行させるわけにはいきませんわ」

 

 古風な着物の上から、桃子を意識した少しビビットカラーのスカジャンを羽織るというなかなかロックな服装の少女は、化け狸の姫、ポンコである。

 彼女は初日からこの蔵王ダンジョンでの様々な出来事を聞いており、三日目の今日こそはようやく里長の許可をもぎ取って、目出度くこの大規模パーティに参加が決定したのだ。もちろん、彼女自身は鏡の妖精にも蔵王ダンジョンにもほとんど縁はないので、完全に興味本位である。

 そんなポンコの横に立つのは、今回は留守番となる深援隊幹部の二人、サカモトとオウカだ。

 今回の目的は鏡の妖精とのコンタクトなので、彼女と縁を持たない人間の二人は留守番役である。とはいえ、風間がダンジョンに潜る間はこの二人がギルドおよび深援隊をとりまとめねばならないので、留守を守るのは重要な役目と言えるだろう。

 そのような、妖精たちと化け狸、黄金鎧と酒飲みヒーラーの輪が、この桃の窪地に集まった三つ目の輪である。

 

 

 

「なんだかもう、出発前からわけのわからない状況ですね。ちょっとした百鬼夜行じゃないですか」

 

「うまいこと言うじゃん」

 

「あはは、ほんとうだねー」

 

 クリスティーナと一通り話を済ませた柚花と桃子は、少し離れた場所からこの窪地の様子を見回していた。

 柚花の呟いた『百鬼夜行』とは、日本の妖怪や鬼たちによる行進である。いま目の前にあるこの光景は、日本独自の妖怪というのは少ないものの、一種の『百鬼夜行』の準備風景かもしれないなと桃子も納得する。

 

「大晦日の夜には、住民が化け狐に扮して行列を作る地域もあるらしいですよ。ここには化け狸しかいませんけど」

 

「いいねー、いっそ私たちも仮装しちゃおうか」

 

「あはは、面白いね。じゃあ、皆で妖怪かなにかに扮してみる? 何がいいかな?」

 

「先輩はもうすでに『トイレの花子さん』やってるじゃないですか」

 

「さすがにあれは七守小学校限定だったからなあ」

 

 桃子は言われて思い出す。七守小学校においては、桃子は確かに『トイレの花子さん』として七不思議にカウントされているのだ。

 とはいえ、花子さんといえば学校の怪談である。ダンジョンに潜る学校の怪談というのはどうなのだろうかと桃子が首を傾げると、今度は桃子を挟んで柚花と逆、左手側から楽しげに会話が続けられる。

 

「じゃあ、スズランちゃんは堂々と『スズランの妖精』を名乗ってみたらどうかな?」

 

「それは妖怪と違くない?」

 

「いいじゃん、いまこの場所には妖精が一番多いんだから。ゆかたんちゃんもそう思うでしょ?」

 

 桃子をスズランちゃんと呼ぶのは、桃子の幼なじみの――厳密には、桃子の幼なじみとしての架空の記憶を共有している怪異の少女、イチゴである。

 頭の後ろでは彼女のチャームポイントである大きな黄色いリボンが揺れている。彼女の今日の服装は、いつも通りの聖ミュゲット女学園の制服の上に厚手のコートを羽織った姿だった。

 イチゴはいつの間にかやってきてしれっと会話に加わっており、桃子も何も気にした様子もなくそれを受け入れているのだが、それに対して不服そうなジト目を向けているのは柚花である。

 

「ところで……さっきからしれっと怪異が増えてるんですけど。なんなんですかもう」

 

「あはは、ごめんね柚花。実はさっき、せっかくならイチゴちゃんも呼んでみようかなと思って、長崎ダンジョンのお塩舐めちゃったんだよね」

 

「先輩、塩分とりすぎはよくありませんから次からは塩を舐めるのは控えてくださいよ」

 

「相変わらずゆかたんちゃんはトゲトゲしいなあ。年末くらい、笑顔で過ごそうよー」

 

「いきなりどこかの怪異の邪魔が入るまでは笑顔だったんです」

 

 当然のようにそこに現れたイチゴの正体は『ハーメルンの笛吹き』と呼ばれる、長崎の英霊の力から生まれた姿を持たぬ怪異であり、今のこの少女姿もあくまでその擬態姿の一つである。

 とはいえ、柚花も言葉で言うほどに彼女を嫌っているわけではない。ただの暴言を向け合うじゃれ合いだ。初めのうちは柚花とイチゴの不仲を心配した桃子だったが、今ではこういう関係性なのだと理解して、ニコニコ笑顔で二人のピリピリした会話を眺めている。

 

「怪異と言えばだけど、スズランちゃん、ゆかたんちゃん。あっちの子が、例の怪異なのかなー?」

 

「まあ、そうですね。あっちの子もあなたと同じく神出鬼没で、何をしたいのかよく分からない怪異ですよ」

 

 しかし、柚花とのプロレス的なクレームのつけ合いが一段落したところで、イチゴがふいに、話題を変える。

 その視線の先は、桃の窪地の崖にぽっかりと空いた大穴。つまりは、ダンジョンの入り口だ。

 そこには、一人の少女が佇んでいた。桃子と似たようなわら帽子に、時代を感じさせるもんぺ姿の少女――雪ん子こと、風間雪。

 

「雪ちゃんってば、他の人が話しかけてもすぐに逃げちゃうんだよね。人見知りなのかな」

 

「でも、夢の世界では先輩とカレー作ってたらしいじゃないですか。意味不明すぎますけど」

 

「んー、スズランちゃん、ゆかたんちゃん。多分だけど、あの子はまだ自分がなんなのかわかってなくて、色んな『思い』を制御しきれてないんじゃないかなーって思うよ。同じタイプの怪異としては、ね」

 

「ふむ。怪異仲間のあなたが言うなら、そういうものなのかもしれませんね」

 

 桃子、柚花、そしてイチゴの三人は、ダンジョンの入り口に佇んでいた雪ん子の少女に視線を向ける。

 いや、そちらに視線を向けているのはこの三人だけではない。今は、この場にいる大半が、そちらの様子を窺っていた。

 そして、周囲の視線を浴びながらも、そこに近づく人影が一人いる。

 風間雪からみれば、兄の妻……つまりは義理の姉に当たる存在。

 風間イネが、にこやかに笑顔を見せて、優しく。雪ん子へと声をかけた。

 

「一緒に行こうな、雪ちゃん」

 

『……うん。行くべ、イネねーちゃ』

 

 

 並び立ち、それぞれの手をきゅっと握りしめる、風間雪と風間イネ。

 この、かけがえのない『家族』のやりとりが。三日目となるこの日の探索の、開始の合図だった。







 次話更新は4月13日(月) 23時予定です
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